乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百七
翡翠が真央のことを好きなことぐらい、ちょっと見ていればすぐにわかる。真央のことを目で追っていることが多いし、真央の前では特に格好つけようとするし。
優花としては今更すぎる翡翠の告白内容だったけれど、翡翠的には一世一代の告白だったような本気の雰囲気が伝わってくる。
「あー……」
真央が好きだとはっきりと口にしたのが恥ずかしいのか、頬をうっすらと朱に染めながら優花の返事を待っている翡翠に何と言ってあげるのが正解なのか少し考える。
そもそも告白するのなら真央本人に直接言えば済む話。真央に告白する前に優花にわざわざ伝えたということは、翡翠の中ではその必要性を感じていたということ。
えーっと、つまり……。考えられるのは……。
「もしかしてだけど……」
「お、おう。何だ同士?」
優花に何を言われるのか不安で緊張しているのか、若干震えている翡翠の声で優花ははっきりと自分の至った結論が間違っていなかったとわかった。
「俺も真央のことが好きだと思ってないか?」
翡翠は何で真央が好きだと優花に伝えたのか? その答えは翡翠が優花も真央のことが好きなんじゃないかと思っていたから。優花の気持ちをしっかりと確認するためにわざわざ二人きりのこの場で伝えてきたわけだ。
「そうだけど……違うのか?」
困り顔で頬を掻く優花を見て、翡翠はようやく勘違いに気が付いたらしい。意外そうな顔で目を丸くする翡翠に優花はため息をつきたくなった。
「そりゃあ俺だって真央のことは別に嫌いじゃないぞ? 可愛いとは思うし、性格だって明るいし普通に良い子だとも思う」
「お、おう……」
「だけど、異性として好きなのはり……」
……り?
今、自分は何を言いかけた?
翡翠が醸し出した無駄な緊張感から解放されて気が抜けたせいだろうか。何かを口走りそうになっていた優花だったが、名前を完全に口にする前にぴたりと止まった。
「同士?」
不自然に言葉が途切れた優花に、翡翠が首を傾げているけれど、そんなことどうでも良い。
名前に『り』が付く異性なんて一人しか……。
想像の中だというのに、得意気に笑う『彼女』の姿が目に浮かび、優花は顔が一気に熱くなった。顔から火が出そうとはまさにこういう時のことを言うのだろう。
「と、とにかく! 俺は別に真央のことを異性として好きとかじゃないから勘違いするな! 以上!」
「お、おい同士! 急にどうしたんだ? 真央じゃないなら同士が異性として好きなのは結局誰なんだ?」
幸い翡翠が聞こえていたのは『異性として好きなのは』までで、『り』と優花が口にしたのは聞こえなかったらしい。
「っ……」
無意識だからこそ本音が現れる。
今まではマジハイのキャラクターとして好きで、マジハイではどのルートを進んでも不幸な終わり方しかなかったからこの世界では幸せにしてあげたいとは思っていた。ただ、それは別に異性として好きだからじゃなかった……はず……なのに。
翡翠の苦悩を知り翡翠をキャラクターじゃなく、ちゃんと一人の人間として接することができるようになったのときっと同じこと。
それなりに長い時間一緒に過ごしている内に……凛香さんをキャラクターとしてではなく、人として……女の子として好きになっていたらしい。
自覚した瞬間、羞恥が全身を駆けまわり体全体が火で炙られているような気さえした。マジハイのキャラクターだからとどこかで冷静な自分が引いていた一線は、いつの間にかなくなっていたわけだ。
凛香さんのことが好きだというのは自分的にはかなり衝撃的な事実だけれど、竜二や花恋あたりに言ったら何を今更と呆れられそうな気がするのはたぶん気のせいじゃないだろう。あの二人は最初からそう思っていた節がある。
「誰でも良いだろ。とにかく真央じゃないことだけはたしかだから安心しろ」
「そ、そうか……」




