乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百六
やっぱりどれだけ記憶を辿ってみても青地に白い小鳥と言うこの柄を見た覚えはない。さっきの既視感は気のせいだったのかと思った瞬間、
「それにしても、さすがは真央だな! 俺様の好みをわかってるな!」
あ、そうだ。
翡翠の言葉でわかった。先ほど感じた既視感の正体は正確には既視感では無かった。
……マジハイの翡翠への誕生日プレゼントだ。
マジハイでは攻略キャラの誕生日プレゼントはいくつかの候補から選び、当たり外れがある。当たりを選べば好感度が上がり、外れだと好感度が下がる。
プレゼントの選択自体はイベントの成否には関係無いのでほぼ毎回適当に選んでいたせいですっかり忘れていたけれど、マジハイで選べる翡翠への誕生日プレゼント。たしかその中の当たりが『白い小鳥の青いハンカチ』だった。どうして翡翠へのプレゼントを選ぶ時に思い出せなかったのか。
まあ、覚えていたら覚えていたで真央と柄まで被って翡翠の誕生日プレゼントはハンカチが四枚になっていたので、結果的には忘れていて良かったけど……。
優花が気になったのは二つ。一つはどうして真央は正解が選べたのか、そしてもう一つはどうして楓は正解を選ばなかったのか。……真央が正解を選べたのは翡翠とよく喋っているからと一応納得できる。より問題なのはどうして楓は正解を選ばなかったのかという方か。
楓は先回りができる程にはマジハイの細かいイベントの日程を把握していたことから考えて楓がマジハイを知っているのは確定しているし他の攻略情報も全て把握している可能性は高い。マジハイのプレイヤーなら翡翠への誕生日プレゼントの正解がどれかも知っていたはずなのだ。
真央とかぶるから止めたとか? いや、それならハンカチじゃないものにするよな普通……。あと考えられるのは、そもそも翡翠の好感度を上げるつもりが無かったとか、単純に忘れてたとか、あとは……。
そもそも知らなかった……とか?
「おーい、同士。また考え事か?」
翡翠の誕生日プレゼントの正解を知らない場合、可能性として考えられるのは、楓がそもそもマジハイをプレイしていないということ。その場合はどうやってマジハイのデータを入手したのかという問題が出てくるか。
「悪い。何でもない。」
まあここで考えても答えは出ない。ただこのことを頭の隅に入れておくだけにとどめておく。今はそれよりも翡翠の攻略を……。
「そうか。……それじゃあ同士、今からちょっと真剣な話をして良いか?」
「……別に良いけど、急にどうしたんだ?」
不意に足を止めた翡翠を優花が振り返り、自然と向かい合う形になる。
「同士……」
普段あまり見せない翡翠の真剣な表情に、優花は怪訝な表情にならざるを得ない。
「どうしたんだ翡翠?」
翡翠の出す真剣なこの雰囲気は気のせいじゃなければ、今から告白でもしようとしているように見える。
ただ、優花と翡翠は男同士だし、恋愛感情を持たれているような雰囲気はなく、あくまで友人のそれだった。そもそも翡翠だって別に男が好きだからBLが好きなわけじゃない。告白されそうな雰囲気だと感じるのは優花の気のせいだろう。
あとはまあ何か言われそうなことがあるとすれば……四五郎さんの話くらいか。四五郎さんの息子ということで色々と苦労があったらしいことを思えば、この流れで翡翠が四五郎さんとのことを何か言ってきてもおかしくはない。
「ふう……実は、その……」
「お、おお……」
口を開けては閉じ、視線を彷徨わせたりしながら、どう切り出すか言葉を探している様子の翡翠を優花は辛抱強く待つ。
「実はその……真央のことなんだ」
「ん? 真央?」
十中八九、四五郎さんの話だと思っていたのに、どうやら違ったらしい。
「真央がどうしたんだ?」
優花が知らない間に真央との間に何かあったんだろうか? 実は付き合ってるとか? その場合真央は翡翠を攻略していることになるけどそしたら想いの欠片はどうなるんだろうか?
複数の疑問を頭に浮かべながら優花が首を傾げる中、翡翠がようやく覚悟を決めたように顔を上げた。
「俺様は……俺様は真央が好きなんだ!」
…………いや、それは知ってる。




