乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百五
「えーっと……」
既に覚悟は決めているとはいえ、いざ翡翠を攻略しようとすると……何故か言葉が出てこない。
よく考えれば最後にマジハイをプレイしてから既に半年近く経っているうえ、そもそも優花がマジハイをプレイした目的は凛香ルートの発見。凛香が出てこないシーンの会話は基本流し読みだったので、翡翠との細かい会話を覚えていないのは当たり前か。
「……今日の誕生日パーティーはどうだった?」
「ああ、最高だったぜ! 友達に祝ってもらう誕生日パーティーってこんなに嬉しいものだったんだな」
子供みたいに素直に嬉しそうに笑う翡翠に、優花は喜んでもらえた安堵と共にやってきた罪悪感で胸がまたちくりと痛んだ。
「同士? どうかしたのか?」
自己嫌悪が顔に出ていたらしい。心配そうに優花の顔を覗き込んでくる翡翠に、無理やり作った笑みを返す。
「別に何でもない。……そう言えば、真央達からのプレゼントは開けたのか?」
「ああ、忘れてた! 開けてみるか。えーっと」
翡翠が最初に開けたのは花恋のプレゼント。中に入っていたのは薄い本が数冊で、翡翠の目が輝いているところを見ると中々レアな品だったらしい。
ちらっと見えた表紙から察するにどう見てもR-18指定のBL本。未成年の花恋が持っていて良いものではないけれど、それも今更なのでとりあえずスルーしておく。
「八手のは……ハンカチだな」
花恋のプレゼントに気を取られている内に翡翠が新たに開けた楓からのプレゼントは、やっぱり凛香さんと同じでハンカチだった。
「ま、まあ、ハンカチは何枚あっても良いからな」
自分を納得させるようにそう言うと楓のプレゼントを箱にしまい、いよいよ四五郎さんを除けば最後のプレゼントである真央からのプレゼント。
「ちなみになんだが同士……」
「ん? どうした?」
真央からのプレゼントを手にぴたっと動きが止まった翡翠を優花が怪訝な顔で見ると、翡翠はふと顔を上げた。
「ゆ、指輪とか入ってたら俺様はどうしたら……」
翡翠の顔は真剣そのもの、冗談を言っている雰囲気は一切ない。
「…………」
たぶん真央のプレゼントもハンカチだろうと優花はほぼ確信しているけれど、翡翠は変な期待をしているらしい。
……そもそも誕生日プレゼントに指輪を送るとか色々と段階をすっ飛ばしすぎていてありえないと思うけれど、まあ翡翠からしたら好きな女子からもらったプレゼント。舞い上がってしまうのも仕方がないかもしれない。
「あー……とりあえず中身見てから考えた方が良いんじゃないか?」
「そ、そうだな」
ごくりと生唾を飲み込み、緊張に指先を震わせながらプレゼントを開けていく翡翠を見守ること数秒。
「…………ハンカチだな」
うん、知ってた。
真央からのプレゼントはやっぱりハンカチ。これで翡翠はハンカチを三枚もらったことになるわけだ。
期待が大きすぎたのか、それともいくら真央からとは言えさすがにハンカチ三枚目はショックだったのか、真央からのプレゼントのハンカチを何とも微妙な顔で見る翡翠の背を優花は元気づけるようにぽんぽんと叩く。
「ほら、さっき自分で何枚あっても良いって言ってただろ? 元気出せ翡翠」
「お、おう。そうだな! 何枚あっても良いからな! 柄も違うしな!」
翡翠の言う通り、凛香さんのハンカチは高級感のある白いハンカチで楓のはシックな黒いハンカチ、そして真央のハンカチは可愛らしい白い小鳥が描かれた青いハンカチ。
凛香さんが高級品をプレゼントするのも真央が可愛らしいハンカチをプレゼントもするのもわかるので、この三つの中で浮いているのは間違いなく楓の黒いハンカチなはずなのに、改めて三つ並べてみると優花の視線が縫い付けられたのは真央のハンカチだった。
「この柄……」
改めて真央のプレゼントのハンカチを見た瞬間に感じたのは、無視できない既視感。
どこかで見たのか? ……いや、こんな柄を見た覚えはない……よな。




