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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二十

「……えっ? どうしてゆうかさんがこちらに?」

「本日からまたお世話になります。よろしくお願いします。お嬢様」


 真央と図書館で別れてから一時間。優花は凛香の家で執事としてまた働いていた。

 優花が執事服を着て礼をすると、凛香は一歩後ずさった。


「くっ、執事服もやっぱり似合いますわね……」

「ありがとうございます」


 優花の立てた新たな作戦。それは中間考査まで、凛香をあらゆる面で徹底的にサポートすることで勉強に集中してもらい、中間考査で良い点を取ってもらうという作戦だった。

 凛香のメイドのめいに、電話で大体の事情を説明したところ、すぐにオーケーがもらえた。


「さあ、お嬢様! 勉強! 勉強しましょう!」


 白桜学院から一度家に帰った後で、外出していた凛香を急かす。中間考査までもうあまり時間が無い。少しでもついてしまった差を埋める必要がある。


 もちろん優花よりも凛香の方が勉強ができるため、勉強をみるのはめいの仕事。そしてめいが凛香に勉強を教えている間、めいがやるはずだった仕事を肩代わりするのが優花の仕事だ。


「え? 今帰ったばかりですけれど……」


 勉強をさせようとする優花に、凛香が困惑しているのはわかっていたが、勢いで乗り切ることにした。 


「中間考査は近いですよ! さあ! 勉強です勉強!」

「ど、どうしたんですの急に? わたくし、ちゃんと勉強はしていますけれど……」


 たしかに、凛香は勉強をちゃんとしている。今のままでも、全教科で九十点以上は取れると思う。ただ、真央は恐らく百点に近い点数を取ってくるはずなので、全体で見ると大きく差がついてしまう可能性が高い。

 優花としては、理想は引き分け、それが無理でもできれば全教科合計で一、二点差くらいの僅差になってもらいたい。


 ここで「真央に負けちゃいますけど、良いんですか?」なんて煽って凛香の競争心に火を付けてもいけない。真央と仲良くしたいという気持ちを見失わないように『真央に負けない』という対抗心で頑張ってもらうわけにはいかないのだ。


 真央のことを言わないで凛香にやる気を出してもらうには、どうすれば良いのか? 少しだけ考えて、優花はこれしかないと、一つの案が思い浮かんだ。


「……こうしましょう。もしもお嬢様が、中間考査で全教科満点を取ったら、この執事灰島ゆうか、お嬢様の言うことを何でも聞きましょう」


 いくら凛香でも全教科満点は無理なはずなので、優花が何か無茶な命令を聞くこともなく、満点近くになった凛香と真央の点数は僅差になるはずだ。


 我ながら良い案だと満足していると、何故か横でめいが天を仰いでいた。


「……言いましたわね! 絶対ですわよ!」


 目を大きく見開き、顔を朱に染めた凛香は、どうやら優花の思惑通り、勉強をやる気になってくれたみたいだった。

 

「え、ええ! 大丈夫です! さあ勉強しましょうお嬢様! 全力でサポートさせていただきます!」


 凛香と優花が二人で勝手に盛り上がっているのを、何故かめいが少し離れたところで嘆息しながら見ていた。


 五月の二十日にある中間考査まで、あと二週間弱。


 二週間もちゃんと勉強すれば、まあ平均点以上は優花でも取れるが、既に凛香は九割以上の問題を解けるレベルにある。あと二週間で、これを満点近くまで持っていく必要があるわけだ。


 テストで満点など高校ではほとんど取れていない、優花にとって全教科満点は絶対に不可能と言いきれるが、凛香はそうではないらしく、初日からすごく気合いが入っていた。


 仕事をしながら、凛香とめいの勉強の様子もうかがっていると、凄まじい速度で問題集が消化されていってるのがわかった。 


 ひょっとして……本当に全教科満点取るんじゃ……。


 全教科満点取ったら、何でも言うことを聞くという約束は……正直まずかったかもしれないと、初日にして気付かされた。それから中間考査までは、朝起きたら凛香と共に車で登校、放課後はそのまま凛香の家に行き、執事として働くという生活を送った。


 家に帰っている時間はないため凛香の家に泊まり込みで働く優花同様、花恋も凛香の家に泊まることになり、ゴールデンウィークから合わせてほぼ丸一ヵ月近く、凛香の家にいることになってしまった。普通は親が許可しないだろうが、まあ両親は相変わらず帰ってきていないようなので問題は無い。


「にははっ! 私もうこの家の子になっても良いかも……」


 なんて冗談に聞こえない冗談を、花恋が言うくらいには凛香の家に馴染んでしまったみたいだった。


 一ヵ月も一緒にいたせいか凛香も花恋には普通に接することができるようになっていて、今では友人……いや、姉妹のように仲良く話している姿もよく見られるようになった。

 実際花恋は凛香を「凛香お姉ちゃん」と呼んでいて、そう呼ばれる度に凛香は嬉しそうに頬を赤く染めていた。


 そして試験本番。

 凛香の満点への熱意は結局試験本番まで衰えず、少しでも暇があれば暗記の確認したり、見えない問題集を解くという荒業までやっていた。その結果……。


「全教科満点まであと一点が二名とは……素晴らしいですね」


 教卓で昴が拍手をして褒めているのは二人――――真央と凛香。

 なんと、二人共一教科を除いた残りが全て満点という結果だったのだ。


 教室中の拍手に真央は満足そうに笑って、お辞儀を返していたが、凛香は青白い顔で倒れそうになっていた。


 二人の勝負は引きわけだったわけだが、凛香も真央も二人共あまり気にしていなかったらしく、勝負に関しては、特に何も言っていなかった。


 ひょっとしたら、今回優花は余計なことをしただけだったのかもしれない。



 放課後、凛香の荷物を持ちながら、なんだかふらふらしている凛香の隣を歩く。


「大丈夫ですか? 凛香さん?」

 

 まだ顔色が悪い凛香を心配し声をかけると、凛香は長いまつ毛を伏せ、悲しみに染まっていた。


「ああ……ゆうかさんを着せ替え人形にして遊ぶというわたくしの目論見が水の泡に……」


 満点を取ったら、凛香がしてもらいたかったことは、優花を着せ替え人形にして遊ぶことだったということか。

 そんなことのために、あれだけ頑張っていたのかと思うと、なんだか複雑でもある。


「あー……まあ、ほぼ満点でしたし、少しくらいなら大丈夫ですよ」 

「ほ、本当ですの!」


 優花の言葉に、凛香はばっと振り向いた。

 凛香に生気が戻ってきたみたいでなによりだったが……。


 ……なんだかいつもより眼が怖い。……ぎらぎらしてるというか。


「まあ……凛香さん頑張ってましたし、俺も何かしてあげたいなと思っていたところです」


 正直嫌な予感はするものの、ここでまたがっかりさせるわけにもいかない。なるようになるだろと覚悟を決めると、凛香は嬉しそうに微笑んだ。


「そう! それは良かったですわ! さあ! 早く帰りましょう! ぜひ着ていただきたかった服が、たくさんあるんですの!」


 笑う凛香に引っ張られるようにして、迎えの車に乗り込むと、中には既に花恋が乗っていた。


「凛香お姉ちゃん! テストの結果はどうでした!」


 悪気なくそう言った花恋に、優花は血の気が引いたが……凛香は特に気にした様子はなく、普通に笑っていた。


「全教科満点は逃しましたけれど、問題はありません! ゆうかさんは着せ替え人形になってくれるそうですわ!」

「にははっ! やりましたね!」


 ぱんっと手を合わせる二人は本当に中の良い姉妹みたいだった。


 ……いや、ちょっと待て。


「あのー……俺は少しくらいなら大丈夫って言っただけで……」


 おずおずと、凛香と花恋に声をかけてみるものの、二人は全く聞いていなかった。


「それじゃあ、予定通りあれを着せましょう!」

「ええ! あれですわね! それと……あのとっておきもいきましょう!」

「いいですね!」


 ……どうしてこうなったんだろう。

 優花の知らない所で、計画は既に練られていたということか。

 遠い目になった優花を同情するような目で運転手のめいが見ていた。

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