乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百三
真央は苦笑い、楓は頬が引きつっているように見えるのは気のせい……ではなさそうだ。
自然とこの場のみんなの視線がまだプレゼントを渡していない真央と楓に集まる中、何故か二人共助けを求めるように優花の方を見てきている。
いや、俺の方を見られても困るんだけど……。
察するに二人共翡翠へのプレゼントをハンカチにしてしまい、さっき渡した凛香さんとプレゼントが被ったのだろう。
いや、そんなにプレゼントが被ることある? とは思うものの、実際被ってしまっているのだから仕方がない。三人とも女子から男子に渡す無難なプレゼントを選ぼうとしてこうなったんじゃないだろうか。
別にハンカチだったら何枚あっても良い気もするけれど、まあこの流れでプレゼントを出しづらい気持ちもわかる。二人が出しづらいと言うのなら、後プレゼントを渡していないのは……。
『えーっと……花恋、渡せるか?』
内心無理だよなあ……とは思いつつ真央達のすぐ横に居る花恋の方を見ると、案の定花恋はぷるぷるとわずかに首を横に振った。
『いやいやいや! 無理無理! 無理だよお兄ちゃん!』
『でもほら、二人共困ってるし……』
『いやいや! この流れでわたしの出したら変な空気になるよ!』
『まあ、そうだよなあ……』
わずかな仕草と視線だけで花恋と会話することほんの数秒。やはり次に花恋に渡させるのは無理だと判断せざるを得ない。
他に何かないかと素早く周囲を見回してみると、凛香さんと一瞬目が合いすぐに逸らされた。
……何だ?
凛香さんの視線の意味を一瞬考えてしまったものの、そもそも一々視線に意味を求めるのもおかしな話。今はこの誕生日パーティーが変な感じで終わってしまうかもしれない大事な場面なので、とりあえずスルーしておくしかない。
周囲にこの状況を打破する物は見つからず。あと優花にできることは四五郎さんがタイミングよく戻ってくるのを願うくらいだが、そんな淡い希望を抱いて扉の方を見てみても、誰も入っては来ない。
四五郎さんがちょうど良く戻ってくるような都合のよい展開を期待するのも止めた方が良さそうだ。
プレゼントを出し渋る真央と楓そして花恋にそろそろ場の空気が変になりそうな雰囲気を感じる中、頭をフル回転させて活路を探す優花の目に留まったのは――――花恋が手に持っているプレゼントだった。
……そうだ。元々花恋のは後から渡させるつもりだったんだから。
閃きに背を押された優花は再びマイクを手に取る。
「えー……残りのプレゼントは後で個人的にしてもらいまして、翡翠くんには今日のパーティーの感想をもらいたいと思うのですが、どうでしょうか? 一応サプライズパーティーだったのですが、びっくりしてもらえたでしょうか?」
突然水を向けられ動揺する翡翠に空気を読んだ花恋が余っていたマイクを素早く渡す。また凛香さんに見られた気がしたけれど、それを気にする余裕はない。
「えっと……すごくびっくりしたぜ同士!」
「そうですか。それじゃあサプライズは大成功ですね。ここに来るまでにいつばれるかなーと思ってましたが、意外とわからないものなんですね」
「いやいや、そりゃあわからないだろう同士。こんなパーティーを開いてくれるだなんて想像もしてなかったというか……」
そのままの流れで二人共マイクを持ったまま喋り続けること数分、なんだか雰囲気はトークショーみたいな感じになり皆優花達の話を聞きながら再び残っている料理を食べたり、近くの人と談笑したりし始めた。
わりと無理やりではあったけれど、とりあえず皆の意識をプレゼントから逸らすことには無事成功。これで真央と楓を助けることはもちろん、誕生日パーティーが変な空気のまま終わる最悪の流れは回避できた。




