乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百一
この場に居る全員から「おめでとう」を言ってもらってようやく翡翠も、これが自分の誕生日パーティーだとわかったらしい。翡翠の表情を見てみると、瞳はきらきらと輝き出しているし、嬉しさで頬が緩んでいる。
サプライズパーティーはどうやら成功らしい。この盛り上がりのまま次にいった方が良さそうだ。
「それじゃあ誕生日ケーキの方よろしくお願いします」
待ってましたとばかりに優花の指示と共にお店の奥から現れたのは、ウェディングケーキみたいに数段重ねられ、中央部分にはチョコレートの板にチョコレートで書かれた『HAPPY BIRTHDAY 翡翠くん』の文字、そしてとどめにイチゴと生クリームがたっぷりの誕生日ケーキだ。
……いや、でかいな。
参加人数が十人もいないのに出すようなケーキのサイズじゃない。事前にざっと参加人数は伝えていたのだけれど、このサイズなのは四五郎さんが親ばかなのか、それともお店が四五郎さんの息子を祝うからと気合いを入れすぎたのか。
「おー……」
「あはは……」
明らかにやりすぎなこのケーキを見て、引いているのは花恋と真央。他のメンバーが特に反応を示していないのは……さすがお金持ちのご子息、ご令嬢が通う白桜学院の生徒と言うべきだろうか。
やりすぎな誕生日ケーキにちょこんと乗っていた年の数を表しているロウソクの火を翡翠に消してもらい再び拍手、その後はケーキを切り分けてもらいそれをそれぞれの席に配っていく。
配られたケーキや追加されたオードブルスタイルの料理を食べながらしばし歓談の時間。
司会の役もとりあえず中断ということで優花が自分の分のケーキを持って自然と足が向かった先は凛香さんの隣。
優花が隣に立つと凛香はちらりとだけ優花に視線を飛ばしただけで、何も言わない。
「あんなに大きいケーキ食べ切れないだろうと思ってたんですけど、下の方は偽物なんですね。知らなかったです」
二人で黙っているのもおかしいので、ぱくりと一口ケーキを食べてから切り分けの際に初めて知った事実。段積みされたウェディングケーキもあの巨大な誕生日ケーキもそのほとんどが作り物だという話をすると、凛香さんは呆れたような目ではあったものの、ようやく優花の方を向いてくれた。
「あんなに大きいケーキが全て食べられるわけがないでしょう? まったく、ゆうかさんも常識がありませんわね」
「……すいません」
まさか凛香さんに常識の無さを指摘される日が来るとは……。
何ともばつが悪くてぽりぽりと頭を掻くとそれを見て凛香さんがくすりと笑った。
いつも通り……とはやっぱりいかないものの、凛香さんも僅かながら元気が戻ってきたみたいで少し安心する。
皆あらかた食事が終わると、それぞれ思い思いのプレゼントを翡翠に渡していく流れになった。
「改めてお誕生日おめでとうございます。奥真先輩! どうぞっす」
誰から渡すか空気の読み合いが発生している中、先陣を切ったのは竜二。
「お、おお。ありがとう」
お礼を言いながら渡されたプレゼントの箱を翡翠が開くと、中に入っていたのは腕時計だった。
「そんなに高価なものでもないっすけど、使いやすいのを選んでおいたっす」
竜と虎が描かれた腕時計は少し趣味が偏っている気もするけれど、割とトップバッターにふさわしいプレゼント。さすがは竜二だ。




