乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その二百
「ゆうかさん! 遅いですわよ! 待ちくたびれましたわ!」
「あはは……」
腕を組んで怒っている凛香さんと、その隣で困ったように笑う真央。
「遅いですよー灰島先輩、翡翠先輩!」
「八手、事情は既に聞いていただろう? この程度の遅れなら仕方がないと思うが?」
「兄貴! 待ってたっすよ! こっちこっち!」
唇を尖らせる楓に、それを窘める深雪に優花を手招く竜二。立食形式のパーティーらしく。数人で囲めるサイズのテーブルに椅子はなく。皆それぞれ適当に話をしながら待っていたのだろう。
竜二達はともかく凛香さんと真央が近くに居るのは意外に思えるけれど、これはたぶん少し前まで花恋が間に入っていたんじゃないだろうか。そして優花達を心配した花恋が抜けた結果、凛香さんと真央の間に微妙な空気が流れた……というところまで予想できた。……たぶん間違ってはいないはずだ。
優花の背中をまだ押している花恋と肝心の今日の主役とでもいうべき翡翠でこの場に居るのは八人。未だに女子達に囲まれているのか、四五郎さんは不在だけれど、翡翠は到着したことだしパーティーは始めてしまった方が良いだろう。……と言うかこれ以上待たせると凛香さんが怖い。
「これは……えっと……」
翡翠にしてみればいきなり連れてこられた高級レストランで皆が待っていることなど思いもしなかったのだろう。どう考えても自分の誕生日パーティーだろうに、翡翠は混乱したまま答えを求めて優花の顔を見ている。優花が先に誕生日プレゼントを渡したせいで、誕生日パーティーのことはすぐにばれるだろうなと思ったのはどうやら杞憂だったらしい。
「翡翠はそこに立ってくれ」
「お、おう……」
促されるまま急遽設けられたらしい小さなステージに上がった翡翠が中央に立つのを見届けてから、優花は花恋から手渡されたマイクを手に取った。
「皆さん、大変長らくお待たせいたしました。本日はお集まりいただきありがとうございます。……それでは早速ではありますが、これより……奥真翡翠くんの誕生日パーティーを始めます! 翡翠、誕生日おめでとう!」
パンッ! パンッ! パパンッ!
優花の誕生日パーティー開始の宣言と共にクラッカーが鳴ると共にパチパチと拍手が広い会場に鳴り響く。
「お誕生日おめでとう翡翠くん!」
「お誕生日おめでとう王子!」
「誕生日おめでとうございます。奥真先輩」
「お誕生日おめでとうございますー! 翡翠先輩!」
「誕生日おめでとう、奥真」
真央、花恋、竜二、楓、深雪からそれぞれかけられる誕生日のお祝いの言葉。
まだ言っていないのは……。
ちらりと優花が最後に残った凛香の方を見ると凛香はふんとそっぽを向いたものの……。
「……おめでとう存じますわ」
凛香さんは小さく翡翠に『おめでとう』を言えていた。少しは素直に言葉を口に出せるようになってきている凛香さんの変化が嬉しい。
一応二百話まで来たものの、一話一話の文章量を落としたせいで全然話が進んでないですね……。
当初さくっと行く予定だった夏休み編の影響もあって現在の進行状況は物語全体の半分くらい……でしょうか? 長い話を描くのってやっぱり難しいですね。




