乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その百九十九
昴の一瞬の表情から受けた印象としては真央が翡翠の誕生日パーティーに来るのが意外だったと言う感じではなく、優花が真央と普通に接していることに反応をした……という感じだろうか。
「えっと? 三日月先生?」
「ああ、いや、何でもありません。僕は遠慮しておきます。翡翠くんへは『誕生日おめでとう』と伝えておいてください。それじゃあ、僕はこれで」
昴の反応の意味がわからず困惑する優花を置いて昴が去っていき、入れ替わりに一人置いてけぼりにされていた翡翠が優花の元にやってきた。
「同士? 先生と何か話してたのか?」
「……いや、別に。翡翠に誕生日おめでとうだってさ」
「えっ? おっ、おう……。いや、待て何でそれを同士に言うんだ?」
「さあ? それより早く行こう、皆待ってるから」
わからないことを考えすぎても仕方がない。
今はとにかく、誕生日パーティーの会場で待たせてしまっている凛香さん達の所へと一刻も早く翡翠を送り届けるべきだろう。
「ん? 皆ってなんだ?」
「まあまあ、行けばわかるって」
軽く口が滑りかけたものの勢いで誤魔化して、翡翠の背中を押し会場へと急ぐ。
「ええと……ここか?」
昴に教えてもらった通りに道を進み、たどり着いた先にあった建物は……小さな西洋風の城――――にも見えるレストラン。日が沈み暗くなりかけの時間、既につけられている明かりが建物の荘厳さを演出している。
会場がレストランなことと地図上での位置ぐらいは把握していたものの、実際に着いてみれば一高校生の誕生日パーティーを開くにはやりすぎなレストランに、優花は呆れと共にお金持ちってすごいと改めて思わされた。
「あ、来た! ちょっと! 遅いよお兄ちゃん!」
「ごめんごめん」
いつまで経っても来ず、連絡もつかなかった優花達を心配してだろうか、レストランの入り口で待っていたのは花恋だった。
「ほら、皆待ってるから急いで急いで!」
「わかったから押すな押すな!」
「ちょっ、同士の妹!」
何でこんな所に連れてこられたのか、未だにわかっておらず戸惑う翡翠ごと花恋に押されて中へと入るとレストランの内装も……すごかった。
開放的で広々としたフロアは石や木を使って外観同様まるでお城の中に居るみたいに思わせる。磨き抜かれた床や壁には汚れ一つ見つからず、天井にはシャンデリア。大きい窓から見える外の景色までまるで日本ではない別の国に来てしまったかのように見える。
どうやら貸し切り状態らしく、優花達の他にお客さんは居なかった。
「本当なら今日はお休みの予定だったんだけど、ここのオーナーが四五郎さんの大ファンで、四五郎さんがお願いしたら開けてくれたんだって」
「へー……」
割と急な話だったはずだけど、よくこんな場所貸し切りにできたなという優花の心に浮かんだ疑問の答えは、心を読んだかのようにちょうど花恋が教えてくれた。
ここは素直にさすが四五郎さんと感心しておくべきだろう。……思えば四五郎さんの犠牲が無ければここにたどり着くこともできなかったか。
たぶん未だに白桜学院内で翡翠の代わりに女子達に囲まれているだろう四五郎さんに心の中で感謝しつつ、花恋に押される形でようやくたどり着いたフロアの中央には既に翡翠の誕生日パーティーの参加者が集まっていた。




