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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その二

 乙女ゲームのマジハイは、女の子の主人公が、一年という期間でイケメンの男達を落とすゲーム。

 主人公が通う高校が良いところのお嬢様やおぼっちゃまが通う高校というぐらいしか特徴がなく、あとはクリスマスやバレンタインなんかの季節イベントをこなしていくだけ。まあスタンダードな内容の作品と言えるだろう。


 攻略可能な男キャラは五人。俺様な王子様系イケメン、眼鏡年上イケメン、不良系イケメン、イケメン先生……そして女っぽい顔と名前意外には特徴のない、あまりにも普通なキャラである灰島ゆうか。

 なんでこのキャラ出したんだというくらい普通で、ネットで行われた人気投票も圧倒的不人気。名前も同じだし、女っぽい顔と名前、そして普通すぎるという特徴まで似ていて、優花も好きじゃなかった。


 部屋の中を見てみると、今更ながらマジハイに出てくる高校『白桜学院』の白い制服があった。着てみるとサイズもぴったり。そして灰島ゆうかにはたしかに妹もいた。


「ふう……」


 ため息と共に現状を一文でまとめてみる。


 トラックに轢かれたと思ったら、乙女ゲームの世界の登場人物になってました。


 一回死んでいる……と思われるので、つまりは異世界転生ってやつだ。

 …………ってそんなわけあるか! 

 セルフツッコミを入れたあと、優花は自分の頬を力強く引っ張った。


「痛たたたたた!」


 普通に痛かったのでやめる。本気でやったので頬が赤くなってしまったかもしれない。

 とりあえず夢ではない……かもしれない。だって、どこかには痛みを感じる夢があってもおかしくは……。


「お兄ちゃん! もう遅刻しちゃうよ! ほらこれ食べて! 着替えて! 鞄もって!」

「えっ! ちょっ! 待っ!」


 現実逃避しようとしていたところ、部屋へと突撃してきた暫定妹の花恋に、口にパンを突っ込まれ、パジャマを脱がされ、制服を着させられ、鞄を持たされ、背中を押されて家から出された。

 

「ほらほら! 途中まで一緒に行ってあげるから!」

「行ってあげるってどこに!」

「学校に決まってるでしょ! 記憶喪失ごっこもいい加減にしなね?」


 学校……嫌な予感と共に、暫定妹に背中を押されながら歩いていると、見えてきたのはマジハイに出てきた白桜学院だった。『白桜学院』と書かれた立派な校門には警備員が立っていて、朝から不審者が入らないように見張っている。

 校門の奥には色とりどりの花が綺麗に咲いている大きい花壇が道の横に並び、白桜学院の制服を着た生徒達が和気あいあいと話しながら歩いている。

 道沿いに桜が咲いているところを見ると、まだ春ということでいいのだろう。


「わたしは中等部だからここまで! お兄ちゃんは高等部の二年生でクラスはFだよ。大丈夫だよね?」

「だ、大丈夫だ我が妹よ」

「……何その呼び方……普通に花恋って呼んでよ」

「そ、そうか。わかった花恋。ありがとう」

「……どういたしまして。……変なお兄ちゃんだなあ」


 中等部だという花恋がどこかに行ってしまい。ついに一人になった優花は、なんだか心細くなった。


 超帰りたい……。


 校門は既に通っているものの、来た道を引き返したくなっていると、とんと軽く肩が後ろから来た誰かに当たった。


「あっ、すいません」


 道の真ん中で立ち止まっていたので、登校している生徒の邪魔になっていたのだろう。慌てて道の横にずれて相手も見ずに、頭を下げて謝ると、なんだかずっと嗅いでいたくなるような、甘い匂いがしてきた。


「……わたくしは謝りませんわよ。この虚空院凛香こくういんりんかの歩く道に、立ち止まっていたあなたが悪いのですからね」


 ん?


 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこに立っていたのはマジハイの登場人物、虚空院凛香だった。


 二次元のキャラクターを実写やコスプレのように三次元化すると、違和感がでてきそうなものだが、特に違和感は感じない。腰まで伸びた長い金髪に澄んだ碧い眼。くるりと巻かれた耳前の髪と、ロングヘアーの上半分を両側面から後頭部へと持ってきてまとめた、お嬢様結びというお嬢様キャラ丸出しの髪型が大変良く似合っている。つんつんしたその表情も非常に可愛らしい。


「なんですの? 人の顔を見た途端、気持ち悪い顔になりましたけれど……」

「えっ、ああ。すいません! 俺はこれで!」


 ぺこぺこと頭を下げて、凛香の前から逃げるように立ち去る。


「ふう……危なかった……」


 推しのアイドルを目の前に暴走するファンのようになってしまうところだった。あぶない、あぶない。

 まあ、優花が暴走しそうになるのも仕方がない。だってマジハイで一番好きなキャラは男キャラではなく凛香なのだから。



*****


 初めてマジハイをプレイしたのは高校一年生の夏。男主人公が女性ヒロインを攻略する、ギャルゲーはやったことがあったものの、乙女ゲーをやったことがなかった優花が、マジハイをやろうと思ったのはパッケージに書かれた虚空院凛香に惹かれたからだ。


 一目でテンプレつんつんお嬢様キャラだとわかった途端、気が付けば購入していた。

 そして買ってからこれがその女性キャラを攻略するのではなく、女主人公になって男キャラ達を攻略する内容だと気が付いた。当然乙女ゲーをやったことがなかった優花は返品も考えたが、せっかく買ったのでプレイをしてみることにした。

 

「このキャラは虚空院凛香っていうのか……」


 凛香は主人公のライバルで、乙女ゲームでは良くいる悪役令嬢というポジションらしかった。何かと主人公につっかかってくる凛香だが、根は優しく、本当は主人公と仲良くしたいだけという隠し設定も優花好みだった。

 男キャラの攻略そっちのけで凛香が幸せになるエンディングがないか探したものの、結局そんなものは存在しなかった、それどころか……。


「どのエンディングでも凛香さんが不幸になるって、なんだよこれ……」


 全キャラのエンディングを見て、CGも全てコンプリートするまでやり込んでみたが、凛香が幸せになる終わり方は無かった。大体物語終盤になると、凛香の親の会社が倒産して転校していったり、大怪我をして入院したり、行方不明になったり等、ろくな目にあわないのだ。


「このクソゲー! 二度とやらないからな!」


 完全クリアしたあと一年間放置していたのだが、最近になって、たまたま目にした『虚空院凛香が幸せになって良かった』というツイートを見て、もう一度ゲームをやり直すことにしたのだ。

 攻略サイトを見ても、凛香が幸せになるエンディングは無い。そのツイートの主に詳細を聞いてみても良かったが、できれば自力で推しキャラを幸せにしたいという思いから、丸二日かけてマジハイをやり直し、そして今に至る。


 凛香が実在する以上、もうここがマジハイの世界であることは疑いようがない。そして自分が不人気キャラの灰島ゆうかであることも受け入れなくてはいけないだろう。ありえないと、否定したい思いはまだあるものの、とりあえずは封印しておく。

 現実に起こっていることから目をそらしても、仕方がない。それなら優花がやるべきことは一つ。


 虚空院凛香のハッピーエンドを見つけること。


 つまりは凛香を幸せにしてしまえば良い。とりあえず期間は、ゲームが終わるまでの一年間に設定する。その後のことは……まあ今は考えても仕方がない。どうなるかまったくわからないからだ。


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