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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その百三十五

*****


「は~……気持ち良いですね~」


 珍しくめいのなんだかリラックスしきったような声が聞こえてきて、凛香はぴたりと足を止めた。


 今日からまたゆうかが執事として家に来ると聞いて、わざと寝坊しているふりをしてずっと自室で待っていたのに、一向に誰も呼びに来る気配が無かったため、一体何をしているのかと気になって少し様子を見に行こうとしたところ……。


「それは良かったですけど……」


 何故かめいの部屋から、聞こえてきたのはめいとゆうかさんの二人の声。


 部屋の遮音性が高いせいで、かすかにしか声が聞こえず、ゆうかの言葉の後半はよく聞こえなかった。


 二人の居る場所がわかったのだから「何をしているの?」とでも言いながら普通に部屋に入っても良かったはずなのに、気が付けば音を立てないようにしながらドアに耳をつけていた。


 これは別に盗み聞きとか……そういうのではありませんわ! ええ! 断じて違います!


 なんて自分に言い訳をしながら、部屋の中の声に耳を傾ける。


 最初は自分が居ない所で、二人がどういう会話をしているのかという純粋な興味からの行動だったのだけれど、二人の声を聞いている内にそんな最初の理由はどうでも良くなってしまった。


 何故なら……さっきから部屋の中から聞こえてくる二人の会話の内容がなんだか怪しかったからだ。


「ここ……ですか?」

「あっ、そこ。良いです……」

「もっと……ってるかと思ってましたけど……柔らかいですね」

「よく……動かしているから……しれませんね……ん! 良いですね……」


 ……本当に何をしているんですの?


 一旦ドアから頭を離し、少し考える。


 途切れ途切れに聞こえてくる会話の内容から、部屋の中の状況としてはゆうかがめいに触れていて、めいがそれを気持ち良いと感じていると察することができた。


 ……もしかして。


 凛香の頭によぎったのは、二人が……いかがわしい行為に及んでいるのではないかという疑念。その疑念を打ち消すように頭をぶんぶんと横に振ってから、もう一度ドアに耳をつけると、


「それ……ベッドに寝るので……」

「……わかりました」


 そんな会話が聞こえてきた後はまためいの気持ち良さそうな声が聞こえてきた。


 ……………………これは、確定ですわね。


 二人はいつからそんな関係になっていたのだろう。少なくとも今まではそんな素振りは全く見せていなかったのに。


 泣きそうな気持になりながら、このままどこかへと走り去りたくなった凛香だったが、ぐっと踏みとどまり、めいの部屋のドアノブに手をかけた。


 かのシュレディンガーの猫の思考実験だって、箱の中の猫は死んでいるはずだと思っても、箱を開けて中身を見るまで、本当に猫が死んでいるかどうかはわからない。つまりは二人が本当にいかがわしい行為に及んでいるかどうかも、部屋のドアを開けて見るまではわからない。


 ……見たくないものを見ることになったとしても、自分の目ではっきりと確認がする必要がある。こういう時はもう勢いに任せるしかない。


 一度大きく深呼吸した後、ばん! と凛香がドアを開けると――――。


*****


 ばんと大きな音を立てて急にドアが開く。


「うわっ! びっくりした! ……ってなんだ凛香さんか」

「お嬢様、ドアを開ける時はもっと静かにお願いします」

「…………」


 いきなり部屋に入って来た凛香はなんだか少し涙目で、そして何故か顔が赤い。無言のままの凛香の視線は、ベッドにうつ伏せに寝ているめいのふくらはぎを揉んでいる優花の手に突き刺さっている。


「ええと、どうしたんですか?」


 どうにも様子がおかしいので優花が心配になって凛香に問い掛けると、凛香はさっと視線を逸らしぶつぶつと何かよくわからないことを言い始めた。


「……別に? 知ってましたわ。ええ、どうせそんなことだろうとわかっていましたわ」

「いや、何の話ですか?」

「こっちの話ですわ! それよりもどうしてマッサージなんてしてるんですの!」

「いやいや、なんで急にキレてるんですか……」

「キレてませんわ! それよりも質問に答えなさい!」

「理由はまあ一言で言うなら……修行ですかね?」


 それよりも何で凛香が怒っているのかがわからない。優花が、助けを求めるようにめいを見ると、めいはゆっくりと体を起こして、ふふっと笑った。


「そうですね。きっとお嬢様はドアの向こうで私達の声だけ聞いていたのではないでしょうか?」

「声だけ? それがどうして怒ることに繋がるんですか?」

「それはですね……」


 めいが優花の疑問の答えを口にしようとすると、


「あっ……あ~! そっ、そう言えばわたくしゆうかさんが来たらやってもらおうと思っていたことがありますの!」


 まるでめいが何かを言うのを妨害するように、妙に慌てた感じで凛香が口を挟んできた。何か緊急事態かもしれない。これは修行という名のマッサージをめいにしている場合ではないだろう。


「やってもらいたいことですか? それじゃあめいさん、とりあえずこの修行? はここまでで良いですか?」

「ふふ、ええ、大丈夫ですよ。戻ってきたら次の修行をしましょう」


 にっこりと余裕たっぷりに笑うめいを何故か恨みがましい感じの目で睨んだ凛香に腕を引っ張られ、廊下へと連れ出される。


「えっと、それで凛香さん。やってほしいことって何ですか?」


 雑巾掃除で胸と腕、今の肩もみで手が痛いので、できれば力仕事じゃない方が良いなと思いながら聞くと、凛香は子供っぽく少し頬を膨らませていた。どうやらまだ怒っていたらしい。


「それよりもゆうかさん。修行って何のことですの?」

「あー……それは……」


 あなたを守る為の修行です――――なんていかにもイケメンが言いそうな歯の浮くようなセリフを吐くことは優花には無理だった。これが翡翠や竜二、深雪に昴ならきっとそれぞれ違う表現にはなっただろうが、平気で言えたはずだ。


 できることなら優花もイケメンムーブが許されるイケメンになりたかったが……まあ今更どうしようもない。


「ほら、昨日竜二に助けられたじゃないですか。また似たようなことがあった時に、俺も何かできた方が良いかなって思ってめいさんに鍛えてもらってるんです」


 いざという時に凛香を守りたいという一番の目的は喋っていないが、嘘もついてはいない。そんなある意味優花らしい中途半端な答えを返すと、


「ふーん……そうですの」


 なんだか微妙な反応ではあったものの、一応納得はしてくれたようで、凛香の表情から怒りの色が消えた。


「まあ良いですわ。それならゆうかさんが自衛の術を身に着けた暁には、わたくしのボディーガードでもしてもらいますわね?」


 悪戯っぽく笑うという凛香の不意打ちに、優花の胸が瞬時に高鳴った。


 なんか最近凛香さんにドキドキすることが増えた気がする……。


 マジハイでの優花の推しキャラが凛香なのは以前も今も変わっていないはずなのにどうしてだろうか?


「それでは、わたくしはこれからゆうかさんの修行を見物させてもらいますけれど、問題ありませんわね?」


 浮かんだ疑問を優花が考えるよりも先に、凛香が話を進めてしまった。


「それはまあ、大丈夫ですけど……」


 ……凛香さんがやってもらいたいことというのは、結局なんだったんだろうか?


少し実験的に、視点主を変えながら話を進めてみました。わかりづらかったらすみません。

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