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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい おまけ1 虚空院凛香の作戦会議!

「さて、どうするべきかしら……」


 一本の白い造花が高価な花瓶に入れて飾られている机に向かって、虚空院凛香は一人ノートを広げていた。「予定を組みなおさないといけませんわね!」なんて言ったものの、実際予定は全く立てられていなかった。


 ほとんど何も書かれていないノートに書かれているのは一文だけ。『真央さんと仲良くなるには』とだけ書かれている。誰にも知られているはずもないけれど、凛香は真央と仲良くなりたい。


 初めて凛香が真央と会ったのは、二年生になってから。隣の席になった真央が凛香に「よろしくお願いします! 凛香さん!」と元気に挨拶してきてくれたとき。


 一年生の頃から……いや、正確には中等部の頃から、何故か皆から距離を取られてしまっている凛香にとって、話しかけてきてくれるだけでもとても喜ばしいことだった。


 その時はいきなりのことにパニックになった結果「……庶民が話しかけないでくださる?」なんて冷たく言ってしまったものの、後で死ぬほど後悔したのは誰にも言っていない秘密。それからなんとか、謝って仲良くなろうと頑張ってはいるけれど、いつもいつも真央が隣に来ると緊張して素直になれず、ろくに仲良くなれていないのが現状だ。


 ただ、ゆうかに誘われて行ったタピオカ屋では多少ましだったように思える。あの時はタピオカに意識が行っていて、真央を意識しすぎて冷たくあたるようなこともなく、とても自然に振る舞えていた。


 仲良くなるためには、やはり休日に一緒に遊ぶことが必要だとタピオカ屋の一件で学んだ凛香は、もうすぐ来るゴールデンウィークに真央を家に招待するつもりだったのだけれど、その作戦に変更の必要が出てきていた。

 

 机に飾られた白い花をちらりと見て、凛香はノートに新たに『ゆうかさんにチャンス作戦』と書き足した。


「わたくしに恋い焦がれるゆうかさんにも、チャンスを与えてあげなくてはいけませんものね!」


 ふふふと自然に笑みを浮かべながら、凛香が机の白い花に触れようとした瞬間、凛香の私室のドアが控えめにノックされた。慌てて白い花を花瓶から取り、まだまだ白い部分が多いノートと一緒に机にしまうと、凛香は「入りなさい」と一言だけ告げた。


「失礼します。お嬢様」


 一礼と共に入ってきたのは、虚空院家のメイドのめい。幼い頃から面倒を見てくれているほとんど姉のような存在のめいを見て凛香は小首を傾げた。


「何か用ですの? 今日はもう休むと言っておいたはずですけれど?」


 普段ならあとは寝るだけとなったら、ほとんど凛香の私室には来ないめいだが、今日は違うみたいだった。


「いえ、真央様と仲良くなる作戦はちゃんと立てられたのかなと思いまして」


 くすりと笑うめいに、凛香は頬が熱くなった。

 めいに隠し事はできない。このメイドはいつもいつも人の隠しておきたいことを、暴いてしまう悪癖がある。


「これから立てるところですわ!」


 隠しても無駄ならと、凛香は机からノートを取り出し、めいに見せつけるように広げた。


「……お嬢様」

「なんですの? これから作戦を立てるところと言っておいたでしょう?」


 だからノートが白くても仕方ないと言おうとして、凛香は自分が大きなミスをしたことに気が付いた。


 めいの視線が、さっき追加されたばかりの一文に釘付けになっていたのだ。めいの目を釘付けにしている『ゆうかさんにチャンス作戦』という文字を凛香はすぐに手で隠す。


「こっ、これは違いますわ!」


 ばっとノートをしまい、慌てて机の引き出しを引っ張ると、その中には白い花。


「それは……白花の日に配られる白い花ですね」


 もうっ!

 

 めいも白桜学院の卒業生なので、見られてしまえばこの白い花がなんなのかは、すぐにわかってしまうのは自明の理。


「ゆうかさんというのは、お嬢様が以前話してくださった殿方ですね?」

「……ええ、それがどうかしましたの?」


 平静を装ってノートを机にしまい、めいに向き直ると、めいは目を弓なりにして優しく微笑んでいた。


「そうですか……お嬢様にも気になる殿方ができたのですね?」

「ちっ! 違いますわ! 勘違いしないで頂戴! これはその……ゆうかさんには少しだけ可能性があるので、チャンスを与えなければいけないと思っただけで……」

「チャンス……ですか?」


 この子は一体何を言いだすんだろう? という目で見てくるめいに、凛香はこほんと咳払いを一つしてから、説明を始める。


「いいかしら? まずわたくしはゆうかさんのことを何とも思っていません」

「……はあ」


 なんだか気の無い返事だった気がするけれど、とりあえず話を先に進める。


「ただ、ゆうかさんはこの白い花をわたくしに贈るほど、わたくしに恋い焦がれている様子……」

「あら? それはゆうか様がくれたものだったのですか?」


 大げさに驚いて見せるめいに、わかっていたでしょうにと思いつつも、ここで反応すればこのメイドを喜ばせるだけなのでぐっとこらえる。


「そんなゆうかさんにもチャンスを与える必要があるでしょう? わたくしに相応しい人間であると証明するチャンスを!」

「この子はまた、変なことを言いだして……」

「今何か言いました?」


 ぶつぶつと何かいっためいを睨むと、めいはにっこりと完璧な笑みを浮かべた。


「いえ、特に何も言ってません」

「そう……それなら良いのよ。とにかく、真央さんを家に招待するついでに、ゆうかさんにチャンスを与えようかと思ったのだけれど……どうかしら?」


 いや、どうかしらと言われても……なんて顔をめいがしている気がするけれど、きっと気のせいね。


「そうですね……お嬢様に相応しいというのは具体的にどうやって証明するんですか?」

「それを今考えようとしていたところです!」


 結局何も考えてなかったのね……みたいな顔はしないで頂戴。


 めいは困ったように少しだけ笑うと、すぐに目を閉じた。めいが深く思考の海に潜っている時にやる癖だとすぐに気が付いた凛香は、何も言わずにめいの言葉を待つ。 


「……それならこういうのはどうでしょう? ゆうか様に執事をしていただくというのは?」

「執事ですか?」


 めいから出たのは思いもよらぬ提案だった。


「ええ、お嬢様に相応しい殿方とはつまり、お嬢様をあらゆる面でサポートできる殿方だと思うんです」

「……たしかにそうですわね」


 さすがはめいと言わざるを得ないようね……。


 めいの言う通り、凛香は誰かの後をついていくだけの人間ではなく、自分で道を切り開いていく側の人間だ。そんな凛香に相応しいのは、サポートをしてくれる男性という論理はすごく納得できる。


「サポートと言えば執事! これは世界の常識ですね?」

「え、ええ。そうですわね!」


 そうなの? と思いつつ、めいが確信をもって言っているので素直に頷いておく。


「これでゴールデンウィーク中の人手不足が解消できそうですね」

「今また何か言いました?」


 また何かつぶやいた気がしたけれど、やっぱり気のせいだったようで、めいは笑みと共に首を振っていた。


「いえ、何も? それより、真央様の方も作戦を立てないといけませんよ!」

「わかっていますわ!」



 それから二人で立てた真央と仲良くなるための作戦『真央とやりたいこと百個全部やる作戦』を優花とすることになるとは、この時まだ凛香は知らなかったのだった。


*****


「ところで、お嬢様の白い花は誰にあげたんですか?」

「……お、教えませんわ!」

「……」

「あっ! こら! 目をつぶらないの! めい!」

以上、凛香さんが視点主のおまけでした!


細かな表現などを後から修正しました。

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