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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その百三十二

 自信を喪失し離れたところで体育座りをしてしまった竜二は置いておいて、次は淀。見よう見まねでとりあえず投げてみました感がひしひしとした淀の投げた石は水面を跳ねることなくそのまま水没。


「……意外と……難しいですね」

「コツがあるからね。後で教えるよ」


 まあ水切りはやり方がわからないと難しいので、跳ねなくてもおかしくはない。


 これで現在優花が一位で竜二が二位、淀が三位で残り二人。最後は凛香なので、次は真央の番だ。


「よし! それじゃあ私の番だね!」


 ぐるぐると肩を回した後、意外にもしっかりとしたフォームで投げた真央の石が跳ねた回数はなんと十回。優花の記録は三回も超えられてしまった。これはもう真央が優勝で間違いないだろう。


「やったぁ!」

「おー! すごいな! これは真央が一番かな」


 ばんざいして喜ぶ真央に、優花が拍手をすると、凛香さんが石を持って横を抜けていった。


「最後はわたくしの番ですわね。いきますわ」


 真央に似たフォームで繰り出された凛香の人生初めての水切り。十分な回転を加えられた石は水面を勢いよく跳ねていく。


「五、六、七、八……」


 既に優花の記録は超えた。後二回跳ねれば真央と引き分け。


 九回目


 これで後一回。


 十回目!


 凛香と真央の記録が並ぶ。


 ほとんど勢いを失った石は……最後にもう一度跳ね、結果は十一回。


 まさかの一位は凛香という結果に終わった。


「やりましたわ!」



 まさかの初めて水切りをやった凛香が一位という結果に驚きながら、優花はゲームセンターに凛香と一緒に行ったときのことを思い出していた。


 ゲームセンターの格闘ゲームで遊んでいた時、凛香は対戦相手を知らなかったが、最後の相手は真央だった。あの時は真央が優勢だと思われた凛香に逆転勝利している。


 ……それじゃあ、あの時真央が勝ったのは主人公補正の力じゃなかったのか。


 もしも格闘ゲームで真央が勝ったのが主人公補正の力なのだとしたら、今回も真央が勝つか、あるいは良くて引き分けになったんじゃないだろうか。今回凛香が勝てたということは、真央の主人公補正が細かい勝負事には発揮されない何よりの証明になるわけだ。


 普段あまりゲームをしない人が、わずか三戦の間に、上級者に勝てる程成長できる可能性は低い。格闘ゲームは初心者がぐちゃぐちゃに操作したら勝てるというものでもない。ビギナーズラックはほぼありえない。覚えが早かった凛香ですら、楓を倒すまでにコンピューター相手に十戦はしている。


 えーっと……つまり、真央は意外と格闘ゲーマーだってことになるのか?


 正直真央とゲームはあまり結びつかないが、普段から格闘ゲームを触っていなければ、凛香には勝てなかったはずなので、間違いないんじゃないだろうか。


 格闘ゲームで遊んでいるということは、真央は別のジャンルのゲームでも遊んでいる可能性が……。


 そこまで思考が及んだ時、


「いった! 何すんのよ!」

「何ですの? あなたからぶつかってきたのでしょう?」


 トラブルが起きていた。


 当たり前の話だが、優花達がいる川には他にも遊びに来ているグループがいくつかあった。


 大学生のサークル風の集団に何組かの親子連れ、そして……カップル。


 初めて? 真央に勝てた凛香がいつも通りの高笑いで勝ち誇っている所に、どうやらたまたま近くを通ったカップルの女性の方がぶつかってしまったらしい。


 どちらかがすぐに軽く謝ればそれで済んだかもしれないが、残念ながら凛香も相手の女性も謝らず、口論が徐々に激化していく。


「高校生の癖に生意気なんだけど!」

「ふふん! 年齢でしか優位を取れないんですの? 可哀想な人ですわね」

「マ? あんまイキんなよ!」


 凛香の挑発するような言動に、ついに相手の女性がキレ、自分の彼氏の腕をぐいぐいと引っ張った。


「こいつマジイキってるからさ、やっちゃってよ」


 その言葉を聞いた彼氏が、腕を振り上げる。


 このままだと、凛香さんが殴られる。と思った次の瞬間には優花は自然と体が動き、凛香と男の間に割って入っていて――――当然ながらそのまま殴られた。


「ぐっ……」


 人に殴られるのは初めてだった。痛いというよりも、衝撃の大きさに驚いた。


 幸いだったのは相手も別に筋骨隆々のマッチョとか、ボクサーじゃなかったことだろうか。殴られた衝撃で立てないとか、そんなことにはならなかった。


「ゆうかさん! あなた達! 手を上げるなんて恥を知りなさい!」

「うっ、うっせえなあ!」


 非難するように睨む凛香に、男が今度こそ殴ろうとした瞬間、ぬっと凛香の後ろから手が伸び、男の拳を受け止めた。


「てめえ……」


 男の拳を受け止めたのは、額に青筋を立てた竜二。ドスのきいた声は怒りに震えていて、完全にキレている。


「いだだだだ! は、離せ!」

「よくも……よくも兄貴を……!」


 男の拳を、竜二がぎりぎりと握りつぶしていく。


 優花と居る時はあまり意識することはないが、竜二は元々不良キャラ。こういった荒事はむしろ得意分野。マジハイで竜二を攻略するルートでは、三回はこんなシーンがある。


 そのイベントの多さもわかるぐらい、今の竜二は男らしさ満点で、格好良くて胸がきゅんと…………はならない。優花が女子だったら危なかったかもしれないが、単純に助かったという思いと竜二への感謝があるだけだ。


 手を潰されながら凶悪な顔をした竜二に睨まれ、男の目には既に涙が浮かんでいる。殴られた優花ですらちょっと同情しかけていた。


 そのまま更に力を込めようとした竜二の腕を、真央が横からぽんぽんと軽く叩いた。


「竜二くん。もう良いでしょう? 離してあげよう? ね?」

「…………わかったっす」


 渋々といった感じで竜二が手を離すと、カップルは一目散に逃げていった。たぶんもうここには来ないだろう。とりあえずは一安心だ。


 竜二が居なかったら、凛香さんが危なかった。今回優花はただ殴られただけ、凛香さんをちゃんと守れなかった自分が情けない。また似たようなことがあった時のために……少しは身を守る術を身につけるべきだと痛感した。


「ありがとな竜二。助かったよ」


 まあそれは後の課題として、殴られた頬をぐしぐしと手の甲でぬぐい竜二に礼を言うと、竜二は心配そうな顔で振り返った。


「兄貴! 大丈夫っすか!」

「あー、大丈夫大丈夫」


 はははと苦笑いを浮かべながら優花が手を横に振ると、涙ぐんだ凛香が手をぎゅっと握ってきた。


「ごめんなさいゆうかさん。わたくしのせいで……」


 心配そうにのぞき込んできた顔が近い。うるうると潤んだ綺麗な瞳が一際大きく見えた。至近距離で凛香さんに見つめられているせいでどんどん顔が熱くなっていく。


 耐えられなくなって視線を逸らしながら優花が「大丈夫、大丈夫」と繰り返すと、凛香はぶんぶんとかぶりを振った。


「大丈夫じゃありませんわ! 救急車! 救急車を!」

「……いやいや! さすがに大げさですから!」

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