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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その百三十一

 花火大会の日から三日ほど経ち、作戦二日目。


「どうしたんすか兄貴? 浮かない顔して?」


 今回の参加者の竜二が心配そうに優花の顔を覗き込んできた。


「いや、そう言えば花火大会で凛香さんの写真撮りそびれたなって今更思い出してな……」


 本当は昴の言葉が未だに引っかかっているというのもあるが、まあそれは竜二に言っても仕方がないので言わない。


「ああ。虚空院の姉御の浴衣姿がやばかったってやつっすか」

「やばかったっていうか、まあ……綺麗だったな」


 今思い出しても少し頬が熱くなるぐらいは凛香の浴衣姿は魅力的だった。それだけに、写真を撮り忘れたのが悔やまれる。


「まあ次の機会に撮れば良いじゃないっすか」


 竜二のなんとも適当な励ましの言葉に優花がジト目を向けると、竜二がぽんと手に持っていた物を優花に手渡してきた。


「これどうぞ」

「ん? なんだこれ?」


 竜二に手渡されたのは、何かのボトル。ぱっと見は虫刺されの薬に近い。


「いるかなって思って用意しといたんすよ、虫よけ」


 ああ、そう言えば持ってくるの忘れてたな。


 作戦二日目となる今回のイベントは川遊び。電車に揺られ、バスに乗ること約一時間半。優花達が来たのは木々に囲まれた都内に残された秘境のような場所にある川。都会ではあまり嗅ぐことのない濃密な木々の……いや、自然の匂いに来て良かったとしみじみと思った。


 今日は特に暑く、バスを降りて川に移動するまでの少しの間歩いただけでに暑さにやられそうになったが、川に近づいてからは涼しい風も吹き暑さも薄れたのでダウンすることは無いだろう。


 さっそく虫よけを腕や首に塗っていると、竜二が自分の荷物をごそごそとあさり出した。


「それにしても荷物が多いな竜二。一体何を持ってきたんだ?」

「まあ色々っす。今回は兄貴達にめいっぱい楽しんでもらおうと思ってしっかり準備してきたんすよ」

「それは……ありがとうな」


 昴の時とは違い、今回は頻繁に連絡を取る竜二が相手なので、打ち合わせはスマホ越しに軽くした程度で、準備等はほぼ竜二に任せっきりになってしまった。後で何かお礼をした方が良いかもしれない。


 何をお礼にすれば良いのか少し悩んでいると、後ろからつんつんと背中をつつかれた。


「ん? ああ、黒岩さんか。どうしたの?」


 振り返ってみると、優花の背をつついたのは淀だった。


 今回の作戦元々は優花に凛香と真央、そして竜二の四人で行く予定だったが、竜二から話を聞いた淀が参加したいと言ってきたため、今回の参加者は五人となっている。


 今回のイベントのためか、終業式の日よりも更に髪の毛を切ってきた淀の顔はもうほとんど見えている。苦手らしいアウトドア系のイベントなのに淀が参加を表明したのは、少しでも竜二と一緒に居たいからだろう。


 川遊びということで、なるべく身軽な格好でという竜二の指示通り服装もTシャツに短パンというラフな格好で、いつもとはもはや別人に見えるが、中身はやっぱりそれほど変わってはいないらしい。


「……せんぱい……呼んでます」


 淀の喋り方はいつも通りの途切れ途切れで、ぼそぼそとしたもののままだった。


「呼んで? ……ああ」


 まあたぶん凛香さんだろうなとは思いつつ、淀の背後に視線を移した瞬間――――くらりと来た。


「おおう! 兄貴大丈夫っすか!」

「だ……大丈夫だ……」


 優花がくらりと来たのは、視界に入ったものがあまりにも素晴らしかったからだ。


 淀とは違い、水に入るつもりの凛香と真央は川に着いてすぐにまずは着替えをしており、改めて優花達と合流したわけだが……問題なのはその格好だ。


 真央は白とピンク色という以前の水着と同じ色をした水着のワンピースタイプのものを着ていて、前のものよりも可愛さが強調されている感じ。そして凛香の格好は黒い水着の上から白いTシャツにデニムのショートパンツ。普段はあまり見えない太ももが露わになっているだけではなく、今回は髪の毛をポニーテールにしているのもポイントが高い。


 改めて二人の(特に凛香の)姿を見て、優花がほうと感嘆の吐息をもらすと、竜二も真央達の方を見て「おおっ!」とテンションを上げ……そのせいで竜二は淀に脛を蹴られていた。


 結局優花を呼んでいたのは凛香で、優花が高鳴る心臓を落ち着かせつつ近づくと、荷物を渡された。せっかくなので真央の分も持つと自分の分と合わせて荷物が三人分となり中々に重かった。



 凛香達の荷物を持って、改めて河原に移動し荷物を置くと、早速凛香は川に入って少し足を濡らし……すぐにもどってきた。


「今更なのですけれど……川遊びとは何をすれば良いんですの?」


 あー……まあそうなるか。


 都会生まれ都会育ちっぽい凛香が、川での遊び方なんてわかるわけもないだろう。


「そうですね。例えば……」


 川に入り水をかけあって遊ぶのも良いが、それよりもまずは川でしかできないことを教えた方が良いだろう。


 となると……あったあった。


 ゲームセンターの時同様、口で説明するよりもやって見せた方が早い。


 川での遊び方を凛香に教えるために、まず優花がしたことは石を探すこと。丁


 度良さそうな石を見つけ拾い上げると次に周囲の人の位置を確認。人が居ない方へと体を向け、ぐっと石を持った手を引く。


「見ててくださいね」

「何をするつもりですの?」

「見てればわかりまよ……っと!」


 優花が何をするつもりなのかわからず小首を傾げる凛香の前で、思いっきり石を川に向けて投げつける。優花が投げた石は綺麗に川の表面を跳ね続け、6回目で水に沈んだ。


「とまあ、こんな感じでですね……」


 優花が今やった石を投げて水面を跳ねさせる遊びの水切り凛香に説明しようとするや否や……凛香がきらきらとした瞳をしてずいっと身を乗り出してきた。


「ど、どうやったんですの!」


 どうやら優花のやった水切りは思いのほか凛香の興味を引くことに成功したらしい。


 興味津々といった感じの凛香に、優花は思わず苦笑が漏れそうになる。


「水切りって言ってですね、結構ポピュラーな遊びなんですけど……」

「わたくしにもできますの?」

「もちろんできますよ。コツはまず石選びですね、こういう平べったい石をまず見つけてですね……」


 優花が一から凛香に水切りについて教えていると、


「ふっ、兄貴も中々やるようっすけど。おれには勝てないっすよ」

「あ、私も水切りは得意だよ!」

「……あたしは……あんまりですけど……一応」


 三人の挑戦者が現れた!


 三人ともさっきの優花の水切りを見ていたらしい。自信たっぷりといった感じの竜二と真央、そしてあまり自信が無さそうな淀を加え、五人で水切り勝負をすることになった。


「それじゃあ俺から……よっ!」


 初めて水切りをする凛香は最後に回し、まずは優花が石を投げると、跳ねた回数は七回。まあまあ良い記録に思わずガッツポーズをすると、竜二がふっと笑った。


「さすがは兄貴っすけど、田舎でも負けなしだったおれの敵じゃないっすね!」

「いやいや、七回だぞ? これはなかなか超えられないだろ」

「まあまあ! 見ててください!」


 超自信満々、意気揚々な竜二が投げた石の跳ねた回数は――――優花より少ない六回。


「……」


 優花が無言でじとっとした目を向けると、竜二はすっと目をそらした。


「…………兄貴。今はこっち見ないでくださいっす」

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