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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その百三十

 昴があらかじめ今回花火を見るために用意していた場所は意外な場所だった。


「えーっと……看板に『Bar』って書いてますけど、ここって……」

「ええ、バーですよ?」

「いやいや! 俺達未成年ですよ!」


 優花達未成年を連れてバーに入るのはダメだろうと、当たり前のツッコミのつもりだったが、昴は特に気にした様子も無く、


「はははっ、大丈夫ですよ。ちょっと待っててくださいね」


 と言って優花達を置いて、一人バーへと入っていってしまった。


「外の席があるわけでもありませんし……本当に花火を見るつもりはあるんですの?」

「さあ……どうなんですかね?」


 凛香と真央が揃って困惑しているが、優花もまったく同じ気持ちだった。


 予定では『とっておきの場所』としか書かれていなくて、当日のお楽しみと言われていたが、まさかこんなところだとは思わなかった。


 昴の意図がわからず、やきもきする中、バーに入っていた昴が戻ってきた。


「改めて許可をもらってきましたから大丈夫です。それじゃあ行きましょうか?」

「えっ、ここからまたどこかに行くつもりなんですか?」


 まあバーに優花達が入るわけにはいかないのはわかっていたが、そろそろ花火も打ち上がり始める時間なのに本当にどういうつもりなんだろうか。


「ええっ、こちらへ」


 昴が優花達を誘導した先はバーの中ではなくバーの裏、コンクリートの階段が上へと続いていた。先に階段を上っていった昴を追って、優花達も階段を上ると……。


 どん! ぱぱぱぱ!


 大きく、そして鮮やかなオレンジの花火、続いて小さい赤い花火が次々と打ち上がる。


 階段を上りきった優花達を待っていたのは、大きく広がる夜空に次々と色取り取りの花火が打ち上がっていく光景だった。


「綺麗……」

「わあ……」


 凛香と真央が感嘆の声を上げる中、優花も花火に目を奪われた。


 花火ってこんなに綺麗だったんだなあ……。


 思えば打ち上げ花火をちゃんと見たのはこれが初めてかもしれない。今までは花火大会なんて来たこともなかった。


 優花達が連れていかれた先は、バーが入った建物の屋上部分。ちょうど打ち上がり始めた花火がとても見やすい場所だった。


 ずっと見ていそうになったが、今回の目的を思い出し、凛香と真央を二人きりにするためにそっとその場から離れる。


 優花がいなくなっても凛香と真央が隣り合って上を見上げ、花火に見入っているのを確認してほっとしながら、少し離れたところに一人で立っていた昴に話しかけることにした。


「よくこんな良い場所借りられましたね?」


 周囲に騒ぐ人もいないし、花火も見やすい。静かに花火を楽しむには絶好のスポットだ。


「ここのバーのマスターと知り合いでして、丁度良いかなと思ったんですよ」

「へー……三日月先生ってお酒飲むんですか?」

「ええまあ……あまり強くはないんですけどね」

「あれ? そうなんですか? 強そうに見えますけど?」

「ははは、よく言われます」


 昴は笑いながら隅に置いてあった机に荷物を置くと、優花を手招きした。


「食事もできるように準備してもらっていたんですよ。荷物はここに置いてください」

「わかりました」


 昴の指示通り持っていた物を机の上に置くと、昴が微笑みかけてきた。


「さて……不藤君」

「えっと、なんですか?」


 昴の微笑みになんだか不穏な空気を感じたものの、特に心当たりが無かった優花が首を傾げると、昴が人差し指をぴんと立てた。


「君の隠しごとを当てても良いですか?」

「隠しごとですか? 別にそんなものは……」


 無いですよと言おうとして、やめた。


 隠しごとと言われて思い当たることが……正直あったからだ。


 ちらりと凛香と真央の方を見ると、二人共まだ花火に見入っていて、優花達の方を気にする余裕は無さそうだった。これなら二人に聞かれる心配はないだろう。


 優花が改めて昴の方に向き直ると、昴は笑みは崩さずに話を続けた。


「今回の作戦、目的は当然真央君と虚空院君の仲を深めることです。そしてその方法は二人を様々なイベントに連れ出すこと。ここまでは良い、問題は……」

「イベントの参加者の人選……ですか?」


 今回の作戦を翡翠と竜二、深雪と昴というマジハイの攻略キャラ達と立てる中で、優花が一つだけ主張したのが、各イベントの参加者を優花が選ぶことだった。


 色々と理由をつけて、なんとか全員に納得してもらったものの、さすがに強引すぎたらしい。昴には真意を見抜かれていたようだ。


「ええ。君は今回の作戦で、それぞれのイベントの参加者をあらかじめ指定していましたが、その理由は『ゲーム』にあるんじゃないですか?」

「…………」


 もう答えをわかっているはずなのに、延々と推理を披露する漫画の探偵のように、勿体ぶりながら話す昴の予想を、優花は探偵に種明かしされる犯人の気分で黙って聞く。


「君はわざとゲームのイベントが起きる組み合わせを外した。その狙いは攻略キャラクターを『攻略』しないようにするためでしょう?」

「まあそうですけど……それが何か問題なんですか?」


 そう、たしかに優花は今回の作戦でマジハイでのイベントが起きる組み合わせにならないように、各イベントの参加者を選んでいる。


 例えば今回、マジハイでイベントCGがもらえる組み合わせにするならば、参加者は昴ではなく、竜二にするべきだった。竜二を選んだ場合、花火大会の途中でチンピラに絡まれ、竜二に助けられるというイベントが起きるはずだったのだ。


 今回それを避けたのは昴の言った通り、優花が攻略キャラクターを攻略しないようにすること…………そして真央が攻略キャラクターを攻略しないようにすることでもある。


 竜二と翡翠の件でわかったように、もしも攻略が進んでしまえば凛香は危険な目に合うことになる。


 今回の本当の目的は白桜伝説に頼らずに凛香を救うこと。なので凛香を守るためにも攻略をしないようにするのは重要なことだ。


「いえ、責めているわけではないんです。攻略が起こらないようにすることは、虚空院君を守ることにも繋がりますしね……ただ」

「ただ?」

「君はもう少し虚空院君以外にも目を向けるべきなんじゃないかと思いまして」

「それは一体どういう……」


 意味ですかと続けようとした優花の肩がとんとんと背後から叩かれた。


「二人で何を話してるの?」


 優花の肩を叩いたのは真央。いつの間にか花火を見るのをやめていたらしい。


 今の昴との会話が聞かれていたんじゃないかと一瞬ひやっとしたものの、真央の顔はのほほんとしたいつもの表情なのでそれは無さそうだった。


「いや……何でもないよ。それよりそろそろ焼きそばとか食べようか。腹も減ったし!」

「うん! 私はお好み焼きが食べたいな!」

「あっ! 何をお二人で勝手に盛り上がってるんですの! 仲間外れは許しませんわよ!」


 その後は食事を取りながら皆で花火を楽しんだ後、このままバーに行くという昴を残して凛香と真央を送っていくことになった。


 結局、凛香と真央が二人で仲良く話すこともなく作戦初日は終了。結果は……正直あんまりといったところだった。


 また、昴がどういう意図で『虚空院君意外にも目を向けるべき』と発言したのかも聞けずじまいで、喉に刺さった小骨のように、昴の言った言葉がしばらく心に引っかかり続けることになった。

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