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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その百二十九

 隣を歩くいつもとは違う浴衣姿の凛香をちらちらと盗み見ながら、昴と真央の後を追うように後をついていく。歩くスピードは下駄を履いている真央と凛香に合わせてゆっくりで、まずは花火大会に合わせてやっている屋台を見ていく。


「それにしても、ゆうかくんから聞いてはいましたけど、昴先生が本当に来てくれるとは思いませんでした」

「まあ見回りを兼ねてですけどね。たまには良いのかなと思いまして」


 屋台をゆっくりと見て回りながら、和やかに会話する昴と真央とは対照的に、優花は凛香と言葉を交わすことができないでいた。声をかけようと思っても、今の凛香の姿が視界に入るだけで胸が高鳴り言葉が詰まってしまうのだ。


 ……このままじゃだめだ!


 優花がこの場に居るのは、凛香と真央が仲良くなるためのフォローをするため。差し詰め、今日の優花の仕事は凛香のご機嫌取りというわけだ。こんな状態ではむしろ凛香の機嫌を損ねることに繋がりかねない。


 慣れれば……慣れれば大丈夫なはずだ……。


 結局ドキドキするのは、初めて見る凛香の浴衣姿を見慣れていないからであり、慣れてさえしまえば大丈夫なはずだ。


 凛香を横目でちらちらと見るのを止め、じっと見ると凛香の頬が徐々に赤みを増していくのがわかったが……今は凛香を見ることに集中する。


「あの……」


 そう言えばマジハイでも凛香さんの浴衣姿を見たことはなかったな……。せっかくだから今のうちに目に焼き付けておかないと……。


「あのー……」


 いや、写真を撮っておいた方が良いか……あとでお願いしてみよう。それにしても似合ってるなあ。


「あの! ゆうかさん!」

「あっ、はい! 何ですか凛香さん?」


 凛香の声に我に返ると、凛香の表情は頬は赤いままで険しい目つきになっていた。


「見すぎですわ!」

「……すいません」


 どうやら怒らせてしまったらしい。


 これでは本末転倒なので、慌てて凛香を見るのを止め、凛香の機嫌を回復させるための何かがないかと周囲を見回すと、ちょうどわたあめの屋台が目の前にあった。


「……凛香さん」


 わたあめ食べます? と言おうとしてやめた。


 優花の視線の先を凛香も目で追ったのだろう。様々なキャラクターが描かれた袋に入ったわたあめを見て、さっきまで優花を睨んでいた凛香の目が好奇心にきらきらと輝いていたからだ。


 見るのも初めてって感じだな。それなら……。


「……一つください!」


 正直いつもは高くて買う気がしないわたあめだが、まあこれで凛香の機嫌が良くなるのなら、安いものだ。


「あいよ! どれにする?」

「凛香さん。どれが良いですか?」


 屋台をやっているおじさんに五百円を渡しながら、凛香に問い掛ける。


「えっ……ええと……」


 色とりどり、様々な種類のキャラクターが描かれているわたあめの袋を慌てて確認する凛香を待っている間、昴達の方を確認すると、昴達は昴達で隣の屋台の列に並んでいた。たぶん優花達が立ち止まったのに気が付いて、自分たちも買い物をすることにしたのだろう。


「あっ! これにしますわ!」


 凛香の声に振り返り、凛香の指さした先を見てみると……。

 

「これって……ディスミー君?」


 どうやらこの世界でのディスミー君人気はこんなところにも及んでいるようだ。


 一番高いところにあったディスミー君柄のわたあめをおじさんに取ってもらい、さっそく凛香にプレゼントすると、凛香は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう、ゆうかさん」


 素直な感謝と、屈託のない笑みを浮かべる凛香に、優花は確かな変化を感じた。以前ならこんなに素直にお礼を言って笑ってはくれなかっただろう。


「……どういたしまして」


 これが真央相手にも出せると良いんだけどな。そうすれば、すぐに二人は友達になれるのになあ……。


 まあそう簡単に上手くいくわけもない。とりあえずわたあめで凛香の機嫌の回復には成功したので良しとしておき、ちょうど目的の物を買ってきた昴達と合流する。


「な……なんですの? それは?」


 満足顔でディスミー君柄のわたあめを持っていた凛香の目が釘付けになったのは、昴達が持っていた割りばしに刺さった壺のような形をした赤い物体――――リンゴ飴だった。


 確かに初めてだと変なものに見えるよなあ……。


「リンゴ飴ですけど……もしかして凛香さんリンゴ飴見たことないんですか?」

「くっ……あ、ありませんわ!」


 たぶん真央が知っていることを知らなかったという敗北感で悔しそうにしている凛香に、真央が目を丸くしていた。


「ええと……もしかして屋台とか見るのも初めてだったりします?」

「初めてですけれど! それが何か悪いのかしら!」

「いっ、いえっ! 悪くないです!」


 真央への対抗心から凛香の機嫌が悪化し、空気も悪くなってしまいそうになるなか、昴がすっと凛香にリンゴ飴を差し出した。


「まだ食べていませんから、どうぞ?」


 ……なんというイケメンムーブ。


 爽やかに笑いながら自分の分を譲るという到底真似できそうにないイケメンムーブをする昴に、優花が思わず感心していると、ちらっと凛香の視線が飛んできた。


 ……ん? なんだ?


 凛香の視線の意味がわからず首を傾げると、凛香は視線を昴の差し出したリンゴ飴へと戻し、つんと顔を背けた。


「結構ですわ! ゆうかさんに買ってもらいますので!」

「えっ! 俺ですか!」

「あら、この程度でわたくしの機嫌を取れると思ったら大間違いですわよ?」


 わたあめでご機嫌取りをしようとしたことはばれていたらしい。


 まあ……そりゃあばれるか。


 がくりと肩を落とす優花を見て、わたあめを持ったまま悪戯っぽく笑った凛香に白旗を上げる。


「ぐっ……! あーもう! わかりましたよ! 買えばいいんでしょう! 買えば!」

「ふふっ、ええ、それで許してあげますわ」


 くすりと笑った凛香を見て、優花は内心ほっとしていた。


 あまり空気が悪くなると、二人を仲良くさせるどころではなくなるからだ。


 結局凛香の分のリンゴ飴を買い、買ったものを食べながらまた屋台が立ち並ぶ通りを歩く。


 初めて食べるらしいわたあめと、リンゴ飴を満足そうに食べる凛香を横目に、優花は昴が立てていた予定を思い出していた。


 ええと……たしかこの後は……。


 屋台を見る予定時間は三十分、食べる物もそこで買っておき、その後は花火を見るために移動。四十分程花火を鑑賞しながら食事をした後、遅くならないうちに解散する流れだったはずだ。


 ちなみに、あらかじめ昴が立てていた予定では、どこで何を買うか、所要時間まで設定されていたが、事前に聞いていた通り本当に予定通りにするつもりは昴には無かったらしい。


 完璧主義ではあるものの神経質ではないというのは、昴らしいと言えば昴らしい。


 マジハイでもそんな感じだったよな……。


 あらゆることを完璧にこなす万能キャラでありながら、他人の失敗やミスを笑って許す。主人公に簡単には協力してくれないという悪癖さえ無ければ、非の打ち所が無い完璧なキャラだったろう。


 まあ、今は普通に協力してくれているので、頼もしいことこのうえない。昴に任せておけば二人を仲良くすることだって意外とあっさりと達成できるんじゃないだろうか。


 焼きそばやお好み焼き、唐揚げ串等色んなものを屋台で買ってから、予定通り花火を見るために移動する。


 結局屋台ではあまり凛香と真央は話もできていなかったが、本番はこれからということだろう。

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