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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その十三

 もし伝説の白い桜が、この世界にもちゃんとあるとしたら……。


「……じゃあその白い桜を最初に見つけることができれば、凛香さんを救うこともできる? ってことですよね!」

「伝説が本当なら、それも可能かもしれませんけど……僕としては、もう一つの可能性もきちんと考えて欲しいですね」


 もう一つ? ああ、元の世界に戻るっていう願いのことか。

 話の流れ的に昴は、両方を想定してこの話を出したのだろう。


 凛香を不幸の運命から救い出すか、優花が元の世界に戻るか。

 白い桜をもし一番最初に見つけることができれば、そのどちらかを選ばなくてはならなくなる。

 叶えられる願いは一つだ。


「白い桜が叶えてくれる願いは一つ。元の世界に戻る方は、現状この方法を使うしかないでしょうね」

「まあ、そうですね……」


 いくらゲームを元にした世界とはいえ、そんなにポンポン願いを叶えてくれるものはないだろう。昴の言う通り、元の世界にもどるためには白い桜の叶えてくれる願いを使うしかない。


「でも、虚空院君を救う方は、もしかしたら白い桜への願いを使わなくてもなんとかなるかもしれません。だから不藤君。君は今まで通り頑張りなさい」

「わかりました。ありがとうございます」


 白い桜の願いで凛香を救うのは、この一年で、凛香を救う方法を見つけられなかった場合の最終手段。  たしかに、他の方法で凛香を救うことができれば、白い桜の願いは元の世界に戻る方に使うこともできる。

 昴と話をし始めてから、そろそろ三十分が経つ。昴の予想が正しければ、外の女子達も諦めた頃のはずだ。


「それじゃあ俺はこのへんで失礼します。ありがとうございました」


 礼を言って出ていこうとすると、昴に呼び止められた。


「不藤君。少し待ってください」

「はい? なんですか?」

「……これを」


 昴が優花に差し出してきたのは白い花。


「白花の日も、元は白桜伝説から来ています。もしかしたら何かのヒントになるかもしれませんから。僕のも持っていってください」

「……わかりました」


 そう言われれば受け取らないわけにはいかない。正直この白い花が何のヒントになるんだよと思わなくもない。

 これで、マジハイの攻略できるキャラ全員と主人公である真央のもの、そして悪役令嬢である凛香のもの合わせて七本すべてが優花の元に集まってしまった。


 昴からもらった白い花も鞄にしまうと、理科室を出る。


「先生の言った通り誰もいないな……」


 あれだけ追ってきていた、女子達がいなくなっていた。


 これでゆっくり帰ることができるなと思うと同時に、優花は自分の白い花を誰にも渡していなかったことに気が付いた。


 当然渡したい相手は凛香だが……もう学院にはいないだろう。

 特別教室棟を出て、二年生が使っている第二校舎に戻る。第二校舎にはちらほらと人はまだいたものの、優花を見ても追ってくるようなことはなかった。


 教室に戻った優花は、誰もいなくなった教室の入り口で足を止めた。


 ……気持ち悪がられるかもしれないけど……まあいいか。


 教室に入り、凛香の机の上に優花は自分の白い花を置いた。

 本当は直接渡したかったが、もしも真央がその場にいれば、タピオカを飲んだときのように、真央に渡してしまいそうになる可能性があるので、これで良かったのかもしれない。


「俺は絶対に、あなたを救ってみせます」


 誰もいないせいか、自身の決意が不意に口からぽろっとこぼれ、途端に恥ずかしくなった。誰もいなくて良かった。誰かに聞かれていたら悶絶死していたところだ。

 赤くなった顔で、逃げ去るように教室を出る。


 優花が教室を出た瞬間、隣のクラスの扉が閉まった。さっきまで隣のクラスの入り口は開いていたので、誰かが教室に入ったのだろう。そして、隣のクラスに行くためには、優花の教室の前を通らないといけないわけで……。


 聞かれてないといいけど……。


 まあさっきのセリフを聞いても、普通は何のことを言っているのかわからないだろう。聞かれても問題ない可能性も……。


 いや、やっぱり恥ずかしいな!


 聞かれてないか確認して、墓穴を掘る可能性もあるので、確認はせずにさっさと帰ることにする。

 鞄を持って、最後にもう一度凛香の机の上に置いた白い花を見てから、優花は帰路についた。


*****


 優花がいなくなった教室に、少し前まで隣のクラスに隠れていた凛香が足を踏み入れた。


「さっきのはなんだったのでしょう……思わず隠れてしまいましたけれど……」


 教室に忘れ物をしたことに気が付いた凛香は、帰り道の途中で引き返し教室へと戻ってきていた。


 優花が自分の机の前に立っていることに気が付いた凛香は、背を向けている優花に声をかけようとすると、


「俺は絶対に、あなたを救ってみせます」


 優花の確かな意思を感じさせる言葉が凛香の耳に入ってきた。


 優花が口にした言葉の意味はよくわからなかったものの、なんだか姿を見られてはいけない気がした凛香は、隣のクラスに入って隠れてしまったのだ。


 優花が去っていく足音を聞いて、凛香は隠れていた教室を出て、自分のクラスに入り、自分の机の上に白い花が置かれているのに気が付いた。


「これは……」


 凛香は白い花を手に取ると、色と番号を確認し、自分のものではないと気が付くとすぐに顔が真っ赤になった。


「こ、これはつまり……ゆうかさんはわたくしに秘めた恋を抱いているのでは!」


 さっきのセリフもよくわからないが、面と向かってはできない告白か何かだろう。


「た、大変なことに気がついてしまいたしたわ! ど、どうしましょう!」


 あわわわと慌てる凛香だが、しっかりと白い花は回収していた。


「ま、まあ? 庶民が高貴なるわたくしに恋してしまうのは仕方がないことですし? ええ! 仕方がありませんわよね! おーほっほっほっ!」


 誰もいない教室で高笑いを続けていた凛香だが、こうしてはいられないとすぐに教室を出た。


「予定を組みなおさないといけませんわね!」


 その日鼻歌を歌いながら帰る上機嫌な凛香が目撃され、白花の日ということもあり、誰かに告白されたのではという噂が広がることになった。

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