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ペンシルストライプ

作者: ミューズ

────それは、不思議な不思議なお話────

 この話をするとき、僕はいつもみんなにお願いしていることがあるんだ。でも、それほど難しいことではなくて、逆に簡単なことでもないんだ。とはいえ、きっとわかってくれると思うよ。

 それはね、『決して、現実を見ないで欲しい』っていうお願いなんだ。

 例えば、僕の話を聞いたあとに、友達にその話をするよね。その後きっと、友達はこう言うんだよ。「不思議な話だね。」ってさ。

 でもそれは、決して自分を不思議な人だって言っているわけじゃなくて、その『話』が不思議だということなんだよ。つまりは、この話をした僕が不思議だ、あるいは僕がした話が不思議だ、ていうことだから、皮肉とかではないんだよね。

 話を戻すと、もしもこの話を、僕のお願いを聞かずに聞いてしまうと、やれ、「そんな話、あるわけないだろ。」とか、「嘘で固めたみたいな話だ。」とか言うんだ。きっと、その人からしたら僕の『話』は、へんてこで、奇怪で、絶対ありえないかもしれない。

 だからこそ、そういうお願いをするんだ。さっきのお願いを事細かに言うとしたら、『僕の話を聞いても、それを自分の知識や経験に基づいて、否定しないで欲しい。』ということなんだよ。いいね?じゃあ話すね。

 

 

 

 

 僕の住んでいる村には、大きな湖があった。まぁ、とはいっても村の中ではなくて、村の奥にある森を抜けた先にあるんだけど。でもそれほど遠くはなくて、森もそんなに深くはなかった。

 僕はその湖を、毎朝見に行くのが大好きだった。朝じゃなきゃダメなんだよ。夜は暗いから怖いし、一番見たい湖が見えないからね……ん?昼に見に行けばいいんじゃないかって?はぁ……これだから困るんだ。いいかい?昼は一番危険なんだよ。なぜなら、森にいる動物達が活発に行動するからね。襲われるかもしれないだろ?ほら、人間だって、朝起きて、昼仕事して、夜寝るだろ?だからこそ、朝に見に行くんだよ。動物達は寝ぼけてるから、まず襲うことなんてできやしないし、何よりも湖が一番綺麗に見える時間なんだ。その美しさは、僕の村の古い本にも書いてあるくらいなんだから。

 それでね、本題はここからなんだよ。いつだったっけな、小雨が降ってたんだよ。でも、湖を見に行くのが大好きだから、たとえ晴れていても、曇っていても、欠かさずに湖を見に行ってたんだよ。雨粒が湖に注がれる様子も、それはそれできれいだったんだけど……。

 

 ―――それは一瞬のことだったんだ。湖の真ん中に、すごい速さで何かが落ちたんだよ。バシャーンって、湖の水が弾けとんでさ。近くにいた僕はびしょ濡れになってしまったのさ。全く、なんてことしてくれるんだって思ってさ、そんなことした奴がどんな奴か、見てやろうと思ったんだ。

 

 

 

 ……金髪の女の子だったんだよ。僕と同じくらいの身長の、ピンクのペンシルストライプのパジャマ着てる。いやいや、そこまでならまだいいんだよ。問題はそこじゃないんだ。

 羽が生えてるんだよ。小さいけど、白くて立派な羽が、背中にあるんだ。天使ってやつさ。そんな子がぷかぷか浮かんでるんだよ。もう、なにがなんだか分からなかったね。開いた口が塞がらないって、きっとこういうことを言うんだよ。

 それでさ、しばらくしてその子が、僕の方に泳いできて、陸に上がってきたんだ。

 「あなたは人間?」

 急にそんなこと言われたし、聞かれたこともない。そもそも、僕は今の状況を整理出来てないから、

 「う、うん……」

 そう言うしかなかったんだ。寒くて震えてたのもあって、僕は怯えてるみたいになっちゃったけどね。それで、その子は、「ふーん、そっか。」って、素っ気なく返してきたけど、少し考えた後にその子は振り返ったんだ。やけに驚いた様子でね、

 「え、ほんとに人間なの?嘘とかじゃなくて?」

 「うん、嘘じゃないし、ちゃんとした人間だよ。とりあえずここじゃ寒いから、あそこの木の下で話さない?」

そう言って、ようやく僕は、雨に打たれながら震える状況から抜け出せたんだ。

 でね、いろいろ聞いたんだよ。名前とか、なんで落ちてきたのかとか。

 その子の名前はピウスって言うんだ。ギリシャ語で、『優しい』っていう意味なんだ、ってかなり胸を張って言ってたけど、多分それほど気に入ってる名前なんだろうなとしか思わなかったのはここだけの話さ。

 それでね、ピウスは雲の上に住んでるんだって。天使って大体そういうイメージあるよね?その雲の上に、大きな城下町があって、そこのお城に住んでるお姫様が、ピウスなんだってさ。すごいよね。とはいっても、パジャマ姿だから、お姫様には見えないんだけど、それが落ちた理由と関係あるんだよ。

 ピウスはお姫様だから、お城から出られなかったんだってさ。ん?……どうしてって?……まぁまぁ、そう急かさないでおくれよ。これからそれを話すんじゃないか。

実はね、彼女の父親がその町の王様で、彼女に対して、すごく過保護なんだって。それでも、ピウスはお城の外に出て、外の世界を見たくなった。でも、普通はお城の外に出たら、お城の門番に止められて、城の中に戻されてしまうから、ピウスは門番が仮眠を取っている朝を狙って、外に出る計画を思いついた。

 しかし、その計画を実行しようとした朝、自分は外に出る時の服を持っていないことに気づいた。まぁ、正確に言えば動きやすい服を持っていなかったんだろうね。だから、パジャマ姿だったんだ。だけど、時間が無かったから、パジャマ姿で外に出たら門番はまだ起きていた。予想外だったピウスは、全力で走って逃げた。靴も履かずに裸足のままで。そして、雲の端に追い詰められたピウスは、覚悟を決めて雲から飛び降りた。そして、湖に落ちて僕に会ったんだ。

 「ねぇ、ムート。」

 そう、ムートっていうのはもちろん僕さ。ドイツ語で『勇気』っていう意味なんだって。とはいっても、そんなに勇気のあるわけじゃないんだけどね。

 「あなたの家に匿ってくれないかしら?ほら、私一応、脱走してきたわけだし…。それに、せっかく外に出られて、運良く人間のいる場所に落ちることが出来たのだから、色んなことを体験してみたいし。」

 とても急なお願いだし、一人で決められることじゃないから、とりあえず村に連れていくことにしたんだ。でも、きっと今まで起こったことを話しても、信じてはくれないだろうな……どうしよう、なんて思った。

 気づいたら、いつの間にか雨は止んでた。空は雲の間に一筋の光が射していた。

 「もう……お気に入りのパジャマだったのに、こんなに濡れてしまったわ……。」

 湖に落ちたから、頭から足の先までびしょ濡れだった。ピンクのペンシルストライプは、単純な色だったんだろうが、今はとても淡い色になっていた。

 それにしても、僕には疑問があった。

 「ねぇ、ピウス。」

 「ん?なにかしら?」

 「どうして、落ちたときに羽を使わなかったの?あと、どうして泳げたの?」

 羽が生えているのだから、落ちたときに飛べたはずだ。それに、羽の生えた天使が泳ぐという、異様な光景を見たから、すごく違和感があった。

 「城の中にプールがあったのよ。だから、それほど上手くはないけれど、一応泳げたわ……それと……。」

 ピウスは俯いて、少し黙ったあと言った。

 「……私、飛べないの。羽が他の天使より小さくて、自分の身体が支えられないのよ……。」

 天使が飛べない。それは恐らく致命的なことなんだろう。魚が泳げないようなものであり、人が歩けないようなものなのだからね。

 「そっか……。」

 僕は、なんとも言えなかった。辛いことを聞いてしまって、なんだか申し訳なくなってしまったのもあるし、今でさえ、天使と話しているこの状況を上手く理解できていないのだから。

 そうしているうちに、村に着いた。水溜まりで遊ぶ子供たち、農作物の心配をする人、空を見ながら世間話をする老人。それは平和そのもので、穏やかな様子だった。

 すると、一人の女の人が僕達に気づいて、

 「ムート!おかえり。大丈夫だった?湖は今日も綺麗だ……った?」

 ピウスの存在に気づいたようだった。因みにこれが僕の母さんで、この異様な光景に少し目を見開いて言った。

 「……いつの間に彼女が出来たの?」

 「彼女じゃないよ……!この子はその……」

 僕は母さんに事情を説明した。ピウスが湖から落ちてきたこと、落ちた時の水しぶきでびしょ濡れになったこと、少し申し訳なかったけど、ピウスが飛べないことも、できるだけ事細かに話した。

 「そう……大変だったわね……。お疲れ様。ピウスちゃん?も大変だったわね……。」

 「いえ……お気遣いありがとうございます。」

 「とりあえず、うちに来なさいな。まぁ、お姫様には狭いかもしれないけれどね。」

 僕の家は森の近くにあったから、それほど歩きもせず家に着いた。僕の家は二階建てで、一階が居間と風呂場、二階が僕の部屋だった。ピウスは裸足だったから、ちゃんとタオルで足を拭いてから入った。

 「とりあえず、風呂に入りなさい。ムートもピウスも。」

 そうして、お互い一人ずつお風呂を済ませた。僕が最後に済ませて、居間に行くと、僕の服を着たピウスと母さんが座っていた。

テーブルには少し大きめのカップに入った具だくさんのポトフに、大きなバスケットに入ったいろんな形のパン、その横には静かに湯気を出しているコーヒーが並ぶ。この時ピウスはとても目をキラキラさせていたのだけれど、なぜなのかは僕はあえて聞かなかった。僕が座ったあと、三人で「いただきます」といって、それぞれのペースで食べ始めた。そしたら急に母さんは食事を止めて、ピウスの方に向いたんだ。

 「ねぇ、ピウスちゃん。天使って、どうして雲の上でも立てるの?」

 「え?……あ、えっと……それは私にもわかりません……、それが普通のことでしたから……。」

 「え?じゃあ、ここに来た時、体が重く感じたとかなかった?」

 「はい……確かに重く感じました…。雲の上にいた時はすごく軽かったんですけれど、森の道を歩いている時、すごく体が重くて……。」

 僕の母さんは、元々学者志望だったんだ。昔はいろんな国を旅して、なんでも知っている人になりたいと夢を馳せていたらしくてさ。だから、気になったことはすぐに知りたい人だった。

「へぇー……そうなのねぇ……ねぇねぇ、あとさ!」

「母さん!ごちそうさまっ!ピウスは食べ終わった?」

「え……?あ、えぇ、食べ終わったけれど……、コーヒーがまだ飲み終わってないわ。」

「じゃあ、二階にね、僕の部屋があるからそこで飲むといいよ!母さんまた今度ね!」

「えー?いいじゃない、何をそんなに急かしてるのよムート。」

急かしているわけじゃないんだ。ただ、僕は知っているんだ。このまま母さんが『ねぇねぇ、あとさ!』と言った後には、決まって矢継ぎ早の質問攻めが待っていることを。きっとそれをされたピウスは、あまりにも多く、あまりにも早い一方的な言葉に疲れて、目がぐるぐるぐるぐる回ってしまうだろうことも。

そうして、ピウスと僕は逃げるように二階の僕の部屋に向かったのさ。しかしながら、階段を登っていたときに聞いた母さんの言葉は、僕に確信を持たせてくれたから、それじゃあ、尚更よかったんだなと思った。

 「えー……。もっと聞きたいことあったのになぁ……。」


 

 二十八段の曲がりくねった階段を上り、突き当たりのドアノブを捻れば、そこは僕の部屋だ。部屋に入るなり、ピウスは僕を横から追い抜いて、部屋を見渡した。

 「へぇ……ここがムートの部屋なのね?」

 僕の部屋はそんなに広くはないけど、それなりに僕は気に入っていた。入って右側に窓があって、その近くに机がある。左側にはベッドがあって、その奥に本棚とクローゼットが並ぶ。

 「なんだかこう言うのも変かもしれないけれど、すごく普通ね。」

 「ん……なにか期待してたのかい?」

 「え、ううん?ただ、面白いなぁと思うわ。」

 「どうして?」

 「これが人間の部屋なのねって思うと、なんだか面白いなーって。そう思うのよ。あ、この本私の部屋にもあったあったー!うわぁ……なんか懐かしいなぁ。」

ピウスが手に取った本の名前は今でも覚えているよ。

「雲の上に住んでいるお姫様が、『間抜けな羊飼いさん』なんて読むの?なんだか、驚きだなぁ。」

「えぇ……?私だって本は読むわよ。」

「いや、それは分かっているのだけれど、お姫様ってこう……『シンデレラ』とか……『白雪姫』とか、凄く品のあるものを読んでいそうな感じがしてさ。だって……それ、面白いけど、品のない面白さだよ?」

『間抜けな羊飼いさん』のあらすじはこうだ。


主人公の羊飼いの少年はいつもおっちょこちょいで、何も無い平地で転んだり、羊の糞を少なからず三回は踏む。服は何故かダボダボで、そのくせ帽子は小さすぎて頭が入り切っていない。そんな彼を、近くに住む人は『間抜けな羊飼いさん』と呼んだ。

しかし、そんなある日のことだった。いつものように少年は羊の散歩をしていると、一匹の羊が突然暴れだし、群れから離れてしまった。少年は急いでその羊を捕まえようと走ると、当然のごとくつまづいて、転んでしまう。すると、その羊と思い切り走っていた男にぶつかり、尻もちをついた。実はその男は泥棒で、女性の持ち物を奪って逃げていたところで、しかもその女性は王様の娘だった。それを見ていた街の人は、てっきり少年が一匹の羊にぶつかるよう命令をしたと勘違いし、少年をいつしか『街のヒーローさん』と呼び、二度と『間抜けな羊飼いさん』と呼ばれなくなった。


正直、このお話はいいお話ではあるけれど、お姫様が読むものかというと、そうではないと僕は思っていた。だから不思議だった。

「そう?私結構こういうお話好きよ?だって、絵に描いたようなドジふむところとか、面白いじゃない。なかでも羊の糞を踏んだ時のこの顔!いかにも間抜けって感じじゃない。」

僕は、お姫様であるはずのピウスが、『羊の糞』という単語を口にしたのが驚きだったが、それは言わない方が良いとなんとなく思った。


 そういえば、なんだか普通に馴染んでいる気がしていたけれど、あくまでもピウスは雲の上から落ちてきた飛べない天使であって、僕らのような人間ではないし、お姫様と言えど、僕と同じ子供なんだ。そう思うと、ピウスにとってはこの僕の部屋も、すごく新鮮なのかもしれないし、僕らが読むような本を読むのは不思議ではないのかなと、この時思ったよ。

 「ムート、窓開けていい?」

 「ん?いいよ。」

 ピウスは勢いよく窓を開けた。

 「うわぁ……すごく綺麗……村が太陽の光でピカピカしてる……。」

ピウスの瞳は、雨上がりの太陽の光を反射して、さらに輝きが増した。

「夜になると、凄く星が綺麗なんだよ。昼とは違う輝きがあってさ。」

「へぇ……そうなのねぇ…………ん?………………あ……。」

 「どうしたの?ピウス。」

 ピウスはすぐに窓を閉め、窓の下にうずくまった。

 「……お父様が……お父様が……」

 「お父様って……天使の王様……?」

 「そう…。きっと、私を探しにここまで降りてきたんだわ……。私、あの城にはもう戻りたくない…」

 僕は窓を開けて、周辺を見渡した。すると、右に何か白いものがある。その近くに人がいて、すごく絢爛華麗な服を着ている人がいる。おそらく、あれがピウスの父親で、あの白いものでここまで来たのだろう。両側には護衛役らしき人も見える。

 「どうしよう……ムート……。」

あんまり突然のことだったから、どうすればいいか分からなかったけど、何故か言葉が流れるように出たんだ。

 「……逃げよう。今すぐここを出よう。」

 僕はピウスの手を取って、家を飛び出して、湖へと向かった。その道しか思いつかなかったから。できるだけ走った。靴も履かずに、できるだけ走った。気づけばあの湖のほとりにいて、僕とピウスは息を荒らげていた。

 「はぁ……はぁ……これで、良かった?ピウス。」

 「はぁ…はぁ……、ありがとう。ムート」

 「ううん。大丈夫、はぁ、大丈夫……。」

 「……ごめんなさい、ムート。あなたに迷惑をかけてしまったみたいで…。」

 「ううん。気にしないで。」

 とはいえ、これからどうすれば良いだろうか。湖は木々に囲まれていて、道はさっき僕らが通ったところしかない。ピウスの父親がいずれここにたどり着くのも、時間の問題だった。

 ピウスは小動物のように震えている。せっかく城の外に出られて、決死の思いで湖に落ちたというのに、一日も経たずに城へ逆戻りという、最悪の結末を想像しているからだろう。

 「……ムート…ごめんなさい…」

 「……」

 かけてあげられる言葉が見つからなかった。こういうとき、なんて言ってあげればいいのだろう。なんて言ったら、ピウスを安心させられるのだろう。僕は結局、ピウスの側にいることしか出来なかった。

 「ピウス……本当にピウスなのか……!あぁ、良かった……!」

 その時はついに訪れた。ピウスの父親、天使の王様がついにここに来たのだ。

 「お父様……」

 「心配したのだぞ。さぁ、私と城へ帰ろう。」

 王は強引に腕を引っ張りあげようとした。

 「やめろ!」

 無意識に、その手を払っていた。自分でもよく分からなかった。しかし……納得がいかなかった。

 「誰だ?この人間は。」

 「僕はムート。ピウスの……ピウスの!友達だ!」

 「な、なに?友達……だと……?!」

 無意識に、そんな言葉が出た。

 「そうだ!僕とピウスは友達なんだ!」

 「何を言うかと思えば!言語道断だ!人間などという汚れた輩が、天使と友であるなどとほざくな!」

 ふとピウスを見ると、何かを言いたいようだった。

 「なぜそんなに、人間を嫌うんだ!仮に理由があったとしても、なぜピウスを城の外に出そうとしないんだ!」

 「何を言うかと思えば……当たり前だ!城の外に出したとして、何かあったらどうするんだ!もし怪我でもしてしまったら、ピウスを外へ出した私の責任になってしまうではないか!」

 その言葉に、僕はすごく腹が立った。それは、ただ親が娘のことが心配だからという理由をこじつけて、城に縛り付けているということじゃないか。僕は腹の虫がおさまらない気分だった。そのときだった。

 「そ、それは違うわ!お父様!」

 ピウスがついに口を開いた。王様は少し驚いた様子だ。

 「それは……お父様が、私に対して過保護すぎるだけよ!私だって……城の外に出て、町の人と話したり、遊んだりしてみたい…!なのに、なのに!そんな理由で出さないなんて……お願いだから、私を自由にさせてよ!!」

 「ピ、ピウス……。」

 おそらく、彼女が怒ったところを、王様は見たことがないのだろう。とても驚き、彼女の言葉に押されている様子だ。ピウスはいろいろなことが重なったこともあり、涙目になっている。

 「そ、そうだったのか……。それは、すまなかった……だが、そこの人間と付き合っているというのは、聞き捨てならん。ムートとやら、お前は人間で、ピウスは天使なのだぞ?それを分かっているのか?」

 「……あぁ、分かっている。僕は人間で、彼女は天使だ。だけど……たとえ住んでいるところが違くたって、そもそも種族が違かったとしても……分かり合えるはずなんだ。ちゃんと話せば、助け合えるはずなんだ……僕とピウスみたいに。」

 「……」

 王様は口をへの字にしている。静寂と張り詰めた空気が溢れる。それらを切り開いたのは、それ以外の何者でもない、王様だった。

 「…………二十年も前の話だ。まだ、ピウスが生まれていない頃だ。我々天使は、雲の上で何不自由なく平和に過ごしていた。そんなある日のことだった……。突然黒い煙が雲の下から押し寄せ、我々の町を汚い空気で染めた。多くの天使が苦しみ、終いには死んだやつもいた。私は何が原因なのかと、護衛と共に降りた。我々が見たのは、衝撃的な光景だった。森どころか、そこには木がなく、多くのクルマとやらが、その黒い煙を出して走っていくではないか。聞けばあのクルマは、人間が遠くへ移動するためだけに作ったそうじゃないか。私は絶望した……こんなにも汚い世界を人間が作り出したのかと。」

 「……そうだったのか…。」

 人間からしたら普通であることが、他の種族をそこまで苦しめていたなんて、思いもよらなかった。

 「しかし、私は驚いた。この村には、クルマは無く、自然は溢れ、こんなに美しい湖がある……。あのような汚い場所があるとは、とても信じ難い……ピウスの友人よ。」

 「…は、はい。」

 なんだか僕は、王様に申し訳なくなってしまい、かしこまってしまった。

 「……君に頼みがある。」

 「……?なんでしょう……?」

 

 

 

 

 「……それで?」

 十一、二くらいの女の子が、男に黄色い声で話しかける。

 「今に至るってわけさ。」

 「……うーん、どういうこと?結局、その王様は、何をお願いしたの?」

 「さぁ?なにをお願いしたんだろうねー。」

 「えーー。知りたい!すごく気になるじゃん。ねぇ、おーしーえーてー!」

 「ダーメ。大人になったら、教えてあげるよ。」

 「また!そうやって子供扱いするー。」

 ガチャと扉が開いた。男と女の子は、すぐに玄関へ向かう。そこには、金髪で、綺麗な白い羽が背中に生えている、ピンクのペンシルストライプの服を着た女がいた。女は優しい声で、男に言った。

 「ただいま!ムート。」

 

 

 

 

 

 

 

 


最後まで本作品を読んで下さり、ありがとうございます。

今回は『純粋』をテーマに創作しました。

また、本作品にて、本の名前等が出てきますが、全てフィクションです。


宜しければ、感想等をいただけると今後の創作人生の励みになりますので、御協力をよろしくお願い致します。

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