第七話㋓ スカーレットの魔法
あの日から随分と立った、四か月くらいだろうか。
トラビスが失策した為、攻め場所を失い戦争賛成派も良い案を思いつかずに結果和解案に乗る事になた。
王は喚いていたらしいが、現状これ以上引き延ばせないし、奇襲も出来ないと説得されやっと折れた。
宗教国家ザインを巻き込んでの調印式だった。
これでこちらが攻める事は出来ないだろう。さすがにザインを無視できない。
宗教はある意味強い、アロガンシア王国でもザイン教信者は多く、もし暴動でも起きれば内戦が起きる可能性もある。
しばしの平和かもしれないが、そうそう崩されないだろう。
まだ無理だが、いつか俺もモデスティア王国に行き、あの二人に直接出会う事も出来る。
この数か月で俺も変わった、ある程度闘気の炎を制御できるようになった。
そのおかげか、怖がる同僚が減り結構色々な人と話すようになった。
あとはスカーレットが残していった、魔法の冊子のおかげでもある。
「おい、急に黄昏てなにしてんだ?」
ジェレミーが木剣を持ちこちらを観察している。
「ああ、ちょっとスカーレットの事をな……」
「まあ、この魔法を見てると、つい考えちゃう……か!」
ジェレミーが信じられない速度で、こちらに向かってくる。
「く!」
なんとかジェレミーの木剣を弾く、位置を変えてジェレミーに木剣を振り下ろす。
が、そこには既にジェレミーがいない。
「ふふふ、まだまだだな」
「ジェレミー、スカーレットの魔法使うなよ、せこいぞ」
そう、魔法が使える奴が、闘気にスカーレットの作った瞬間ブーストを重ねてありえない速度で動くようになった。
あの魔法は、瞬間ブーストと命名された。
魔法は使えるが、魔力量が少ない奴でも使用できる、魔力の使用量を抑えられるので重宝されるようになった。
スカーレットの魔法なのだが、有用なら気にしないで使っても良いと団長が許可をだした。
そのお陰で、俺の規格外の強さが、強いくらいになった。
やはり強すぎる者が隣にいると怖いが、まあ強いくらいなら、なんとか慣れるらしい。
俺も頑張ってその魔法を覚えようとしているが、まだ使えない。
水魔法はなんとか様になってきたので、瞬間ブーストも使えるようになるのも時間の問題だ。
それまでは我慢だ。
「いままでさんざんお前が使ってたんだから良いだろう?」
「あれは制御できなかったし、できるとも思ってなかったんだから仕方が無いだろう」
喋りながら剣を交していると、ジェレミーに隙が出来る。
「もらった!」
と言った瞬間、腹に衝撃が走り軽く後ろに押され、ジェレミーから間合いが離れ木剣が空を斬る。
地面にへと近づいた木剣をジェレミーが足で抑え込み、こちらの首に木剣の切っ先が向けられる。
「一本だな」
ジェレミーが勝ち誇る。
木剣を引っ込め、肩にトントンと当てながら言う。
「ふぅ……爆拳も使うのか」
そう爆発する拳もジェレミーはマスターした。
ちなみに爆拳と言われるようになった。
「しかしスカーレットはまじで天才だよな、あの冊子は分かりやすくて、宮廷魔術士どもが腰抜かしてたもんな」
「そうだな、こちらが絶望的に感じてる事すら、笑いながら歩いていきそうだよ」
「そういえば、あれから入れ替わりは起きてないんだろ?」
「……ああ」
俺の返事を聞いたジェレミーは、溜息を吐きながら言う。
「もう少し平和になれば会いに行けるだろ」
「そうだな……」
そう言いながら空を眺める、ナタリーの顔が浮かぶ、無性に会いたくなる。
模擬戦を辞めて、ジェレミーと軽く話した後に自分の天幕に戻る
汗だくな服を脱ぎ、自分で水魔法を使いシャワーの様にしてさっぱりする。
今は第二王子ギデオンの命令で、国境周辺の賊退治を任されている。
近衛騎士の俺達の仕事ではないのだが、国境周辺の貴族は第二王子派が固まっている。
王族の命令という意味では合っているのかもしれない。
当初は俺だけで単独で行けという、無茶な命令がきたらしい。
さすがに承諾できないと団長が突っぱねてくれた。
ならば代案をと言う事で、副団長のジェレミーと数名の部下で行くことになった。
実は近衛騎士は副団長がもう一人いる。
そいつが王都で仕事するからジェレミーが遠征しても仕事は回る。
遠征の人員を決めるときも一悶着あった。
俺はいままで、一人で行動していたし、他人と関わっていなかった。
そんな仲間殺し、いや殺したことないんだが、その仲間殺しで有名な俺と行く奴がいれば良いだろうなんて第二王子ギデオンに煽られた。
だがその時すでに、俺は同僚とのコミュニケーションに力を入れていた時期で、以外に参加してくれる奴がいてくれて、ギデオンの鼻を明かせた
まあ色々あったが、こうしてジェレミー達が参加してくれて、俺は一人で賊退治をせずに済んだ。
このまま平和を維持できるなら、仕事に貴賤は無い。
人を守るのが騎士だ。まあ近衛騎士は王都と王を守る為の騎士だが、もっと尊敬できる王族が欲しい。
賊退治の命令元があれだが、賊を狩るのは民の為になる。
第二王子ギデオン、自信家の優男というのが俺の評価だ。
トラビスは俺を虐めてきたアホだが、ギデオンは周りの評価を考えて行動する。
見える場所では絶対素を見せない、全てが手のひらの上だと主張するかのようにどっしり構えてるふりをする。
なんでそんな事を知っているかと言うと、俺は素を見た事があるからだ。
子供の頃に闘気が使えるようになった時に、模擬戦を挑まれ勝ってしまった事がある。
母を喜ばそうと頑張ったが、今考えるとアホだと言わざるを得ない。
その時に、まさか負けるとは思っていなかったのか、俺を罵倒し母も罵倒した。
いつもなら、俺に花を持たせてやった、とか言って余裕を見せるのに、だ。
それから俺には、皆にわからないように素で接するようになった。
ちょくちょく嫌味を言われるくらいなので、あまり害は無いがうざすぎる。
碌な兄弟がいないのは嫌というほど分かってはいるが、どうにかならないものだろうか。
親族のくそっぷりを考えながら着替えていると声がかかる。
「エカルラトゥさま~」
俺を呼ぶのは侯爵家のアリア・シャロンだ。
名門なのだが、騎士に憧れ、近衛騎士に来たのだがこんな近衛と違う仕事をさせられて嫌じゃないのだろうかと疑問が沸く。
「どうした?」
「賊の居場所が分かったのですが、ジェレミー様がいらっしゃらないので、エカルラトゥ様に報告に来ました」
そう言うとアリアはビシッと敬礼する。
もしかしたらジェレミーに会うの嫌とか言う理由じゃないよね?
最近人と関わるようになってから、なんとなく人間関係がわかるようになってきた、気がする。
「そうか、どこら辺だ?」
「ここから南に一時間ほど馬で移動した場所です」
「……多分キャンプ地を変更するかもしれないな、ジェレミーには俺から報告しておく」
「わかりました、準備してまいります」
アリアは再び敬礼をして準備に向かう。
溜息を吐きながら、先ほど模擬戦をしていた場所に行くと、天幕の方にジェレミーがいた。
「アリアから報告なんだが、賊の場所がわかったらしいぞ」
ジェレミーに近づき報告すると、驚いた顔で答える。
「なんでお前がアリアちゃんから報告貰うの?」
「なんか、ジェレミーを探してもいなかったので俺にって言ってたよ」
「おれずっとここに居たけど……」
うん、ここはジェレミーの天幕近くだな。
きっとちょっとこう木の影とかに居たんだろう。
「ちょうど何かと重なって見落としたんじゃないのか?」
「そんなわけないだろう!、ううっ……そりゃなんとなく感じてたよ? 避けられてるって……でも今回の遠征で確定しちゃったじゃないか!」
ジェレミーは蹲ると、泣きながら地面をバンバンと叩く。
俺はそっとジェレミーの肩に手を置くと、ジェレミーがこちらを見てくる。
「そんなことより賊は南に馬で一時間の場所らしい、キャンプ地移動させるか? どうせこの後南に行くつもりだっただろ?」
「なぐさめてくれねーのかよ! しかもそんなことって!」
ジェレミーが泣きながら俺の肩を掴んで揺さぶってくる。
「アリアちゃんとか呼ぶからだろ……曲がりなりにも騎士だぞ?」
「まあそうなんだが、アリアちゃんかわいくてな……なんかさアリアちゃん、お前を慕っている気がするんだが……」
俺から手を離し再び蹲ると、地面にのの字を書きながら言う。
「気のせいじゃないか? 俺もそんなに会話してないぞ、そりゃ最近は喋るようにはなったが……」
「ほら見ろしゃべってんじゃねーか」
「でも他の騎士とも喋るようになったし、アリアだけ仲良くなったとか言われても困るぞ」
ジェレミーは急にすくっと立ち、こちらを向く。
「では、キャンプを移動させる人員を選定して、残りで捕縛に行こうか」
急にどうしたんだと思ったら、後ろのほうで気配がする。
アリアが近づいているようだ。
「了解しました」
武士の情けだ、突っ込まずにアリアの元へ行くと、撤収準備する人員を伝え指示する。
「わかりました、お供いたします」
俺は自分の天幕に戻りある程度整理すると後を任せ。
アリアと共に馬を駆り賊がいるという南へと向かう。
タイミング良く精神が入れ替わる俺~近衛騎士エカルラトゥ編~
第七話㋓ スカーレットの魔法 終了です