第十四話㋓ 模擬戦と舞踏会(二日目)
「お嬢様、しゃきっとしてください」
「……はい」
俺はスカーレットの体で自国の騎士団への見学に来ている。
当然近衛騎士団の見学だ。
これなんて嫌がらせなんだろうか。
自分の職場を違う視点で見直す、字面だけ見るとなかなか良い視点な気もするが、そんなとんちみたいなものはいらない。
ナタリーに会えるのは正直嬉しい、化粧をする時間になるまでは本当に幸せだった。
今までは化粧などしてなかったのに、親善交流の間は化粧をすると決めたらしい。
鏡台の前で、スカーレットの顔とにらめっこするのは、変な気分になるのでかなりの精神的疲労が溜まる。
目を瞑りたくても許してくれないナタリー……。そりゃ背中も丸くなる。
案内してくれているのは、後輩のルイスだ。
若干びくついているのが見て取れる、前日の話がもう出回っているのかもしれない。
自分の手を燃やしたり、花火魔法を使ったり、威圧したりと話題を欠かない。
噂通り怖い女性だと再認識したのだろう、きっと情報の伝達はスムーズだったに違いない。
「こちらが近衛騎士団の訓練場です」
案内されたモデスティア王国貴族が見て周る、俺は毎日ここにいるから見て回る意味はない。
よく見ると、ジェレミーが訓練の指揮をしている。何故か団長はいない。
騎士の訓練をしているのを観察すると、いつもより気合が入っているのが見て取れる。
やっぱり意識するよね。この国の力を見せつけるのも仕事だし。
そんな事を考えていると、リオン・キャンベルが親善大使達に言う。
「ここはやはり体で体験したくないかな?」
戦う事に了承した貴族が同意してリオンに近づく。
「リオン様も模擬戦をなさるのですか?」
聖女フレイヤがリオンに聞く。
フレイヤも模擬戦とかに興味があるのか……と頭の中で考えていると何か違和感がある。
「あれ、なんでフレイヤがここに……」
そう呟いた俺にナタリーが耳打ちしてくれる。
「フレイヤ様はザインから付き添って来ましたよ」
そう言われるとフレイヤとの記憶が思い浮かぶ。
やはりここに聖女フレイヤが来ているのは事実なのだ。ではモデスティア王国にいるフレイヤは誰なのだろう。
「ああ、モデスティア王国にもフレイヤが来ている」
「意味が良くわかりませんが……」
確かに意味がわからないな、同一人物が二人いるのだ。
しかし俺達も意味が分からない現象で精神が入れ替わっているのだ。
俺達だからこそ意味が分からないですましちゃいけない。
「ようするにこっちにもあっちにもフレイヤがいる」
「聖女が二人いるって事ですか?」
「そう考えてよさそうだな、こんな事あとですぐバレるだろうし、何か意味があるのかもしれないな」
昨日あったフレイヤは両国の親交の為に動いていると言っていたし、私達と言っていた。
それはザインの人達では無く、二人のフレイヤを指していたのだろう。
であれば嘘は言っていないし、あの言葉は真実だと俺は思っているのだ、それに人を疑いたくはない。
ナタリーとこそこそと話していると、リオンが声をかけてくる。
「いっておくけどスカーレットには戦わせないよ、自国の騎士団とさえやらかしているんだ自重してほしい」
そう言われると、頭にスカーレットの悪行が思い浮かぶ。
感想はぶっちゃけ酷いという言葉しか出ない。
「静かに見ています」
「そうしてもらえると助かる」
リオンがそう言うと、指揮しているジェレミーの所に行き話し合いを始める。
しばらく見ていると、騎士達が訓練を止めて整列しだす。
「模擬戦ですが、この指輪を騎士に付けてもらっていいですか?」
リオンがジェレミーに指輪を三個渡す。
模擬戦をするのはリオンを含めて三人に決まったので、相手も三人。
指輪を見ると、スカーレットの知識が頭に浮かぶ。
あれは一度だけ攻撃を守る指輪だ。素材が地味に高価だが量産が出来ないってだけで、魔法学院でも作れるらしい。
受け取ったジェレミーが不思議がりながら指輪を見つめる。
「これはなんでしょうか?」
「一度だけ攻撃を防ぐ指輪です、高価なので終わり次第お返し願いたい」
「う、そんな物があるのですか……」
「ええ、あそこにいる怖い女性が作ったものですね」
リオンがこちらに手を向け、ジェレミーがこちらを向く。
ジェレミーと目が合うので手を振ってみる。ちょっと照れているな。
まあ今までは俺の体のスカーレットと会っただけで、本人は想像の中だったのだ。
スカーレットは文句なしに美人だが、ちょっと目つきがきつく、ぱっと見怖い印象なのだが、現在はナタリーの化粧のお陰でそのきつさが無くなっている。
しかし一度だけ攻撃を守る指輪か……スカーレットは本当に色々とやっているな。
ここ数年で一気に色々作っているから、アロガンシア王国の諜報活動にもあまり引っかかってない研究などが結構ありそうだ。
ちょっと前まで魔法を軽んじていたのだ、そりゃ知らない事の方が多いだろう。
指輪を貰った騎士達は聞かされた効果に驚きながら指にはめていく。
いつの間にか、アロガンシア王国の貴族令嬢が遠巻きに見学に来ている。
リオンが提案しなくても模擬戦をする予定だったのだろう。
いよいよ模擬戦が始まる、一対一で実戦さながらの気迫で戦いだす。
アロガンシア王国の騎士は指輪の効果は半信半疑だろうが、相手が一回は大丈夫というのだ。
一度は殺す気で攻撃しても良いですよ、と言っているようなものだ。
当然負けられないとも思っているだろうし、気迫からして違う。
本気の本気なアロガンシア王国の騎士が当然勝ったが、瞬間ブーストがあったから勝てたという感じだった。
二回戦もアロガンシア王国の騎士が勝ったのだが、不意打ちの爆拳で勝てた。
ぶっちゃけスカーレットの魔法が無かったらぼろ負けしてたんじゃなかろうか……少しだけ残念な気持ちになる。
三回戦はジェレミーとリオンだ。
注目の一戦と言える、リオンが出ると、遠巻きに見ている令嬢から黄色い声が少しだけ聞こえる。
見てみるとオペラグラスでこちらをがん見している。
そんな中ジェレミーとリオンとの闘いが始まる。
この二戦で指輪の効果を見ているジェレミーは本気で戦っているように見える。
瞬間ブーストも爆拳も見せているので、当然使えるだろうと爆拳での不意打ちをリオンも意識しているだろう。
戦いは一進一退で、ほぼ互角に見えるが、少しずつジェレミーが押されている。
しばらく見ていると、ジェレミーとリオンが言葉を交わしている。
何を言っているのか分からなかったが、戦闘が再開されると魔法も使用しての戦いに変わっていた。
いや、今までも魔法は使っていたのだが、魔法での遠隔攻撃を解禁したみたいだ。
さらに白熱していく戦闘は、今度は逆にジェレミーが優勢になっていく。
遠隔攻撃を使った誘導術みたいなものだ、詰め将棋のように相手の動きを封じて自分の良い形に持っていく。
リオンにも理解できているのだろうが、きっと経験の差なのだろう、追い詰められていく。
戦闘が派手になり、オペラグラスでは追えなくなった令嬢たちが、離れていた場所から近づき観戦している。
リオンは後ろに人がいると思っていなかったのか、遠隔魔法を剣で受け流したのだが、その魔法が令嬢に向かって飛んでいく。
「炎よ!」
全体を見ていたおかげでリオンが魔法をそらした瞬間に気付いた俺は、体とスカーレットの記憶のまま必要な魔法を使い、炎の壁で止める。
リオンはスカーレットの行動に気を取られたが、ジェレミーはその集中力ゆえか流れのままリオンの隙をつき魔法で吹き飛ばす。
吹き飛ばされたリオンは後ろの方にいる令嬢側に飛んでいく。
このままでは令嬢が怪我をするのは必定、戦いの流れを見ていたお陰で、こうなると予想していた俺は魔法を使うと同時に、闘気と身体能力を上げる魔法を使い、瞬時にリオンと令嬢の間に移動してリオンを受け止める。
「きゃっ!」
魔法と移動の余波で令嬢たちが悲鳴が上げる。その後訓練場は静寂に包まれる。
「ん、あれ……す、スカーレット! って降ろしてくれ!」
リオンをお姫様抱っこする形になっていたので、混乱が収まったリオンが俺の手からもがいて降りる。
吹き飛びはしたが、指輪の効果で怪我はないようだ。
「すまない、戦いに集中しすぎて流れのまま攻撃してしまった、もっと周りを見るよう気を付けるべきだった」
ジェレミーがリオンと令嬢に頭を下げる。
「いえ、わたくしたちが近寄って見学しようとしたのがわるいのです、ジェレミー様頭をお上げください」
令嬢たちも訓練場に入ってきた事に罪悪感があるのか、ジェレミーの謝罪を止めようとする。
それでもジェレミーは令嬢たちに頭を下げ続けていた。
「私も後ろの事を考えずに受け流したのだ、申し訳ない」
リオンも令嬢たちに頭を下げるが、逆に申し訳ないと令嬢たちと揉めるので二人は頭を下げるのを止める。
「しかしスカーレットに人を助けようとして抱き留められるとは……人は変わるもんだな」
「え?」
リオンのその評価はどういうことなんだとおもい、疑問の声を出してしまった。
その疑問にリオンが答えてくれる。正直聞きたくなかった気もする。
「覚えて無いのかい? スカーレットが昔に騎士団に見学に来ていた時に、同じような事があったのだが、吹き飛んできた騎士を吹き飛ばし返して、吹き飛ばした騎士ごと吹き飛ばしただろ?」
なにその早口言葉の様な状況説明、でもリオンの言葉を聞くとスカーレットの記憶が頭に浮かぶ。
うん、まんまそのままだな、簡潔に言うと全部吹き飛ばしただけだな。
今回で言えば、リオンとジェレミーと魔法を吹き飛ばせば、スカーレットらしい救い方だったわけだ。
「忘れてください……」
「わかった……がスカーレットが闘気を使えるとは思わなかったよ」
「ナタリーと鍛錬をしていますので……」
「本当に変わったね、クローディアも言っていたが、正直半信半疑だった」
「ははは……」
苦笑いで返すと、リオンが手を上げてジェレミーの方へと向かう。
リオンとジェレミーが話し合った結果、周りを警戒できなかったジェレミーの負けという事になった。
周囲の状況確認が出来なかった、戦いには勝てても、仲間を傷つけたので負けって事なのかもしれない。
リオン達がアロガンシア王国の騎士達と何かを話しているので、ナタリーに小声で聞く。
「……ナタリー、俺は間違ったのか?」
「大丈夫ですよ、誰も怪我してませんから上々です」
だよね、俺は間違っていないよね。
と精神安定をはかっていると、先ほどの令嬢たちが俺の前に集まってくる。
「スカーレット様……先ほどは助けていただきありがとうございます、わたくしはマリアンヌ・ジラールです、代表してお礼を申し上げますわ」
「当然の事をしたまでです……」
「スカーレット様はお強いのですね、魔法に精通しているのは知っていましたが、騎士の様な動きでしたわ」
「魔法だけでは出来ない事もありますので」
今まで貴族令嬢にこれほどちやほやされた事があるだろうかというほど、令嬢から質問攻めされる。
同性というのもあるのだろう、令嬢たちの立ち位置が近いのでドギマギしてしまう。
「お嬢様、顔に出てますので引き締めてください」
後ろにいるナタリーが近寄り小声で忠告してくる。
そんなに俺は顔に出るのだろうか、だがナタリーが言うのだ顔を引き締めよう。
出来る限り感情を出さない様に令嬢の質問に答える。
しかし女性に囲まれるというのは悪くは無いな、気持ちが晴れやかになる。
そりゃ俺は中身男性なんだ、女性に群がられて嫌な気はしない。
「ああ……お嬢様……」
どうやらまた顔が緩んでいたようだ。
取りあえずここはもう逃げよう。ぼろが出る前に……。
目だけで周囲を観察していると、フレイヤがキョロキョロしているので、聖女を盾にしようと考えつく。
「フレイヤ様に用事がありますので……」
令嬢たちに宣言してそそくさとフレイヤの方へと逃げる。
聖女にはまとわりつかないだろう、という判断は正しかったようで令嬢たちはリオンとジェレミーの方へと向かった。
「フレイヤ様、何かお探しですか?」
「え? あ、はい、リウトガルド・フランドル様がいないかと探していたのですが見当たらないのです」
困った顔をしながら理由を話してくれる。
リウトガルド・フランドルは近衛騎士団団長の名前だ。
そういえば団長は何故かいない、何か特別な任務を受けているとか……ないか。
「そういえば見当たりませんね」
「スカーレット様はリウトガルド様のお顔を知っているのですか?」
あっ、そういえばスカーレットは会った事ないから、誰がリウトガルドか分からないな。
でも近衛騎士団の団長なのだ、昨日のパーティー会場で警護していたかもしれない。
「ええ、昨日のパーティーの警護にいた気がしますわ、おほほほ」
わからんがきっといたんだ、そう思いこめば俺にとっては真実だ。
なにやら後ろの方から負のオーラが漂っている気がするが、きっと気のせいだ。
「あれ……いなかったとおもいますが……」
フレイヤが昨日を思い出しながら答える。
くっそ、いなかったのかよ団長様。でもフレイヤが顔を知っているのもおかしくないだろうか。
「フレイヤ様は近衛騎士団長を知っているのですか?」
「あっ、え? 遠目に見た事が……あるというかなんというか……」
今度はフレイヤが慌てだした、何かあるのかもしれないが、この話は止めて置こう、お互い隠し事があるならそれはそれで良いんじゃないだろうか、誰だって秘密の一つや二つあるものだ。
二人で笑いあい、この話題を棚に上げ、先ほどの模擬戦に話を移す。
「リオン様とジェレミーの戦いはどうでした?」
三戦したとはいえ、やはり二人の戦いが一番見応えがあったので、そこを聞いてみる。
「そうですね、さすが騎士対決って思いました、剣と魔法で相手の動きを制限していくのを見ると、やはり武人なんだな、と」
「最後が少し残念でしたが、いい試合でしたね」
リオンもジェレミーも悪くはない、魔法で遠隔攻撃を解禁するなら一度模擬戦を止めて対処すればよかったのだ。
たしかに、あの場で流れ弾に当たるような一般人はいない状況だったが、令嬢が近づいてきてしまう可能性は高かった。
もう少し思慮深く行動すればとも思うが、俺が何言っても鏡を見ろって言われるだけだな。
「ジェレミー様だけ呼び捨てになってますよ」
即行でナタリーにダメ出しを食らい、さらに落ち込む。
ジェレミーに様つけなんて凄い抵抗があるが、スカーレットが呼び捨てにするわけにもいかない。
取りあえず目立たない様に大人しくしておこう。
さすがにこんな状況で、ぼろを出さずにどうにか出来るような才覚は俺に無い。
大人しくモデスティア王国の貴族に紛れようとするが、服の色は赤色なのだどうしても目立つ。
結局どうにもできねーじゃねーかと、一人で憤りを感じていると、声がかかる。
「ジェレミー・ゴットバルトです、先ほどは我が国のご令嬢たちをお助けくださりありがとうございます」
来てしまった。きっとタイミングを計っていたんだろうが、正直来てほしくなかった。
向こうもちょっと照れ臭そうにしている、きっと中身はスカーレットだと思っているのだろう。
「大丈夫です」
極力手短に返事をしながらナタリーにどうしようと目を向けてしまう。
ナタリーが仕方が無いという感じで、小さく溜息を吐くとジェレミーへと近寄り、周りに聞こえないように喋りかけている。
そこまで離れていないが、なぜかこちらには聞こえない、もしかしたら他人に聞かれない様に喋りかける技術があるのかもしれない。
当然ジェレミーには聞こえていたらしく、俺を見る目が段々と笑いをこらえる感じになっていく。
「そうですか、では私はこれで……」
ナタリーに何か言われたジェレミーは、にやにやしながら離れていく。
正直こっぱずかしくて会話にならないし助かるが、ナタリーは何を言ったのだろうか。
ジェレミーが去っていくのを見ていると、ナタリーがこちらに向き直る。
「次はご自身で頑張ってくださいね」
ナタリーに笑顔で言われる、自分の不甲斐なさが悔やまれる。
項垂れながらリオン達について回っていると、いつの間にかに騎士団の見学会が終わる。
自室に戻ると緊張状態から解放された事にテンションが上がり、着替える前にベッドに飛び込んでしまう。
「エカルラトゥ様は、お嬢様に結構似ていますね……」
「え? そんなに傍若無人に振る舞ったりしてないけど」
「いえ、周りの目を気にするけど、結局めんどくさくなり気にしない所とか……今も着替えずにベッドに飛び込んでますし、お嬢様がやりそうな事ですよ」
そそくさとベッドから降りて、ナタリーのいる所へ向かう。
「それはスカーレットが男っぽいってだけじゃ……」
「……それはあるかもしれませんね」
もしかして俺の株だだ下がりなんじゃないだろうか。
かっこいい所を見せたいが、見た目スカーレットなのだ、何をやってもスカーレットがかっこいいだけだ。
取りあえずナタリーとの時間を有意義に使おう。
ナタリーが入れてくれた紅茶を飲みながら、親交を深めようとナタリーと会話する。
夜は舞踏会なのだ、ここで英気を養わないと今日を超える事は出来ない。
楽しい時間は直ぐに終わり、苦痛しか生まない舞踏会の時間が来る。
楽しければ楽しいほど時間の経過は早く感じるものだ。
「お嬢様、しゃきっとしてください」
「……無理」
「お気持ちはお察ししますが……」
「どうして俺がこんな目に……」
覚悟していたが、いざその場に立つと脚が震えるし背中が丸くなる。
まだまだ親善交流は始まったばかりなのだ、ここで下手な事を起こすわけにはいかない。
とは思うが、何故こんな試練が俺にだけあるのだろう。
「スカーレット様……一曲踊っていただけませんか?」
シリル・アルトワが小刻みに震えながら踊りを誘って来る。
いやもうそんなに嫌なら誘うなよ、と思うがきっとスカーレットを落とせと言われているんだろうな。
そう考えると、俺と同じように試練を受けている者はいたんだと、若干親近感が沸いてくる。
「是非」
つい返事を食い気味に言ってしまった。
シリルの顔が段々青くなるのがわかる、心の中で断ってくれって思ってただろこいつ。
俺も同じような試練を課せられているのだ、共にこの窮地を乗り越えようじゃないか。
いざダンスを始めると男同志なのもあって案外気は楽だった、シリルはきっと地獄だろうが。
当初の沈んだ心とは裏腹に気持ち晴れやかに踊っていると、シリルが足をもつれさせ転倒しそうになる。
まあびびっているのだ仕方が無いなと、抱きかかえフォローしながら踊りを再開する。
なにやら外野で黄色い声が聞こえるが、気にせず踊り終わり、軽く会釈をして離れる。
シリルは死にそうな顔をしているが頑張って生きて欲しい。
「スカーレット様、次はわたくしと踊っていただけませんか?」
「え? あ、はい?」
騎士団の模擬戦の時にいた令嬢のマリアンヌがダンスに誘って来る。
生返事をしたのを了承と取ったのか、すぐさま手を引かれて広場へと向かう。
女性同士のダンスはありなのだろうか、という疑問が浮かぶが相手が誘って来るのだきっと大丈夫だ。
流されるまま踊り終わると、模擬戦の時にいた他の令嬢にもダンスに誘われる。
一人と踊ってしまったのだ、これで断ると角が立つ。
結局、数人の令嬢と踊ってしまった。ナタリーは少し困った顔をしていたので駄目か聞いてみる。
「女性と踊るのはまずかったかな?」
「まずくはないとは思うのですが、釈然としない気持ちにはなりました……すみません私にも判断しかねます」
「じゃあスカーレット次第か……」
先行きが不安だが、この流れに身をゆだねるしかないのだ。
時間が経過するのを待っていると、リオンが近づいてくる。
「クローディアに毒されていないよね?」
「はい毒されてなどいません」
開口一番に言う事なのだろうかとちょっと笑いがこぼれそうになるが、大丈夫だ俺は異性が好きなのだ。
同性が好きなクローディアとは違う。
真剣な表情で確認を取ったリオンが戻っていく。
そろそろ舞踏会も終わりだろうし、ナタリーと早めに帰ろう。
今日は大変な日だった。正直今回は精神の入れ替えは勘弁願いたい。
ナタリーに会えても心労が激しすぎて辛い。
部屋に戻り、ナタリーとの時間を出来る限り過ごすと、明日に向けて眠りにつく。
タイミング良く精神が入れ替わる俺~近衛騎士エカルラトゥ編~
第十四話㋓ 模擬戦と舞踏会(二日目) 終了です




