第十一話㋓ 結局スカーレットが全部片付けました
目覚めると今まで見た事も無い天井と部屋が見える。
まだスカーレットの体なのかと、自分の体を見ると元の体だった。
戻れてうれしいという気持ちと、残念な気持ちが入り交じりよくわからない感情が心を支配する。
それよりもここは何処だろうと、体を起こすと、体の節々からコキコキと音が鳴り響く。
どういう事だと、体をほぐしながら思い出せるだけ今の状況を思い出す。
たしかスカーレットの体で、クローディアと丘に向かい、スカーレットの魔法に巻き込まれてから記憶が無い。
そんな事を考えていると、突然扉が開かれそこにいるのはアリアだった。
「スカーレット様、やっと起きられたのですか!」
アリアがスカーレットという名前を呼ぶ。
スカーレットって、俺はエカルラトゥだよな、と自分の体を改めて見直すが、やはり俺は俺だ。
という事は、アリアに教えたのだろうかと、考えているとアリアが近づいてくる。
「スカーレット様は五日間も目が覚めなかったのですよ、急に動いてはお体にさわります」
「え、五日も寝てたのか……って俺スカーレットじゃないからね」
「ええー……では今はエカルラトゥ様なのですね……」
明らかにテンションが下がるアリア。
これはどういう反応なんだろう。
「まあ、そうなんだけど……って何でそんなにテンションさがるの?」
なんとなく納得できずに聞いてしまった。
「ええっと……それは……」
恥ずかしいのか段々と顔を赤くさせる。
いやもういいや、あまり突っ込んでも碌な回答が返ってこない気がする。
「そんなことよりも、スカーレット様とはいつ入れ替わるのですか?」
アリアが目をキラキラさせ興奮冷めやらぬ顔で聞いてくる。
残念だけど、そう甘くは無いんだよアリア……。
「入れ替わりはいつも突然起こるだけで、任意で起こしてるわけじゃないんだ、いつ替わるかは誰も分からない」
「えっと……という事は私はスカーレット様とは会えない……と?」
「まあそういう事になるな……」
俺の返答を聞いた瞬間に、アリアが項垂れる。
意気消沈しているアリアを見ながら深いため息を吐いていると、扉がノックされてジェレミーが入ってくる。
「よ、やっと起きたか、会話するのは良いが外に漏れてるぞ、内容と声量に気を付けろよ」
たしかに、スカーレットの名を出しすぎるのは、アロガンシア王国の騎士としては不適切かもしれない。
というかスカーレットの話に引っ張られすぎて、現状の話をするのを忘れているのを思い出しジェレミーに聞く。
「というかここはどこなんだ?」
「ナミュール領の街の宿だ、お前が……というかスカーレットが魔法を使って倒れて起きないから街まで運んだんだよ」
「それは迷惑かけたな?」
「まあ主にスカーレットだがな、ははは」
そう言いながら笑うジェレミーを冷ややかな目でみるアリア。
それに気づいたジェレミーの笑い声がどんどんと小さくなっていく。
「そういえば他の騎士団員はどうしたんだ?」
「ああ、もう王都に帰ってるよ、そもそもあの火事さわぎが起きなきゃもう終わりだったしな」
「火事はどうなったんだ?」
「スカーレットの魔法で森が復活したから、山火事は無かったことになっている、近くにあった村の住民は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてたぞ」
若干笑いながらジェレミーが答える。
「スカーレットが全部解決したようなもんだな、黒ずくめも捕まえたのスカーレットだし、森を癒したのもスカーレットだ、まああの後数人の不審者が火を放っているのを見つけてな、木が燃えないのに困惑している所を捕まえたがな」
結局俺は見ているだけで、何か出来たわけでも無くスカーレットが全部やってくれたわけか。
「そうか……しかし火を放っても燃えないとは意味が分からないな」
「それなんだが、スカーレットの魔力が残っているのか、耐性が残っているのか……多分そんな理由だろ、当分あの森が傷つけられる事はないだろう」
「相変わらずめちゃくちゃだな……それで黒ずくめの人物を捕縛したんだろ? 結局この騒動は誰が仕掛けた事だったかわかったのか?」
「ああ、それなんだがアロガンシア王国の第二王子ギデオン殿下だと思うぞ」
「その根拠は?」
そう聞き返した瞬間にアリアが口をはさんでくる。
「あの~私はこの場で聞いていても大丈夫なのでしょうか?」
不安そうな顔で聞いてくる。
それはそかもしれない、王家の血筋が今回の事件にかかわっているなんて話、聞きたくも無いかもしれない。
下手をすれば消されても仕方が無い。
「アリアちゃんはモデスティア王国と戦争したいのか?」
「いえ、とんでもないです、今となっては生スカーレット様に歯向かうなど……ありえません」
これは色々とこじらせてるな、と思うがまあ俺たちからすると良い方向ともいえる。気にせず話を進める。
「俺達はそうならない様に動いてるだけで、それ以上でも以下でもない、聞きたくないというなら考えるが……」
「……いえ大丈夫です、お聞きします」
なにやら覚悟したのか顔に力が入っている。
「で、話はもどるのだが、第二王子ギデオン派の貴族が、兵を国境近くに招集したらしくてな、多分この件がらみだと思う」
「ザインで締結した条約を破棄してモデスティア王国に攻める気だったのか?」
「いや、森を焼いた事をスカーレットがやったと言い張り、報復として奇襲する気だったんじゃないかとおもう」
「そんな子供のいい訳が通るのか?」
「実際にスカーレットが森を焼いた話は他国でも有名だからな、信憑性が少しでもあればいけると思ったんじゃないか? もしくはそれを押し通せるだけの伝手がザインにあるんだと思う」
「ザインに伝手があると結構やっかいだな」
宗教関係はいつも拗れる原因になりうる。
そして拗れた時の抵抗は内乱になりかねない火種を内包している。
「そうだな、あと黒ずくめなんだが、誰も口を割らなかったが、何時までも拘束して尋問するわけにもいかず王都に引き渡したんだが……こいつらがもしかしたらザインの関係者かもしれない」
「なぜそう思う?」
「俺はアリアちゃんとお前をここに残すと、黒ずくめ達を引き連れて王都へと向かったんだが、途中でもう一人の近衛騎士副団長のフィル・ロベールが何故か引き取りに来た、それで引き渡した後俺だけ戻って来たんだがな」
「そいうことか……副団長のフィルは宗教国家ザインの元聖女が母親だったはず、神輿だったとはいえそれなりに影響力はあるだろう」
ジェレミーが驚いた顔で俺を見つめてくる。
「なぜ驚く?」
「いや、昔はどうでも良い奴の名前すら覚えてなかったのに、今じゃ副団長の経歴を覚えているとはって驚いてんだよ」
「昔の俺は生きているようで死んでいたからな、今は精一杯やりたい事をやり進めたいと思っている」
「かわったな、いい意味で」
必要な情報はちゃんと集めて頭に入れて置こうと考え直したのだ。
ジェレミーとの会話を聞いたアリアの顔が青くなっている、なにかあるのだろうかと聞く。
「どうしたんだアリア?」
「いえ、実家の方から縁談の話がきてまして……それがフィル様なんです」
「マジでか……良い話なんだろうが、きな臭い家に嫁ぐのは抵抗があるか?」
「そうですね、まだ話の段階ですからどうにか断れないか打診してみます、それに実家のシャロン家は穏健派です」
アリアの顔は暗いままだ、そんなに嫌なのだろうか、フィル自体は性格も良く見た目も良い、良物件だと思うが、こんな話に加担していると聞けばちょっと引いてしまうのかもしれない。
「まあ、いい話もあるにはあるんだよ」
「本当にいい話なのか?」
ここまで話をしていて、今後の事を考えると気が滅入る事しか出てこない。
「森が燃えなかったおかげで、ギデオン殿下が招集した兵が意味を無くしてな、ただでさえ兵を動かせばお金が大量に動く、しかもそれに意味が無ければただの金食い虫だ。そのせいで穏健派から非難をあびたらしく現在謹慎中らしい」
「ああ、森は焼けたけど復元しちゃうわ、再放火しても燃えなかったから動けずに終わったわけか……でも他の場所燃やせば良かったんじゃないか?」
「それだとどこが被害を被るのかでもめるんじゃないか? それに即行で決められる事でも無いだろう」
ある程度常識人で助かったともいえる、無茶苦茶やるならもうそこらへんを火の海にすればいいだけだが……スカーレットがいないと無理か。
あれ、でもスカーレットがいなかったらどうしたんだろう。
「スカーレットがいるから森を焼いて、紅蓮の魔女のせいにできたけど、近くに居なかったらどうしてたと思う?」
「ああ、それか多分お前をどうにかしたんじゃないか? ギデオン殿下がお前一人に行かせようとしてたわけだし、それにお前は穏健派だ、モデスティア王国に内通しているとかでっちあげる予定だったんじゃないかな」
「マジでか……そんな部分でもスカーレットに救われたのか、なんかへこむんだが」
「そこはしゃーない、精進していけ」
軽く言ってくれるが、精進してどうにかなるレベルなのだろうか。
一国を敵に回してどうにか出来る力があれば別だが。
「はぁ……しかし俺がモデスティア王国に行ける日は来るんだろうか、それかスカーレットが来る日か……どっちも難しそうだ」
「私も協力しますから一緒にスカーレット様に会いに行きましょう!」
急に元気になったアリアを一瞥する。
まあ気を揉んでも仕方が無いか、一個計画を潰す事が出来たんだ。
何かしらまた起きたら潰せるように精進して生きていこう。そう思いながらいい加減腹が減ったと食事の催促をする。
タイミング良く精神が入れ替わる俺~近衛騎士エカルラトゥ編~
第十一話㋓ 結局スカーレットが全部片付けました 終了です




