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タイミング良く精神が入れ替わる俺~近衛騎士エカルラトゥ編~  作者: 氷見
第二章 紅蓮の魔女は木魔法が使いたい
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第十話㋓ 女性としての快楽

「お嬢様、お嬢様、もう起きる時間ですよ」


 どうやら起きる時間が過ぎているらしい、前日の火事の対応であまり眠れなかったおかげなのか眠りすぎたようだ。

 火事は収まっているが、放火犯は掴まえていないが、範囲が広すぎて捕まえるのは偶然に掛けるしかない。

 俺がここで気を揉んでも意味が無い、スカーレットには悪いが俺はここでゆっくりしようと思う。そう、これは仕方が無い事だ。

 しかしこの起こす声はナタリーなのだろう。

 好きな女性、なのかはわからないが惹かれているのは確かな女性に、朝起こされるというのは、ただそれだけで幸福感に包まれる。

 問題は、俺の体がスカーレットという女性の体であるという一点のみだ。

 ゆっくりと目ざめ起き上がると、ナタリーに挨拶をする。


「おはようナタリー、今日は俺だ」


「……そうですか、また入れ替わってしまったのですね」


 ナタリーが困惑しているがそれはしょうがない、仕えている主人の中身がコロコロ替われば、対応にこまるよな。

 今までは、急に抱きついてびっくりさせてからばらしたり、流れでばれたりしたのでその流れで心構えが出来ていったのだろうが、朝起きて開口一番で言われると気持ちが整理出来ないのかもしれない。

 二人で妙な時間の間が生まれて固まっていると、場を崩すクローディアが現れる。


「おはよ~朝食行こ」


「ごめん、今起きたとこ急いで着替えるよ」


 朝から元気だなと思いながらベッドから起き上がり、ナタリーに着替えを手伝ってもらう。

 

「それで今日はどうするの? まだ諦めずに魔導書写すの?」


 着替えながら今日の事を頭に思い描くと、魔導書を纏めようとしている記憶が浮かぶ。


「そのつもり」


「そっか……」


 クローディアの気分が沈んでいくのが分かる、何かあるのだろうか。


「何かある?」


 そう聞くと、クローディアが元気になり抱き着いてくる。


「一緒にピクニックに行きたい、近くの丘にここら辺を一望できる所あるから、久しぶりに行きたいのだけど一人じゃ寂しいから」


 クローディアに横から抱きつかれて、胸が腕に当たる。

 うん、ぽよんぽよんだ、横から抱きつかれるとこんな感じになるんだ~と考えながら目線がナタリーに行くと、顔が笑っているが目が笑っていない。

 顔に出ていたのだろうか、気を付けないと、と顔を引き締める。


「たまにはいいかも」


 無下に断るのも義理が通らないと思い了承する。

 そもそもキャンベル家の魔導書見せてもらっている立場だ、クローディアの願いは叶えてあげるべきだと思う。


「やったーじゃあ朝食終わったら準備しよっか」


 そう言いながらスキップしつつ部屋から出ていく。

 彼女は本当に貴族令嬢なのだろうか、と前にも思った事を再度思う。


「良かったよね?」


 ナタリーに一応聞く。


「はい、あとクローディア様には入れ替わりの事は内緒に、との事なのでお気を付けください」


「わかった」


 そう話しながら食堂に向かう。

 食事をぱぱっと終わらせると、クローディアが客間に来る。


「ちょっと馬車で移動して、ちょっと歩けば目的地だから」


「わかった」


 動きやすい服に着替えると、外に向かう。

 もう着替える事に慣れたのか、心が動かない事に気づくが、いちいちドキドキしてられないのも確かだ、棚に上げて置こう。

 馬車に乗りキャンベル家の屋敷を出て、キャンベル伯爵領のメルクリオの街を走る。

 街は綺麗に整理されているが、他の街とは違い植林されているのか木々が多い。

 街中にも川が流れ、さしずめ水の都と言ってもいいだろう。

 さすが水と木の魔法のキャンベル家が治めている街だと言える。

 普通は木が街中にあれば、それだけで土地が減るし、建物もそれに合わせて小さくなる。

 だが、見た目や木々との調和を重んじているのか、良い場所に木が立っていたりして、なにやら厳かな気分になる。

 そんな事を思いながら外を眺めていると、クローディアが声をかけてくる。

  

「綺麗でしょ、街並み」


「そうだね、他の街とは全然違う」


 キャンベル家に来る時も見たのだが、スカーレットには興味が無かったのか、あまり馬車の窓から外を眺めていなかった。

 今は俺ががっつり見ているのに気付いたクローディアが話しかけてくる。


「土地の使い方が贅沢に感じるかもだけど、木を自分の土地に植えると減税対象にしてるから住んでる人達が率先して植えるんだよ、あとはその土地の人のセンスだね、見目が良いようにすれば一目置かれるし」


「面白い事考えるね」


「特色を出したいし、水と木の魔法は私達キャンベル家の根源みたいなものだからね、やっぱ街もそれなりの説得力がなきゃ」


 色々と考えて街を運営しているのだな、と再度街を見る。

 そうしている間に、街を出て目的地の丘へと道が続いている場所へ到着する。


「ここから数十分歩いた所が目的地だから」


 そう言うと籠を持ち歩き出す。

 クローディアに続き、ナタリーも何やら籠を持ち私たちに続く。

 御者のおっちゃんはそのまま馬車で待機するようだ。

 まあこのメンツに敵対して、どうにか出来るやつは少ないだろう。


 気にせず森の中の道を歩いていると、真っ直ぐになった枝が落ちているのを見つけ拾う。

 タクトみたいだな、と思い何気なく木魔法で綺麗に整形しようと魔力を練ると慌てたナタリーの声が聞こえる。


「お嬢様!」


「ん?」


「え?」


 クローディアが先頭を歩いていたが、ナタリーの声に反応してこちらを向く。

 俺もびっくりしながら横にいるナタリーを見ると、声にならない声をだしているのか口がぱくぱくしている。

 クローディアに目線を変えると、俺の手元から目線を反らさずに聞いてくる。


「なんで木魔法使えてるの?」


「え?」


 なんでって、そりゃこの前頑張って使えるようになったんだが、そういう事じゃないか。

 あれ、もしかして何かまずい事でもやったのだろうか。

 状況を整理しよう、昨日スカーレットは木魔法が使えないと結論づけられたんだっけ。

 

「あっ」


 やらかした事に気づき思わず声が出る、ナタリーが自分の手で顔を隠している、呆れている気がする。


「ねーねーどうして木魔法が使えるのかな? もしかして昨日の仮説は誤りなのかな?」


 クローディアが詰め寄ってくる。

 これはどうやって切り抜ければいいんだ、昨日から碌な事起きてない気がしないでもないが、今回は自己責任だ、どうにか頑張るしかない。


「さ、さあ? 出来るようになったんじゃない?」


 クローディアがワザとらしい笑顔をこちらに向ける。


「じゃあもう一回木魔法を使ってみようか」


 断れる状況じゃないので、素直に使う。


「やっぱり、魔力操作にぎこちなさを感じる。それに使用している魔力量からすると木の反応も消極的すぎる、まるで勘違いしてちょっとだけ反応しているだけの様に……」


「き、気のせいだよ」


 どんどんいい訳が出来ない状況に追い込まれているが、なんとなく本質を見抜いている気がする、怖い。

 

「それで勘違いしていると仮説を立てるとして、何故勘違いしているのか……その態度なら知っているよね?」


 めっちゃ笑顔だけど、その笑顔が逆に怖い。

 もう隠し事があるってばれてるのは確実だ。

 どうしようと思案しながらナタリーをちらっと横目で見ると、表情から感情が読み取れないほど真顔だ。

 今朝に気を付けてくださいと言われていたのに、全然気を付けてない俺に呆れたのだろうか……。

 ナタリーはフォローしてくれないのだろうか……と考えるが、それめっちゃかっこわるくないか、と自問自答する。


「スカーレットちゃんが喋らないなら~、知っていそうなナタリーの体に聞くしかないわね」


 クローディアがナタリーの方に向き直り、手をわしわしさせている。

 ナタリーの体がびくっとする。

 さすがにナタリーに全てを背をわせるわけにはいかない。


「わかった……話す」


 ナタリーの体から力が抜けていく、やっぱ嫌だったんだな。

 でもナタリーとスカーレットの話し合いの記憶を思い出すに、ばれても良い感じだし大丈夫だろう。


「そうこないと、で何を隠しているのかな?」


 言う覚悟をする為に、まずは深く深呼吸をして覚悟を決め一気に言葉にする。


「俺はスカーレットじゃない、体だけスカーレットなんだ」


 こいつ何言ってんだ、って顔で見つめられる。

 そりゃそうだよな、完全にスカーレットなのに、違う言われても困るだろうな。

 簡単に今までの事と、精神が入れ替わっている事を喋る。


「はぁ、じゃあエカルラトゥって男の精神がスカーレットの体に入ってるって事?」


「まあそういう事だな」


 信じる信じないは別に良い、とりあえず説明は終わる。

 クローディアは何か考えているのか、腕を組んで一点を見つめている。

 俺はナタリーの所へ近づき謝罪する。


「すまん、俺が浅はかなためにばれてしまった」


「いえ、お嬢様はばれる事を一瞬ですが望んでいましたから」


 え、どういう事なのそれ、と考えていると、肩をクローディアに掴まれる。

 なんだと思い向き直ると、クローディアは興奮しながら唇を舌で舐めていた。

 身の危険を感じ逃げようとすると、腕をからめとられ動けない。


「なにをする!」


「いやね、男の身で女の体なわけだよね? じゃあどんなふうに感じるのか知りたくて……ね?」


 何言ってるのこの人、いったい俺に何をする気なんだ。

 とりあえず全力で逃げなければ、と闘気の炎を揺らめかせながら力をいれた瞬間に地面に組み伏せられる。

 なにこれ? 一体何が起きたんだと困惑していると、クローディアが説明してくれる。


「これは我が家に伝わる寝技って言う技なの、剣と鎧に生きている人達からすると異質だとおもうけどね」


 倒れた状態で、クローディアがこちらを寝たまま抑え込んでくる。

 もがくと多少動けるのだが、その動きに合わせて違う形で抑え込まれる。

 なにこの技術、こんな技があるなんて、と軽く感動するがそれどころではない。


「じゃあ、どうなるのか体に聞いてみようか」


 そう言うとクローディアの顔が淫靡に笑う。

 俺は声を上げて逃げ惑うが、軽くあしらわれ動きを封じられ、結局叫ぶ事しか出来ない。


「うあああーーー!!」


「ああーーー!」


「あっ……」


「 」


「」


 あれからどれくらいたったのだろう。

 数時間の様な数十分のような気もする。

 

 男として大事なものを無くしてしまったかのような喪失感を感じる。

 草むらの上に座り、何も考えたくないと放心していると、クローディアの声が聞こえる。


「はー面白かった、こんな事めったに味わえないよね」


「……」


 ナタリーに話しかけているようだ、感情の起伏が無いままナタリーに目を向けると、こちらの視線に気づいたのか持っているハンカチを素早く隠す。

 白いハンカチには赤い色の斑点の模様があった気がする、俺を憐れんで泣いてくれたのだろうか。

 

「ほら、いい加減しゃきっとしないと、男でしょ?」


 クローディアが肩をバンバン叩きながらそんな事を言う。


「……男なのに……俺はもう普通に生きていけないんじゃないかなって……」


「大丈夫だって、犬に噛まれたと思って忘れなさいよ」


 君がそれを言うのか、と小一時間ほど説教したいが、何時までも放心しているわけにもいかないだろう。

 ふらふらと立ち上がると、それを見たクローディアが丘に向けて歩き出す。


「あと少しで、丘だから取り合えずそこまで行こう~」


 それもそうだな、そこで気が済むまで世の無常について考えよう。

 そう思いながら重い足取りでクローディアについていく。


 だんだんと森が開けていき、目の前にメルクリオの街が広がる。

 確かに景色はかなり良い。

 絵が描けるなら描きたいくらいの景色だ。

 丘に近づき周囲を見ると、はるか遠くに黒煙が上がっているのが見える。


「あれ、昨日たしかに消火したはずなのに何故また火事に……」


「どうなさいましたエカルラトゥ様」


 ナタリーがクローディアを気にせず俺の名前を呼ぶ。


「いや昨日、森を放火する不審者がいてな、なんとか消火したはずなんだが……」


 どう考えても昨日よりも燃え広がっている気がする、それほど黒煙が広がっている。

 

「あれって、もしかしてスカーレットちゃんが原因じゃないよね? いまあそこに貴方の体があるんでしょ?」


 クローディアが冷静にそう言うが、よく考えれば俺は隣国の人間だ。

 よく冷静に喋られるなと、思いながら返答する。


「いや、それはないだろう、そもそも不審人物がいた事は確認できているし、逃げる方向も考えられていた、誰かが望んで放火している」


「逃げる方向?」


「ああ、モデスティア王国側に逃げたんだ、それで追う事が出来なくなってね」


「なるほど、現状和解してから数か月しかたってないしね、まだ手放しで国境近くに来られちゃうと、こっちも警戒せざるをえないもんね」


 ここからだと眺めることくらいしか出来ないし、火も見えない、もしかしたらもう消火済みなのかもしれない。

 そんな事を思いながら眺めていると、黒煙が立ち上っている場所で緑色の光が燃え広がった森の一部を包み込んでいる。


「あれはなにかな?」


 クローディアも気づいたのか、指を差し食い入るように見ている。

 何かの魔法だろうか、と見ているとクローディアが言う。


「あれ、木の魔法だ、規模がでかすぎてわからなかったけど……もしかして燃えた森を癒そうとしているのかも」


「そんな魔法があるのか?」


「キャンベル家の魔導書には書いてあるけど、そうそう使える人はいないはず……なんだけどね」


 それが事実ならどんだけの規模の魔法なんだと思い見ていると、その緑の光の中心から黄金の光の柱が地面から立ち昇る。


「あの魔法はなんだろう?」


 クローディアも分からないようだ。しばらく見ているとその黄金の光は空高く伸びていく。

 どこまで行くのだと見ていると、なにやら自分の体の周囲が黄金色にきらめいていく。


「なにこれ……」


「え、エカルラトゥ様、大丈夫ですか?」


 どんどん黄金の光に包まれていく俺に危険を感じたのか、ナタリーが声をかけながら近づいてくる。

 俺もなにかまずい気がし、移動しようとするが黄金の光が壁になっているのか出られない。

 ナタリーは普通に黄金の光の中に入り、そこから出そうとスカーレットの体を引っ張るが黄金の光が壁になっているのかスカーレットの体だけが出ない。

 そうこうしていると、スカーレットの体が緑色の光に包まれていき、全身から力が抜けていく。


「か、体に力がはいらない」


 地面に倒れこむのを、ナタリーが支えてくれる。


「ありがとう……」


「大丈夫ですよ」


 ナタリーが微笑んでくれる。


「しかしなんなんだこの現象は……」


 そう呟き、自分自身を観察していると黄金の光の柱が空から降りてくる。

 アロガンシア王国の森に出来た光の柱と同じように、こちらにも光の柱が出来るのかと困惑していると、クローディアが言う。


「これ木魔法を使っているんじゃないかな」


 今もなお全身が緑色の光に包まれ、体の周囲を包むように黄金の光の柱がこちらでも立ち昇っている。


「体が勝手に木魔法を使っているって事か?」


「そう」


 と答えたクローディアが、黒煙が広がっている方を見る。

 つられて見ると、先ほどまで森の一部だけ緑の光が包んでいたが、今は燃えたであろう部分全部を包み込んでいる。


「きっとあそこにスカーレットちゃんがいるんだよ」


 スカーレットがこの現象を起こしているって事か……。


「それが事実なら……ほんとめちゃくちゃだな……自分の体からも魔法を使って供給させるなんて……」


 力が入らないが何とか声を出す。


「まあお嬢様ですから……」


「はは……もう笑うしかないわ」


 そんな事を言いつつ、緑の光に包まれて再生していく森を目の端で捉えながら意識が消えていく。

タイミング良く精神が入れ替わる俺~近衛騎士エカルラトゥ編~


第十話㋓ 女性としての快楽 終了です

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