094 放浪編13 嫁襲来
キャリー、マリー、ジェーンのケモミミ嫁3人が、完成した新居にやって来た。
獣人族が僕の配下に入ったことで、犬族猫族不仲問題が解消されてしまったため、何を忖度したのか新居がとんでもないスピードで完成してしまった。
最初は断るつもりだったこの嫁入りが、僕の第6皇子としての軍事力と経済力を拡大する方向に役立ってしまった。
もう断ることなど出来るわけがない。せめてもの償いに彼女たちを大事にしよう。
3人は玄関を入ると三つ指ついてお辞儀をした。
「「「晶羅様、末永くよろしくお願いします」」」
「こ、こちらこそよろしく。とりあえず好きな部屋を使って」
僕は覚悟も出来ないまま嫁を迎え入れることになってしまった。
少なくとも同居期間で親睦を深めて、お互いに結婚しても良いという結論に至ったらと思っていた。
まだ当分は猶予があると思っていたので、全く心の準備が出来ていなかった。
彼女達は早々に自分の部屋を決めると荷物の搬入を配下に指示した。
彼女達の後ろには何人もの執事とメイドが引っ越し作業のために控えていた。
僕はリビングの3人掛けの広いソファーの真ん中にちょこんと座って荷物搬入の様子をボーっとして見ていた。
(まさか、彼らってみんなここに住み込むつもりじゃないだろうな?)
搬入が終わると執事とメイドはお辞儀をして速攻で消えた。
去り際に執事が親指を立てて「頑張れ!」みたいな笑みを浮かべていたのは、いったい何だったのだろうか?
暫く待つと、くつろいだ部屋着にエプロンを付けた犬族嫁のマリーがリビングにやって来た。
「晶羅様、ご夕飯はお食べになりましたか?」
マリーが聞いて来る。マリーは料理が得意なんだそうだ。
「食べてないよ。あ、様はいらないよ」
「では、ご夕飯の用意をいたしますね。晶羅様」
どうやら「様」は抜いてくれないようだ。
まあ殿下呼びよりは遥かにマシだ
マリーは夕食の準備のためにキッチンへと行く。
男爵家の姫ならば、家事全般はメイドや専属料理人任せだろうに、マリーは自分で料理をするのが趣味らしい。
姫に対して言うことじゃないけど家庭的な良い嫁だ。
「昼の執務で疲れていらっしゃいませんか? マッサージでもしましょうか?」
ラーテル族のジェーンが薄い部屋着に着替えてやって来ると、目の前に正座して僕を見上げて来た。
薄っすらと下着が透ける生地のキャミソールのような部屋着だ。
僕を見上げるように正座したジェーンの胸元がチラチラ見えている。
ハニートラップか? あれだけ破談を望んでいた感じだったのに、掌を返し過ぎだぞ。
「おい、ジェーン、なんだその話し方と態度は。また猫被ってるのか?」
「そんなことはありませんわ。敬うべきお方にそれ相応の対応をしているだけですわ」
どっちかというと僕は砕けた感じの方がいいのに。
それに急に嫁入りに乗り気になりすぎだ。
「僕としては、敬語よりざっくばらんな口調の方がいいんだけどな」
「そうは行きませんわ。晶羅様のお立場というものがございますから。
私が晶羅様に恥をかかせるわけにはまいりません」
「そんなものなのかねぇ」
ああ、皇子ともなるとそうなるのかな。
そこはジェーンも準男爵家の姫だ。貴族としての教育が行き届いているのだろう。
女戦士のような体格から武闘派かと思っていたけど、案外知性派なのかもしれない。
「お隣に座ってもよろしいですか?」
「ああ、かまわないよ」
ジェーンが僕の右側に座ると「失礼します」と一声かけて右腕に抱きつきしなだれかかって来た。
やはりハニートラップだな。腕に弾力のあるものが当たっている。
僕はその刺激になすがままになるしかなかった。
「あら、私が最後でしたの?」
猫族のキャリーがスケスケのネグリジェで現れると、自然に僕の左側に座り左腕に抱きついてしなだれかかる。
白いネコミミがピクピクと動き僕の頬をくすぐる。
キャリーの左手が僕の太ももをさわさわしてくる。
僕はガチガチになって動けなくなった。
「ご夕飯が出来ましたよ」
固まったままの僕にマリーによる助け舟の声が響く。
「それじゃあ、夕飯にしようか」
僕はソファーから立つとジェーンとキャリーも僕の動作に合わせて立ち上がり、腕を組んだままダイニングへと向かう。
テーブルセットは僕と6人の嫁が座るために用意されたもので、8人掛けで充分な広さがあった。
紗綾、美優、綾姫の地球人嫁は偽装結婚なので今はいない。
でも本人たちは本気らしく、早々に引っ越してくるつもりらしい。
そういえば、シューティングドリームの5人も僕の偽装嫁になっている。
こっちは完全に名義だけの偽装で同居もしないんだけどね。
さすがに帝国一級市民相当の神澤社長では、嫁を7人も抱えるのは無謀という結論となった。
上級貴族が来て、「そこの市民、おまえの美人嫁を寄越せ」と言われたら、一級市民相当では断れるのか疑問だからね。
なので皇子の僕ならば嫁が何人いようと構わないだろうと押し付けられたのだ。
僕にケモミミ嫁が来たことで、晶羅が男だということがバレてしまったし名義貸しなら何ら問題はない。
まあ、彼女たちが地球に戻った後が問題だろう。
晶羅が男だというのは大スキャンダルになるだろう。
さらにメンバーと結婚していたなんてリークされたらブラッシュリップスはアイドルとして終わる。
そこでシューティングドリームの5人も嫁だったとすれば、自分たちだってアイドル生命が終わる。
アイドルを続けていくにはお互い黙っているしかないという目論見だ。
「晶羅様はこちらへ」
マリーが長テーブルの一番奥正面の席――所謂誕生日の主役席――に僕を誘う。
これでやっとジェーンとキャリーが腕から離れてくれる。
「このまま横に座られてあーんでもされたらどうしようかと思った」
思わず口から出てしまう。
(やばい、怒られる)と思ったら、嫁の目がキラリと光っていた。
あの顔は(その手があったか!)という顔だ。
次からは横に座れるようにされるだろう。
食事は僕の正面に1つ、右に2つ、左に1つ用意してある。
コース料理ではなく、庶民的なワンプレート料理だった。
席次で一悶着あるかとヒヤヒヤしていると、初めから決まっていたかのように右手前にキャリー、その隣にマリー、左にジェーンが座った。
犬族のマリーが一歩引いて譲ってくれたようだ。
だがわざわざ猫族の隣に犬族が座るとか、わだかまりがないことをアピールしているのか?
僕は争いが起きなかったことに胸を撫で下ろした。
第6皇子軍創設で僕が行った訓示が少しは役に立ってくれたのかもしれない。
食事が終わりリビングのソファーに戻る。
食事の後片付けはジェーンが率先してやってくれた。
キャリーも手伝っていたが手先が不器用で苦手なようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
リビングのソファーに戻ると今度はマリーが右腕に抱き着いて来た。
左側は手伝いを諦めたキャリー、ジェーンは後片付けが終わるとソファーの様子を一瞥し、なぜか僕の膝の上に座った。
3人の嫁には何かを期待している空気がある。
僕はその空気が耐えられなくて、当たり障りのない世間話を始めた。
「ジェーンの実家の小領地ってどういった扱いなの?」
「帝国領の惑星レリックが多数の領主に分割統治されていて、その一つ一つを小領地と呼んでいます。
准男爵に帝国領の惑星を丸ごと与えるわけにはいかないので、惑星の土地を多数の領主で分割して納めさせているのです」
「なるほど、同じ惑星に爵位持ち領主が沢山いるんだ。そんなので揉めないの?」
せっかく僕の配下になってくれているのに、土地問題で内乱とか困るからね。
個々に反乱の可能性があっても困る。
「はい。ラーテルがほぼ支配していますから大丈夫です」
あー小領地混成軍の代表だからね。纏めているのがラーテルなわけだ。
「それでジョンが代表なんだね」
自分の故郷に興味を持ってもらえたことにジェーンが喜んでいる。
コマンダー・サンダースに聞いていたとおり、穀物と畜産が主産業だそうだ。
しかし、ジェーンと話していると、猫族嫁と犬族嫁からの期待のこもった視線が痛い。
これは他の嫁にも聞かないとならないな。
「キャリーの実家、カプリース領はどうなの?」
「私の実家は男爵領で惑星を1つ統治していますわ。
しかし気候が寒冷で赤道周辺しか住めない過酷な土地ですの」
ああ、赤道周辺以外は氷で覆われているんだっけ。
ただ、地球より大きいスーパーアースのため赤道周辺だけでも居住には問題がないという。
「帝国の技術なら惑星改造も出来そうなのに大変だな」
「惑星改造をするにはお金が全然足りませんわ」
たしか、それでも海洋資源が豊富で漁業が主な産業だったはずだ。
だが、漁業だけじゃ食うに困らなくても、惑星改造をするまではお金が溜まらないか。
むしろ赤道付近の陸地には平地が少なくて穀物生産に向かず輸入に頼っているんだっけか。
「いつかは穀物の実る温かい星にしたいね」
「はい♡」
あ、これ皇子として約束しちゃった感じになってないよね?
「マリーのグラウス領は、この前遠征で見てきたよ。
二つの衛星を行ったり来たりって面白いね」
マリーは僕グラウス領で活躍したのを知っているようで、嬉しそうに話す。
「先日は晶羅様に守っていただいてありがとうごさいます♡。
どうしても巨大ガス惑星からの反射と影で年2回住むのに適さない環境になるのです。
衛星が二つ無かったら、過酷な環境に耐えられなかったかもしれません」
たしか同じ軌道を周回している衛星の軌道が水平面で90度ずれているので、片方の衛星が過酷な夏か冬の時は、もう片方の衛星が快適な春か秋になるんだったか。
あ、衛星と言っても地球と同じぐらいの大きさがあるんだよね。
それを上手く使って民族の宇宙大移動で生活している。
産業はガス惑星からの重水素採掘だったか。
「でも、その巨大ガス惑星の資源で潤うんじゃない?」
「残念なことに採掘の仕事はありますが、重水素の権利は帝国が握っていて我々への割り当ては少なく儲かりません」
「そうだったのか。いつかはガス惑星を自分達のものにしたいね」
「はい♡」
あ、これも皇子としての約束じゃないんだからね?
それにしても獣人族たちはどの種族もあまり環境の良くない土地に追いやられているんだな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「お風呂が準備が出来ましたよ♡」
僕の膝の上から離れたと思ったら、いつのまにかジェーンがお風呂の用意をしてくれたようだ。
キラリ☆とキャリーの目が光る。マリーもモジモジしている。
3人とも何かを期待しているようだけど、一緒には入らないからね?
「旦那様、お先にどうぞ。私達は後から入ります」
「そうか。じゃあお言葉に甘えて先に入るよ」
(良かった。一緒に入るなんて言われなくて)
この時の僕は後という意味を完全に履き違えていた。
新居の風呂は大人数が使うことを想定して温泉地のような大浴場に改装してあった。
僕だけなら小さくてもいいんだけど、嫁が順番待ちとなるのは可愛そうだと思ったからだ。
最初はお試しで仮の嫁入りのはずだったので、牽制のために偽装結婚のアイドル嫁3人も同時に住み始めるはずだった。
そうなると小さな風呂では時間がもったいない。
それ故の大浴場だった。
「うーん。いいお湯だな」
僕はかけ湯で身体を洗うと大きな湯船に入った。
こんな大きな湯船を独占できるなんて贅沢な入浴だ。
実際、宇宙空間に浮いているアノイ要塞の水資源というのは、そこまで潤沢に使えるわけではない。
それが文字通り湯水のごとく湯船に張られている。
そういや、水道代って払っているんだっけ?
宇宙というと何でも循環濾過してピーも飲用水に変えるというし、ここもそうなのかな?
嫌なことを考えてしまった。
今は存分にお風呂を楽しもう。
その時、脱衣所から浴室へと入る入り口の戸が開いた。
「後から入って来ましたよ♡」
嫁3人がタオル一枚身に着けずに全裸で乱入して来た。
(後ってそういう意味じゃないだろ!)
揺れる6個の膨らみが眼福でありました。
下は見ないようにしましたとも。ええ。
「ぼ、僕はもう出るから!」
僕は逃げた。まだその覚悟は出来ていない。
だがジェーンがその高い身体能力で僕の腕を捕まえる。
「晶羅様、どちらへ行くんですか?」
ジェーンに後ろからがっつり抱き着かれた。
逃げられない。
強い力と、背中に当たる生の感覚のせいで。
僕はなし崩し的にそのまま混浴を強いられた。
僕が逃げないように誰か1人が必ず僕に抱き着いていた。
僕はされるがまま身体を嫁達に洗われた。
入浴した後、各々の部屋に戻り就寝する。
今度はさすがに寝室までは付いて来なかった。
助かった。
僕は自分の部屋に入ると元々使っていたシングルベッドで眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
朝目が覚めると右半身が重かった。
右腕に白い髪の頭が乗り、右脇腹に柔らかい感触の膨らみが押し付けられている。
僕の胸には腕が回されており、右太ももには脚が巻き付いている。
右側に顔を向けると美しいネコミミ少女が寝ていた。キャリーだ。
シングルベッドは狭く、完全に密着していた。
「まさか、やっちゃったのか?」
僕は朝のお勤めで元気な僕の僕に問いかける。記憶はない。
キャリーが目を覚ます。
「おはようございます♡ 晶羅様。
昨夜は「やめてー」先に寝ちゃうなんてズルいです♡」
「え?」
「はい?」
どうやら僕の貞操は守られたようだ。
ジェーンだったら……。考えないようにしよう。




