093 放浪編12 第6皇子軍設立
アノイ要塞の宇宙港に総勢約10000人の将兵が整列している。
「傾聴!」
小領地混成軍の司令ジョンの声が宇宙港に響き渡る。
ここは僕らがギルバート伯爵を迎えに来させられたあの宇宙港だ。
その上座が一段高くなっていて、アノイ要塞司令のコマンダー・サンダースと3軍の司令ノア、ジョン、ハンターが立っている。
そして壇上には僕も立たされている。
「コマンダー、どうぞ」
ジョンに促されコマンダー・サンダースが中央のマイクの前に立つ。
「諸君、楽にしたまえ」
その一言で将兵が休めのポーズをとる。
本気で楽にする者は一人もいない。
犬族を嫌っている猫族でさえ、場の空気というものは理解している。
コマンダー・サンダースはその様子をゆっくりと眺めた後、おもむろに話し出した。
「諸君には、我々3軍の今後について重大な決定を伝えなくてはならない」
その言葉が全ての将兵に行き届いたのを確認するかのように間を開ける。
「我々は、クソッタレなケイン第13皇子から、第6皇子に乗り換えることにした。
これはそれぞれの種族の領主による決定事項だ。
もう知らぬうちに地球人誘拐の片棒を担がされるのは終わりだ。
これからは第6皇子晶羅殿下が主だ。
この後、ケイン皇子の軍と戦うことになるだろう、諸君らの奮起に期待する。
晶羅殿下、お言葉を」
コマンダー・サンダースが僕に訓示を求めて来る。
何を言えばいいんだろうか。
領主が僕の下につくと決めたとはいえ、彼らが全て納得しているわけではないのだろう。
でもこれも戦力増強のため。
こうでもしないとケイン皇子との後継者争いであっという間に飲み込まれてしまう。
ケイン皇子の陰謀がギルバート伯爵逮捕により暴かれた。
ビギニ星系逃走撃は地球人誘拐のための茶番だった。
アノイ要塞の地球人は、その茶番の生き証人となってしまい命の危険に晒されている。
戦力差は歴然、事態が発覚したからには、ケイン皇子は僕らを生かしておかないだろう。
僕はマイクの前に立ち、言葉だけでなんとか獣人族のみんなを味方にしなければならなかった。
「アノイ要塞に集いしカプリース、グラウル、小領地混成軍の皆さん、帝国第6皇子の八重樫晶羅です。
僕は自然発生皇子だということらしいです。
僕の両親は遺伝子研究の専門家でした。
両親が亡くなった時、世間は僕と姉が9歳差の双子という不自然な生まれであることを持ちだして、バッシングして来ました。
両親が遺伝子研究のために9年の年月を空けて僕達双子をもうけたことが原因です。
実験体、化け物、そういった中傷を受けました」
僕の説明に獣人族のみんなに自分たちの境遇と同じだという感情が湧きだしたようだ。
最初は上の決めたことと、あまり真剣に聞くつもりのなかった様子の者たちも、耳を傾け始めている。
「僕はあなた方と同じ差別の被害者です。
だから僕にはあなた方に対する差別意識が全くありません。
あなた方は獣と呼ばれることに怒りを覚えるそうですが、獣のDNAを持つことをむしろ誇るべきだ。
現皇帝陛下の血筋には、あなた方により齎された研究の結果が導入されているそうです。
そのあなた方を差別することは皇帝陛下の血筋を差別するに等しい。
獣を差別用語にするのは、あなた方の心の持ちよう次第です。
獣人族であることを誇ろうではありませんか。
獣耳尻尾、地球人にとっては魅力的な要素です。
信じられないかもしれませんが、地球にはケモミミしっぽを付けたコスプレといわれる仮装をする人達がいます。
だからあなた方の姫様の嫁入りに、僕は仄かな喜びを感じていたぐらいです」
僕がケモナーだという告白は、獣人族たちに一気に親近感を沸かせた。
彼らの姫様が僕に嫁ぐという話も好意的に受け止められている様子だ。
最初は無かった方向で行こうとしていた嫁入りが、ここで効いて来るとは思いもしなかった。
「猫族と犬族は仲が悪いと聞きました。
これは悪い統治者のテクニックです。
虐げられているという不満を、ケイン皇子は猫族犬族をお互いに対立させて矛先を変えていたのです。
例えば、一方では犬族の前で猫族を優遇して見せる。その一方で猫族の前で犬族を優遇する。
なんで相手ばっかり贔屓を受けるんだという状況を、場所場所で一方的に使い分けるのです。
それにより統治者に向けられるべき不満を、同じ虐げられた立場同士に向けさせられたのです。
だから、同じ虐げられし立場で争うのではなく、虐げる奴らに抗おうじゃないですか!
僕が第6皇子であることは、先日ギルバート伯爵から不敬罪で訴えられて、裁判の最中に初めて知りました。
ケイン皇子にその事実を隠され罠にかけられ、僕がこの地位に気付かなければ、僕はギルバート伯爵の奴隷になっていたことでしょう。
なので今僕には自分を守る力すらありません。
いま僕は獣人族だけが頼りなのです。
皆さん、共に戦っていただけないでしょうか? お願い致します!」
僕は頭を下げる。
「「「「うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」
「「「「第6皇子軍万歳! アキラ! アキラ! アキラ!」」」」
歓声が上がる。とんでもない熱狂だ。
熱狂が次第にアキラコールになって、僕が獣人族の心を掴んだことがわかった。
獣人族のみんなには、どうやら同士いや主君として受け入れてもらえたようだ。
これで10000の艦を戦力に加える事ができた。
全て獣人族領主の私兵なので、そのまま第6皇子軍となる。
彼らの期待を裏切らないためには、帝国でそれなりの地位を確保し、みんなの地位や生活も引き上げないとならない。
帝国正規軍の艦隊は、皇子の継承争いにはノータッチだった。
アノイ星系防衛任務でしばらく駐留することになったが、星系防衛以外にはタッチしない。
それも近々に最寄りの駐屯惑星に帰る手筈だそうだ。
冷たいようだが、ケイン皇子側に付かないだけでも有難いと思おう。
もっと戦力を増強しなければならない。何か良い手は無いものか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
獣人族を従えた僕は、事務所社長室の応接セットで寛いでいた。
誘拐された地球人のみんなは僕の下に着くというより自衛のために戦ってくれるようだ。
戦闘員と非戦闘員に分けてRPを継続する感覚でやっていくことになった。
傭兵さんたちをタカヲ氏が纏めてくれて助かった。
彼らには戦いに参加する参加しないを好きに判断してもらう。
SFOの買取システムを維持したので、商売として普通に参加してくれることだろう。
僕は頭を悩ませていた。
ケイン皇子と敵対するということは、現在供給されている補給を経たれるということだった。
グラウル星系の重水素燃料、カプリース星系の魚介資源、レリック星系――小領地混成軍の星系――の穀物畜産資源が確保できたのは幸いだった。
各領主には、アノイ要塞にこのまま領地から補給を受けられるように手配してもらった。
この補給物資をケイン皇子の手の者から守らなければアノイ要塞はお終いだ。
今の体制では補給の護衛に割く戦力すら足りていない。
更なる戦力の増強が急務だ。
まだまだケイン皇子軍との戦力差は大きい。
「野良の宇宙艦を狩れるいい場所はないかな?」
つい独り言が出てしまう。
そんな独り言に愛さんはいつも丁寧に答えてくれる。
「野良宇宙艦の巣がありますが、攻略は危険なので次元跳躍門を管理して少数を撃破するのがせいぜいです」
「巣?」
それはダンジョン的なやつか?
「巨大要塞工場型の野良宇宙艦が、子を生むように野良宇宙艦を製造しているのです」
違った。旧帝国の遺産と言われている自動工場のことか。
しかし、手に入れられれば大きいぞ。
「へー。それを鹵獲したら戦力増強し放題だね」
「ご冗談を」
あまりに現実離れした話なのか、AIである愛さんにまで冗談扱いされてしまった。
ちょっとは本気なんだけどな。
「ちなみに、どこにあるの? 近いの?」
「次元跳躍門をくぐれば近いのですが、野良宇宙艦が溢れないように次元跳躍門を閉ざして管理されています。
いわば近くて遠いという認識です」
お、それなら次元跳躍門さえ開けられれば何艦か持ってきても大丈夫そうだな。
あわよくば巨大要塞工場ごと欲しいところだ。
「ふーん。どうすれば解除出来るの?」
「帝国本国の許可がいりますが、技術的には難しくありません」
「なるほど」
ならやっちゃってもいいかな。
戦力を無限に生み続ける巨大要塞工場なんて是非とも手に入れたいな。
「帝国本国の許可って、どうやって取ればいいの?」
「作戦計画と申請書の書式さえ整えれば審議してもらえます。
そこで許可が出るか出ないかということです」
案外簡単なんだな。ということは頻繁に次元跳躍門が開けられてるということなのかな?
まあ野良宇宙艦を資源と考えれば美味しい狩場だもんな。
なら利用しない手は無いな。
「作戦計画か。それはただの偵察でいいかな?
数艦ならいいけど巨大要塞工場と戦ってどうこうは出来ないからね」
「それで申請を出しておきます」
「ダメ元だしね。第6皇子だって書いといたほうがいいかな?」
「そうですね。そうします」
偵察で行って侵食弾でもぶち込んで来よう。
そのまま逃げて、次元跳躍門閉鎖。
しばらくしたら様子を見に行ってナーブクラックで服従させたらどうだろう?
何艦かなら簡単に狩れると思うんだ。




