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088 放浪編7 求婚者

「なんで馬車風? なんで嫁? なんで二人? 僕の意志は?」


 僕は大いに混乱していた。

意味がわからない。

帝国の文化なのか? 獣人の文化なのか?

どうして嫁が押しかけて来る?

どう対処するのが正解なの?


「嫁入りには馬車風車両を使うというのが最近の貴族界のトレンドとなっています。

有能な(ふね)(あるじ)、ましてや撃墜王(エース)の騎士爵様なら、将来性も抜群です。

貴族がこぞって娘を嫁がせ取り込もうとするのも当然でしょう。

帝国では一夫多妻が認められています。正室以外の妻ならば、そこまで重く考えることもありません。

そのため貴族からの婚姻の申し出は強引に行われるのが普通です」


 僕の(つぶや)きに、いつのまにか付いて来ていたサポートAIの有機端末である愛さんが真面目に答える。


「愛さん、断わる方法は?」


 なぜか愛さんが目を逸らす。

そこは禁則事項と言うところじゃないのか?

方法があるのに言いたくないってことか?


「そこはご自由に」


 騎士爵に叙爵されたばかりの立場の弱い僕に出来ると思ってるのか?

とりあえず事務所内で話を聞くしかないようだ。

ちょっと、そこで揉めないで!

猫族と犬族の仲が悪すぎるので、別々の会議室に待機してもらった。

こんな殺伐とした結婚生活なんて御免だ。

出来るなら、とっとと破談にしてしまおう。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



「何が何だかわからないので説明してもらえないかな?」


 会議室の一室に待機してもらっていたカプリース男爵令嬢キャロライナ嬢に話を聞く。


「改めて自己紹介いたします。(わたくし)、キャロライナ=ナル=カプリースと申します。

カプリース男爵家の二女になります。年齢は16です。

(わたくし)はカプリース男爵家の娘として晶羅あきら様と(えにし)を結ぶために嫁いで参りました♡」


「つまり、カプリース男爵家は僕と友好を結びたいということだよね?

何も婚姻関係を結ばなくても友好は誓えるよ。だから嫁は必要ない」


 僕がそう言うとキャロライナ嬢の表情が曇る。今にも泣きそうな顔になる。


(わたくし)では、お嫌なのですか?」


 嫌なわけじゃない。キャロライナ嬢は身長160cmの16歳。

白い髪を肩でそろえ、頭には白い毛の三角の猫耳が生えている。

お尻には同じく白くて長い尻尾。

スタイルはスレンダーだが、しなやかな体躯で出る所は出ている紛れも無い美少女だ。

リアル猫耳美少女だぞ。嫌なわけがない。


「嫌じゃないけど。僕はまだ15歳だし」


「なら帝国では成人ですから結婚出来ますわ」


 そうなのか。断わる口実が一つ無くなったな。


「うーん。でもまだ結婚は考えてないんだ。僕達まだ出会ったばかりだし」


「それならば、子種だけでもいただきたいのです♡」


「はいぃ?」


 何言ってるのこの子?

僕たち初対面だよね?

そんな好きでもない男の子種が欲しいの?

ちょっとその価値観は引くわ。


「優れた艦の持ち主は優れたDNAの持ち主なのです。

その優れたDNAを一族にもたらすのは貴族の娘の責務です。

未婚のシングルマザーでもかまわないので子種だけはください♡」


 キャロライナ嬢がとんでもないことを言い出す。

ここまで譲歩されて断ったら猫族を敵に回すことになるのかな?

友好を示すためには子種を寄越せって、僕なんかのDNA(そんなの)に女性の将来かけちゃっていいの?


「考えさせてくれ……」


 僕は退室して隣の会議室へ向かった。

こちらはグラウル男爵令嬢のマリアンナ嬢だ。


「改めて自己紹介いたします。(わたし)は、マリアンナ=ガル=グラウルと申します。

15歳です。グラウル男爵家の長女です。マリーと呼んでください♡」


 マリアンナ嬢は身長155cmの15歳。

茶色いふわふわの髪を背中まで伸ばし、頭の両脇に大きな耳が垂れている。

お尻にはふさふさの尻尾があり、ぶんぶんしている。

スタイルは痩せているでもなく太っているでもない、まさに理想的な体躯に大きな胸の紛れも無い美少女だ。


(わたし)はグラウル男爵家の娘として晶羅(あきら)様と永久(とわ)に結ばれに参りました♡」


「つまり、グラウル男爵家は僕と友好を結びたいということだよね?

何も婚姻関係を結ばなくても友好は誓えるよ。だから嫁は必要ない」


 僕がそう言うとマリアンナ嬢の表情が曇る。今にも泣きそうな顔になる。


(わたし)では、お嫌なのですか?」


 リアルもふもふ尻尾だぞ。嫌いなわけない。


「嫌じゃないけど。僕はまだ15歳だし」


「なら帝国では成人ですから結婚出来ます」


 やっぱり駄目か。


「でもまだ結婚は考えてないんだ。僕達まだ出会ったばかりだし」


「それならば……」


 マリアンナ嬢は口ごもり顔を赤らめる。そして意を決して恥ずかしそうに続けた。


「子種だけでもください……♡

未婚のシングルマザーでもかまわないので子種をください♡」


 完全にデジャヴだった。

貴族の娘としてそう教育されているんだろうな。


 さて困ったぞ。どっちか片方を受け入れるのは論外だ。片方の種族と険悪になる。

かと言って結婚するなんて、若い僕にはこれっぽっちも考えられない。

だがアノイ要塞の二大勢力に囲まれた状況で、その二大勢力からの嫁を断わる事が出来るのだろうか?

男爵って騎士爵より上の爵位だよね?

うちの娘に不満があんのかゴラァとか言われないかな?

うーん。ここは日本人お得意のあれで行くしか無いか。


 僕は二人を呼び出して告げた。


「猫族と犬族が険悪な状況で二人を嫁にするわけにはいかない。

さっきみたいに喧嘩されたら幸せな結婚生活にならないからね。

嫁とその実家同士が争うのを僕は耐えられない。

かと言ってどちらかを選んで肩入れすることは出来ないだろ?

なので嫁候補として受け入れて、今後に期待することにしたいんだ。

二人共仲良くやって欲しい。

仲良く出来ないならば、どちらも受け入れられないよ。僕の結論は以上だ」


「「わかりました……」」


 僕と嫁候補二人は共同生活をすることになった。

僕の住居は1DKなので改築することになるな。

倉庫部分に部屋を拡張して個室を増やす。

嫁入り前の娘さんと同じ部屋で寝るわけにはいかないからね。

それまでしばらく待ってもらう。

これぞ日本人伝統技、結論の先延ばしだ。

どうせ猫族と犬族が仲良くなんてできっこない。

それで破談という方向で。

子種は……。どうしよう。


 二人は馬車風車両で帰って行った。

その時、顔をひきつらせながら見送った僕の前に、もう一台の馬車風車両が走り込んで来た。


「もう一人来やがった……」

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