082 放浪編1 撤退
ステーションに帰還すると目の前の格納庫扉を開けたままにして外の様子を伺った。
いつのまにかレーダーと通信が妨害されていて外の様子がわからなくなっていたためだ。
と、その時、僕は目眩か頭痛にも似た不快な違和感を覚えた。
同時に目の前には次元跳躍門が見えていた。
次元跳躍門とステーションの間には岩礁宙域があったはずだ。
だが次元跳躍門の見える大きさからして、今のステーションの座標は0-0-M1だ。
おそらく、あの違和感は次元跳躍だ。
大型艦には次元跳躍装置があるということなので、ステーションがここまで次元跳躍したのだろう。
管制からの警告では、大規模跳躍をするはずだったが、失敗したのか?
よく見ると次元跳躍門が次第に大きくなって行く。
つまりステーションは次元跳躍門に向かっている。
「え? ビギニ星系から離れるつもりか? 超ハブ次元跳躍門を放置して?」
よほどの緊急事態だということになっているのだろうか。
だが、僕は見てしまった。ステーションに損傷も後方から敵艦隊など来ていないことも。
このままここを離れて連れ去られるしかないのか……。
「外の様子を知るために艦載機を飛ばすか?」
僕は艦載機を格納庫から出そうとする。
管制塔が機能していないので、進路がクリアーではないからゆっくりと進ませる。
その時、専用格納庫のハッチが閉まりだした。
慌てて艦載機を止める。慣性を殺すために軽く逆噴射もかける。
ハッチを開ける指示を出すもハッチは閉まってしまった。
どうやら閉じ込められてしまったようだ。
意図的なのか? 次元跳躍門通過のルールなのか? それはわからないが……。
しばらくすると、また目眩に似た違和感がした。
どうやら次元跳躍門をくぐったようだ。
突然、通信機から音声が流れる。
次元の狭間、亜空間に入ったことで、落ち着いたのか、ステーション行政府からの艦内放送だ。
『ステーションに滞在中のゲーマー、いや地球人の諸君、行政官のプリンスです。
先ほどステーションは敵の奇襲を受けました。
突然ステルス機能を搭載した大型のミサイルに襲われました。
次元跳躍門とは逆の方向からの奇襲だったので対応出来ませんでした。
その後、すぐに後方にも敵艦隊がいることに気付きました。
前からも大規模敵艦隊、後ろからも敵艦隊。逃げるしかありませんでした」
なるほど、そういう言い訳になるのね。
僕にはそれが嘘だとわかっていた。
外で真実を見ていたからね。
どやら、この中では僕と綾姫だけが真実を目にしたようだ。
しかし、プリンスはどっち側だ?
幻覚を見せられていた方か、見せていた方か?
「私はステーションを守るため緊急次元跳躍させようとしました。
ですが、損傷により短距離跳躍しか出来ませんでした。
そこで次元跳躍門を起動し、ステーションを次元跳躍させたというのが現状です』
プリンスは、自らの言葉が全員に浸透するのを待つかのように間をとる。
『申し訳ありません。
地球防との懸け橋である超ハブ次元跳躍門を放棄するということは、地球への帰還の道が閉ざされたということです。
ですが、ステーションが破壊あるいは占領されてしまっては、反撃も出来ません。
私は苦渋の決断で撤退せざるを得ませんでした。ですが必ず反撃し超ハブ次元跳躍門を奪還します。
それに皆さんのお力を是非ともお借りしたい。よろしくお願いします』
音声だけどプリンスが頭を下げているのが分かるような「よろしくお願いします」だった。
超ハブ次元跳躍門奪還となると大事だけど、超ハブ次元跳躍門を取り戻さなければ地球には戻れない。
どこに連れて行かれるのかは不安だけど、ステーションは修理が必要だという体だろう。
それが出来る場所となると、帝国の主要施設がある星ということになる。
あるいは、次元跳躍門を出た先でステーションを降りることになるかもしれない。
次のハブ次元跳躍門こそが、超ハブ次元跳躍門の次に狙われる次元跳躍門だろうからね。
そうなったらブラッシュリップスのみんなと離れ離れにならないように気をつけないと。
これ重要だぞ。
『跳躍先は惑星アノイのハブ次元跳躍門の予定です。到着後、今後の活動のご説明をします。
食料他の物資は行政府から提供させていただきます。
不幸中の幸いですが、物資は潤沢に存在しています。
亜空間では敵も襲って来れません。しばらくは自由にお過ごしください。
なお、SFOゲーマーの皆さまは3年契約でここに来ていた方々だと思います。
本来であれば期限あけで地球に戻れるはずだったのですが……。
このようなことで地球への帰還手段を失ってしまいました。
地位や職を失ってしまう方も出てくるかもしれません。
重ね重ねお詫び申し上げます。精一杯のお詫びは帝国よりさせていただきます』
「あ、3年で帰れるはずが無期限帰還不能か……」
プリンスの言葉に僕も大事なことに気がついた。
もう地球に帰れないかもしれないという不安は心の底に押し込める。
『社長、事務所に集合しよう。みんなも集まってくれ』
ステーションの通信が回復したということは、ステーションのシステムから独立してる専用艦の秘匿通信なら復旧しているだろう。
そう思って通信を送ったが、未だに通信不能だった。
さっきは敵の通信妨害だと思ったんだけどな。
亜空間では通信が出来ないのかな?
だがステーション内部であるなら使えて問題ないはず。
僕は多少の違和感を覚えていた。
「広域通信機起動、妨害解除。艦載機に繋げろ」
『艦載機。帰還せよ』
『R』
艦載機の電脳が答える。「R」は了解の意味だ。
「なるほど」
どうやらここで話されては都合の悪い人物がいるようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
亜空間の旅は外を見れるわけでもないので退屈なものだった。
僕達ブラッシュリップスメンバーは専用艦を降りて事務所に集まっていた。
こんな状況では模擬戦やライブをやってる場合じゃないからね。
幸いなことに内部の転送ポートは稼働していたため楽に集まることが出来た。
艦隊内通信は復旧している。亜空間は関係ないようだ。
やっぱり通信を妨害していたのはステーション側だ。なんのつもりなんだろう。
僕達、といってもブラッシュリップスメンバーに神澤社長とマネージャーの沙也加さんを含めた7人なんだけどね。
その僕達は社長室に集まっていた。
「次元跳躍門を抜けた先で何があるかわからないから、僕達はなるべく一緒に行動した方がいい」
「だな」「そうよね」「そだねー」「ん」「そうね」「はい」
僕が切り出すとみんなが頷いてくれた。
「おそらくステーションは修理という体で帝国中心部に行くという発表になるだろう。
本当の行先はわからないけどね。俺達はたぶん途中で降ろされる」
「僕もそうだと思う。持ち出せるものは船倉にしまっておいたほうがいい。大物は僕の専用格納庫まで運べば専用艦の次元格納庫に入れられるよ。僕も倉庫の中身は全て移しておいた」
神澤社長と僕がそう言うと、沙也加さんが不安を募らせる。
「食料供給は安心していいって言われたけど、少し備蓄した方がいいかもしれないと思うんです」
「確かに。行政府を全面的に信用しない方がいいかもな。保険として確保しておこう」
社長命令で保存食が調達されることになった。
取り越し苦労になったらなったでいいし。
ただ過剰に確保するとパニックが広がって買い占めを誘発する。そこは気をつけるべきだ。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
諸々の作業をしていると随分と時間が潰せた。
作業を終え僕達が事務所でまったりとしていると、また次元跳躍の違和感がした。
どうやら次元跳躍門を出たらしい。
ステーション内は密室なので、外の情報が全くない。
格納庫のハッチも開かないし、行政府の情報だけが頼りだ。
『行政府のプリンスです』
艦内放送が始まった。
僕達は艦を離れていたため腕輪から音声が流れている。
「あ、腕輪から仮想スクリーンが立ち上がって映像が出た」
綾姫の言葉に腕輪を見ると仮想スクリーンが立ち上がり、白い軍服のプリンスが映っている。
『惑星アノイに到着しました。皆様にはアノイ要塞へ移動していただきます。
要塞という名前ですが、ステーションの同型艦です。
そのアノイ要塞に地球人区画が設けられます。
そこへ皆様には移っていただくことになります。
遠征に行っていた方々もアノイ要塞に帰還してもらっています。
惑星アノイは帝国直轄領の惑星で、地上には帝国からの僅かな植民たちしか住んでいません。
基本的にはアノイ要塞の人員が、この星系のほぼ全ての住人です』
『アノイ要塞の地球人区画とこのステーションを、直通出来るように繋げますので、引っ越しをお願いします。
引っ越し期間は1週間を予定しております。
引っ越しが終了するまで、ステーションは動きませんので御安心ください。
住居と格納庫の割り振りは、艦隊単位で纏まれるように便宜を図りますのでご相談ください。
腕輪のデータをアノイ要塞の電脳に渡しましたので、腕輪による申請その他が機能しております。
各種情報も上げておりますので閲覧ください』
『地球の方々の立場は所謂難民になります。帝国も援助を惜しみません。
引っ越し完了後、行政府の者とステーションは修理のために帝都へと移動します。
必ず戻って来ます。その時は一緒に超ハブ次元跳躍門を奪還し地球に帰還しましょう』
プリンスがグッと拳を握って放送が終わった。
◇ ◇ ◇ ◆ ◆
僕達はブラッシュリップス艦隊+事務所で住居と格納庫を確保した。
所謂大艦隊の扱いだ。
シューティングドリームも隣の格納庫に入居できた。
神澤プロモーション・アノイ支店と各自の住居で大き目の区画がもらえた。
アノイ要塞に住所が出来たら、後の荷物は宇宙引越屋さんが運んでくれた。
作業員さんがネコミミ宇宙人だったのには驚いた。
アノイ要塞はケモミミ率が高いらしい。
引っ越しも滞り無く済み、いよいよ各自の専用艦をアノイ要塞に移すことになった。
僕はステーションの専用格納庫へ行き、専用艦のCICに入りパイロットシートに座る。
管制塔とコンタクトを取ると外部通信が回復していて発進許可が出た。
ハッチを開け専用艦を前進させる。
管制官から細かくコースの指示が出た。口調が強い。
『発進したらその場で直ぐに反転。ステーションの下を通ってアノイ要塞に向かえ』
なんだかステーションの被害を見せたくないかのようだ。
既に幻覚を切っているのでSFOゲーマーたちに見せたくないというところか。
どうせ僕はステーションに被害が無い事を知っているから隠しても無駄なのにね。
僕は管制官の指示通りに専用艦をゆっくり動かす。
そのままアノイ要塞の格納庫に入っていった。
僕はさっそく事務所のみんなと合流した。
このことをみんなに相談するためだ。
狙われているのは事務所の全員とシューティングドリーム。
彼女たちも巻き込んでしまったのかもしれないと、ちょっと後悔する。
今度の格納庫は艦隊で格納するため、巨大な格納庫となっている。
僕らの事務所関係は本人達の専用艦で合計7艦を格納する。
格納庫は円柱形で左舷を壁の方に向けて艦を泊める。
そこへチューブが繋がり乗り降りすることになる。
ただ、壁の全周を使っても場所が足りない。
そのため中央から桟橋が柱のように出ていて、そこにも停泊できるようになっている。
社長のポケット戦艦はそっちに泊まってもらった。
広さは2km級戦艦が各バースに泊められるぐらいある。
うちは菜穂艦が2kmで、紗綾艦が1.2kmある。
それらも十分泊められる広さを与えられたということだ。
新しい住処としては最高だろう。何らかの陰謀に巻き込まれている以外は……。




