080 アイドル編56 RPでライブ4
「なあ、晶羅、どうして俺はこんなどうしようもないライブを企画したんだ?」
社長が散々自分で推した”RPでのライブ”に首を傾げていた。
やっと元の社長に戻ったらしい。
「社長、ノリノリで『俺の歌を聞けー!』とか言ってたよ?」
「マジか!」
社長が頭を抱える。
「まあ、あそこでの行動は操られていたと見て間違いないと思う。
前日と翌日で社長の言っていることが変わったから、おかしいと思ってたんだよ」
「あの時は不思議とそれが最高の企画だと思えていたんだよな。
催眠術にかかるとこんな感じなのかもな」
確かに、催眠術でレモンが甘くなるとか、嫌いなものを食べられるようになるというのに似ているのかも。
催眠術が解けたら、レモンはすっぱくて食べられないし、嫌いなものは吐き出すほど嫌いとなる。
社長には、RPでライブをしようなんてことが、催眠が解けた今はまさにそんな感じの糞企画に思えるんだろう。
「確かに、僕の見た感じからも、ボーッと呆けた催眠状態っぽかったね。
そこまでするには、頭の中のナノマシンをハッキングされて、僕たちの脳に直接介入を受けたということだと思う。
幻覚含めて専用艦の電脳も支配下だったんだろう」
「晶羅への影響が比較的軽かったのは、専用艦の電脳がS型だったおかげか?」
ああ、そうかもしれない。
元々僕は頭を支配されてなかったっぽいし。
幻覚幻聴は全てCIC内の情報を書き換えられた結果っぽいからね。
「たぶんそう。
ナーブクラックで一気に幻覚が消えたからね」
「そうか。となると、今後のために対策をとらないと、また操られかねないな」
社長が言ってることは、僕も考えた。
ナーブクラックで強引に社長たちの専用艦の電脳とナノマシンはクリーニングしたけど、次また汚染されたら今度は味方を敵に見せられて同士討ちさせられかねない。
何か対策をするには、常に電脳に監視させるしかない。
そうなると専用のサブ電脳が欲しいところだ。
「対策用のサブ電脳を装備しようと思う。
ボルド星系で手に入れた戦艦の電脳がある。
あれを丸々対策に使おう」
「誰の艦に搭載する?」
「え? 社長でしょ?」
僕はマジマジと社長の顔を見てしまった。
社長は「冗談だろ?」というような顔をしている。
「今回、一番影響を受けたのが社長なんだから、社長から対策するのが当然だよ。
社長なら、指揮下にブラッシュリップスもシューティングドリームも置けるんだから。
全員が汚染されないように監視してよ」
社長は少し考え込むと頷いた。
「確かに、俺がやるのが一番効率が良さそうだ。
いざという時に晶羅のサポートも受けられる二段構えなのも利点だな」
「じゃあ、電脳の融合よろしくね。
あと、ブラッシュリップスとシューティングドリームのRP参加を取り下げといて。
僕と綾姫は独自ルートでRPに出るから。
取り下げれば菜穂さんの専用艦も強化出来るしね」
「わかった。早急に取り下げておく」
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「監察官のベイジェフです。
この度は捜査にご協力ありがとうございました」
神澤プロモーションに監察官のベイジェフ氏が訪ねて来た。
今回の事件の処分が下るのだそうだ。
罪状としては、管制無視になるのかな?
沙也加さんがベイジェフ氏を応接室に通す。
一応代表して僕と社長で応対する。
ほら、他のメンバーはあれだし……。
「はあ」
社長が間の抜けた相槌を打つ。
「この度の事件は、正体不明の敵艦隊の拿捕にも成功していますし、操られていた証言内容も全員一致しています。
更に、専用艦のログデータまでもが何者かの干渉により破壊されていましたので、あなた方に落ち度はなく反乱罪は適用されず処分無しの結論に至りました」
うわ、僕たちってそこまで大げさな罪の容疑者だったんだ!
「妥当な結論ですな。
しかし、真犯人である我々を操った者が捕まっていないことと、我々に何をするつもりだったかの究明が行われていません。
そこは今後どうなるのですか?」
おっと、社長が被害者の立場でゴリ押しをしだしたぞ。
こうなった時の社長は強い。
「ここからの話はあくまでも私個人の意見として聞いてください。
他言無用、オフレコでお願いしますよ?」
ベイジェフ氏は僕と社長を見廻し合意を得たと見て話し出した。
「真犯人はステーション行政府の関係者かと思われます。
神澤氏が操られ始めたのがステーション内部だったこと、これで外部からの干渉という説は否定されます。
次に拿捕された不明艦の数をなぜか行政府が8艦だと言い出したこと、所謂秘密の暴露ですね。
犯人しか知り得ない事実を口にしたということです。
そして、帝国でも一部の者しか使えない高度技術が使用されたこと、これは上位貴族の関与を示します」
また貴族か。
そういや、ボルド伯爵の所にも調査団が向かっていたはずだけど、処分はどうなったんだろう?
まさかボルド伯爵の仕返しか?
いや、ボルド伯爵の技術力じゃ無理な話だな。
そんな技術を持っている上位貴族で、ステーションやSFOに関わっているのは……。
まさか!
「まさかそれは……」
「ええ、SFOを作り上げた第13皇子かもしれません」
とんだ爆弾を放り込んで来たぞ、この人!
「皆さんは、くれぐれも身辺に気を付けてください。
私がここまで話したのは、どうやら皆さんが狙われていると感じたからです。
私はこれから帝都に戻り、技術的側面から真犯人の特定を行います。
それではお気をつけて」
ベイジェフ氏はそう言うと去って行った。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
宇宙空間を監察官ベイジェフの重巡洋艦が次元跳躍門へと向かい航行している。
彼が帝都へと戻るためだ。
その周囲に現れた正体不明の艦7艦。
そう、神澤たちを襲撃しようとして、晶羅に撃破されたあの艦だ。
こんなに早く修理されたということは、ステーションの工廠が係わったということだろうか?
それに実行犯の艦を何の咎も無く野放しにするとは、まさに異常事態だった。
ベイジェフの重巡洋艦に四方八方からビームが撃ち込まれる。
ステルス状態での攻撃にベイジェフの重巡洋艦のそこかしこから爆発が起こる。
ベイジェフの重巡洋艦は次元跳躍門の境界面へと沈むように墜落していった。
この後、帝都に監察官ベイジェフは不幸な事故にあったと報告された。




