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072 アイドル編48 遠征5

 僕が貨物船を調べさせて欲しいと言うと、ボルド伯爵は一瞬怯んだような表情を浮かべたが、何事も無かったかのように執事に向かい指示を出した。


「貨物船に案内してやれ。いいか、あそこ(・・・)の貨物船だぞ?」


 ボルド伯爵は何やら含みのある言い方をすると僕らに向き直った。


「執事のシェバスに付いていけ。好きなだけ貨物船を調べるがいい」


「ご配慮感謝しますわ。じっくり調べさせていただきます」


 菜穂(なほ)さんが退室の挨拶をする。

ボルド伯爵はしっしと手で追い払うかのようにするだけだった。

自信満々のボルド伯爵を執務室に残して僕らは貨物船格納庫へと向かった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



「これが襲われた貨物船です」


 執事のシェバスに連れられて行った先の格納庫には一隻の貨物船が鎮座していた。

桟橋からは簡易的なタラップが船体前部のコクピット入り口までかけられている。

その貨物船の船体にはレールガンによると思われる大きな穴が開いていた。

あれが野良宇宙戦艦の被害だということだろう。


「ご覧のように野良宇宙戦艦のレールガンによって撃たれております。

不幸中の幸いで空の格納庫を突き抜けたため航行に支障なくここへと逃げ帰ったという次第です」


 僕らはその穴を見て「やっぱりか」という感想しかなかった。

シェバスに聞こえないように皆と話す。


「あの破孔はせいぜい20cmレールガンだよね?」と僕。


「ん」と美優(みゆ)がすぐさま同意。


「やっぱり偽の被害貨物船を見せられたわね」と菜穂(なほ)さん。


 菜穂(なほ)さんはシェバスに向き合うと次の一手に出た。

まだ決定的な証拠が得られてないからね。


「コクピットに入ってもかまいません?」


「……どうぞ」


 シェバスは何をするつもりなのかと訝しむ様子だったが、断る理由もないのだろう、そのまま立ち入りを許可した。

シェバス立ち合いの元、菜穂(なほ)さんを先頭に僕たちは貨物船に乗り込んだ。

貨物船のコクピットは荷役作業員も乗り込むためか僕らの戦闘艦とは違って思いのほか広く、座席も10以上あった。

菜穂(なほ)さんが座席に積もった埃を指でつつと拭った。


「昨日撃たれたにしては埃っぽいわね」


 菜穂(なほ)さん、それ意地悪姑みたいで嫌味っぽいw


「そ、それは……。貨物船なんて男所帯なので掃除が行き届いていないだけでしょう」


 シェバスが苦しい言い訳をする。

どうせ何度も同じ貨物船を使いまわしたんだろう。

つまり詐欺の常習ということだな。

僕らみたいにコクピットまで調べに来るのは稀有だったのかな?


「それじゃ晶羅(きらら)ちゃんよろしく」


 菜穂(なほ)さんの指示で僕は腕輪の通信機を僕の専用艦へと繋げる。


「戦術兵器統合制御システム起動! この貨物船の電脳にリンク、情報を吸い出せ!」


 シェバスはポカンとしている。

僕が何をしているのか理解できないようだ。

僕は貨物船のコクピット内に仮想スクリーンを開いて貨物船のデータを表示させた。


「この貨物船が最後に航行したのは、この運航ログによれば3年前になってるね。

そしてこれが最後の航行時の映像だ」


 仮想スクリーン上には接近するボルド伯爵領軍の巡洋艦が映っている。

なぜボルド伯爵領軍とわかるかというと、艦体(ボディ)にボルド伯爵家のエンブレムがでかでかと描かれているからだ。

その巡洋艦が貨物船にレールガンを向けるといきなり発射した。

揺れるカメラ。これが先ほどの穴の正体だろう。


「どうしてそれが……」


 シェバスは貨物船の電脳がこのようなデータを持っているとは理解出来ていなかったようだ。

目の前に表示された野良宇宙戦艦でっち上げの証拠にあわあわとしている。

帝国は星間文明であるのにもかかわらず、それを扱っている人間の文明程度は地球の中世レベルだという。

このような簡単な捜査で足がつくなど理解の外だったのだろう。


「この映像も証拠としてSFOギルドに提出させてもらいますわ」


「だ、旦那様! 大変です! バレました! 騎士団を早く!」


 シェバスは慌ててボルド伯爵執務室の方へと駆けて行った。 

不可能依頼で帰してくれれば、もっと穏やかに解決出来たのに。

どうやらボルド伯爵側は僕らを処分してでも隠蔽工作に走るようだ。

さて、このままだと僕たちの身が危ない。

生身で伯爵の騎士団と戦うわけにはいかないからね。


「みんな専用艦に戻るよ。あの(コクピット)が一番安全だ」


 僕らも一斉に専用艦格納庫へと駆けた。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



 ボルド伯爵が動く前に僕らは専用艦のコクピットへと戻り、バベルの格納庫から脱出した。

ただし、次元跳躍門(ゲート)を使えないので帰ることが出来ない。


「僕が次元跳躍門(ゲート)をハッキングして制御を奪っちゃおうか?」


「それは駄目よ」


 僕の提案を菜穂(なほ)さんが却下する。


「それが帝国法に触れた場合、私たちの方が悪者にされてしまうかもしれないわ」


「それは困るけど、ボルド伯爵の領軍艦隊と戦うのも拙くない?」


 小スクリーンの中の菜穂(なほ)さんの顔が苦悩で歪む。


「まず話し合い。それが通じなくて攻撃されたら正当防衛で応戦しつつ次元跳躍門(ゲート)を奪うわ」


 つまり専守防衛で、こちらからは手を出さないということか。

帝国ともめないためには、それしかないのかもしれないな。


紗綾(さーや)がポチったせいで皆ごめんなさい!」


 紗綾(さーや)が沈痛な表情で謝罪する。

いや軽率だったとは思うけど、まさかギルドに紹介されたクエストにこんな酷いのがあるとは普通は思わないからね。

なんで今まで発覚しなかったかの方が不思議だよ。

まさかクエストを受注した艦隊は未帰還じゃないだろうな?


紗綾(さーや)のせいじゃないよ。これはSFOギルドの不始末で、ボルド伯爵の犯罪だよ」


「そうね。戻ったら徹底的に糾弾してやりましょう」


「ん」「そうよ!」


 僕たちの前にはボルド伯爵領軍100艦が緊急発進して来ていた。

その砲口は僕たちに向けられていた。

僕らは次元跳躍門(ゲート)を背にして100艦の艦隊と対峙することになった。


「皆は紗綾(さーや)が守る!」


 紗綾(さーや)の専用艦が盾を展開して僕たちの前に出る。

ボルド伯爵領軍の戦力は最大戦力でボルド伯爵の戦艦だ。

他はほぼ巡洋艦と突撃艦だ。

100:5。


「各自20艦やっつければ勝ちだよ。私らなら楽勝だよ」


 綾姫(あやめ)も血気に逸って好戦的なセリフを吐く。


「皆早まらないで。その前に交渉だけはしときましょう」


 菜穂(なほ)さんが諫めるも皆直ぐにも暴発しそうだ。

さて落としどころはどこになるのだろうか。

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