069 アイドル編45 遠征2
Bランクの討伐クエストを受注した僕たちに、ステーションのSFO行政府から次元跳躍門の通過許可が下りた。
目的地はベントレー星系にあるハブ次元跳躍門の下に紐づいたボルド星系の通常次元跳躍門だ。
ハブ次元跳躍門とハブ次元跳躍門の間は長距離跳躍となり、ハブ次元跳躍門から隣接した星系の通常次元跳躍門へは短距離跳躍となる。
ハブ次元跳躍門から通常次元跳躍門へ直接跳躍することは出来ず、ハブ次元跳躍門に跳躍した後に改めて通常次元跳躍門への跳躍が必要になる。
ハブ次元跳躍門への跳躍に2日、そこから通常次元跳躍門へ跳躍するのに1日で合計3日かかるらしい。
ベントレー星系は帝国第11皇子のランドルフ殿下の支配地で、ボルド星系の領主であるボルド伯爵は、若いランドルフ殿下の後見人といった位置付けだそうだ。
急に皇子や伯爵という貴人が出てきて、そういやSFOは星間帝国が運営する事業だったんだと再認識することになった。
余談だが、ここビギニ星系のハブ次元跳躍門は帝国に二つしかない銀河間を跳躍出来る超長距離次元跳躍門らしい。
銀河間ハブ次元跳躍門は限定的だが地球のある銀河系へと繋がっているため、奪取目的で敵に執拗に攻められているということだった。
もう一つの銀河間ハブ次元跳躍門は帝国の帝都星系にあるらしいが、詳細は不明だ。
「とりあえず、向こうでも食料は調達出来るだろうけど、遭難も考慮して1か月分の食料を各艦に搭載したわ。
また全員が2か月食べられるだけの食料も美優艦の格納庫に搭載してあるので、そこは心配しないで」
ハブ次元跳躍門の前に集まった僕たちに、菜穂さんが連絡事項を伝える。
ボルド星系には居住可能惑星があるそうで、食料供給に問題はないそうだ。(ただし有料)
軌道上には小惑星をくり貫き拡張した宇宙港兼宇宙ドックがあり、そこに滞在することになるそうで、住環境も確保できた。
これは神澤社長がギルド経由で話を付けた結果で、滞在の保証と討伐戦艦の所有権の確約をゲットして来てくれた。
さすがやり手のちょい悪オヤジだ。
討伐報酬は安いが野良戦艦を素材として手に入れられれば当初の目的は果たせる。
滞在が宇宙ドックとなるため、惑星上の領地にいるボルド伯爵のセクハラも受けなくて済みそうだ。
『ビギニゲートコントロール、こちらブラッシュリップス艦隊。
ボルドゲートへ向かうため、ベントレーゲートへの跳躍許可を願います』
菜穂さんが次元跳躍門コントロールへ跳躍許可を申請する。
『こちらビギニゲートコントロール。ステーション許可確認、次元跳躍門の使用を許可します』
『こちらブラッシュリップス艦隊、跳躍許可確認。これより次元跳躍門へ侵入します』
『こちらビギニゲートコントロール。亜空間境界面クリア。航海の安全を祈る』
『ありがとう』
「それじゃあ、出発するわよ。各員次元跳躍門へ突入せよ!」
菜穂さんの号令で僕たちは初めて宇宙艦で次元跳躍門をくぐる。
次元跳躍門には水面のように凪いだ境界面があり、そこへ飛び込むように専用艦たちが次々に突入していく。
その度に境界面が同心円状に波立ち、波紋が現れる。
合計5つの波紋を残し、僕たちは亜空間に突入した。
「何これ、凄~い」
紗綾が感動の声を上げる。
亜空間内には数々の丸い次元跳躍門の境界面が見えており、それぞれが他のハブ次元跳躍門の出口となっている。
近いものもあれば遠いものもある。
コクピットに座る僕の目の前には仮想スクリーンが展開し、目的地であるハブ次元跳躍門へと向かう航路がIR表示されている。
航路を逸脱し他の次元跳躍門へと行くことも出来るが、受け入れを許可されていない次元跳躍門へ向かっても、ロックされていてそこをくぐることは出来ない。
システムをクラックして無理やり通ることもまあ可能だが、それをやれば敵と認識されてその星系の守備艦隊から問答無用で総攻撃されて死ぬだろう。
まあ、そんなことをする意味がないからやらないけどね。
なので僕たちはIR表示された航路のナビゲーションに従ってハブ次元跳躍門へと向かっている。
ハブ次元跳躍門は亜空間内を2日移動した距離だそうだ。
航路に添って専用艦の推進器で進む。
しかし、その速度は推進器では発揮できるはずのない速度となり、流れる景色が光の線となり幻想的なものとなっている。
これが通常空間を通って向かうとなると、何百光年の距離だというのだから、次元跳躍門の有用性が理解できることだろう。
帝国はこの次元跳躍門によって発展した星間国家だということがわかる。
また、その次元跳躍門の有用性こそが争いの火種にもなっているわけだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
亜空間での2日間の道中を無事に過ごし、ハブ次元跳躍門に到着した。
艦の電脳が自動的にシグナルと艦IDを送り、境界面の枠にある光源が赤から緑に変わる。
光源の色を確認した僕らは、そのまま次元境界面に突入してベントレー星系に出る。
僕らはハブ次元跳躍門から出ると、その場に停止し敵意が無い事を示す。
間を置かず菜穂さんが代表して通信を入れた。
『ベントレーゲートコントロール、こちらブラッシュリップス艦隊です』
『ようこそブラッシュリップス艦隊。こちらベントレーゲートコントロール。来訪目的を申請願います』
『来訪目的はボルド星系へと討伐依頼に向かうための次元跳躍門使用です。
通常次元跳躍門への跳躍許可を願います』
『こちらベントレーゲートコントロール、申請並びに許可を確認。次元跳躍門を近隣モードに変更します。
変更完了。そのまま次元跳躍門が使用可能です』
『こちらブラッシュリップス艦隊、跳躍許可確認。これより次元跳躍門へ侵入します』
『こちらベントレーゲートコントロール。良い航海を』
『ありがとう』
僕らはベントレー星系にほんの数分トランジットして、艦首を巡らしUターンすると次元跳躍門へと突入した。
突入した先の亜空間は、先ほどの物と別で、丸い境界面は近隣星系へと続く5つしか存在していなかった。
仮想スクリーン上には、その1つに対して航路がIR表示されている。
僕らはそのまま次元跳躍門へと向かうのだった。
亜空間を1日航行すると、次元跳躍門に到着した。
艦の電脳が自動的にシグナルと艦IDを送り、境界面の枠にある光源が赤から緑に変わる。
当然のようにボルド星系に侵入すると、目の前にボルド星系の守備艦隊が待ち構えていた。
「「「「!」」」」
『こちらブラッシュリップス艦隊。討伐依頼で参りました!』
菜穂さんが慌てて通信を送る。
『こちらボルド伯爵だ。待っていたぞ。ブラッシュリップス!
トップアイドルの訪問を歓迎するぞ』
仮想スクリーンに開いた小窓では、小太りで下品な笑みを浮かべる豪華な服を着た中年男が舌なめずりをしていた。
やばい。セクハラ伯爵がわざわざ歓迎のために待ち構えていたようだ。
なんのためかって?
その予測に僕らはイヤーな気持ちになった。




