062 アイドル編38 エキシビションVP顛末
「社長、昨日のカベプロの不正行為、抗議してくれた?」
神澤プロモーションSFO本社にやって来た僕は、社長室に乗り込むと開口一番社長に訊く。
「いや、あれから配信を見ていた視聴者から猛抗議があったらしくて、俺の出る幕はなかったよ。
SFOの掟を破ったからには、SFO運営が何もしなかったら視聴者が黙っていないだろ。ほれ」
神澤社長が僕の目の前に仮想スクリーンを滑らせる。
ナノマシンがその行動を情報の受け渡しと判断し、僕の目の前に神澤社長が見ていた仮想スクリーンが表示される。
そこにはSFO側にしかアクセス権の無い掲示板と、地球側の視聴者が自由に書き込んでいる掲示板が表示されていた。
SFO側の掲示板は、SFOプレイヤーしか書き込めない。
その書き込みはセキュリティの関係で地球に開示出来ない情報をブロックしている。
地球側の視聴者が書き込んでいる掲示板はセキュリティの関係でSFOプレイヤーは書き込めない。
SFO側では情報統制のため、地球側の書き込みは閲覧しか出来ないようになっていた。
「情報統制か。なんで、こんなに面倒なことになっているんだろうね?」
「それはね」(と言いつつ菜穂さんが紅茶のカップを僕の前に置く)
「あ、どうも」
「昔、双方向で情報のやり取りをしていたら、隠語や暗号を使って八百長をしようとした連中がいたかららしいわよ。
VPは賭けの対象になっているから……。悪いことを思いつく人はいくらでもいるのよね」
僕がボソッと口に出した疑問に菜穂さんが紅茶を持って来たついでに説明してくれた。
あれか。公営ギャンブルの選手が八百長防止でレースの前の何日か隔離されるってやつ。
それを拡大して情報のやりとり自体を全面的に禁止したってことか。
閑話休題
SFO側の雑談掲示板には不正行為を糾弾する書き込みがあった。
どうやらSFOプレイヤーの間でも不正行為という認識で意見が統一されているようだ。
これなら掲示板を監視しているはずのSFO運営が既に動いているだろうな。
地球側の掲示板は……。祭りが発生していた。
どこで調べたのか、地球側のSFO事務局やカベプロの電話番号まで載っている。
所謂「電突」という現象が発生したもようだ。
「これ? 本物の電話番号?」
「みたいだな」
「こういった過度の叩きは、こっちにまで影響がありそうだよね?」
「ああ。向こうのファンが反撃するターゲットはブラッシュリップスだろうからな」
「うわー。どうすんのこれ?」
「……過激なファンはこっちにまでは来れないからな……。とりあえずこれを上げてみた」
神澤社長が示したのはブラッシュリップス公式HPだった。
そこに代表である神澤社長の名前でコメントが発表されていた。
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【昨日のエキシビションVPに関するお願い】
平素よりブラッシュリップスを応援いただきありがとうございます。
さて、昨日行われましたエキシビションVPですが、SFOアイドルという新たな道に進んだアイドル達が切磋琢磨し真剣に戦った素晴らしいものであったと自画自賛しております。
その過程で問題があったことは事実ですが、それによって勝敗にはなんら影響を与えておらず、SFOランカーを倒すに至ったアイドル達の頑張りに嘘はございません。
またVPでありますので撃沈されたアイドル達は怪我一つ追っていません。
シューティングドリームのようなライバルを迎えられたことは、私共にとっても非常に励みになり幸運なことです。
これからもSFOでアイドル対戦が行われるように願っています。
そのため、先方への過度な抗議等はなるべくお控えになっていただけると幸いです。
これからもブラッシュリップスを応援よろしくお願いします。
20××年8月〇日 神澤プロモーション代表取締役 神澤達也
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「ぶはっ!」
僕は思わず吹き出してしまった。
「社長、心にも無いこと言ってw」
「心外だな。丸っと俺の本心じゃないかw」
神澤社長がしれっと嘯く。
確かに神澤社長のマウントがチラチラ見えている気もする。
まあ、SFOアイドルトップはうちで決まりだからね。
「SFO運営の公式発表来たよ!」
紗綾が社長室に飛び込んで来る。
と同時に神澤社長の腕輪にもメールが届く。
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【準公式VPにおける不正行為に関する報告】
昨日行われたシューティングドリーム艦隊VSブラッシュリップス艦隊による準公式VPにおいて、オブザーバーによる自らの艦隊が有利になる情報提供があったことが確認されました。
これはSFO規約第7条「不当な介入の禁止」に違反する行為であると判断しました。
オブザーバー資格によるVPへの参加はギブアップ宣言のみが許されるものであり、アドバイスましてや対戦相手の秘匿された位置情報の提供は許されるものではありません。
当事者であるゲーマー名:山田PのVP参加資格無期限停止と、SFOランカーであるゲーマー名:リーリアをランク降格処分といたします。
これからも皆様にはルールを守ってSFOにご参加くださるようにお願いいたします。
SFO行政府代表 プリンス
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「プリンスってSFO行政府の代表だったんかい!
それは置いといて、厳しい処分だね」
「特にリーリア女史はトップ10ランカーだからな。
スポンサー契約とかいろいろ影響があるぞ」
うわー。それは高い一発になったな。
「SFOランカーなのに、なんで規約違反なんてしちゃったんだろうね?」
「おそらく思考を通さない反射神経で攻撃していたんだろうな。
光速のビームをあれだけ避けるんだから、思考の遅れが命取りになる」
「だから通信で指示を受けてそっちに美優艦を発見したから即撃ったと」
一流故にあの場で規約違反の通信が入るなんて頭に無かったんだろうな。
しかも極限状態での反射行動か。
単艦での突破作戦が得意なのはそんな理由なんだろうな。
コーチで呼ばれてアイドルさせられたのも、本人の意思じゃないのかもね。
この発表を受けてネットが沈静化するのかどうか、僕たちは静観するしかなかった。




