057 アイドル編33 シューティングドリーム
「やられた……。ここまでするとは……」
神澤プロモーションSFO本社に行くと、社長がとある配信映像を見て固まっていた。
「社長、どうしたのよ?」
僕は社長の見ているVR映像に同期して同じ映像を見る。
「ちょっと、これって!」
僕は思わず声を上げてしまった。
「ああ、大手事務所がうちのビジネスモデルを丸パクりしやがったんだ」
その配信映像は有名な大手芸能事務所の公式配信だった。
そこには僕たちと同じようにSFOに参戦したアイドルグループがアバターで歌い踊っていたのだ。
「これはシューティングドリームというアイドルグループだ。
元々地球でそこそこ売れていたグループを、大手事務所がSFOアイドルとしてぶち込んで来たんだよ」
神澤社長が悔しそうに吐き捨てる。
SFO初のアイドルグループはブラッシュリップスで間違いない。
だが、それをもって他のアイドルグループがSFOに参加してはいけないということではない。
「畜生。相手は大々的なプロモーションでブラッシュリップスの存在を上書きして掻き消そうとしている」
うーん。大手事務所ともなるとプロモーションの予算も半端ないんだろうな。
僕たちが地道にやって来たプロモーションなんてあっと言う間に影に追いやられてしまう。
「でも、僕たちみたいにガチで戦えるわけじゃないんでしょ?」
神澤社長は僕の問いかけに苦虫をかみつぶしたような顔で答える。
「それがSFOランカーの女性プレイヤーを傭兵に雇って勝ち進み艦隊ランクを上げているらしい。
すでにブラッシュリップスと同じDランクだそうだ」
SFOランカーとは個人戦績をポイント化することにより決まる順位付け、所謂SFOランクが上位の者のことを言う。
VPでの艦隊ランクのランクとは紛らわしいけど意味が違う。
その上位者がアイドルグループに混ざってアイドル達の底上げをしているということだった。
「うわー。そりゃないわ」
僕はドン引きした。自力でランクを上げるならまだ良いが、他力本願でランク上げとか。
それが大手事務所の金の力か……。
「最初はSFOランカーにコーチをさせてアイドル達を育てようとしたそうだ。
しかし、そこそこのレベルにしか育成できなかったらしい。
そこで女性コーチがそこそこ美人だったものだから、手っ取り早くアイドルに加入させて楽をしたということのようだ」
「それ、狡くない?」
「向こうからしたら、うちが晶羅をこっちでスカウトしたのも同じだと思ってるかもよ」
菜穂さんが話に割り込んで来た。
そう言われればそうか。
「それにしても、このSFOランカーさんって個の力で戦局を支配出来るぐらい強いんだね」
「ああ、移籍する前の艦隊はSクラスだったからな」
「社長、そんな人材がいたならこっちにスカウトしなさいよ」
「いや、そのコーチ30代だぞ?」
「はい?」
アイドルに年齢は関係ない。
本人がアイドルをしたいなら何歳がアイドルになっても構わない。
むしろ奨励してもいいだろう。
だけど現実問題として、女性アイドルに限っては30という年齢の壁は大きく、ファンも若いアイドルに乗り換えてしまうというのが実情だ。
ましてやずっと活動して来たアイドルが30代になっても続けるという場合と違い、デビューが30代というのは特例中の特例だった。
尤も、男が女性アイドルやってる僕なんかが言うことではないな……。
「アバターなら年齢は誤魔化せるからね~」
菜穂さんの言う通り、これも僕が前例を作っているわけか……。
まあ相手は知らないことだけど、こっちから文句を言えない弱みになっているのは間違いない。
「ぐぬぬ」
「悔しいね。頑張って育てた隙間産業を大手に乗っ取られるなんて……」
その時、神澤社長の腕輪が通信の受信を知らせる着信音を鳴らす。
「!」
その着信相手の情報を見た神澤社長が息を呑む。
「例の大手事務所からだ」
神澤社長は音声のみのオープンモードで着信に出る。
「神澤プロモーション神澤です」
『神澤さんですね? こちら草壁プロSFO支社長の山田といいます。
たまたまSFOでアイドル活動を始めましたので一度ご挨拶をと思いまして』
山田と名乗る男はぬけぬけとSFO参加をたまたまと言い張った。
「それはどうも」
神澤社長はムッとしながらも応対する。
『お互いSFOアイドルとしてSFOを盛り上げていきましょう』
お互いって、わざわざ他人の家に土足で踏み込んで来たくせに。
「ははは。お互いですか。こちらは唯一無二のSFOアイドルのつもりだったんですけどね」
神澤社長もイラっとしたのか、軽くジャブを打つ。
『いやいや、私どもは争うつもりはないんですよ。今度、合同ライブでもしましょう。
ああ、エキシビションでVPをしても良いですね』
山田は言葉とは裏腹に争うつもり満々だった。
例のSFO上位ランカーを使ってブラッシュリップスをボコボコにするつもりだ。
その様子を配信してSFOアイドルNo.1の地位を確立したいのだろう。
「是非ともお願いしたいですな」
売り言葉に買い言葉、社長が熱くなりすぎて応じてしまう。
通信の先からニヤリと笑う雰囲気が伝わってくる。
『うれしいですね。こちらでプランを詰めさせてもらいますね。
それではまたご連絡させていただきます』
通信が切れる。
「社長! 何やってんの!」
菜穂さんが社長に雷を落とす。
「だって、くやしかったんだもん」
子供だった。
「どうしよう晶羅」
社長、ノープランですか。
「まあ、ランカーさえ潰せば、後は烏合の衆なんでしょ?
曲がりなりにも、僕たちは実力でDランクなんだから、ランカー対策さえしっかりすれば勝てるよ」
「だよな? むしろ勝てばこっちの名を売るチャンスだ。
うはは。ピンチをチャンスに成り上がるパターンだな」
社長が無責任にも上機嫌になった。
さて、上位ランカーなら過去の戦績の配信映像が残っているはず。
徹底的に分析して絶対に勝ってやる。




