055 アイドル編31 綾姫お披露目模擬戦2
事務所から格納庫へ向かい、待機室から専用艦に乗り込む。
CICに入りパイロットシートに座るとナノマシンを通じて艦の電脳を経由してステーションの電脳とデータリンクを結ぶ。
電脳空間を仮想表示させてアイドルアバター1で潜る。
行き先は模擬戦会場。
僕の腕輪に登録されているIDとエントリー情報をキーにして意識せずに模擬戦会場に誘導されるため、迷うことなく今日の模擬戦会場に到着する。
模擬戦会場には既にメンバーのみんなが待っていた。
「おはよう(業界的挨拶)、みんな」
「「おはよう、晶羅」」
「おっす、晶羅っち」
「おー」
菜穂さん、綾姫、紗綾、美優が笑顔で挨拶してくれる。
「それじゃ、みんな揃ったね。今日は綾姫ちゃんのお披露目模擬戦だからね。接待プレイじゃないガチ勝負だよ。気合入れて勝ちに行くよ!」
菜穂さんは気合十分だ。
「「はい!」」
「はーい」
「おー」
皆も菜穂さんの激に答える。
今日の模擬戦はFクラス5艦の部だ。
僕はDクラスの資格があるんだけど、綾姫はまだGクラスだし、ブラッシュリップス艦隊としてはFクラスのランキングになっている。
今回は脱がせNG、賭けNGの公式戦なので安心だ。
特別大会で優勝すると2ランク上がる美味しい試合だ。
ただし参加艦隊が合計16艦隊によるトーナメントになる。
僕達の出番は抽選で第一試合に決まった。
相手艦隊はギガント艦隊。
菜穂さんが僕達のアイコンを掴んで参加艦艇選択画面に入れエントリーを済ます。
戦闘宙域は「ノーマル宙域」にランダム設定される。
「指揮は晶羅ちゃんに任せるわ」
「了解。ガチの殴り合いになるよ。試合開始と同時に回避運動、敵の初弾に注意するんだ。
こちらからもレールガンを撃って行くよ。
僕と美優は艦載機発進、敵後方へ向け隠密飛行させる。
攻撃のタイミングはおって指示する。
紗綾と美優は対宙監視。敵のミサイルを任意に迎撃しちゃって」
僕が開戦前指示を行っていると目の前に数字が現れカウントダウンが始まる。
「それじゃ、勝とうね」
「「了解!」」
「了」
「ん」
カウントゼロで目の前の風景が一変し、何も隔てるものがない宇宙空間の真っ只中に放り込まれた。
試合開始だ。
僕は直ぐにレーダーを立ち上げると戦術兵器統合制御システムを起動しメンバー皆の艦にデータリンクを繋げる。
射撃補正装置の狙撃モードを起動、全艦に情報を共有する。
菜穂艦、綾姫艦がレールガンを牽制で撃つ。
僕は30cm粒子ビーム砲で狙い牽制射撃をするが、まだ射程外なので被害は与えられない。
敵ギガント艦隊に回避させて撃つ暇を与えなければいい。
各艦、同時に回避運動を始める。僕の専用艦と美優艦は艦載機を放出する。
敵ギガント艦隊からのレールガン初弾が大きく外れていく。
こちらのレールガンも外れた。
ノーマル宙域でのレーダー連動射撃は正確無比なため、距離が詰まれば詰まるほど回避が難しくなっていく。
その前に何としてでも先に敵艦を撃破する必要がある。
そのために必要なのは長距離射撃能力だ。
こちらで長距離射撃が可能なのは菜穂艦の30cmレールガンと綾姫艦の20cmレールガンの2門のみ。
何としてでも敵艦を、しかも長距離射撃能力のある艦を撃破したい。
菜穂艦、綾姫艦がレールガンを撃つ。
僕の専用艦も敵艦に向け30cm粒子ビーム砲を牽制射撃し続ける。
その間に敵艦の詳細をレーダー及び光学観測で調べる。
「敵艦隊はポケット戦艦1巡洋艦4だ。ポケット戦艦が最大の脅威になる狙い撃て!」
術兵器統合制御システムを通じて脅威目標にマーキングをする。
菜穂艦、綾姫艦がその指示に従い、敵ポケット戦艦に向けてレールガンを撃つ。
紗綾艦が盾の傾斜を使い、敵ポケット戦艦のレールガンを逸らす。
僕の専用艦がミサイルを撃ち爆炎で一時的な煙幕を張る。
と同時に電子・量子妨害をかける。これは一瞬だけ効果があるが直ぐに対応される。
その一瞬だけレールガンの弾が逸れればいい。
敵ポケット戦艦に菜穂艦の30cmレールガンが命中、射撃が止まる。
「今だ! ポケット戦艦に連射! 沈めろ!」
菜穂艦、綾姫艦が敵ポケット戦艦に向けてレールガンを撃つ。
直撃弾多数。撃沈判定。
「続けて目標敵巡洋艦、各個に撃て!」
敵巡洋艦の長距離レールガンは僕の専用艦の30cm粒子ビーム砲で射撃を妨害され、撃ったとしても弾体を紗綾達のミサイルで撃墜されていた。
こうなるともう鴨打ちと同じだ。
敵巡洋艦はこちらに接近しないと有効弾が得られない状況になっている。
だが接近すると僕の専用艦の30cm粒子ビーム砲の射撃がある。
敵巡洋艦は高速回避しつつ接近するという全艦突撃をかけて来た。
だがそれは諸刃の剣だった。
僕の専用艦の30cm粒子ビーム砲の有効射程圏に入るからだ。
しかも外部反応炉のおかげで一般的なビーム砲よりエネルギーチャージ時間が短く連射が可能だ。
だがそれをギガント艦隊は知らない。
命中! 敵巡洋艦が爆沈する。
敵巡洋艦は単従陣を組み先頭艦を犠牲にしてでも後方の艦の突撃を成功させる作戦に出た。
3艦が綺麗に同じ回避行動を取っている。時々先頭艦の後ろから出て撃って来る。
「あ、これジ◯ット・ス◯リーム・アタックだ!」
見事だ。だがチェックメイトだ。
「艦載機、ミサイル攻撃開始!」
後方に回っていた艦載機に攻撃命令を出す。
敵艦隊後方からミサイルが放たれる。
近距離から発射されたミサイルに敵巡洋艦2艦が推進機を破壊される。
敵先頭艦も菜穂艦と綾姫艦のレールガンで葬られた。
『全艦撃破。試合終了。ブラッシュリップス艦隊の勝利です』
システム音声が響き、目の前の映像がエントリー会場に戻る。
勝利に湧く僕たち。そこに菜穂さんの悲鳴が上がる。
「ああっ! 綾姫ちゃんのお披露目なのに、グループの挨拶も綾姫ちゃんの自己紹介も出来てないわ!」
綾姫お披露目模擬戦なのに致命的なミスだ。
「次の模擬戦では、戦闘開始で自己紹介ぶっ込むよ!」
「「はい!」」
「はーい」
「おー」
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
僕達は次の試合の準備をする。
残弾数、ダメージは持ち越しのルールなので、残弾やダメージ情報を皆で共有する。
ダメージのある艦はなし。
残弾数は僕の専用艦がミサイル-2で残弾6発。『すてるす』用ミサイルが-2で残弾6発。
綾姫艦のレールガンが-9で残弾71発。
菜穂艦のレールガンが-6で残弾74発。
美優艦の艦載機用ミサイルが-4で残弾12発。
対宙迎撃をしていた紗綾艦の防宙ミサイルが-16で残弾64発。
美優艦の防宙ミサイルが-20で残弾60発。
僕と美優は『すてるす』と艦載機にミサイルを2発ずつ搭載し出撃準備をしておく。
僕はミサイル発射管に次発装填されていることを確認する。
しばしの休憩の後、2回戦に挑む。トーナメント勝ちあがりなので、また第一試合だ。
まあ全試合同時刻に戦闘開始なので、順番はあまり意味がないんだけどね。
次の対戦相手は妖精艦隊。そこ、英訳しないように。
これは珍しい。女子艦隊かもしれない。
菜穂さんが僕達のアイコンを掴んで参加艦艇選択画面に入れエントリーを済ます。
戦闘宙域は「岩礁宙域」にランダム設定される。
「懐かしいね。私達が初心者講習で一番最初にやった宙域と同じだね」
綾姫が遠い目をして懐かしがる。
だが綾姫、あれからまだ1ヶ月も経ってないぞ。
「指揮は晶羅ちゃんで継続。あの時もそうだったね。よろしく」
菜穂さんも初心者講習を懐かしがっている。
「菜穂さんまで。変なフラグは立てないでね。
岩礁宙域では隠れている敵を索敵撃破するか、待ち伏せて誘い込み撃破するかだ。
今回は後者だ。僕達は自己紹介をしないとならないからね」
僕が開戦前指示を行っていると目の前に数字が現れカウントダウンが始まる。
「それじゃ、行くよ」
「「了解!」」
「了」
「ん」
カウントゼロで目の前の風景が一変し、無数の岩塊が浮かぶ宙域に放り込まれた。
試合開始だ。そして自己紹介開始だ。
「こんにちわ♡ リーダーやってます、菜穂です♡」
「笑顔担当、紗綾で~す」
「無口担当、美優……」
「音響担当、晶羅でーす♡」
「新メンバーで武芸担当の綾姫だ。不束者だがよろしく頼む」
「「「「「せーの。5人揃ってブラッシュリップスです♡ よろしく♡(……)」」」」」
よし、綾姫の自己紹介クリアだ。キャラ作りで剣術キャラを演じている。
僕はどうかと思ったんだけど、社長の一押しだったのだ。
僕は試合開始と同時にレーダーと戦術兵器統合制御システムを起動し僚艦にデータリンクを繋げる。
索敵情報を全艦で共有し僕の専用艦と菜穂艦を狙撃モードで岩塊の隙間に隠す。
紗綾艦と美優艦も僕達の護衛として配置する。
囮役は綾姫艦と美優艦から発進した艦載機だ。
『すてるす』は遮蔽フィールドを張って敵艦の隠密索敵に向かわせる。
僕達の自己紹介が良い囮になって敵艦が寄って来てくればいいんだけど。
僕はデータリンクで繋がった『すてるす』、艦載機、綾姫艦の索敵情報を収集統合し敵艦を探す。
綾姫艦には目立ってもらうために、僕達の新曲(綾姫加入バージョン)をオープン回線で流しながら遊弋してもらう。
だが罠があからさま過ぎたのか敵艦隊が引っ掛からない。
「これは向こうも待ち伏せ作戦かもしれないな。敵の囮艦はいないのかな?」
「ぜんぜん見ないよ」
綾姫が報告する。
これは作戦を誤ったかな。と思った時、パッシブレーダーが反応する。
慌ててアクティブレーダーを起動すると無数の光点が映った。
「ミサイル多数! 紗綾美優迎撃ミサイル!」
「了」「ん」
「ちくしょう何処からだ?」
紗綾と美優が防宙ミサイルを発射してミサイルを迎撃する。
距離が近い。だが発射した艦が見えない。
ステルス艦? いや、ステルス艦なら重力異常の揺らぎが発生する。
僕は索敵システムに射撃補正装置をリンクして重力異常は常に監視している。
となると岩塊に隠れて接近した小型艦か。そうか!
「敵は艦載機だ。敵艦隊に空母がいる!」
僕はレーダーの精度を上げ敵艦載機を探す。
いた。去って行く敵艦載機にマルチロックオンをかける。
空母はステーションで実用化されたばかりの艦載機を運用するための新艦種だ。
まさか、その空母をこんなにも早く戦力化する金持ちがいるとは思わなかった。
ゲーマー侮りがたし。
僕は長砲身5cmレールガンで敵艦載機を狙い撃ちする。
艦載機なら通常弾で迎撃できる。
僕の豆鉄砲が唯一活躍できる相手だ。
敵の第一波攻撃は迎撃に成功した。直ぐにも敵の第二波攻撃に注意しなければならない。
僕は帰投する艦載機を見送る。わざと撃ち漏らしたやつだ。
「こっちも移動しよう。隠れ家が見つかったからには、ここは安全じゃない」
「了解♡」「了」「ん」
僕達は敵の第二波攻撃が来ることを想定して迎撃しやすく且つ隠れられる場所に移動した。
貴重な艦載機を減らしたからには、次は空母以外の敵艦がやって来るかもしれない。
相変わらず綾姫艦はスルーされている。
綾姫艦の索敵範囲にも敵艦は見つからない。
「そろそろかな? 敵艦載機にデータリンク! 再支配せよ」
僕は侵食弾で敵艦載機を一度支配していた。その敵艦載機を自由にして泳がせていたのだ。
その艦載機の帰還を見計らい位置情報を入手したというわけだ。
「よし、逆襲するよ。美優、艦載機をこの地点へ。僕も『すてるす』を向かわせる」
「ん」
僕は仮想画面の宇宙地図にマーキングして美優の通信画面に指で押して流す。
敵予想位置に『すてるす』と艦載機が向かう。
『すてるす』は遮蔽フィールドを展開しステルスモードで行く。
その後ろを単従陣で艦載機が付いて行く。
これで正面からは艦載機も見えないはずだ。
「敵艦隊発見!」
『すてるす』がの光学観測装置に敵艦隊が見える。
艦数3艦。空母2艦に防宙艦1艦。
空母は帰還した艦載機にミサイルを搭載中だ。
「空母格納庫にミサイルを撃ち込め!
美優の艦載機はミサイル発射後そのまま撤退。
『すてるす』はミサイル発射後、防宙艦にビームのオールレンジ攻撃!」
ミサイル6発が3発ずつに分かれ空母の格納庫に吸い込まれていく。
爆発、と同時に艦載機に搭載中だったミサイルに誘爆。空母は大爆発して沈んだ。
続けて防宙艦が撤退する艦載機に照準を合わせレーザーや迎撃ミサイルを撃ち始める。
ところが、撤退する艦載機に目がいっている防宙艦は見えない艦載機からビーム攻撃を受けてしまう。
軽巡洋艦ベースの防宙艦に軽巡洋艦の主砲相当の15cm粒子ビームが至近距離で突き刺さっていく。
あえなく防宙艦は撃破されてしまった。
「よし、3艦撃墜。美優もよくやったね」
「ん♡」
美優が静かに喜んでいる。
あまり笑わない美優の笑顔は貴重だった。
菜穂さんも微笑んでいる。
だが、残り2艦が行方不明だ。
おそらく、こっちに向かったのだろう。
今回、隠れて迎撃することを選んだ僕達は、極力レーダーを使っていなかった。
戦闘になれば使うが、待ち伏せ中は光学観測がメインになる。
あ、囮の綾姫艦は除外ね。
「晶羅ちゃん、下!」
全周監視をしていた菜穂さんが叫ぶ。
ちなみに僕達の通信は艦隊内秘匿通信で、これはレーザー通信だ。電波は出ない。
僕達がさっきまで隠れていた岩塊に敵艦2艦が接近中だった。
大きく迂回し僕達の戦闘平面の下方から垂直に向かって来る。
どうやら敵艦もレーダーを使っていない。
レーダー波が居場所を教えてしまうからだ。
僕がいま使える武装は30cm粒子ビーム砲だ。
発射の兆候で光を発するので、これは使えない。
唯一隠密性のある武器は菜穂さんの長砲身30cmレールガンだ。
だが艦を回頭しないとレールガンが撃てない。
回頭のスラスターの光は敵艦から見えてしまうだろう。
「それなら。これでいいじゃん」
敵艦の死角に入っている紗綾艦が、軽くスラスターを吹かすと菜穂艦の艦首に向かい、簡易腕に装着された盾で菜穂艦の艦首を殴った。
菜穂艦は重心点を起点に艦首が下に回転し始める。
その艦首が敵艦に向いたと同時に菜穂さんがレールガンを照準し撃つ。
撃ったと同時にスラスターを吹かして姿勢制御、照準を固定。次弾を撃つ。
こちらの位置を把握していなかった敵艦に菜穂さんの長射程を誇る長砲身30cmレールガンの弾体が当たる。
後は狙撃しまくりで2艦撃墜。僕達は勝った。
『全艦撃破。試合終了。ブラッシュリップス艦隊の勝利です』
システム音声が響き、目の前の映像がエントリー会場に戻る。
2回戦突破だ。予想と違って相手艦隊は女の子っぽくない戦い方だった。
もしかするとヲタ艦隊かもしれない。ガチだったのは専属なんだろう。
DDなら接待プレイも期待出来たのに。
「今回は綾姫が目立って良かったね」
「挨拶して、新曲を流しっぱなしでウロウロしただけで、全然活躍できなかったんですけど?」
僕の言葉に綾姫が何故か怒っていた。
「それがプロモーション活動よ?」
菜穂さんが素の表情で言うと綾姫が目に見えて落ち込んだ。




