046 アイドル編23 中衛戦2
ステーションを発進し、P2-P1-M9宙域に進出した。
ステーションからアステロイドベルトを抜け次元跳躍門に至る丁度真ん中ぐらいの宙域だ。
射撃補正装置を起動し、戦術兵器統合制御システムのデータリンクで、アヤメ艦と情報共有する。
ここは重力異常が顕著な宙域で長距離射撃の命中率が芳しくなさそうだ。
重力異常は次元跳躍門に近付くほど増えていく傾向がある。
その重力異常の分布が仮想画面いっぱいに表示されている。
「アヤメ、僕の左前方で防御姿勢で待機」
「了解」
僕と綾姫は盾を構えて前方防御の姿勢で敵艦を待つ。僕は盾を右持ちだ。
次元跳躍門を抜けてくる敵艦は亜空間から通常空間へ突入する際に、次元跳躍門表面のどの位置に出現するかを選ぶことが出来ない。
敵艦は次元跳躍門を抜けたその場で周辺の艦と小集団を形成し艦隊となる。
なので艦隊の艦種構成や艦数に偏りが出来る。
僕らが狙うのは、その中でも艦数が少ない艦隊だ。
重力異常で長距離射撃が制限されているのは敵艦も同じ。
なので前方視界を隔てるものが何もない空間でも待ち伏せという行為が出来る。
予めレーダーで敵艦隊の艦数を把握してターゲットを絞り、他の傭兵さんの艦と折り合いをつけてるつもりだ。
その前段階としての待ち伏せだ。
次元跳躍門から突入警報が発令された。
次元跳躍門のシステムに介入があり、敵艦が突入して来たという警報だ。
レーダーから敵艦の情報を得る。味方艦が多すぎて見辛い。
誤射の危険が無い味方はAR表示から外す。
戦場はまだ前衛艦隊の縄張りだが、敵は直ぐにでも此方まで到達するだろう。
僕はレーダー画面を見詰め、僕達に近い比較的艦数の少ない敵艦隊を仮想画面上でタッチ。
味方艦に対して攻撃の優先権を主張する。
僕はそのレーダー画面を綾姫の通信画面の方へ左手で流す。
「味方の傭兵さんからの異議は無し。攻撃優先権を得たよ。アヤメ、あの艦隊をやるよ」
「これね。前衛艦隊との戦闘で3艦減って2艦になってるね」
「『すてるす』を出す。3対2だ。大丈夫。作戦通りにやれるさ」
「うん。がんばる」
綾姫も覚悟を決めたようだ。
敵艦が接近して来る。
先行してくる敵艦の後ろにもう1艦が隠れている。
先行艦は巡洋艦クラス。もう直ぐビーム砲の射程圏内に入る。
残念なことに僕の専用艦が装備しているのはブラスターだ。
効果を発揮するためには、同一ポイントへ一定時間の照射が必要だという弱点がある。
長距離では狙い易いが、接近するとその照射を外され易くなり、あまり効果的じゃない。
そのため、この距離では取り回しの良くないがレールガンを撃つしかない。
「迎撃開始!」
僕の合図でアヤメ艦がビーム砲を敵巡洋艦に撃ち込む。
僕もレールガンを撃ち込む。
敵艦からもビームが届く。盾と耐ビームコーティングで耐えている。
「よしレールガンが当たってる。次弾侵食弾! 発射!」
侵食弾が敵巡洋艦の停滞フィールドを抜き敵巡洋艦の艦体に当たる。
侵食が広がり、敵巡洋艦が動きを止める。
目の前の仮想スクリーンにメッセージが出る。
『侵食完了。データリンク開始。乗っ取りますか?』
僕はNOアイコンを掴む。敵巡洋艦の識別信号が黄色になる。
侵食弾により敵巡洋艦の自由は奪った。あとは武装解除で鹵獲完了だ。
「よし、データリンクからエネルギー分配器の位置を把握する。アヤメ、ここだ」
僕がデータを通信画面の綾姫に放ると、綾姫の仮想画面の敵巡洋艦に的がAR表示される。
「アヤメ、後続艦に注意しつつ巡洋艦を始末して! 後続艦はこっちで対応する」
敵巡洋艦を向かって右から抜き去って敵の後続艦が現れる。
敵巡洋艦は浸食をうけコントロールを失い脱落する。
そこへアヤメ艦が対艦刀を展開して接近していく。
僕はレーダーと光学観測で敵の後続艦を調べる。
重力異常により確定できなかった艦種が判明する。
「戦艦だと!」
僕は思わず驚きの声を上げてしまった。判明した艦種は戦艦だったのだ。
距離を開けることで、上手く敵巡洋艦の後ろに隠れていたようだ。
「戦艦だって侵食すれば同じだ。撃たれる前に自由を奪えばいい」
アヤメは、まだ手が離せない。
しかし、向こうを放っておくのも危険だ。
いつ浸食を振り切って戦線に復帰するかわからない。
なので今はアヤメに援護は望めない。
僕は覚悟を決めると敵戦艦に侵食弾を連射で撃ち込む。直撃!
敵戦艦の停滞フィールドを貫き、艦体に侵食弾が辿り着く。しかし侵食が遅い。
おそらく戦艦の分厚い装甲が浸食を妨げているのだ。
敵戦艦がビームを発射する。
ビームは僕の専用艦の盾に当たるが、傾斜を付けた盾の表面の耐ビームコーティングを滑り後ろに逸れる。
続けてビームが来る。敵戦艦は大口径ビームを2門持っていた。
そのため次弾の発射が早い。
先ほどのビームで耐ビームコーティングの能力を失った盾が右腕ごと吹き飛ぶ。
だが、まだ侵食は終わらない。
僕は接近する戦艦の圧力に焦りを覚える。
「早く、早く! そうだ、すてるす! ビーム砲へミサイル発射!」
『すてるす』に敵戦艦のビーム砲を狙わせる。
隠れていた『ステルス』が戦艦の近距離からミサイルを発射。砲塔に直撃。敵戦艦の第一砲塔が吹き飛ぶ。
だが第二砲塔がビームを撃つ!
ビームが僕の専用艦の右舷を掠る。
艦体右舷の耐ビームコーティングが一度で駄目になる。
次をもらったら危ない!
専用艦から牽制でミサイルを2発撃つ。
「すてるす! 侵食弾発射!」
『すてるす』から侵食弾が発射され、敵戦艦の艦橋に吸い込まれる。
敵巡洋艦のエネルギー分配器を始末したアヤメ艦が援護に来る。
「アキラ!!」
綾姫の悲痛な叫びが聞こえる。
敵戦艦の第二砲塔が予備発射光で光り、ビーム砲が発射される……直前で侵食が完了した。
光を失う敵戦艦の第二砲塔。
目の前の仮想スクリーンにメッセージが出る。
『侵食完了。データリンク開始。乗っ取りますか?』
僕はNOアイコンを掴む。敵戦艦の識別信号が黄色になる。
僕はホッとしてデータリンクからエネルギー分配器の位置を調べようとした。
その刹那、いきなりCIC内の照明が赤くなり警報を発する。
『敵戦艦の電脳からハッキングを受けています。対抗手段は逆ハックして敵電脳を支配するのみです』
「わかった。提督コマンド。最上位命令。ナーブクラック、絶対服従発動!」
緊急事態なのでナーブクラックを発動した。
まだここは戦闘の終わっていない危険宙域なんだ。
このまま敵戦艦に煩わされている暇はない。
敵戦艦の識別信号が緑に変わる。
僕達はまた次元跳躍門の方向を監視しだした。




