040 アイドル編17 乙女の危機
SIDE:神澤 SFO本社にて
神澤プロモーションSFO本社会議室で俺は頭を抱えていた。
俺の目の前にはSFOでブラッシュリップスのマネージャーを任せている沙也加が泣き腫らした目で俯いていた。
「どうして相談もせずに個別デュエルを受けてしまったんだ」
「だって、個別デュエルの対戦相手を探しておいてくれって社長が……」
「そうは言ったが、正式契約するのは俺の許可を待ってもらわないと拙いだろ」
「だって、相手は若い女の子だったし、まさかあんな内容だったなんて……」
また沙也加が泣き出してしまった。
彼女はアイドルのマネージャーとして最悪のミスをしていた。
彼女が契約してきた個別デュエルは野球拳ルールだった。
あの悪名高き脱がせルールのエロ動画配信だ。
模擬戦ではアバターモードで映像配信するということが多々行われている。
アバターは所謂人形形態に武装を纏わせた、戦闘艦の擬人化ともいえるキャラクターだ。
そのアバターの見た目の方が受けが良い視聴層というものが存在し、アバターモードで配信出来るのもSFOの特徴といえた。
俺がSFOでアイドルのプロモーションをしようと考えたのも、アバターモードでアイドル本人たちが歌い戦う様子が表現できたからだ。
だが、そのアバターモードには徒花があった。
艦のダメージ表現としてアバターの装甲が破壊され、あたかも脱げるような表現になることに目をつけ、その脱衣ともいえる映像を売ろうと考えた連中が現れたのだ。
それが野球拳ルールだ。初期は自分たちだけの自作自演映像を配信していたが、最近は新人女性プレイヤーを騙し”素人もの”と称して映像配信していた。
その連中に沙也加が騙され契約して来てしまったのだ。
契約書によりキャンセルには違約条項が設定されていた。
それは個別デュエルの敗北宣言と同等の条件だった。
負けた場合のペナルティは相手が指定する装備の譲渡。
ようするにキャンセルは艦の装備を賭けた賭け試合の負けと同等とされていたのだ。
この契約さえ成立させてしまえば、奴らは対戦相手の装備を奪えるか、対戦相手を丸裸にし映像配信するか、どっちにしろ儲かるという詐欺的な契約だったのだ。
しかもこちらはアイドルグループが結成した艦隊だ。それが判っていてハメに来たことは間違いないだろう。
この契約のために新たに女性メンバーをスカウトし交渉役にするとか、まだ慣れていない新人マネージャーをターゲットにして契約に持ち込むなど計画性が高く悪質だった。
マネージャーの沙也加さんは、どうして彼女がSFOにいるのかと思うほどゲーム慣れをしていなかった。
あっという間に艦を損傷し、その修理もままならないほどに経済的にも困窮していた。
よくプロゲーマーになれたものだ。
そんな彼女はSFOにいる期間がそこそこあるにもかかわらず、新人が騙されるような詐欺話に引っかかって来たのだ。
真正のドジっ娘である。
◇◇◇◆
SIDE:アキラ 同SFO本社
神澤社長の緊急招集で僕達メンバーも事務所に集まってきた。
頭を抱えた神澤社長から今回の個別デュエル契約の事情と問題が説明された。
沙也加さんはずっと泣いている。
神妙な面持ちで神澤社長が方針を述べた。
「俺はペナルティを払ってでもキャンセルするのがブラッシュリップスのためだと思う」
僕はその言葉が信じられなかった。
それは僕がアイドルになるのを承諾するに至った重要な要素の一つが危機に晒されていたからだ。
「ちょっと待って。そうなると奪われるのは僕のGバレットだと思うよ。しかも、奪われるのはリアルな装備なんだから、それは困る」
装備を賭けた試合では、勝った側に負けた側の装備一覧が渡される。
そこに巷で話題のGバレットが載っていたら、間違いなく奪われるだろう。
奪われなかったとしても、持っていることがバラされてしまうだけで大打撃だ。
しかもGバレットによりアキラ=キララという身元バレまで含まれている。
それは僕にとって許容出来なかった。
「だが、例えアバターだとしても、アイドルとして全世界に裸を晒すわけにはいかないだろ」
神澤社長にも芸能事務所社長として許容できない矜持があった。
「なら、僕はアイドル辞めるよ。元々Gバレットの秘密を守るためのアイドル活動でもあるんだし」
「その場合は賞金の返還が必要になるんだがね」
「そうだった! なら僕は戦ってGバレットを守るよ」
神澤社長はまた頭を抱えてしまった。
菜穂さんが契約書類に目を走らせある項目を指摘する。
「ここ、勝利条件に敵旗艦の撃沈があるわ。敵艦隊を全滅させなくても旗艦さえ倒せば勝てるわよ」
ちなみに、ここで言う旗艦は僕の専用艦のような艦種としての旗艦ではなく、模擬戦艦隊の指揮担当という意味での旗艦だ。
フラッグルール。サバイバルゲームで相手のフラッグを奪ったら、たとえ最後の1人しか残っていなくても勝ちというのと同じイメージだ。
そもそも旗艦はフラッグシップだ。むしろサバイバルゲームの方が逆輸入で使っている気もする。
「相手艦隊は5艦で、こちらも艦数を合わせていいことになってるね。NPC艦を僕がコントロールすれば相手を驚かすことは出来そうだ」
「向こうがただのNPC艦だと思ってくれれば、戦力差で意表をつくことが出来るわね。勝てる可能性はあるわ」
僕の言葉に菜穂さんも勝ち筋が見えたようだ。
「取られるぐらいなら、最悪Gバレットを撃ち込んでやる!」
「だが、メンバーが下着姿にされそうになったら降伏するからな」
「その前に勝つために出来ることはやっておくべき」
いつも無口な美優がもっともなことを指摘する。
戦闘では防御担当なので脱がされるのが嫌なのだろう。
「そうね。社長、予算回してもらうわよ」
菜穂さんもがっつり武装強化するつもりのようだ。
こうして、どうせ取られるならギリギリで降伏しても同じだと、僕たちは戦うことに決定した。




