193 自由浮遊惑星編14 星を導くもの
side:エリュシオン星系 アキラ視点
『ニビル制御電脳、星を導くものを1名、コールドスリープから起こしてくれ。
今後のニビルの方針に決定権を持つ立場の人が良いな。
話せるようになったら会談を求める』
星を導くものを上手く言いくるめて、また銀河探査に向かってもらおう。
10億人のニビルの民をコールドスリープから起こす理由があるのなら、しばらくの準備の後に起こしてもいいだろう。
食糧を揃えるのに時間がかかるのは事実だし。
もしニビルの人工太陽が完全に直れば、ジェネシス・システムで復活した惑星ニビルでの食糧生産も可能だろう。
そこから供給してもいい。
惑星ニビルの居住施設は残念ながら残っていないけど、それも希望に沿う形で工場惑星に生産してもらう……いや、ニビルの外殻の工場には工場惑星クラスの何十倍もの生産能力があるはずだ。
そこの生産力を復活させて自給した方が良いかもしれない。
やることはいっぱいある。ニビルの民たちには目の前の仕事で他の事に目が行かないようにしてしまおう。
僕はそんな楽観的な気持ちで今後の計画を頭に浮かべていた。
この後、何が起こるのか気付きもしないで……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
side:ニビル外殻裏コールドスリープ区画 三人称視点
『皇帝陛下より最上位命令。星を導くもの1名を解凍し出頭させよ』
ニビル制御電脳からコールドスリープ000016区画の管理電脳に命令が下された。
この区画はニビル建造当時から乗り組んでいる古い帝国人が眠る区画だった。
ニビル制御電脳は、ヤエンガイス帝国現皇帝陛下に謁見を行うに足る充分な挌を持つ星を導くものとして、この区画に眠るオリジナル帝国人の1人を選んだ。
コールドスリープと言っても、単純に冷凍保存されているというわけではなかった。
このシステムは体温を下げることで人の代謝を下げ冬眠状態を作り出し、その状態を時間の流れが遅くなる遅延時空で包むことで長く維持するという方法が取られていた。
今、該当するコールドスリープ区画が同時に遅延時空から解放され、カプセルの中の人の体温を上げ代謝を戻し冬眠から目覚めさせようとしていた。
『コールドスリープ000016区画、個体名インハルト。解凍開始』
一糸纏わぬカプセルの中の人物の体温が上がり、心臓の鼓動と呼吸が通常レベルまで戻って来た。
彼の名はインハルト。
オリジナル帝国人でニビルに緊急事態が起きた時に眠りから強制的に目覚め、対応する任務を負っている星を導くものの最高位の人員、所謂ニビルの民の長だった。
「カハッ!」
インハルトが大きく息を吐き、目を覚ました。
彼の見た目は延命治療により20代の若さを保っていた。
インハルトはカプセルを覆うキャノピー状の蓋を開けると傍らのコンソールから情報を入手する。
「ニビル歴1204年。約束の日か。
現在地トライスター? なぜそんな僻地に?」
インハルトがコンソールを操作し、さらなる情報を得ようとした時、後頭部に強い衝撃を受けた。
「くっ! 誰だ……」
インハルトはそのまま昏倒してしまった。
インハルトの後ろには、この区画にいるはずがない人物が立っていた。
「ニビル歴1204年だと?
計画ではもっと早く起こされるはずではなかったのか?」
その人物が後ろを振り返ると、次々と彼の仲間がコールドスリープから目覚めだしていた。
仲間の1人が返答する。
「予定していた破壊工作に失敗したようですな。
どうやら長が目覚めるようなレベルの緊急事態には仲間の工作員が出来なかったのでしょう」
リーダーと目される男が、コンソールを操作し更なる情報を得る。
「トライスター星系か」
男がニヤリと笑う。
「俺たちは運が良い。
約束の日に約束の地に戻っていたら、この反乱も制圧されていたところだ」
「制御電脳を迂回する操作ルートは生きてますぜ」
部下の1人がニヤリと笑い返してリーダーに報告する。
リーダーはインハルトに用意されていた高位の乗組員を示す服を着ている。
「よし、インハルトの奴に出頭命令が出ている。
俺は奴に成りすまして相手を見定める。
利用できるなら利用して、駄目なら殺す。
お前らはニビルの武器管制を掌握し、いつでも戦えるようにしておけ」
リーダーが監視カメラの方に目を向け部下に問う。
「おい、俺たちは監視カメラに写ってないんだよな?」
「へい。このタグを付けていれば制御電脳には見えていません」
彼らの首にはネックレスに通したタグがぶら下がっていた。
どうやら、そのタグからのシグナルにより監視システムが見ている映像が虚像となるようにシステムが改変されているらしい。
これにより彼らはニビル内に居ない事になっていた。
「よし、俺のタグはインハルトに着けさせておく。
こいつにはまたカプセルでお寝んねさせてやろう。
たぶん二度と目を覚まさないだろうがな」
リーダーは大笑いするとインハルトの腕輪を奪い、インハルトを装ってアキラとの会談に向かうのだった。




