192 自由浮遊惑星編13 ニビル到着
side:エリュシオン星系 アキラ視点
爺やのポケット戦艦が超ハブ次元跳躍門の境界面に突入し、真・帝国の拠点へと去って行った。
タカ派の爺やにしてはポケット戦艦という小さな専用艦であることが不思議だったが、元々戦場でどうこうするというより帝都にて皇帝の側仕えをするのが仕事のため、立場上そこまで強力な戦闘力が必要になるわけではなく、連絡艇として使うにはポケット戦艦でも過剰だと言っているぐらいらしい。
爺やも今は楓と僕の教育係を自称しているため、いちいち小言が多くて困る。
僕なんか、まるで真皇帝の御子として認められていないのではないかという扱いを受けている。
尤も、僕が現帝国を平和裏に統合し帝国の実権を取り戻そうとしていることに、爺やは納得していない様子なので、それが態度に出ているのかもしれない。
なんとか真・帝国から見放されることなく協力していければいいんだけど……。
元々、僕は八重樫の義父母が遺伝子操作で生み出した御子なので、また造ればいいと思われているのかもしれない。
僕が真・帝国と接触したことで、僕のDNAは真・帝国にも渡ることになった。
今では僕のクローンなら簡単に造ることが出来るだろう。
真・帝国の言う事を聞かないなら、言う事を聞く御子を造り直そうとする可能性は無きにしも非ずだ。
姉貴と楓もY遺伝子以外は僕と同じDNAだし、”私が死んでも代わりはいるもの”状態だ。
しかし、ふたりは魂のDNAの違いにより御子とは認定されず、その再現が長年の課題となっていたことは八重樫の義父母から教えてもらっている。
まあクローンでは魂のDNAに不具合が出るらしいので、唯一の成功例の僕は簡単に切り捨てられるとは思っていないけどね。
その成功例を見捨てても構わないという状況にはならないように気を付けよう。
真・帝国の本物の帝国人にとっては僕と皇帝は=ではないんだから。
僕は爺やが次元跳躍門の境界面に消えていくのを見つめてホッと胸を撫で下した。
よし、これで爺やを厄介払い出来たぞ。
さっさとニビルを丸め込んで星系を去ってもらおう。
『こちら領主のアキラだ。エリュシオン管制に通達。
これより次元跳躍門裏100万kmの位置より直径20万kmの空間を立ち入り禁止とする。
あと数時間で直径10万kmの人工物が次元跳躍アウトする。
該当宙域の艦艇を退避させてくれ』
僕は仮想スクリーン上の星系図に立ち入り禁止をグラフィック表示で指定しエリュシオン管制にデータを送った。
エリュシオン管制はエリュシオン3の軌道上にある新型要塞艦にある。
そこからエリュシオン星系全域を次元レーダーが死角なく見守っていて、星系内で事故を起こすことのないように艦艇の動きを管理し制御している。
『こちらエリュシオン管制です。
アキラ様の識別コードを確認しました。
了解しました。該当宙域を立ち入り禁止に設定します。
エリュシオン管制の管制下にある艦艇全てに警告を発しました。
これより該当宙域からの艦艇の退避を管制いたします』
管制官から通信が入ると同時に共有している仮想スクリーンの星系図に艦艇の航路が設定され退避が始まった。
僕は仮想スクリーンに表示されている退避の様子を眺めながらニビルの到着を待った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
『警告! 次元レーダーに次元跳躍アウト反応。
重力振発生、立ち入り禁止宙域内です。
巨大質量次元跳躍アウトします』
エリュシオン管制からニビル次元跳躍アウトの警告が発せられた。
地球の直系の8倍という大質量の次元跳躍アウトに重力振が発生し星系を津波のように駆け巡った。
この世界の次元跳躍は次元跳躍アウト時に亜空間と空間の入れ替えが発生するので、例えその場に何らかの物体があっても衝突や物質の二重化による異常が発生することはない。
『続けて次元跳躍アウト反応。
要塞衛星固定軌道です』
どうやら帝都まで嫁たちを乗せて一緒に行った要塞衛星も無事に戻って来たようだ。
要塞衛星はエリュシオン3の固定軌道に直接次元跳躍アウトして来た。
そこは要塞衛星の定位置として宙域が固定されていて、元々立ち入り禁止になっているので安全は担保されている。
『ニビル制御電脳、聞こえるか?』
僕はニビル制御電脳に通信を送った。
これは星の守り人――ニビル統治委員会――が使っている真・帝国専用暗号回線ではない。
予めニビル制御電脳と打ち合わせておいた別の暗号による通信だ。
愚かにもニビル制御電脳に仕事をさせなかった星の守り人たちを抜きにして僕は直接ニビル制御電脳と話を通すことにしたのだ。
彼らを当てにしても、何も出来ないことは判ったからね。
ニビル制御電脳によると自動防衛システムが帝都を攻撃しなかったのは、たまたまであったらしい。
攻撃に対する限定的な反撃の設定になっていたからあれで済んだだけで、もし設定が違っていたらあのエネルギー砲が帝都に向けられていたかもしれないそうだ。
そして、僕がニビルに降下する時に星の守り人たちがやったことは、なんとニビルの防衛機構を全て機能停止するという暴挙だった。
これはデブリの衝突といった最低限の脅威からニビルを守る機能さえ停止した状態だったそうだ。
ニビル制御電脳は彼ら星の守り人にはニビルを守ることは出来ないと判断し、僕にニビルの制御権を委任してもらえるように頼んで来た。
長年誰もその権限を持つ者が現れない状態だったが、僕が権限を掌握したためやっと制御権を取り戻せたということらしい。
その間、あまりに杜撰な星の守り人たちの対応に歯がゆい思いをして来たそうだ。
さすが、旧帝国のオリジナルAI。人間臭いところがある。
早速防衛機構を再立ち上げし、僕の専用艦を味方として登録してくれた。
これで僕の専用艦と僕の指揮下にある全ての艦艇はニビルから味方と認識されることとなった。
あ、当然僕の命令がニビル制御電脳の上位に位置付けられるのは言うまでもない。
『聞こえます。陛下。
なんなりとお申し付けください』
『これからニビルは銀河探査を再開できる状態まで修理をする。
星の守り人たちにはニビルの制御を禁止させたい。
どうすればいい?』
『現在、ニビルの制御は我が行っております。
彼らの介入はエラーとしてキャンセル済みです』
また随分思い切ったことをしたもんだ。
これで星の守り人たちが帝国と戦争を始めるなんてことは無くなったな。
『となると、コールドスリープしている星を導くもの――オリジナルの帝国人――とやらと話す必要があるかな?
もし、彼らを起こすとして、僕と彼らではニビル制御電脳はどっちの命令を優先する?』
これで彼らが優先されるとなると、星を導くものを起こすわけにはいかない。
眠ったまま銀河探査の旅へ戻ってもらおう。
『それはもちろん陛下の命令が優先されます』
ん? そういや陛下って僕のことを言ってるのか?
確認しておくか。
『陛下とは誰のことだ?』
『ヤエンガイス帝国皇帝陛下たる貴方様のことです』
『え? 八重樫帝国?』
『ヤエンガイス帝国です。陛下』
うわー。こんなところで八重樫の苗字の秘密が判明したよ!
つまりニビル制御電脳は僕を皇帝だと認識しているということか。
これなら例え爺やが介入したとしても、僕の意を無視して現帝国と戦争状態になるということはないな。
それより、ニビルをそのまま僕の戦力とすることが出来てしまうぞ。
確かに爺やが言うとおり、ニビルは現帝国と一戦交えることが出来てしまう戦力だ。
運用は慎重にしなければならない。
それとコールドスリープしている人々が10億人いる。
彼らをどうするべきか、やはり星を導くものを起こすしかないな。
彼らと交渉するための設定は、帝国はエリュシオン星系に遷都していて、僕が皇帝だということでいいかな。




