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189 自由浮遊惑星編10 航星日誌

side:ニビル外殻構造物 アキラ視点


『事の次第を説明するために、コールドスリープをするに至った経緯と食糧事情の変遷を航星日誌を抜粋してお伝えします』


 ニビル制御電脳が航星日誌を読み上げ始める。


『航星日誌ニビル暦0483.0803。

超光速航行中においてダイソン球外殻に隕石が衝突した。

防壁(バリヤー)を貫き外殻が破損、大穴が空く。

惑星ニビルを照らしていた人工太陽が故障し、惑星ニビルの半球が常闇の状態になってしまった。

このような隕石は常に監視をし迎撃システムで処分していたはずなのに、なぜ見逃すことになったのか?

破壊活動の可能性を調査するようにニビル統治委員会に具申する』


 ここでのニビル暦とはニビルが帝都を離れた時を元年とした暦だそうだ。

ニビル統治委員会がニビルの民を統治し制御電脳はそのサポートをする役目だったようだ。

元々惑星ニビルは帝国本星系の第6惑星で岩石惑星の第7惑星を材料にダイソン球を建造し銀河探索の旅に出たのだそうだ。

銀河探索が主任務だが、有用な星系には次元跳躍門(ゲート)を設置し移民団を降下させ、帝国の版図を広げることも任務の一部だったという。

ニビルの民のほとんどは、その移民団であったそうだ。

その移民団の多くは世代を重ねた帝国民の子孫で、500年近い旅の間に増え続けた者達だった。

その長い年月が次第に過去の技術を失わせつつあったことに統治者であるニビル統治委員会は気付いていなかった。

その星系を渡り歩く旅の途中で意図せぬ事故に見舞われ、その事故からニビルの民は任務を全う出来ないほど衰退していく。


『航星日誌ニビル暦0483.0810。

外殻に開いた穴は修復されたが、人工太陽は半球全ブロックが壊れたままだった。

破壊された人工太陽の部品をブロックごと交換すればいいだけのはずが、修理をする度に被害が増え続けるという状況に陥っていた。

これは外殻内に侵入した敵対勢力を迎撃するための防衛施設が何らかの原因で爆発したせいだった。

明らかな破壊活動であるとニビル統治委員会に具申する。

ニビル統治委員会はニビルの民をコールドスリープさせ危機を乗り切る決断をした』


 人工太陽の修理をするためには交換部品の製造が必須だった。

しかし、半球全ての交換は想定しておらず、修理完了に数年を要すると試算されたのだという。

惑星ニビルに満遍なく人工太陽の光を当てられなければ、惑星ニビルでの食糧生産に致命的なダメージを負う。

半球とはいえ数年間も太陽光が当たらなければ、人工太陽が当たる側と当たらない側とで温度差が生じ、大気が当たらない側へと猛スピードで移動することになる。

その対流によって惑星ニビル全体の環境は大きなダメージを負うことになるのだ。

そこでニビル統治委員会は修理に必要な人員以外の民をコールドスリープで眠らせて食糧を節約するという手段に出たのだそうだ。


 半球に人工太陽が当たらないような環境では気象が安定せず、残る半球にも大きな被害が出ていただろう。

外殻にはニビルの民全てを収容するだけの設備があったため、惑星ニビルを無人化して人々は外殻へ生活の場を移していたらしい。

惑星ニビルの生態系を元に戻さなければ安定した食糧供給も出来ない。

ここから食糧危機が始まっているんだな。


『航星日誌ニビル暦0494.0624。

人工太陽の修理が暫定的に完了した。

疎らだがとりあえず惑星全体に最低限の光を与えることが出来るようになった。

しかし、惑星ニビルの生態系は大きなダメージを負っていた。

ニビル統治委員会により、人工太陽が生きていた側の半球で保護されていた生物や植物を、被害の出た半球に移植することが決定された。

作業員として二級市民の一部のコールドスリープを解く。

まだ全ての民をコールドスリープから起こすわけにはいかなかった』


 ようやく人工太陽の修理が終わったところで、ニビルの自然環境は既に破壊されており、半球の植物は枯れ、生物もほぼ死滅していたようだ。

その自然を復活させるために長い期間が必要となったということか。

作業員として二級市民をニビルに住まわせたようだが、二級市民だけで文明を維持できるのか?

それが数々の技術が失伝するきっかけになったような気がする。


『航星日誌ニビル暦0512.0313。

目的地の恒星系に到着する。

この星系の居住可能惑星には原始的な文明が存在していた。

ニビル統治委員会は、この惑星より食糧と労働力の調達を決定し、環境破壊によって荒野と化した大陸に彼らを移住させることにした。

二級市民たちにより連行された彼らを小柄な種族であったためピグミー族と名づけた』


 他星系の知的生命体に手を出したのか……。

何やら危険な匂いがするぞ。


『航星日誌ニビル暦0537.1204。

ピグミー族が生産する食糧の安定供給が見込まれたため、一部の民をコールドスリープから起こすことになった。

まずは帝国より連れて来た二級市民を全員起こし労働力とすることに決定し実行された。

二級市民は労働力として造られた民であるため、いくらでも補充可能だった』


 帝国より連れて来た二級市民って、後に帝国を簒奪した現帝国の同族だよね?

え? 造られた民? そういやニアヒュームも擬人(・・)と言ってなかったか?

もしかして隕石衝突の破壊工作というのも……。


『航星日誌ニビル暦0538.0408。

コールドスリープ施設で破壊工作が発生した。

ニビルの民2億人が犠牲となった。

間違いない。破壊工作を行なっているのは二級市民の連中だ。

この時、ニビル統治委員会のメンバーも多く亡くなった。

早く何とかしないと。

この緊急事態に我には独自に動く権限が与えられていないことがもどかしい』


 ニビル統治委員会のメンバーは定期的にコールドスリープから目覚め、統治の方針を合議で決定していたらしい。

コールドスリープに入るのは寿命を延ばすためでもあって欠かせなかったのだろう。

その無防備な所を二級市民に狙われた。

元々破壊工作が疑われいたのに、ほとんど対策を行なっていなかったツケが回って来た形だな。

それと電脳は自ら破壊工作を止めたり二級市民を排除しるような権限を持っていいなかったため、警告のみしか与えられなかったようだ。

思った以上にニビル統治委員会の権限が大きそうだ。


『航星日誌ニビル暦0538.0416。

腕輪のデータによる全二級市民の行動ログの精査が終わり、首謀者並びに協力者が発覚した。

ニビル統治委員会は彼らを逮捕、全員を処刑した』


 腕輪のデータか。僕も気をつけないといけないな。

幸い、現在は便利機能だけ残して盗聴機能やログ機能は潰してある。

おそらく現帝国では腕輪の機能を書き換えるなんて芸当は僕のような地球人以外思いつかないし出来ないはずだ。


『航星日誌ニビル暦0545.0401。

満を持してコールドスリープを解く日を迎えた。

事故から62年が経ったが、惑星ニビルの無事だった半球の都市は未だ機能していた。

食糧さえ安定供給出来れば、また以前のように生活することが出来るはずだ』


『航星日誌ニビル暦0545.0516。

疫病が発生した。

ピグミー族が持ち込んだ風土病のようで、感染から間もなくニビルの民は次々に亡くなって行った。

外部から生物を持ち込む時、検疫を念入りに行うのは当然だ。

どうしてこうなった?』


 雑務仕事を叛乱する気満々の二級市民に任せるから、防疫の手を抜かれたんだろ。

実務を担当した彼らが疫病の感染で死ななかったのは、自分達だけ対策をしていたからだろうか?

それとも造られた民だから思った以上に耐性があったのか?


『航星日誌ニビル暦0545.0604。

原因が食糧だと判明した。

全ての食物、つまり帝国産の動植物から製造された食物までが汚染されていた。

寿命を永らえるためコールドスリープで眠っている者以外の全ての民が感染者だ。

ニビル統治委員会は対策が確立するまで全ての民をコールドスリープで保管することに決定した』


 どうやら食物からの経口感染ということか。

だから二級市民は感染を防ぐことが出来たんだな。

簡単なことだ。惑星ニビルで生産した食糧を食べなければいい。

二級市民だからこそ合成食糧でも食べていたんだろう。


『航星日誌ニビル暦0547.0130。

疫病の治療方法が確立した。

しかし治療したとしても致死率は50%を超える。

コールドスリープ状態で治療薬が投入された。

だが惑星ニビルの生態系は汚染されたままだ。

ニビルの民は住む大地と食糧供給地を永久に失ったのだ』


『航星日誌ニビル暦0550.0101。

ニビル統治委員会が帝都への帰還を決定した。

ほとんどの住民が長期のコールドスリープに入ることと決定し帝都へ帰還後目覚める事となった。

ニビルの運営は星の守り人と名づけた信用のおけるスタッフに代々任せることとなった。

反乱者に制御電脳が悪用されることを恐れるあまり星の守り人の権限を上げ、制御電脳の裁量が制限されることになった。

惑星ニビルは病原体を消滅させるため全土が焼却処理されることとなり即日実行された』


『その後、途中立ち寄った恒星系で食糧を調達出来た時のみコールドスリープを解除し旅を続けて来ました。

移民出来る惑星には移民を送り、移民出来ない者達はコールドスリープに入り帝都に帰れる日を夢見ていました』


『それで旧帝都に付いた途端にコールドスリープを解除するように設定されていたんだね。

確かに食料調達は可能だろうけど迂闊だったな』


『はい』


『星の守り人達が、長期に渡る世代交代で機能していないことは把握出来てなかったの?』


『把握していましたが、彼らに接触する手段も失われていまして……。

ニビル統治委員会からの命令により身動き取れなくなっておりました』


『そこでやっと僕が命令を解除して動けるようになったというわけか』


『ニビル統治委員会も世代を重ねて、どの命令がどのような結果をもたらすかすら理解出来なくなっていたのです』


 制御電脳への裁量制限が何をもたらすのかわからないまま命令したことが致命的だったんだな。

これなら、もう星の守り人だ星を導く者だなんて通さなくても制御電脳に対応してもらえばいい。


『移動先を変更出来る?』


『任せて下さい』


『なら、ここ(エリュシオン星系の座標を送る)へ行ってもらえるか?

今はそっちが遷都先()の帝都だから』


『トライスター星系ですか。了解しました』


 お、旧帝国ではトライスター星系と呼ばれていたのか。


『それとピグミー族は生きてるの?』


『いいえ。惑星ニビル全土は焼却処理され生物の居ない不毛の大地となっています』


 感染源だろうけど、処分しちゃったのか……。

二級市民たちを使い捨てぐらいに思っているようだし、その傲慢が反乱を招いたのかもしれないな……。


『そうか……。彼らも助けてあげられただろうに……。

ならジェネシス・システムで惑星改造してもいいよね?』


『その手がありましたか!』


 僕は次元格納庫からジェネシス・システムを取り出す。

次元干渉で次元格納庫には入れられなかったジェネシス・システムだが、次元格納庫がSS型になったおかげで格納出来るようになった。

まあ、いま現在見えている巡洋艦型の専用艦――本体の外部ユニットという扱い――としては、次元格納庫はS型のままなんだけど、S型の中には本体のSS型があるという訳の分からない状態になっている。

そのSS型にはジェネシス・システムが入れられるのだ。

それをS型を通じて出し入れが出来るから訳が分からなくなる。

まあ、使えるんだからいいだろと惑星ニビルに向けてジェネシス・システムを発射した。

設定は食糧供給惑星。これで生態系がリセットされ惑星が蘇るだろう。

後はまた銀河探索の旅へと送り出してやれば、現帝国に帝国が奪われたとは気づかずに争うことは無いだろう。

ああ、そうか人工太陽も完全に修理してやる必要があるな。

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