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186 自由浮遊惑星編7 接触

side:帝都外縁 自由浮遊惑星近郊宙域 アキラ視点


 自由浮遊惑星が現帝国ではなく簒奪される前の現帝国で言う旧帝国、(かえで)達末裔が言う真・帝国の関係者だということが発覚した。

彼らがいつ帝国を離れたのか、それは真・帝国専用暗号回線を使用していることからある程度の推測が成立した。

真・帝国専用暗号回線は、所謂旧帝国が使っていた秘匿回線の使い回しだ。

現帝国ではその旧帝国の暗号を破ることが出来ず、専用回線を再利用もしていなかった。

そのため真・帝国では対帝国の秘匿回線として活用しており、僕も真・帝国との交信用に使用を許され暗号コードも知っていたというわけだ。

その真・帝国専用暗号回線を古い暗号形式で使って来たからには、自由浮遊惑星の連中は真・帝国関係者どころか滅ぶ前の帝国分流そのものかもしれないのだ。

つまり、自由浮遊惑星側に現帝国が旧帝国を滅ぼし簒奪した張本人と知られれば、泥沼の戦争に突入してしまうだろう。

逆に今の帝国に自由浮遊惑星が旧帝国の者だと知られれば、同様に戦争になってしまう。


 そこで僕の立場なんだが、将来的には真・帝国の再興を目指すのは当然なんだが、その過程で現帝国の人々を滅ぼすような考えは持っていない。

ゆるやかに融合して現帝国を真・帝国へと変えていく、或は現帝国が持っている真・帝国が必要としている何か――所謂秘宝――を返してもらう。

それさえ返してもらえば、この銀河に星はいくらでもある。争わなくても住み分けることが出来るはずだ。

争う理由が現帝国による真・帝国人への攻撃ならやめさせる。

奪った大事な物は返してもらう。

僕の子孫が皇帝になるという道もある。僕の子供は真・帝国と現帝国2つの血を繋ぐ者となるはずだからね。


 だが、そんな話は昨日今日に始めようというプロジェクト(もの)ではない。

まだ子供も作ってないわけだし……。いや、積極的なアプローチは受け続けてるけど……。

それなのに、いま目の前には真・帝国と現帝国とが戦争に突入しかねない状況がある。

双方がお互いに正体に気付かないまま自由浮遊惑星を(かえで)達の元へ向かわせられないだろうか?

僕が間に入って双方を騙すしかないのか……。


 ならば、まずは自由浮遊惑星側の正体と訪問目的を探ってみるか。

そして、その目的を叶えてあげて他所へ行ってもらおう。

現帝国には上手く追い払ったと言って惚けてしまおう。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



『僕は帝国の血を継ぐ者です。

状況を理解出来ない馬鹿者の無礼をお詫びします。

あなた達は帝国から分かれし末裔なのですか?

失伝している事項もあるため、どう対応すれば良いのかがわかりません』


 僕は慎重に言葉を選んで問いかけた。

《帝国の血を継ぐ者》というのは、あくまでも帝国の血であって皇帝の血とは言わないための言葉選びだ。

もし彼らが皇帝と仲違いして離れて行った者達ならば、皇帝の子孫だと語るのは危険だ。

彼らに《帝国から分かれし末裔》かと聞いたのは、彼らが延命措置を受けた帝国人そのものなのか子孫なのか、そして立場を分かつ存在なのかを問うものだ。

また別れた理由がわかればという期待も込めている。

それによって、向こうにもいろいろ都合の悪いことがあれば、こっちからも騙しやすいかもしれないからね。


 事実、彼らは真・帝国専用暗号回線のみで接触し、通常回線を使用する素振りが無い。

言語が同じなのだから平文で通信を試みれば現帝国とも接触可能なのに、現帝国側の通信を傍受することさえもしていないようだ。

これが、何らかの理由で暗号回線のみでの接触に限定しているのか、それとも技術的物理的にそれしか使えないのかは不明だ。

僕は彼らが幾代も世代を重ねたせいで、与えられた高度な技術しか使えなくなっている可能性の方を頭に浮かべてしまっていた。

それが彼らの単純な技術も使わない不自然な行動の理由に思えたからだ。


『我らはニビルの民です。1200年前に帝国より分かれ宇宙に旅立ち帝国の版図を広げる任に就いていました。

我らはその子孫にあたります。(いにしえ)の契約により帝国に物資の補給を要請いたします』


 古の契約? そんなものこちらは知らない。

帝国データベースを検索してもそんな情報は残ってなく、おそらく簒奪のどさくさで失伝しているのだろう。

帝国データベースは、旧帝国のデータベースを基本としてそのまま現帝国が使用しているシステムだ。

現帝国が把握していない情報でも基本的に載っているし、僕の皇子という立場ならアクセス出来ない情報でもないはずだ。

これは拙い。古の契約の詳細を把握してないどころか、ニビル側が要求するものを現帝国が用意出来るのだろうか?

惑星規模のしかも長年銀河を渡るための物資、さらに失われた技術など、こちらで用意出来ないものは多々あるだろう。

それに失伝している契約をゴリ押しされても、その真偽を判断する材料がそもそも無い。


『こちらに伝わる契約と同じものなのか精査したい。そちらの契約内容を教えていただけないか?』


 知らなければ、相手に教えてもらえばいい。

もし答えが得られないなら、真・帝国の古い人間に聞いてみよう。

あの(かえで)の爺やあたりなら知っているかもしれない。

そのためには交渉を引き伸ばす必要があるな。


『直ぐに送らせていただきます。

こちら(にビル側)も長き年月を経たもののため間違いがあるかもしれないので、そちらの契約内容も教えていただけませんか?』


 拙い。そんなの此方にはない。ならば爺やを招集する時間を稼ぐしかない!


『こちらは契約を知る人物を招集しているところだ。

しばらく時間をいただけないだろうか?』


 綱渡り過ぎて神経がもたない! リアルに時間が欲しい!


『困りました。せっかくの故郷ですので、ひと目見たいという民が大勢いて続々とコールドスリープがとけてしまいます。

その食料は直ぐに提供していただかないと……』


 いや、なんでコールドスリープ解いちゃうの?

それは食料提供の目処がついてからにするべきだよ。

断られたら飢え死ぬの? それとも奪うの?


『ちなみに、何人分になりますか?』


『とりあえず。1億人分でお願いします』


『は?』


『10日後には10億人分必要です』


 何考えているんだ? この人達は……。

古の契約? いったい旧帝国の皇帝は何を約束してしまっているんだ?


『とりあえず解凍は中止してください。

1200年も経てば帝国も状況が変わっています。

それだけの食料を簡単に用意するのは不可能です』


『解凍は自動設定で変更が効かないのです』


 は? 自動設定が解除できない?

これは予感的中か?

二ビルの民は、おそらく世代を重ねることで文明が退化して自由浮遊惑星のシステムを制御しきれていない。

このままでは10億人が餓死することになるぞ。


『約束の日、約束の地ですので、そちらも準備が整っているものと思っていました』


 拙い。どうする。現帝国に食料を用意させるには、彼らニビルの民が旧帝国の末裔だと知らせなければならない。

そうしないで、更に食料のある場所まで彼らを無事に連れて行くには……。

ここで僕は起死回生の手を思いついた。


『実は帝都は遷都してしまって、ここではないのです。

その際にかなりの情報が失伝しているため、齟齬があったようです。

準備はそちらでしているはずです』


 とりあえず、食料が豊富なエリュシオン星系にでも連れて行くか。

それよりどうやってコールドスリープの解凍を止めるかだな。

あと事情を知っている可能性のある真・帝国の爺やを呼んでおかないと。


『食料は材料でいいのですか?

僕がそちらに行ってコールドスリープの解凍を止められるか調べても良いでしょうか?』


『食料はそれでかまいません。

解凍停止の助力、頼みます。

我がニビルの民をむざむざ死なせるわけには行きません』


 よっしゃ! これでなんとかなるかもしれない。

システムは旧帝国準拠だから、専用艦の電脳でなんとか出来る可能性が高い。

コールドスリープさえ解かなければ、もっと事情の判る者たちを目覚めさせないで済むかもしれない。

相手を騙すなら、賢い奴に目覚めてもらっては困る。


『それでは、受け入れ体制をお願いします』


 僕はニビルに上陸することとなった。

さて、それを現帝国の皇帝やカイルにどう説明しようか……。

また神経をすり減らす面倒な綱渡りをしないければならないな。

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