183 自由浮遊惑星編4 自由浮遊惑星
side:帝都 三人称視点
自由浮遊惑星接近の報告が皇帝代理執務室まで上がって来るのに3日かかっていた。
と言っても皇帝陛下が直接報告書を目にするわけではない。
皇帝陛下が療養中であり代理として政務を行う宰相まで亡き後、事実上の執政官となっている皇帝代理の所に書類が回って来たにすぎない。
その報告書の最重要案件という印を見てカイルは首を傾げた。
「このような自然現象の報告が、どうして此処に来ているんだ?」
いや、皆がそう思ったが故に此処に上がるまで3日もかかったのだ。
だが、この報告書が目端の利く者の目に留まることとなり、最重要案件として上げられたということだった。
その間に更なる追加報告が入り、報告書は厚さを増していた。
カイルは訝しがりながらも報告書に目を通した。
報告書の内容はおおまかに言えば次の通り。
ニアヒューム警戒態勢の中、次元レーダーが各所に配備されたため、それに興味を持った科学省により次元レーダーの研究利用が申請され、何故か使用が許可された。
その研究目的でたまたま向けられた外宇宙の彼方で時空振と巨大な何かの次元航路を怪現象として捉えた。
次元跳躍機関が搭載された戦艦を次元跳躍させて先回りでコース上を観測しようとしたが、速すぎて実像が捉えられなかった。
次元レーダーのトレース結果によるとコースはまだ未確定だが怪現象が帝国本星に向かって来ている可能性が高い。
そうこうしているうちに怪現象が帝国本星系外縁に接近。
速度を落としたため、やっと外観を光学観測することが出来、自由浮遊惑星――周回する恒星を持たず単独で存在する惑星――だと判明した。
速度を落とすという行動により何らかの知的生命体の関与が疑われる。
ニアヒューム反応は無し。
自由浮遊惑星は既知の次元跳躍以外の方法で光速を越える速度で移動して来ていた。
そのような速度で動く惑星など存在し得ないため人工物と思われる。
帝国本星に何らかの意思をもって接触してくる可能性がある。
「ここに至ってやっと目端の利く者に報告書が目に留まり、最重要案件として上げられたということか」
カイルはその報告態勢の不手際に眉を顰めると同時に、自由浮遊惑星側の出方がわからずに困惑した。
相手が文明人でこちらに用がなければ目立たないようにするか違うコースを通過していただろう。
そうしなかったということは、こちらの星系に用事があるということだ。
もし相手が文明人なら星系に進入する前になんらかの連絡を寄越すだろう。
連絡もなく進入するならそれは敵対行動と見做される。
それが判らないほどの文明が光速を越える速度で惑星を動かすことなど出来はしないだろう。
とにかく相手を刺激しないように防衛戦力を配備しなければならない。
尤も帝都に配備されている正規軍と貴族領軍の防衛戦力は、要塞艦200以上、宇宙艦は総数600万艦は配備されている。
ニアヒューム対策で地方に派遣されている正規軍の艦を含めれば、合計要塞艦500、宇宙艦総数1500万艦は越えるだろう。
帝都の守りに就いていない貴族の領軍を加えればあと2割は増え、合計要塞艦600、宇宙艦総数1800万艦になるだろう。
「問題は失われた3日か。
派遣軍を呼び戻すのにハブ次元跳躍門を使っても最低1週間はかかる。
今直ぐ呼べるのはアキラぐらいのものか。
100万殺しのアキラなら1艦で16%もの戦力アップになるな」
カイルはとりあえずアキラに緊急招集をかけ、同時にニアヒューム派遣軍のうち戦闘状態にない予備戦力に帰還命令を出すのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
side:エリュシオン星系 エリュシオン3軌道上 要塞衛星内居住区晶羅邸 アキラ視点
『緊急招集?』
カイルからの通信に出ると開口一番帝都への緊急招集命令を受けた。
『ちょっと微妙な案件があってね。協力してくれ。
良くて外交交渉、悪くて……戦争だ』
カイルが不穏な事を口走る。
ニアヒューム対策で忙しい中、新たな問題を抱えてカイルも疲れている様子だ。
『お兄様。私と旦那様の団欒を邪魔するつもりですか?』
実は緊急だというのでカイルからの通信は建造したばかりの要塞衛星内にある邸宅のリビングで受けていた。
極秘の話なら電脳空間の極秘会議室に呼ばれると思っていたので、目の前には誰でも見れる形で仮想スクリーンが展開している。
カイル側にはプライベート空間のため僕の顔アイコンが表示されているはずだ。
なので横でしっかりステフが通信内容を聞いていたことにカイルも気付いていなかったのだ。
『ステフ、そんなつもりではない。
帝国の危機なのだ。わかってくれ』
カイルも実妹が通信内容を聞いており、更に猛烈な抗議をして来たことで慌てていた。
確かにステフが嫁いで来てから初めての2人だけの時間かもしれない。
待ちに待った甘い生活を実兄に邪魔されたのだから少しは我儘も言いたくなるのだろう。
それぐらい僕は帝国のために文字通り飛びまわって働いていたんだ。
『では、私も同行してよろしいですわね?』
ステフが更なる我儘を言い出した。
だがそれは駄目だ。カイルは最悪戦争だと言った。
彼女を巻き込む訳にはいかない。
僕は彼女を説得するべく口を開いた。
「ステフ、でも「「「私達も同じよ!」」」」
そこには目を釣り上げた獣人嫁ーずの姿があった。
「やっと一緒にいられるのに」
「私達だって旦那様を助けたい!」
ああ、これは絶対引いてくれないパターンだ。
どうする。彼女達の安全もはかりつつ一緒にいるのと同時に緊急招集に答える方法は……。
逃げるまでに充分な防御力を持つ戦力による遠征だろうか。
「わかった。この要塞衛星で向かおう。
これなら次元跳躍加速装置を実験搭載してある」
この要塞衛星なら防御力も戦闘力も高い。そして10万艦の無人艦隊を収納している。
無人艦隊と言ってもNPC艦のように戦闘パターン固定のリモコン艦ではなく、自律的に行動のできる野良宇宙艦ベースの無人艦だ。
要塞衛星は対消滅反応炉を複数基贅沢に搭載しているため、要塞砲を使っていても、いざとなれば待ち時間なく次元跳躍で逃げられる。
エリュシオン星系防衛の切り札だったから、あまり他には見せたくなかったんだけど、嫁ーずの安全のためなら仕方がない。
エリュシオン星系にはまだ新型要塞艦がある。
ステーション型要塞艦を2つ上下に繋げたもので、挟まれた部分に増設された区画や追加反応炉も相まって戦闘力は1艦でステーション3艦分に匹敵する。
要塞砲を4門も持っているからな。
エリュシオン星系防衛の人員や地球人の出稼ぎ組はこの新型要塞艦に居住している。
それがエリュシオン2、3、4各惑星の軌道上に1艦づつ計3艦配備されている。
それに工場惑星もここに常駐している。
いざとなれば帝国向けに建造中の要塞艦を戦闘に参加させることだって可能だ。
なので現在この要塞衛星は、事実上僕のプライベート衛星みたいなものだった。
いや実際に星系領主である僕の資産だ。自由に使わせてもらおう。
『カイル、そちらには要塞衛星で向かう。
これが落ちるようなら帝都も落ちるだろう。
まあ、平和的な外交交渉で終わることを祈るよ』
『すまないな。アキラ』
「次元跳躍準備! 加速装置始動!
目標帝都外縁。次元跳躍開始!」
僕は家族のみんなを巻き込んで帝都へ次元跳躍した。
この時は、まさか相手が自由浮遊惑星なんて規格外のものだとは思ってなかったんだ。
カイル、情報は正確に頼むよ。




