174 帝国内乱編12 ニアヒューム攻略
side:クロウニ―星系 要塞艦司令室 ロレンツォ 三人称視点
ロレンツォの要塞艦は大破し動けなかった。
応急修理で動かせるようにしたいが、要塞砲、次元跳躍機関、次元レーダー、反支配化信号を発信する次元通信機は修理不能だった。
ロレンツォ軍の要塞艦は全部で4艦だが、どれも同じような状態だった。
反応炉からのエネルギー供給が絶えていなかったため、自衛の兵装の数々が使用可能なだけで、ほぼ搭載艦の補給基地としてしか機能していなかった。
その補給物資もいつかは消耗し途絶えるだろう。
帝国軍の艦船は、反乱防止のために領軍の艦船ほどレールガンの最大搭載弾数が抑えられている。
粒子ビーム砲であれば弾数制限が無いが、減衰により射程距離が中程度であり、敵艦のバリヤーにより効果が低減されるというデメリットがあった。
そのため一撃必中の武器としてレールガンが主砲として重用されていた。
その弾数が抑えられているため補給基地に戻って補給するという手間がかかるようになっていた。
それと比べて帝国正規軍より派遣されている艦は皇帝直轄の軍であるためレールガンの最大搭載弾数が若干多くなっている。
反乱の危険は正規軍の艦隊にもあるが、反乱ともなれば皇帝の支配権限で無人艦を簡単に無力化出来るため、心配いらないとの判断がなされている。
そのため正規軍には無人艦が多く今回のような乗っ取りを行う敵とは相性が最悪だった。
いま正規軍の要塞艦はニアヒュームの侵食を防ぎ戦線に復帰しようかというところだった。
その数5艦、うち1艦は要塞砲が破壊されており、使える要塞砲は残り4門だけだった。
それも現在の不利な状況では次元跳躍での撤退を考慮する必要があり、あえて撃つことを禁止している状態だった。
いま動かせるのは要塞艦に搭載していた宇宙艦のみ。
ロレンツォと正規軍のレオナルド&ニアヒューム討伐軍は、要塞艦に搭載されていた全艦を戦場に向け前進させていた。
「元コックス子爵軍所属の無人艦を制御下に置くことに成功しました!」
「よし、これで敵を内部から混乱させられる。無人艦に攻撃開始命令だ!」
正規軍8万艦の無人艦の制御をロレンツォ軍が奪い、ロレンツォ側に戦力比が若干ではあるが傾いた瞬間だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
side:クロウニ―星系 専用艦CIC アキラ視点
ロレンツォが乗っ取った元コックス子爵軍所属の無人艦がニアヒュームの艦隊に襲いかかっていた。
敵陣内部に現れた反攻勢力に停止状態だったニアヒューム艦の動きが勢いを増す。
「なんだ? あの変な動きは?」
僕はニアヒューム艦の動きに違和感を覚えた。
攻撃を受けてからの動きは淀みないものだったけど、それまでは敵とも味方とも認識していないかのようだった。
まるで催眠術にかけられてぼ~っとしていたような感じだ。
この感覚には覚えがある。
ブレインハック事件で操られた神澤社長の反応がまさにこんな感じだったのだ。
いまこの戦場では反支配化信号が発信されていて、無人艦への強制支配が解除されている。
同様にニアヒュームの支配も緩んでいるのかもしれない。
「つまり無人艦への支配もニアヒュームへの支配も同じ原理によるものだということか。
ブレインハック事件は、人の脳に対するナノマシンによる催眠支配が原因だった。
電脳やコアに対して同じことをすれば、ああなるのではないだろうか?」
「そして、あの動き。
催眠支配下にあるにも関わらず、反支配下信号によりニアヒュームは指示が得られない状態にあった。
その指示待ち状態で攻撃を受けたため、単純な防衛本能による反射作用を行っているのかもしれない」
僕はある思い付きを実行するためロレンツォに通信を送った。
『やあ、ロレンツォ、無事だったようだね』
僕が声をかけるとロレンツォは、待ってましたとばかりに答えてきた。
『アキラ、やはり無事だったんだな。
今度は本当に駄目かと思ったぞ。
まあ、薄々こんなことだろうとは思っていたんだがな』
『いや、今回は本当に危なかったんだよ?
専用艦が消滅して転移回収システムで助かったんだからね?』
『ははは、あんな奥の手を用意しておいてよく言うよ』
全然信じて貰えなかった……。
『まあ、それはいいとして、敵から奪い返した無人艦なんだけど、ニアヒュームへの攻撃を少し止めてもらえないだろうか?』
『わかった……「攻撃中止だ、かまわん」……どうだ?』
ロレンツォは僕の要請に一言も疑問を挟まずに実行してくれた。
戦闘中に攻撃をやめるなど、いくら相手がビーム砲のみしか搭載していなくても被害が甚大になりかねない行為だ。
それなのに僕を信じて何も言わずにロレンツォは指示に従ってくれたのだ。ありがたいことだ。
「ありがとう。ロレンツォ」
僕は通信に乗せずに礼を言うとニアヒュームの動向を注視した。
攻撃を中止した無人艦隊に対しニアヒュームの攻撃も止まっていた。
僕の予想通り、あのニアヒュームは中途半端な支配状態になっていて防衛本能で戦っていたんだ。
つまりどのニアヒューム艦も自らの意志で動こうとはしていない。
まるで誰かの命令を待ち続けている状態に見える。
その命令を与えているのは……。やはりブレインハック事件の黒幕である奴だろう。
『見ての通り、ニアヒュームは攻撃をしかけなければ動かないようだ』
『アキラ、よく気付いたな。どういった仕組みなんだ?』
『おそらくニアヒュームの上位に当たる命令者がいる。
その命令を僕が反支配化信号を発信して妨害しているため、ニアヒュームは命令待ちで動かないんだ』
『まさか。ニアヒュームは集合意識であり全て同じではなかったのか!?』
『この命令待ちの状態を見るにニアヒュームにも階級があると考えるべきだ。
女王蜂と働き蜂ぐらいの差異はあるのかもしれない』
『なら、ニアヒュームは無視して、無人艦はレオナルドの艦隊への攻撃に集中させよう』
僕はその時、あの黒い特殊艦の存在を警戒していた。
レオナルド星系へ向かっていたニアヒュームを誘導しロレンツォ軍にぶつけて来た時も先頭にいた黒い特殊艦。
ラスティ星系での決戦時に次元レーダーの内容すら改ざんして見せた黒い特殊艦。
レオナルド軍とニアヒュームを結びつけたのは、あの黒い特殊艦だとしか思えない。
相手を支配し操るというブレインハック事件との共通性、暗躍する特殊艦、その全てに共通している黒幕は……。
『ロレンツォ、どうやらレオナルドよりも危険な相手がいるみたいだよ。
黒い特殊艦に気をつけて!』
僕が警告したのと同時に黒い特殊艦2艦がレオナルド側の要塞艦から飛び出して来た。
『久しぶりだなアキラ。
おまえはなんて悪運が強いんだ。あのまま死ねば良かったのに』
その声に僕は覚えがあった。忘れもしないプリンスの声だ。
だがそうなると隣の特殊艦は誰だ?
プリンスを救助した専用艦に間違いないが、Gバレットや次元レーダーを自前で使うその戦闘力は普通じゃない。
『プリンス。生きていたのか!』
『当たり前でしょ? 私が彼を殺させるもんですか!
弟の偽者! 証拠はあがっているのよ?
旧帝国の反乱者め!』
プリンスの隣に寄り添う特殊艦から放たれたその声は、姉貴――花蓮――のものだった。
その訳の分からない言い分はブレインハックで操られている狂信的な雰囲気を醸し出していた。




