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171.5 閑話・過去 レオナルド

side:地方星系貧民街 レオナルド母 三人称視点


「この子が皇子ですって?」


 隙間風が吹くオンボロのあばら家に身なりの良い貴族が部下の騎士を連れて訪問していた。

貴族の前にはボロを纏った女と10歳ぐらいの男の子が寒気に肌を寄せ合い震えていた。

女は貴族の言葉に「こいつは何を言ってるんだ?」という顔をして訝しんでいた。


「もう一度言う。その子は皇帝の因子を持っている。

先日、教会の食料配給に並んだだろう?

その時に検査を受けなかったか?」


 確かに教会の配給には行った。

10歳になった子の健康診断を受け腕輪を授与されれば食料が貰えると言うからだ。

その時に検査を受けたのは間違いなかった。


「その時の検査で、その子に皇帝の因子があることが判明したのだ。

喜べ。その子は皇子に認定された。これは名誉なことなのだぞ」


 女は混乱した。そりゃそうだ。皇子といえば皇帝の子だ。

そんな覚えがないことぐらい自分が一番良く知っている。

いや、生活のために身体を売ったことはある。

その時に授かったのが、この子なのだ。

だからと言って、こんな田舎の貧民街で皇帝が女を買うわけがない。

女は増々混乱した。


「皇子には血筋皇子と自然発生皇子がいるのです。

彼は自然発生による皇帝の因子持ち、つまり自然発生皇子なのです」


 帝国民全てに授与されることになった腕輪、その授与がこんな地方の貧民街にも及んでいた。

その過程で調べられた皇帝の因子の検査、そこで息子に皇帝の因子が見つかり正式に自然発生皇子だと認められたのだ。

その瞬間、母ひとり子ひとりだった親子の生活は一変した。

惑星領主の貴族が息子を迎えに自ら参上し、豪華な旅客船で帝都まで送り届けられた。

母子は豪華な衣装を纏い、豪華な食事を給され生まれて初めて風呂にも入った。

貴族は自らの領地から自然発生皇子が生まれたことをこれ幸いと後見人を買って出ていた。

上手くいけば自分も便乗で出世することが出来る。

そのための厚遇であり歓待であった。


 女にとってもその生活は夢のようなものだった。

貧民街での生活が、いきなり皇子の生母である。

しかも皇子といえば皇帝候補だ。

自然発生皇子には領地として星系が与えられ星系領主になり、主星の領主館に奉されることとなった。

子は星系持ちの領主となったのだ。

子の名前はレオナルド。父もわからぬ私生児だった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



side:主星レオナルド4領主館 レオナルド 三人称視点


「母ちゃん、これ、うめーな」


「そうでしょう。帝都でも有名なレストランに出張してもらったのだから、美味しいに決まってるわ」


 母は大きな宝石のついた指輪を、全ての指にはめて食べにくそうにしながら言う。

親子は急に良くなった生活に溺れ贅沢三昧をしていた。

後継人になった貴族は男爵から陞爵し子爵となっていた。

子爵は星系を思うままにし、親子には政には関わらせなかった。

その分、することのない親子は贅沢三昧にのめり込んでいった。

それ以上の贅沢を子爵にされているとは気づきもせずに。

貧民から第13皇子に認定され、母親も皇子の生母として領地の財を湯水のように使っていた。


 そして年に一度の皇位継承順位判定の日が来た。

レオナルドの星系は、子爵と母親の散財がたたって、経済は傾いており領民も流出していた。

その結果、年に1度の皇位継承順位判定で第15皇子まで継承順位が下がってしまっていた。

最下位の第15皇子まで下がった自然発生皇子は5年連続で最下位だと廃嫡となる。

このままではレオナルドも廃嫡の危機だった。


「レオナルド! なんとしてでも継承順位を上げるのよ!」


「母上、そのためには宝石などを売って経済復興の予算を組まねばなりません」


 レオナルドは利発だったが、無学な母親はレオナルドに暴力をふるった。


「レオナルド! あんたはあたいの宝を奪うと言うの? この親不孝者が!」


 暴力をふるっても何も解決しないのはレオナルドでさえわかっていた。

だがレオナルドはたった1人の身内に逆らうことは出来なかった。


 レオナルドは知恵を絞った。

まずは星系経済に巣くう癌である子爵を追放した。

子爵は小者であり、軍事力で脅したらすんなり引いた。

皇子に逆らう=帝国への謀反となることぐらいは理解していたからだ。

今までは皇子の無知に付け込んで良い様に出来ていただけ。

皇子が知恵をつけたらそこで終わりだった。

これで半分は無駄遣いを止めることが出来た。


 次に、この最下位廃嫡のシステムには穴があることに気付き対策を実行した。

その穴とは、14位(ブービー)15位(最下位)が1年置きにお互いの順位を入れ替え続ければ誰も廃嫡にならないというものだった。

レオナルドは第14皇子――自然発生皇子――にかけあい1年置きにお互い継承順位を入れ替えるという協定を結んだ。

だが、継承順位は武力、経済発展度、品格といったポイント制による。

経済がガタガタのレオナルド領では第14皇子に負け続けてしまう。

つまり第14皇子にはメリットが無い。そのメリットとして……。

レオナルドは人身売買を始めた。自領から美人を攫い第14皇子領に密輸したのだ。

その見返りとして不公平取引を行いレオナルド領に数字上だけ儲けた年を作る。

当然、その金は借金であり、次の年は逆の不公平取引で返さなければならない。

こうしてレオナルドは廃嫡を免れた。


 だが経済的問題の解決していないレオナルド領は年数が経つほど破綻へと向かっていく。

そこでレオナルドはとうとう借りた資金を返せなくなった。

激怒する第14皇子。だが不正による取引で騙されましたとは公に出来ない。

結果的に決闘となった。優位な戦力で攻めてくる第14皇子にレオナルドは劣勢な戦力で立ち向かったが、結果勝ってしまった。

第14皇子は廃嫡となり第14皇子の領地はレオナルドの物になった。

経済規模は元の3倍、無知な母親にそのことを知らせないことで予算を確保し、元々の領地の経済も上手く回せるようになった。

その結果、翌年レオナルドは第12皇子まで継承順位を上げた。


 継承順位が上がると社交の場に出ることも多くなった。

だがレオナルドは元々貧民街の出だ。下級貴族からも侮られることが多かった。

ここで母から引き継いだ気性が表に出た。

侮った貴族に片っ端から決闘を申し込み下していった。

勝ったその賠償で軍備を整えるレオナルド軍。いつのまにか武闘派皇子として名を上げていた。

その後も自然発生皇子が何人か見つかるが、ある者はレオナルドに騙され消え、ある者は上位皇子の庇護下に入って生き永らえた。


 組織が大きくなると経済も勝手に回るようになり、レオナルドや母が好き勝手やっても揺るがないほどに経済は成熟していた。

そして皇位継承順位は武力と経済力により第5皇子まで上がっていた。自然発生皇子としては最高位だ。

だが調子に乗っていられたのもそこまでだった。

上位の血筋皇子の庇護下にある下位皇子と争ってしまったのだ。

戦いの決着は初めからついていた。戦力比が20倍以上離れていたのだ。

レオナルドは降伏し、倍賞としていくつもの星系を差し出した。

その報を聞き、レオナルドの母は憤死した。

その星系郡が廻り廻って現ロレンツォ(第7皇子)領だということが、後の侵攻を招いた理由なのかもしれなかった。

これが切っ掛けでレオナルドの中で何かの(たが)が外れた。


 上位の血筋皇子と争い経済力を削がれたレオナルドは、軍事力と安定した領地経営でまだ第5皇子に留まっていた。

第4皇子ルーカスとの差は開いてしまったが、第6皇子ロレンツォ――当時は――との差も大きかったため、そこまで下がらなかったのだ。


 だが衝撃が走る。新たな自然発生皇子が見つかったのだ。

彼はいきなり第6皇子に認定され、その下の皇子は軒並み1つ継承順位を下げた。

しかも第13皇子(ケイン)を決闘で下し、その支配下星系を手に入れたという。


「はぁ? なんでいきなり奴が第6皇子なんだよ!」


「アキラ殿下は、皇子の中でも有数の強い皇帝の因子をお持ちなのです。

足りないのは武力と経済力のみと言われています」


「つまり、俺を抜くのも時間の問題ってことか?」


 お付の臣下は目を晒し押し黙って何も答えなかった。

それが肯定の意味だとレオナルド(第5皇子)でさえ理解出来た。

アキラに対する嫉妬や僻みが生まれた瞬間だった。


 アキラの快進撃は続く。

自ら星系開発を行い経済力を上げ、争った皇子を下し賠償を勝ち取った。

皇帝陛下の覚えもよく一時的に帝国軍の指揮まで任された。

さらにはニアヒューム討伐でニアヒューム100万艦を単独で下し『100万殺し』の二つ名まで囁かれだした。

武力、経済力、そして品格も申し分ないとの評判となっている。

どう考えても次の継承順位判定で順位を抜かれる。

レオナルドは危機感を募らせた。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



「アキラに恨みを持つなら手を貸そう」


 黒い仮面を付けた黒騎士と称する男女が現れたのはこの時だった。


「我らは黒騎士。

我は仮名でプリンス、彼女は仮名でプリンセスと呼ぶが良い」


 プリンスと握手をした瞬間、レオナルド(第5皇子)は頭に靄のようなものがかかったのを感じた。

しかし、心地よい。

まるで脳内麻薬が放出されたかのような高揚した感情も覚えた。

レオナルド(第5皇子)は、その心地よさに考えるのを止めた。


「我らにはニアヒュームを味方につける手段がある。

ロレンツォ(第7皇子)をニアヒュームを使って殲滅すれば、楽に星系を奪えるぞ」


 今、隣のロレンツォ(第7皇子)領はニアヒュームとの戦端を開いている。

ロレンツォ(第7皇子)の軍はニアヒューム討伐で主力艦隊が出払っている。

星系を守る守備軍の戦力は乏しい。

だが、レオナルド(第5皇子)領にもニアヒュームが迫っている。

防衛に戦力を割かねばならず、ロレンツォ(第7皇子)領に侵攻するなど無謀な行為だ。

そのニアヒュームを無力化どころか戦力に出来れば全軍をあげて侵攻が可能だ……。


「勝てる!」


 レオナルド(第5皇子)が無謀な賭けに踏み出した瞬間だった。

その判断は頭に霞がかかった状態でありながら、レオナルド(第5皇子)には最善の策に思えたのだった。

操られているという自覚もなく、レオナルド(第5皇子)は無謀な戦いに打って出た。

例えロレンツォ(第7皇子)を下したとしても、その後で相手にするのは帝国正規軍だという意識は頭から消えていた。

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