170 帝国内乱編8 敗走
side:クロウニ―星系 アキラ視点
ラスティ星系から15光年、物理的に隣の星系であるクロウニー星系にロレンツォのニアヒューム討伐艦隊は集結していた。
ここはロレンツォが星系領主となっている支配下星系の1つだ。
ロレンツォの主星系であるラスティ星系は奪われてしまったが、他の星系にはまだレオナルドの手は伸びていなかった。
『次元跳躍門をロックしろ!
ラスティ星系のハブ次元跳躍門を使われたら半日で敵が押し寄せるぞ!』
クロウニー星系に到着するやいなやロレンツォが指示を出した。
せっかく要塞艦の次元跳躍機関を使用不能にして、次元跳躍して来るにしてもニアヒュームの小母艦に頼らざるを得ない状況がつくられた。
それにより、レオナルド軍の侵攻速度に1日1光年という枷を嵌められた。
なのに、ハブ次元跳躍門を使われショートカットされたのでは元も子もない。
『いや、次元跳躍門は物理的に破壊しよう』
僕の言葉に星系領主であるロレンツォが驚く。
星系にとって次元跳躍門は交通手段であると同時に物流の要となる生命線だ。
自星系で産出生産出来ない物資を輸入し、自星系の生産物を輸出するために無くてはならない。
いわば帝国における経済の大動脈が次元跳躍門システムなのだ。
それを壊せというのは星系領主にとって自国民への裏切りに等しかった。
『レオナルドには正体不明の乗っ取り技術がある。
次元跳躍門のシステムが乗っ取られたらこの星系も簡単に奪われるよ。
それに次元跳躍門ならうちの星系で新造出来るんだ。
この戦いが終わったら直ぐに復活させると約束するよ』
僕の説明にロレンツォが驚愕の表情を見せた。
次元跳躍門と言えば帝国本星で年単位の時間をかけて製造しているものだからだ。
それを僕の星系で新造出来て直ぐに復活させられると言われたのだから当然か。
『わかった。くれぐれも戦後の次元跳躍門復旧を頼む。
それと、ありがとう。助かった』
僕の説得をロレンツォは信用してくれたみたいだ。
端から見たら騙されてると思っても仕方のない提案なのに、僕を信じてくれた。
どうやら僕が命がけでロレンツォを助けたと感謝されていることが影響しているようだ。
その信用に報いるために次元跳躍門は必ず復活させる。
僕は次元跳躍門に機能停止命令を発信すると、制御機構のブロックに近づいてごっそり次元格納庫に収納した。
これによりクロウニ―星系の次元跳躍門は物理的に閉鎖された。
『さて、これで15日の猶予が出来た。一息つけるね。
レオナルドの次元レーダーはロックしたから、こっちの動きは把握していないはずだ』
『カイル司令に報告と援軍要請をしないとならないならない。
レオナルドの戦力は当初の想定より膨らんでいる』
『カイルは主力艦隊20万を率いてこちらに向かっている。
僕が数を減らしたとはいえレオナルドの戦力はニアヒュームを吸収して膨大だ。
主力艦隊20万がやって来ても焼け石に水だ。
それにこっちに来てもらうとしても、次元跳躍門を物理的に閉鎖したからカイルが亜空間で迷子になってしまう。
僕とカイルは電脳空間で定時報告会をしてるからロレンツォも一緒に行って話し合おう』
『そうさせてもらえると有難い。要塞艦にはクロウニ―星から補給を! アキラ、君も要塞艦で休むといい』
『いや、僕はここが一番安心できる。今後のためにやることもあるし……。
君の領の他星系も次元跳躍門を壊さないとならないし……』
『わかった。次元跳躍門はもう好きにしてくれ』
『定時報告会も早急に開く必要がある。
カイルには更なる戦力増強を要請しないとならないからね』
『そうか。なら私はいつでも参加出来るように待機していよう。
私のことはいつでも呼んでくれ』
『了解』
今後の方針を決め終わると、ロレンツォが急に姿勢を正して改まった口調で口を開いた。
『あらためて言わせてもらう。アキラ、助かった。礼を言う』
『いや、それはレオナルドを叩いてからにしようよ』
ロレンツォは僕の言い分に苦笑し答える。
『そうだな。気が早かったかもな』
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
side:ラスティ星系 要塞衛星司令室 レオナルド 三人称視点
「アキラめ! くそ! 騙された!
奴もただでは死にやがらねーな!」
アキラの置き土産が艦隊のほぼ中央で爆発したため、直径100kmほどの球状のエリアに居た艦が消し飛んでいた。
その爆圧により残骸が散弾のように広がり、直径300kmの範囲で破損する艦が続出、その数ざっと20万艦に達していた。
その被害も問題だったが、先程から次元レーダーと次元通信機が使用不能になって、作戦の要の通信妨害がダウンしていた。
要塞艦も新型次元レーダーも新型次元通信機も帝国本国――実はアキラの星系の製造品――からの貸与だ。
対ニアヒュームに使用することを目的としている戦力と新兵器を私利私欲のために使おうとしたら、いや帝国に仇なそうとしたら当然使用制限がかかる。
当たり前のことだった。
要塞艦には黒騎士により次元レーダー欺瞞装置という特殊装置が次元レーダーと次元通信機を乗っ取る形で設置されていたが、これが先ほどから機能していなかった。
要塞艦の使用制限は通信妨害をかける前だったので帝国側の遠隔操作だろう。
だが、次元レーダーは通信妨害がかかっている最中に無効化されている。
つまりその通信妨害を何らかの手段――接触通信という原始的な手段でした――を使って対処したということだ。
それは要塞艦の時のように遠隔操作というわけにはいかなかったはずだ。
これは何者かが星系内で対処したということだ。
レオナルドは野生の勘で気付いた。
「はん。そんなことが出来るのはアキラだけだろ!」
レオナルドが苦虫を噛み潰したような顔をすると吐き出すように言う。
次元レーダー欺瞞装置を無効化する技術力や手段を持っているのはこの戦場ではアキラだけだろう。
そして無効化はアキラの専用艦が爆散した時より後だ。
「つまりアキラはまだ生きているってことじゃねーか!!」
レオナルドがまた暴れだした。
取り巻きは空気を読み、既に距離を置き巻き添えにならないようにしていた。
「殿下! 先ほどハブ次元跳躍門よりロレンツォ領の各星系へ送った占領艦隊より報告です!」
レオナルドは星系住民を殺すと脅迫することで既にハブ次元跳躍門のロックを解除させていた。
当たり前だが、解析してロックを外すより、ロックをかけた者に解除させるのが一番早い。
そのハブ次元跳躍門を使って占領艦隊を送っていたのだ。
「なんだ!? 早く言え!」
「はっ! 連絡艦が帰還し、『行き先次元跳躍門不明』により亜空間で迷子になっているとの報告です」
伝令が恐る恐る言う。
次元通信機が使用不能になったため、連絡艦が戻って来て報告したのだ。
アキラによってロレンツォ領の各星系にある次元跳躍門が破壊されたため行く先のアドレスが使用不能になった。
それが『行き先次元跳躍門不明』という状況だった。
亜空間内ではシステムのナビゲーションにより航路が設定されている。
その行き先の次元跳躍門が無くなったのだから、航路自体が突然消えたようなものだった。
レオナルドの顔が怒りで真っ赤になっていく。
「迷子たぁなんだ! 迷子たぁ!」
「はっ……。 次元跳躍門が閉鎖ではなく物理的に破壊されたもようです」
その報告にレオナルドは気付く。
「この思いっ切りの良さに動きの早さ……。
連続次元跳躍が使えるアキラの仕業かっ!」
これによりレオナルドはアキラの生存を確信した。
「やりやがったな! これで星系占領の手間が何十倍にもなりやがる!」
レオナルドは思案する。
奴らの居場所はその星系のどこかだろう。
だが隣のクロウニー星系でさえ15光年離れている。
レオナルドの軍は移動をニアヒュームの小母艦級の次元跳躍機関に頼らざるをえない。
その小母艦級の次元跳躍能力は1日1光年なので、一番近い星系まで15日かかるのだ。
黒騎士なら個別に次元跳躍機関を持っている。
しかし彼らを動かすとニアヒュームを抑えることが出来なくなる。
「なら帝国からもらった要塞艦をどうにかするしかねーな。
システムをロックされたならロックを外しゃあいい。
ニアヒュームの小母艦級とどっちが早いか勝負だな」
レオナルドは妙案を思い付き不敵に笑った。




