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169 帝国内乱編7 罠

side:ラスティ星系 要塞艦内司令室 ロレンツォ 三人称視点


 アキラ(第6皇子)の専用艦が沈む様子を目撃し、ロレンツォ(第7皇子)は自責の念に囚われた。

自分(ロレンツォ)レオナルド(第5皇子)の戦力比は24万5千:73万。

要塞衛星と要塞艦の戦闘力を5千艦相当としても29万:73万5千。

アキラ(第6皇子)の戦闘力を宛てにしても勝ち目なんか最初からなかったのだ。

いや勝ち目がないからアキラ(第6皇子)が時間を稼いで撤退の隙を作ってくれようとしたのだ。

アキラ(第6皇子)の専用艦なら短いクールタイムで連続次元跳躍(ワープ)して逃げられたはずだ。

次元レーダーの情報によりレオナルド(第5皇子)がニアヒュームと潰し合って壊滅状態になっている。

そんな都合の良い情報を信じて偵察もせずに突入してしまった。

しかし、あのような巧妙な欺瞞工作が出来るなど誰が信じようか。

レオナルド(第7皇子)の実力を見誤った。その結果アキラ(第6皇子)を死なせてしまった。


「すまない、アキラ(第6皇子)……」


 そう独り言ちるとロレンツォ(第7皇子)は気持ちを切り替えた。


「撤退だ! 次元跳躍(ワープ)準備。敵が混乱しているうちに引くぞ!

まず半分逃がす。帝国正規軍所属の要塞艦5が先だ。

次元跳躍(ワープ)準備完了まで、我が領軍所属要塞艦4の要塞砲で牽制する。

そうか、通信妨害されていたのだったな。命令書を持ち連絡艇を発進させろ」


 ロレンツォ(第7皇子)は正規軍の要塞艦5を先に逃し自軍の要塞艦4を殿軍として撤退戦を開始した。

アキラ(第6皇子)が命を賭けて敵の手に渡った要塞衛星の要塞砲を破壊してくれた。

それが撤退のチャンスを作ってくれた。

このチャンスを無駄にすることは出来ないとロレンツォ(第7皇子)は思った。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



side:同星系 要塞衛星内司令室 レオナルド 三人称視点


「殺った! アキラ(第6皇子)の野郎を殺したぞ!」


 アキラ(第6皇子)の専用艦が爆散する様子を見て、レオナルド(第5皇子)は狂喜していた。

レオナルド(第5皇子)は気が狂ったように笑いながら奇妙な踊りを舞っていた。

たぶん本人にとっては勝利の舞だったのだろう。

そこに指揮の空白が一瞬生まれた。


「敵要塞艦、次元跳躍(ワープ)していきます!」


「なんだと! なんで撃たねーんだよ!」


「それは……」


 レオナルド(第5皇子)配下の参謀が言い淀む。


「いいから言いやがれ!」


「殿下がニアヒューム30万艦でアキラ(第6皇子)を討てと命令されましたので……」


「はぁ?」


「殿下は命令以外のことを我らがするとご気分を害されますので……」


 その参謀がレオナルド(第5皇子)の蹴りを受け宙を舞った。


「使えねー奴ばかりだな。

敵は撃て。当たり前のことだろうが!」


 レオナルド(第5皇子)・ニアヒューム混成軍42万によるロレンツォ(第7皇子)軍への攻撃が始まった。

既に1万艦がロレンツォ(第7皇子)側の要塞砲により撃沈されていた。

アキラ(第6皇子)を攻撃していたニアヒューム30万もアキラ(第6皇子)により8万まで数を減らされていた。

艦隊を二つに分けたことが徒となり、ニアヒューム8万は突出しすぎてロレンツォ(第7皇子)の的となるため戦場を離脱させた。

だが、レオナルド(第5皇子)・ニアヒューム混成軍の主力42万はロレンツォ(第7皇子)の要塞艦との距離がありすぎた。

このままではロレンツォ(第7皇子)の要塞砲で一方的に叩かれ、逃げられてしまう。

アキラ(第6皇子)を殺れたのは良かったが、このままでは帝国正規軍の増援と合流して戻ってくるだろう。

何としてでもロレンツォ(第7皇子)だけは討ち取りたかった。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



side:同星系 要塞艦内司令室 ロレンツォ 三人称視点


「敵の動きが鈍い。今のうちに次元跳躍(ワープ)だ!」


 ロレンツォ(第7皇子)の号令で残りの要塞艦が1艦1艦順番に次元跳躍(ワープ)していく。

最後に残ったのはロレンツォ(第7皇子)の乗った要塞艦だった。

まだレオナルド(第5皇子)の艦隊とは距離があった。

敵との距離はレールガンの最大射程を超えている。


 レールガンの最大射程とは、余裕を持って避けたり迎撃が不可能な距離を言う。

質量投射兵器であるレールガンは真空の宇宙空間では初速を維持したまま突き進むため、基本何も対応をしなければ射程の限界は無い。

だがその弾体を捕捉出来れば、狙われた艦は避けたり迎撃したり出来るため、ある一定以上の距離が離れると脅威ではなくなる。

つまり、レールガンには当たる見込みが無い距離として最大射程というものが存在する。

それに対し、エネルギー兵器の射程距離はエネルギーが放射減衰し威力を失うまでの距離であり、高出力な要塞砲の射程はその出力に相対して長くなる。

そのため、このような状況では要塞砲が一方的に敵を叩けるのだ。

しかし、要塞砲にエネルギーを使っている限り、要塞艦は次元跳躍(ワープ)にエネルギーを回すことができない。

牽制するためには要塞砲を撃たざるを得ず、撃つとエネルギー充填時間で次元跳躍(ワープ)が出来ない。

そのためロレンツォ(第7皇子)は1艦ずつ要塞艦を撤退させていったのだ。


アキラ(第6皇子)が作ってくれた撤退のチャンスだ。

無駄にするわけにはいかない」


 ロレンツォ(第7皇子)は撤退するために迷わず次元跳躍(ワープ)準備に入った。

レオナルド(第5皇子)・ニアヒューム混成軍の艦が射程距離に入るため前進して来る。

既にアキラ(第6皇子)の専用艦が爆発した場所を42万艦の半数程が越えたぐらいの位置だ。

戦艦と思われる敵艦のレールガンがちらほら届き始めている。

こちらの要塞砲が追加で撃沈出来たのは2万艦ぐらだろうか。

ロレンツォ(第7皇子)は要塞艦に回避機動をさせつつ後退し次元跳躍(ワープ)機関へエネルギーを貯める。

その時、要塞艦を衝撃が襲う。


「何があった!」


「右舷より敵艦隊接近! 近い!

ニアヒュームの別働隊です!」


 それはアキラ(第6皇子)と戦っていたニアヒューム艦隊の残り8万艦だった。

いつのまにか回りこまれていたようだ。

いや50万艦全軍を同じタイミングで攻撃させるために、先行していたニアヒュームをあえて回り込ませていたのか。


「ニアヒュームに侵食されるな! コアを破壊しろ!」


 ロレンツォ(第7皇子)の指示が飛ぶも次元跳躍(ワープ)機関からエネルギーが抜けていく。

さらに接近中のレオナルド(第5皇子)・ニアヒューム混成軍からのレールガンが要塞艦に当たり始める。


「くっ。このままでは……」


 その時、接近中のレオナルド(第5皇子)・ニアヒューム混成軍40万――2万は要塞砲により撃沈――の中心で爆発が起こった。

そこはアキラ(第6皇子)の専用艦が爆発した場所だった。

アキラ(第6皇子)の置き土産、反物質カートリッジが開放され対消滅の爆発を起こしたのだ。

今まさにアキラ(第6皇子)が残した罠に敵が引っかかった瞬間だった。

と同時に要塞艦に取り付いたニアヒュームにレールガンが撃ち込まれる。

爆散するニアヒューム艦。


次元跳躍(ワープ)機関、エネルギー充填再開!」


「何があった!?」


 ロレンツォ(第7皇子)が尋ねるも、誰も理由はわからなかった。

その時、通信が入る。


ロレンツォ(第7皇子)、君が殿軍はないよ。

僕の苦労をなんだと思ってるんだよ』


アキラ(第6皇子)か! 無事だったのか!』


 ロレンツォ(第7皇子)は心底驚いていた。

死んだと思っていたアキラ(第6皇子)が現れたのだから当然か。


『うん。ちょっと罠をしかけてステルス化で様子を見てた』


『しかし、専用艦が爆発したように見えたが……』


『あれはダミー艦だよ。変わり身の術ってやつだ』


 ロレンツォ(第7皇子)は半分呆れたような顔をしていたが、ふと違和感に気付き尋ねる。


『ん? そういえば通信が復活したのか?』


『ああ。ニアヒューム対策付きの新型次元通信機や新型次元レーダーは僕が提供した物だからね。

まさかとは思ったけどレオナルド(第5皇子)側の要塞艦にステルスで接近して接触通信で次元レーダーのブラックボックスに停止命令を送ったんだ。

そうしたら通信妨害まで止まったよ。

どうやら何らかの装置を増設されていて作動していたみたいだ。

マスターキーロックで機能停止しなかったのは要調査だね。

さて、そんな無駄話をするほど余裕は無い。次元跳躍(ワープ)出来るかい?』


『大丈夫だ』


『それじゃ撤退だ。戦力を立て直してリベンジだ』


 僕の専用艦とロレンツォ(第7皇子)の要塞艦は次元跳躍(ワープ)でラスティ星系から離れた。

レオナルド(第5皇子)の要塞艦はマスターキーがロックされていて次元跳躍(ワープ)出来ない。

レオナルド(第5皇子)が他星系に侵攻しようとすれば、次元跳躍門(ゲート)かニアヒュームの小母艦をあてにするしかない。

次元跳躍門(ゲート)の閉鎖解除には時間がかかる。ニアヒュームの小母艦の次元跳躍(ワープ)能力は1日1光年だ。

態勢を立て直すには充分な時間が稼げるだろう。

167でニアヒュームの艦数を50万と記述していた箇所がありました。

49万の間違いですので修正しました。

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