165 帝国内乱編3 討伐
side:帝都 謁見の間 三人称視点
第5皇子が第7皇子の支配星系へ攻め込んだという一報が帝都に飛び込んで来た。
レオナルドの先制攻撃はアキラの機転により要塞艦のマスターキーをロックし機能を制限し被害を回避することが出来た。
だが、レオナルドは搭載艦を強行出撃させ、ラスティ星系への爆撃を示唆。
第7皇子領主星の住人を人質に取り星系に居座っていた。
戦いは膠着状態に陥り、帝国はレオナルド討伐を決定。
帝国正規軍による艦隊の派遣が決定されることになった。
「あいつは、この帝国存亡の危機を理解できていないのか?
第5皇子レオナルド討伐をここに宣言する!
此度の差配、お前が指揮をとれ。アキラを補佐につける」
玉座に座った皇帝が呆れ顔でカイルにレオナルド討伐の指揮を担うように勅令を発した。
皇帝の前にはカイルが跪いている。
カイルの跪く赤絨毯の左右には、帝国運営の中心となる重鎮や正規軍所属の貴族たちが立ち並び、このセレモニーを見届けていた。
これは帝国民に向けた一種のプロパガンダだった。
第5皇子の謀反を第一皇子が討つ。
カイルは先のニアヒューム戦役で全くと言って良いほど活躍できなかった。
これは、この結果が見えた所謂出来レースによりカイルに手柄を立てさせてやろうという親心だった。
なので大々的にカイル出陣のパフォーマンスが帝国民の前で行われているのだ。
「ご命令のままに。
それでは討伐軍を予備役から編成したくお願い申し上げます。
正規軍にはニアヒューム侵攻を警戒させたく存じます」
カイルは討伐軍をを予備役から募るつもりだった。
正規軍の精鋭を連れて行ったのでは、自らの力を示せないからだ。
しかし、第1皇子の配下とて精鋭だった。
どんなお荷物を抱えようが勝利以外は考えられなかった。
「その討伐の先鋒、私めにお任せ下さい!」
そこで手を上げたのが職業軍人であるコックス子爵だった。
第5皇子討伐の先鋒軍指揮官としては力不足であったが、カイルの実力を示すのに丁度良い小物だったため、そのまま先鋒軍指揮官はコックス子爵で決定となった。
コックス子爵はその栄誉に小躍りして喜んだ。
第5皇子軍は5万の艦隊を展開、要塞艦には未出撃の10万が残っていると思われる。
先遣軍であるコックス子爵には10万の軍(うち無人艦9万9千)を任せることとなった。
その後でカイルの主力20万が追いかけ合流する手筈となっている。
コックス子爵は無人艦を受領し艦隊を整えるとロレンツォの主星系であるラスティ星系へとハブ次元跳門をくぐった。
身に余る大任に気負いすぎのコックス子爵が、主力を待たずに戦いに入ることだけが心配なカイルだった、
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
side:仮想空間極秘会議室 アキラ視点
僕は仮想空間の極秘会議室でカイルと定時報告会を開いていた。
仮想空間内には僕とカイルのアバターが集っている。
「大変そうだね、カイル。ニアヒューム対策司令就任だって?
しかも粛清された宰相職も兼務させられて、今度は第5皇子の反乱討伐だって?」
病み上がりでまだ本調子ではない皇帝の補佐として、カイルが、ニアヒューム対策司令と宰相職を兼務になったと聞いたばかりだった。
そこに第5皇子の反乱鎮圧任務が加わった。
戦いは先鋒の貴族に任せておいてもいいけど、最終的な鎮圧はカイル本人がするしかない。
「おいおい、何をおもしろがっているんだ?
第5皇子討伐には君も補佐に指名されているからな?」
「ゲッ」
「それと僕は宰相職が忙しい。
君にはニアヒューム対策司令補佐もやってもらうぞ」
藪蛇だった!
カイルは面倒なニアヒューム対策の一部を僕に押し付けるため、僕をニアヒューム対策司令補佐に任命した。
情報を共有するために仮想空間内で開いていた定時報告会が、仕事を押し付ける絶好の機会になってしまった。
「やれやれ、レオナルドめ、余計なことをしてくれたよ。
空気が読めないにもほどがある。
今回の討伐は皇帝陛下直々の勅令だ。断れないからな?
君も補佐として、しっかり働いてくれよ?
逃さないからな」
カイル司令は、僕が巻き込まれたことを心底喜んでいる雰囲気だ。
仕方ない。協力しよう。
「レオナルドの軍は戦闘艦5万と要塞艦5だ。要塞艦は君がシステムをロックしたから全武装が使えないはずだ。
そしてシステムロックのせいで出撃不能になっている搭載艦が10万はいるはずだ。
対する先遣軍のコックス子爵には予備役1千に無人艦9万9千を指揮させて合計10万の艦隊を与えている。
ロレンツォの星系守備艦隊が5万に加えて、わが軍20万が主力として合流する。
コックス子爵がよっぽどの間抜けじゃない限り負けはしないだろう」
「問題は援軍が星系へ到着するのにハブ次元跳躍門を使って1週間かかることだね。
ラスティ星系には要塞衛星もあるから到着までもつといいんだけど」
「ラスティ星系からの通信は既に途絶している。
通信妨害なら良いのだが、あてにしない方が良いかもしれないな」
「レオナルドの軍は要塞艦の要塞砲ありきで攻めて来たみたいだ。
要塞衛星の要塞砲で牽制すれば膠着状態になっていると思うんだけどね」
「ラスティ星系が頑張っていればハブ次元跳躍門から突入しレオナルドの後ろを取れるだろう。
僕もこれから出撃する。君も1週間後に合流だ」
ラスティ星系の対策に関してはここまでとなった。
僕はロレンツォが迎撃中のニアヒュームの状況をカイルに報告した。
ロレンツォがニアヒュームを撃破して戻れれば、誰よりも早くレオナルドを迎撃出来るからだ。
「ロレンツォは自分の主星系がレオナルドに襲われているにもかかわらず、焦らずニアヒューム殲滅に専念している。
ここで戦力を割ってレオナルドとニアヒュームを同時に相手をする愚を犯さないとは大した人物だね。
戦闘はロレンツォ軍優勢。ニアヒュームとの戦力差は開く一方で殲滅は時間の問題だと思うよ」
僕は各星系に新型次元レーダーを配備するに当たり、全ての情報を収集出来るようにシステムを変更していた。
そのため遠隔地の次元レーダーの情報も共有することが出来るのだ。
その情報によりニアヒュームの侵攻と帝国軍の迎撃状況を帝国内全てで把握している。
「レオナルドの星系に向かっているニアヒュームはどうなっている?」
僕はカイルの質問に次元レーダーの情報を精査してみた。
確かレオナルドはニアヒュームを無視して暴挙に及んでいたはずだ。
レオナルドの星系はレオナルド星系。自分の名を付けるなんて自己主張の激しい奴だ。
「レオナルド星系に向かっていたニアヒュームは数を減らさずにコースを変えたようだね。
え!? まさか!」
僕は次元レーダーの情報に目を疑った。
「まずい。ニアヒュームが進路を変更してロレンツォの側面に向かってる!」
「なんだって!」
「いったいどうして……。いや、どうやって!?」
僕は確信した。レオナルドが何らかの手段でニアヒュームの進路を変えたのだと。
なぜなら次元レーダーにはニアヒュームを引き連れるニアヒュームではない2つの光点が映っていたからだ。
「まだ距離があるから対応する時間はあるはずだよ。
ニアヒュームに合流される前にロレンツォが今対峙しているニアヒュームを撃破すれば勝てるかもしれない」
「いや、ニアヒュームが1日1光年ずつしか次元跳躍出来ないことを逆手に取ってロレンツォが距離を取るという手もあるぞ」
「それでは、そのうちロレンツォはレオナルドとニアヒュームの挟み撃ちにあってしまうよ。
ニアヒュームの最終目標はラスティ星系になるだろうし」
「ならいっそニアヒュームとレオナルドをぶつけてやるのも手だ」
「最悪そのオプションも考慮しておく必要があるね……」
いざとなったら僕が次元跳躍加速装置を使って現地に飛ぼう。
ニアヒュームを星系に入れるということは星系の人達の命を脅かすということだ。これは避けたい。
まさかレオナルドも星系の非戦闘員に手を出すようなことは無いだろうしね。
「ではニアヒューム接近の急報をロレンツォに送っておく。
対応オプションは示すが、どうするかの判断はロレンツォに任せる。
アキラ、いざとなったらロレンツォを助けに行ってくれるか?」
「そのつもりだよ。任せてカイル。
なので主力には合流しないで僕は独自に動くよ」
「すまないな。高速次元跳躍が使えるのはお前の専用艦だけだからな」
こうして定時報告会は終了し、僕は次元格納庫に戦力を補充して即応体制に移った。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
side:ラスティ星系 レオナルド 三人称視点
「オラオラ! 手を出したら主星に大質量落とすぞコラ!」
ラスティ3の軌道上で主星を守っている要塞衛星は、主星の住人を人質に取られ反撃の手段を奪われていた。
雪崩れ込んで来た第5皇子の上陸部隊に要塞衛星は占領されつつあった。
レオナルドの戦争は汚かった。
主星を爆撃すると脅し守備艦隊の発砲を防ぐと、通常動力のみは動く要塞艦を主星の衛星軌道に配置、これを落とすと脅して来たのだ。
ラスティ星系最大の脅威は要塞衛星の要塞砲だった。
それを防ぐ手段としてレオナルドは主星の住人を人質を取って脅すという手段を選んだ。
これに対し人命優先をロレンツォから厳命された星系守備軍は脅迫に屈することとなった。
「よっしゃ! 要塞衛星ゲット!
おい、こっちの要塞艦の格納庫はこじ開けたんだよな?」
レオナルドは参謀を捕まえると状況報告を求めた。
「はい。閉じ込められていた艦隊10万も出撃完了しました」
「次元跳躍門はまだ乗っ取れないのか?」
「はい。ハブ次元跳躍門なのでセキュリティが厳しく未だ対応中です」
レオナルドは狂いに狂ったスケジュールを頭に思い浮かべ、この後の戦況を分析していた。
一見バカかと思われるレオナルドだが、頭の回転は意外と良かったのだ。
「くそ、援軍が来ると面倒だな。
よし次元跳躍門を破壊しろ!」
この後の負け戦の展開に思い至ったのか、痺れを切らしたレオナルドが無茶を言い出した。
「それだけは駄目です」
次元跳躍門破壊は大罪なため、一族郎党皆殺しになる。
流石に参謀もそれだけは出来なかった。
「あぁん?」
レオナルドが鬼の形相で睨みつけて来る。
死を覚悟した参謀は承諾するしかなかった。
「はい。お時間をいただきます」
だが、参謀は破壊を承諾したと見せかけてサボタージュに入っただけだった。
帝国でも製造するのに何年もかかると言われている次元跳躍門だ。
それを破壊してしまったら一族郎党皆殺しが決定する。
参謀はこの重罪を部下に被せるようなレオナルドを見限って、このまま逃げて帝国に保護してもらおうと心を固めた。
「あ、バカ野郎!
次元跳躍門が無いと次の侵略に困るだろうが!
くそ。やっぱ乗っ取れ。急げよ!」
この男、やはりまともではなかった。
レオナルドはカイルやアキラの予想の斜め上を行く男だった。




