164 帝国内乱編2 強襲
side:ラスティ星系 要塞衛星司令室 司令視点
「次元レーダーに次元跳躍アウト反応!
後方、帝国領方面からです!」
オペレーダーが異常事態を告げる。
帝都より対ニアヒューム探査の切り札として配備された新型次元レーダーが反応したのだ。
新型次元レーダーにも弱点があった。
それは常時監視出来る範囲が前方のみということだった。
後方は意図して探査しなければ常時監視することは出来なかった。
なので次元跳躍アウトされるまで侵攻に気付くことが出来なかったのだ。
「後方だと? そちらはヴェランコ伯爵領だろう?
なぜ帝国領から?」
第7皇子の主星系のであるラスティ星系に5艦の要塞艦が次元跳躍アウトして来た。
「要塞艦だと? あれは対ニアヒュームのために下賜されたものではないのか?」
そこにはステーション型要塞艦が5艦も存在した。
「誰だ? 目的は? 通信員、訪問の意図を尋ねよ!」
「はっ!」
『所属不明艦。訪問意図を述べよ。ここは第7皇子ロレンツォ領ラスティ星系である。
繰り返す。訪問意図を述べよ!』
表敬訪問であれば正面のハブ次元跳躍門から堂々と通告して訪問するはずである。
そして5艦もの要塞艦での訪問は、あまりに戦力過大で場違いと言えるものだった。
「この非常時にバカなまねに及んだ者がいるのか?」
ヴェランコ伯爵領から次元跳躍して来たとなるとそこに繋がるハブ次元跳躍門の者か?
となると第5皇子レオナルドが有力だが、彼の星系もニアヒュームの侵攻を受けたとの報告が上がっている。
さすがに自領の星系防衛を放棄して侵攻してくることはないだろう。
なぜなら要塞艦5艦は彼の星系の全防衛戦力だからだ。
欺瞞? いや、そこまでレオナルドもバカではないだろう。
帝都に嘘の報告を上げたなら、彼は帝国を敵に回すことになる。
「まさか、ニアヒュームに乗っ取られたのか!?」
「所属不明要塞艦、搭載艦を放出!」
次元跳躍アウトして来た所属不明要塞艦からは、搭載されていた艦隊が次々に発進していた。明らかな敵対行動だ。
これをもって所属不明艦は敵と認定された。
だが第7皇子領ではニアヒューム侵攻阻止のため、ロレンツォ自身と主戦力は遠征中だった。
星系防衛用の要塞衛星はあるが、戦力差は一目瞭然だった。
「帝都に緊急伝を送れ。『我第7皇子領ラスティ星系、所属不明要塞艦の襲撃を受ける』だ!」
「敵要塞艦、要塞砲発射態勢!」
救援要請発信を命じる司令をあざ笑うかのように、要塞艦に搭載された要塞砲にエネルギーが充填されていく。
目標は唯一の防衛戦力である要塞衛星。その要塞衛星に向かい5門の要塞砲が発射態勢に入っていた。
第7皇子領の要塞衛星もたった1門の要塞砲にエネルギーを充填していく。
「敵要塞艦、臨界突破。迎撃、間に合いません!」
部下の悲痛な叫びが要塞衛星の司令室に響く。
しかし、要塞砲が発射されるかという刹那、敵要塞艦は急に沈黙し要塞砲に充填されていたエネルギーを放出し始めた。
「敵要塞艦システムダウン!」
「敵艦隊襲撃体制! 突っ込んできます!」
戸惑う要塞衛星司令部をあざ笑うかのように敵の所属不明艦5万が作戦行動を開始した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
side:エリュシオン星系 執務室 アキラ視点
エリュシオン星系領主執務室で僕は呆れていた。
第7皇子領から緊急通報が流れてきたからだ。
「うーん。この事態を僕が想定してないとでも思ったのかな?」
僕は第7皇子領からの緊急通報を受け、ラスティ星系にいる該当要塞艦のマスターキーをロックした。
それは第5皇子レオナルドに貸与された要塞艦だった。
「つまり、ロレンツォ領を攻めているのはレオナルドということか。
なんでまた、そんなことを?」
これは要塞艦という戦力を各星系に与えるにあたって皇帝代理と一緒に用意した反乱防止策だった。
皇帝が医療カプセルから復帰した後もこの策は追認を受け、帝国として正式な施策となっていた。
この要塞艦は晶羅領のダロン4で製造されたもので、皇帝公認で晶羅にマスターキーのロック権限が与えられていた。
同様の権限は皇帝自身とカイルも所持していた。
「ロレンツォはニアヒューム対策で動けないわけか……。
その隙を突いたということなんだろうけど、襲ってきたレオナルドはバカか?
自分の支配星系にもニアヒュームが迫って来ているじゃないか」
レオナルドの真意を僕ははかりかねていた。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
side:要塞艦司令室 レオナルド (三人称)
レオナルドの艦隊は要塞艦から発進した先遣制圧艦隊5万を除いて要塞艦に閉じ込められていた。
「おい、何がおこってるんだ!?」
要塞艦の作戦司令室でレオナルドがたまたま近くにいた参謀の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
顔を青くした参謀が慌てた表情で答える。
「おそらく要塞艦の機能がマスターキーによりロックされました」
「なんだと!」
「ひぃぃ!」
レオナルドが怒り、その恐ろしい顔に参謀はなおも萎縮した。
自分のせいじゃないと言うが如く参謀はさらに説明を続ける。
「この要塞艦は陛下から貸与されたものです。マスターキーは陛下の意志のもと管理されていることでしょう」
「はぁ? だからなんだっつーんだよ」
「つまり、要塞艦には使用制限が科せられていて、一定の条件で機能を停止されるようになっていたのでしょう。
例えば味方を攻撃しようとするような事態に機能を停止出来るようにしたのかと」
「くっ! やるじゃねぇか……。なら格納庫に閉じ込められた艦は扉を破壊してでも発進させろ!」
要塞艦の機能が凍結されたなら、逃げ帰るにしても次元跳躍門の制圧が必要になる。
そのためには閉じ込められている全艦を発進させる必要があった。
そう参謀は考え主君の代わりに指示を出した。
「撤退準備。次元跳躍門を速やかに制圧せよ。各艦格納庫から強行発進せよ」
その時、参謀は頭に強い衝撃を受け宙を飛び床に投げ出された。
レオナルドの回し蹴りを食らったのだ。
「バカ野郎! 誰が撤退だっつった! まだ終わったわけじゃねぇ。星系を人質に取るんだよ!」
「申し訳ございません!」
参謀は頭から血を流しながら謝った。
『おい、ラスティ星系のやつら! こっちに撃って来たら主星を爆撃するからな! そのつもりでやれよ?』
その脅しに要塞衛星の要塞砲から火が消える。
この男、まともではなかった。
◇ ◇ ◇ ◆ ◆
side:エリュシオン星系 執務室 アキラ視点
「要塞艦頼みの侵攻をしたかと思ったら、レオナルドってここまでバカだったのか……。
皇子会議の時はカイルの皇帝代理就任を何の反対もせずに承認していたから、こんな人だとは思ってなかったよ」
僕はまさかの展開に衝撃を覚えた。
要塞艦を抑えられ要塞砲という決定的な打撃力と次元跳躍という移動力を失ったというのに、レオナルドは撤退せず星系に居座り住民を人質に取っていた。
マスターキーでロックしたとはいえ、通常動力でさえも動けなくしてしまうと要塞艦内の生命維持に支障が出る。
要塞砲、次元跳躍機関、各種搭載兵装、格納庫扉はロックされるが、戦いに使われる機能以外は動くのだ。
なので要塞艦は撤退するぐらいのことは出来る。
「ここは自星系に撤退して、対ニアヒュームで守りに入るべきだろうに……。
それなら後の処分は皇帝に任せて、防衛のためにロックを解除してあげるのに、彼は何をしたいんだろうか?
破滅型の考えることはわからないな」
とはいえニアヒューム迎撃で遠征中のロレンツォを呼び戻すわけにもいかない。
ここは帝国正規軍を援軍として派遣してもらうべきだろうな。
そこは皇帝もカイルも抜かりないだろう。
僕はカイルと連絡を取りつつ状況を見守り続けることにした。
「お、やはり正規軍が出撃して行ったか。これでつまらない内乱も終了だろう」
この時僕はレオナルドという男を完全に見誤っていたいことに気付いていなかった。
レオナルドは想像の斜め上を行く天災だったのだ。




