156 遠征編21 ニアヒューム対策
第3皇子の領地がニアヒュームに汚染されていたわけだが、同様に汚染対策をせずに領地に帰ってしまった第2皇子に同じ事が起きていても不思議じゃなかった。
しかしヘンリーは帰還着後に次元通信によりカイルの忠告を受け入れ難を逃れていた。
イーサンは、そのカイルの次元通信すら受けずにあんなことになった。
おそらくその時から祖父の宰相と結託し帝位簒奪を目論んでいたのだろう。
そしてカイルが皇子会議を招集し、緊急決議で皇帝代理に付くことになり無益な内戦は回避された。
さらにカイルが皇帝代理としてヘンリーを説得。
次元跳躍門により時間差で帰還してくるヘンリー配下の艦隊を徹底的に汚染調査させて艦隊からニアヒュームを殲滅させることが出来た。
その際、ヘンリーが自ら全裸になって機械人形にされていないことを証明するというオマケが付いた。
機械人形はセンサーを騙し人体と同じ反応を示すのだが、裸になると何処かに機械部品やコアが目視できるので判別出来るのだ。
『ねえカイル、イーサン本人だけ汚染されてなかったって変だと思わない?』
『そうだなアキラ。何らかの意図があったのかもしれないな』
『もし、もしもだよ。同じことがヘンリーにもあって機械人形化を逃れていたとしたら、艦隊が寄港したヘンリーの領地は……』
『それを調べる手段が欲しいな』
いま僕達はニアヒュームに汚染されているか否かを直接臨検で判断している。
戦術兵器統合制御システムによって艦の電脳にニアヒュームのコアが寄生している反応が出たらアウト。
CICの航宙士が機械人形化されていたらアウトといった形だ。
僕が星系に乗り込んで、怪しい艦の電脳を支配下に置いて調べればコアの有無はわかるんだけど、帝国内の宇宙船を民間船を含めて全てを僕が調べるのは現実的じゃない。
戦術兵器統合制御システムは僕の専用艦のS型にしかコアの判別能力がないようなので、他の方法を探す必要がある。
航宙士も臨検する者が既にニアヒュームに汚染されていたり、その場で汚染されたら簡単にスルーされてしまう。
時間がかかれば調べている間に調べ終わった艦が汚染されているかもしれないと永遠に作業が終わらなくなる。
そこで必要とされるのが誰もがニアヒュームを探知出来る方法の開発だ。
同時に銀河腕を渡ってくるニアヒュームの早期警戒態勢も確立する必要がある。
だが帝国人には新規の技術を開発する能力がない。既存技術の応用を考えることもしない。
持ちうる技術をマニュアル通りに使うのみ。
いやそのマニュアルも年々抜けて使い方を忘れつつある技術――所謂ロストテクノロジー――があるのだろう。
反物質粒子砲とかは実物が市場に存在するのに使用出来る艦がないなど良い例かもしれない。
マッコイ商会がお買い得で売っていたけど、あれは使えないと知っていたからあの値段で売ったんだろうな。
僕が使えたというのは皇帝の因子のなせる業なのかもしれない。
なので、この仕事は帝国の誰にも任せる事は出来ないだろう。
『ニアヒュームの探知方法は僕の方でなんとかしてみるよ』
『頼む。対ニアヒューム技術の開発はアキラに全権を委任する』
その言葉に僕はふざけて言う。
『第6皇子アキラ、拝命いたします。皇帝代理閣下w』
『うむ。良きにはからえ』
僕の悪ふざけにカイルも乗ってくれた。
だがこの冗談の遣り取りの中でリアルに僕はカイルから全権を委任された。
さて僕の所ではダロン4や元野良宇宙艦の巣だった工場惑星で、僕の皇帝の因子により失われた技術が解放されている。
それに頼れば今まで帝国が製造出来なかった物を僕の領地では製造できる。
何か良い手段を探そう。
帝国がニアヒュームの侵攻に気付いたのは第8管区付近で次元異常がたまたま観測されたからだ。
つまり、そのたまたまが無ければ、攻められて初めて気付くというかたちになる。
次の侵攻に気付けたのも、その侵攻ルートをトレース中に次元異常を観測し次元跳躍の痕跡を掴み、その現場に次元跳躍の出来る艦で強行偵察をかけたからだ。
たまたま観測していた方面に次元異常があったという偶然を今後も期待するのは酷だ。
やはりまず開発するべきなのは次元レーダーだろう。
次元跳躍中の敵艦をトレースし次元跳躍アウト地点を算出可能。
そして時空間を越えて数十光年先を探査することも出来る。
恒星系内距離対応の対艦レーダーに対し次元レーダーは恒星間距離を想定している。
超長距離レーダーと言っても過言でない性能を持つのが次元レーダーだ。
艦載用次元レーダーは現在僕の専用艦ぐらいしか搭載していないロストテクノロジーだ。
要塞艦に搭載する管制レーダーでは超長距離レーダーとして次元レーダーの一部機能が使用出来るようだが、次元航路トレースといった高性能な機能は使用できない。
これを量産することは可能だった。
しかし、帝国に渡すとなるとある種の対策が必要となるのではないだろうか。
今後、真・帝国復興で帝国と争うことになった場合に、次元レーダーを渡すことで真・帝国側が不利になるのは間違いない。
となると僕の支配下にある艦にのみ次元レーダーを搭載し貸し出すという方法を取った方がいいかもしれない。
いや盗もうと思ったら部品取りして融合すればいいだけだ。
むしろ移動出来ないぐらい巨大な装置にするとか。それどうやって配備すればいいのか……。
順当なところでブラックボックスに機密保持の停止装置を入れとくか。
『工場惑星、聞こえる? お願いがあるんだけど?』
『我が君、何の御用でしょうか♡』
この音声、どうして艶を含んでいるんだろうか?
『次元レーダーは製造できるよね?』
『はい。我が君の愛により設計図は取得済みです♡』
愛とか言い出したぞ。
『制御装置をブラックボックス化して、いざという時にこちらの制御で停止出来るように出来る?』
『我が君のためならお安いご用です♡』
よし、注文は出来た。さっさと切り上げよう。
『じゃあ、それで量産よろしく』
これでニアヒュームの早期警戒態勢はなんとかなるはず。
次にニアヒュームに汚染された艦の探知方法の開発だ。
ニアヒュームの搭載艦を調査した時のデータと、寄生された艦を調査した時のデータ、そして機械人形にされた貴族を調査した時のデータを専用艦の電脳で精査してみる。
何か特徴的な観測値があれば汚染を探知出来るかもしれない。
やってみるもので、ある次元波動の波長でニアヒュームのコア同士がリンクしていることが判明した。
この波長を観測すれば、ニアヒュームを探知出来るかもしれない。
これを傍受できる機器さえあれば特別な装置を必要としない。
これも次元通信機さえあれば傍受できる。
次元レーダーを配る時に皇子のみんなと情報共有して試してみよう。
ニアヒュームは僕達人類に対抗して進化する力があるようだ。
コアに人の脳を生体部品として取り込んだのも、機械的な正確性に人の曖昧さを導入するためのようだ。
これはデジタルにアナログの曖昧さを導入したようなものだ。
この曖昧さが予想外の行動や回避に繋がり生存率が上がる。
それを意図的に行うために人を取り込んだのだ。恐ろしい存在だ。
機械人形を作ったのも僕達の行動に対抗し適応したということだろう。
この波長を傍受するという手段もいつかは対抗され無力化されるだろう。
もしかすると機械人形も進化して適応済みかもしれない。
こちらの技術である人型有機端末を奪われたら構成素材まで人そっくりな機械人形ができているかもしれない。
「あ、なんか嫌な可能性に思い当たってしまったぞ。
これはカイルに相談しとくべきだな」




