145 遠征編10 再侵攻1
「これはある意味密入国だな。
次元跳躍機関がレベルアップしたことを隠していては説明する術がない……」
僕は帝都へ進入した記録の無い2人をどう説明するか頭を抱えていた。
戦局を左右しかねない次元跳躍加速装置なんて存在を、僕にとって潜在的な脅威でもある帝国軍や皇族達に知らせるわけにはいかない。
最初から一緒だったと説明したら、嫁連れで戦場に来ていたのかと言われてしまう。
ジェーンは護衛で誤魔化せそうだけど、美優はどうしようもない。
「一度戻って降ろすか」
「いや! 離れない!」
無口な美優がいつになく強い意思表示をした。
「心配。待つの嫌!」
ああ、美優のこの気持ちは蔑ろにしてはいけないと僕は直感した。
僕は頭を捻る。
そもそも帝都に来て専用艦を皇族専用駐機スポットに泊めた時点で、艦内に他には人がいないことはセキュリティ上チェックされているはず。
拙い。それなのに2人も乗ってましたは不自然すぎる。
やっぱり次元跳躍門で帝都にやって来たという記録を残すのが自然だろう。
「こっそり隣りの星系に送るから、そこから次元格納庫の新鋭艦に乗って次元跳躍門で帝都に入れ。
嫁が僕を追って来たことにする。それなら一緒にいられる」
「わかった」
美優が満面の笑顔で頷く。
そんな笑顔を向けてくれる嫁の存在に僕はドキドキしてしまった。
「次元跳躍門を通ると半日はかかる。善は急げだ。今から送ろう」
僕はステルスモードで隣の星系に次元跳躍アウトする。
そして予め2人を乗せておいた新鋭艦2艦を次元格納庫から出し即次元跳躍で戻る。
後は2人が次元跳躍門を使って帝都に進入するだけだ。
帝都に入った記録よりも隣の星系に入った記録が無いことは重要視されないだろう。
バレたらバレたで裏技を匂わせればいいか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
僕は皇帝の家令が用意した部屋に泊まっていた。
ここは皇帝の居城の客室らしい。
あれから皇帝には会ってないんだけど、姫の輿入れの件はこのまま知らばっくれられないだろうか?
無理か。
一夜明け、ジェーンと美優が帝都に到着した。
第6皇子の妻と名乗ったため僕に照会が来る。
本人であることを保証するとすんなり帝都入りが認められた。
入港も皇族専用駐機スポットに回される。
まあ僕の専用艦の横だ。巡洋艦なら間を開けても10数艦停泊出来るスペースがあるからね。
なんたって3km級の巨大戦艦が余裕で停泊出来る大きさだ。
僕が偽装で横にダミー艦を出して出かけたって駐機位置がズレてるとすら気づかれないぐらいだ。
駐機スポットはタラップを回すのが面倒になったのか、人工重力を切って乗り降りするようになった。
僕がちょくちょく次元通信を使いに来るので、もう好きにしろということだろう。
次元通信は一応腕輪経由でも出来るのだが、盗聴防止のためにCICに籠るのは良くあることらしく誰も気にしなかった。
当然ジェーンと美優も空中遊泳をして艦を降りる。
そのまま桟橋に上がれるため正規の出入口が使える。
僕が迎えに行くと、2人が丁度隔壁の扉を抜けるところだった。
隔壁の扉はエアロックになっているので、そこに入った段階で人工重力が働きはじめるようになっている。
外扉が閉まり、空気圧を確認する時間でゆっくり重力が効いてくるという感じだ。
内扉を開けて施設内に入るときには、既に標準重力になっているという行き届いた心配りだ。
2人は僕を見つけると胸に飛び込んできた。
「来たぞ」「会いたかった」
「よく来たな」
打ち合わせ通り、長い間会ってなかった夫と妻を演じた。
さて、2人を皇帝に紹介するべきだろうか?
紹介するなら護衛妻と愛玩妻かな?
愛玩って変な意味に取られるかな?
カイルに聞いてみよう。
と思っていたら腕輪にカイルから通信が入った。
『アキラ、どこにいる?
敵の再侵攻だ。第8管区に敵の第2陣が襲来した!』
『いま駐機場の出入口前だ』
『なら緊急発進で8B星系に向かえ。
奴らは8B星系から3光年の距離に次元跳躍アウトした。
敵ニアヒュームの侵攻は二段構えだったんだよ』
まさか、ニアヒュームを撃ち漏らしていたわけじゃないよね?
これは新たなニアヒュームが次元跳躍アウトしたってことか。
それにしても8B星系を狙って来たのはなぜだ?
次元跳躍するならハブ次元跳躍門の存在のわかった8A星系直でも良かったはずだ。
いや、そもそもニアヒュームが情報を共有しているのか?
そういえば「個にして全、全にして個」だったか。
どうやら8B星系の何かがニアヒュームの興味を引いたようだ。
『皇帝陛下や正規軍は?』
『出撃準備をしているが、帝都からハブ次元跳躍門を使うと8A星系のハブ次元跳躍門到着までに1週間かかる。
8B星系には現在帝国軍第348艦隊1万がいる。彼らが星系の住民2億人を避難させている。
彼らには住民の避難完了後時間稼ぎをしてもらう』
『いや、それは拙い。
もし、前回と同程度のニアヒュームの侵攻なら、圧倒的に防衛艦隊の数が足りない。
僕だけが先行しても迎撃は不可能だよ』
『敵ニアヒュームは8B星系のまだ3光年先だ。
奴らの能力で次元跳躍3回つまり3日の距離だ。
君の専用艦の次元跳躍能力ならまだ間に合う』
『めちゃくちゃ貧乏くじじゃないか!
そうだ。帝国軍にも次元跳躍出来る艦ぐらいあるでしょ?』
『あるにはあるが、残念ながら、要塞艦の次元跳躍機関はそんなに速くないんだ。
そして個人の専用艦で次元跳躍機関を搭載している艦は貴人ばかりで単艦で行かせるわけにはいかない。
すまない。次元格納庫に搭載艦1万を持つ君の専用艦しか8B星系を救えないんだ』
僕はその言葉に驚いた。
たしか皇帝の目の前で一度次元跳躍して見せたことがある。
その前も8B星系から8H星系に召喚された時に次元跳躍を使った。
これだけで、僕の専用艦の次元跳躍性能が把握されてしまったのか。
いや、まだレベルアップした加速装置の性能は把握されていないだろう。
そして次元格納庫を持っていることは、僕が8B星系に残るためにカイルを安心させようと搭載艦1万を出して見せてしまった。
今後はあまり手の内を晒さないようにしないといけないな。
『仕方ない。撤退の権限を僕が持つので良いなら行くよ』
『それは当然の権利だ。
何もアキラを死地に追いやろうというわけではない。
もちろん最初から権限を認めるつもりだったさ。
あくまでも帝国軍主力が到着するまでの時間稼ぎが出来れば良い。
危なくなったらアキラの権限で撤退して良い』
通信が切れる。僕はジェーンと美優に向かい指示を出す。
「2人はここで待っていてくれ。戦場へは僕の専用艦で次元跳躍するしかない」
「あたい達が乗ったままで艦を次元格納庫に入れれば一緒にいけるぞ」
ジェーンが心配して同行を求めた。
「ダメだ! 敵は十万単位の軍勢だ。
2人を連れて行ったら、僕が緊急次元跳躍で逃げられない」
「足手まといだってことね?」
ジェーンはラーテル族の矜持として僕を護衛したいのだろう。
だが、足手まといとなるのも本意ではない。
付いて行きたいが付いて行くべきではない。
その葛藤が言葉の端に現れている。
「はっきり言ってそうだ。
2人の艦を回収する間に敵に潰される。それだけの大軍勢だ。
それじゃ2人を守れない」
「わかった。残る。ジェーンも」
美優が先に折れ、強い口調でジェーンに従うように言う。
美優にしては珍しいことだ。
僕と長期間離れたことで心配で帝都まで付いて来てしまった。
それだけ甘えていたのに、あえて離れ離れになる決断をしてくれた。
「僕を信じろ。危なければ逃げ帰る。
今回の戦いは時間稼ぎが任務だ。
逃げる前にちょっと引っ掻き回すだけだ」
「うん。信じる」
「わかったわよ」
彼女たちの気遣いがぼっち生活の長かった僕には嬉しかった。
僕は皇帝の居城を取り仕切る家令に2人を引きあわせて、保護を求めた。
その時、カイルから腕輪に通信が入る。出撃の督促だろうか?
『僕が君を死地に追い遣るようで心苦しいから、皇帝陛下も明かしていない秘密を話そう。
君の嫁になるのは僕の同腹の妹だ。僕と君は皇子の中で一番近い義兄弟になる。
帰ったら盛大な結婚式をあげるぞ』
そうか、僕はこの戦いが終わって帰ったら結婚するんだ。
皇帝の姫であるカイルの妹と。
カイル、これって死亡フラグだよ……。
僕は泣きながら8B星系に向けて専用艦を次元跳躍させた。




