140 遠征編5 作戦開始
帝国軍は8A星系のハブ次元跳躍門の座標に向けて帝国本星のハブ次元跳躍門に突入した。
亜空間を進むこと1週間、8A星系のハブ次元跳躍門前に到着した。
目の前には輝きを失った円形の門が見える。
予備戦力10万所属の工作艦がハブ次元跳躍門のシステムに介入する。
素早く作業が済むとロックが解除され円形の門に輝きが戻る。
帝国軍全艦は一度8A星系へと侵入し各目標星系毎に分散し隊列を整える。
その後、帝国軍は各目標星系へと向け8A星系のハブ次元跳躍門へと再突入していく。
僕の専用艦と第1皇子カイルの艦隊は設定をハブモードから通常モードに戻してハブ次元跳躍門に再突入した。
目の前には再び亜空間が広がる。そこはハブ次元跳躍門の下に紐づく次元跳躍門に繋がる亜空間だ。
ハブ次元跳躍門をロックすれば、その下に紐づく次元跳躍門の星系には行かれなくなる理由がこれだ。
僕達の艦隊の前には8Bから8H星系の門が見える。
次元跳躍門の下に紐づく亜空間はモード換えることで、その先をハブ次元跳躍門間からハブ下の次元跳躍門に紐づけることが出来る。
ここはそのハブ下の次元跳躍門に繋がる亜空間通路だ。
この先の亜空間を進んで目的の門へ強制的に侵入しようとするのを察知することによって星系への進入警報が出ることになる。
8A星系には予定通り予備戦力10万が残る。
僕ら派遣艦隊全てがハブ次元跳躍門に突入したらが、ハブ次元跳躍門は閉じられる。
僕の専用艦とカイルの艦隊は亜空間を移動し8B星系の次元跳躍門を目指す。
行程は半日ほど。仮想空間に色分け表示されたルートを進むとロックされた丸い門が見える。
そのロックを次元跳躍門に設置されているシステム端末を物理的に開いてパスワードを入力し解除する。
パスワードは1回のみ有効で間違えたら再発行しなければならないため慎重に入力する。
パスワードを入力すると次元跳躍門の輝きが蘇る。
僕達は次元跳躍門に突入、8B星系へと進入した。
『全艦星系突入終了。次元跳躍門を再びロックしました』
カイル艦隊の工作艦が次元跳躍門を閉じる。
これで敵は8H星系の次元跳躍門を支配できたとしても、もう1つの次元跳躍門を支配しなければ他の星系には出られない。
次に狙うとして、重要度ならハブ次元跳躍門だが、ハブ次元跳躍門はセキュリティレベルが高い。
となれば比較的簡単な8B星系の次元跳躍門が狙われるだろうというのが僕の推測だ。
ところで、なぜ亜空間内で待ち伏せしないのかと思うことだろう。
実は待ち伏せは可能でも戦闘が出来ないのだ。
亜空間内では光学兵器はエネルギーが霧散し、実体弾兵器も方向を見失い当たらないのだ。
亜空間内では次元回廊のみが安全に航行できる場であり、そこを外れたら何が起こるかわからない。
これが共通認識となっている。
唯一行えるのが艦を接触させての白兵戦だが、それはある理由でニアヒュームに有利なんだそうだ。
ある理由という部分ではカイルも口を閉ざしてしまった。
何やら口にするのも憚られる事情があるらしい。
さて、しばらくは敵も来ない。カイルと防衛戦の打ち合わせでもするか。
『これからどうするの?』
僕はカイルに通信を送る。
『敵が8B次元跳躍門から進入すると想定し、防衛態勢で艦隊を展開する。
君は好きな位置に居ていいよ』
僕は少し悩んで星系の赤道面から次元跳躍門を上から見る位置に展開することを選んだ。
戦場を俯瞰で見られる位置だ。
『僕はこの位置で見学させてもらうよ。なんたって単艦だからね』
『ふーん。そこか……』
この位置取りをカイルにどう思われたのかはわからなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
次元通信に戦況報告が入って来た。
敵は予想通り8G星系に次元跳躍アウトし帝国軍主力と総力戦となっていた。
帝国軍は敵に倍する戦力を集めているので、負けることは無いだろうが被害も甚大だろう。
そこには作戦も何もなく、単純な物量による殴り合いだけが存在していた。
そもそも敵の戦闘能力は帝国標準より若干低い。
次元跳躍に時間がかかるのも、1回の跳躍距離が帝国よりも短いからだ。
だが、敵には機械生命体という利点がある。彼らには有り余る時間とそれに耐えられる思念体があるのだ。
その時間的余裕こそが短距離次元跳躍で銀河腕を渡るという気の遠くなるような侵攻を可能にするのだ。
だが、その気の遠くなるような作戦を遂行するための戦力が、宇宙空間を無駄に彷徨っていると思うと恐怖を感じる。
今この敵を叩いても、まだ他にも侵攻中の敵が存在し続けている。恐ろしいことだ。
僕達が守る――といってもカイルの艦隊4万が守っているわけだが――8B星系は、敵の襲来も無く束の間の平和を過ごしていた。
その裏で帝国軍主力が8G星系で敵主力と血みどろの乱戦を行なっている最中にそれは起こった。
『8H星系の次元跳躍門が敵の手に落ちました!』
それは8H星系の次元跳躍門を亜空間側から観測していた偵察艦からの一報だった。
僕らに緊張が走る。
『目標はどこだ? 敵の規模は?』
カイルが次元通信で問い合わせる。
亜空間内の次元回廊は1:1で別の星系の次元跳躍門へと繋がる。
つまりどの次元回廊を担当している偵察艦が敵を目撃したかで、その目的地が判る。
『目標は8B星系。敵の規模は母艦級3その他多数!』
僕の推測が当たってしまった。
8G星系に向かった母艦級が10艦で50万の艦隊だから、母艦級だけでこっちに向かっているのは推定15万の艦隊だ。
その他多数というのは8G星系に向かった母艦級が艦隊を分離し残して侵攻していたということだろうか。
こっちの制圧はその他の付随艦を主力にして行い、母艦級3は戦況を見てそのまま8A星系に向けて次元跳躍する気か!
となると付随艦だけで数万の艦隊かもしれない。各母艦級が1割を残していったとすると5万。
母艦級1が支援したとして10万。8A星系にも残り10万が侵攻出来る。
僕ら4万ではどちらも止められない。
『その他の艦数を明確にせよ!』
カイルもそれが解っているのだろう。偵察艦に命令を飛ばす。
だが偵察艦からの応答はもう無かった。
あの口にするのも憚る方法というやつで撃沈されたのだろうか。
『ニアヒュームはどうやって偵察艦を?』
僕の問いにカイルが苦々しい表情で答えた。
『ニアヒュームの奴らは触手を伸ばして艦を浸食汚染する。
それは艦の電脳から人の脳までも汚染してしまうんだ。
だからアキラもニアヒュームとは物理接触するんじゃないぞ』
何それ。
そういった重要なことは先に教えてよ。
それで亜空間内での白兵戦で迎撃という手段を取らないのね。
まあ、僕も亜空間内では戦えないという話だけを鵜呑みにしていたわけだけど。
さて、敵が次元回廊を渡ってくるまで、あと半日ある。
その間に迎撃の方針を決めるべきだが、僕はこの状況ではお客さん状態なんだろうな。
『カイル、これからどうするつもり?』
8B防衛の主導権は僕には無いのでカイルに方針を尋ねる。
『僕の艦隊4万だけでは、この星系は守れない。
8A星系の予備戦力をここに集結させて敵を叩くか、僕の艦隊が8A星系に撤退するかの2択だろう』
『8G星系の主戦場から援軍を求めるのは?』
『そのためには8G星系の次元跳躍門を開かなければならない。
すると援軍が来るのは僕達にだけじゃなくなる』
なるほど。主戦場からの援軍は味方も敵も利するということか。
『8A星系からこっちに来るためにも、こっちから行くにもハブ次元跳躍門を開かなければならないよ?』
『そうだな。今なら敵が到着する前にハブ次元跳躍門を開けられる。どうするべきか』
僕らが8A星系に行くと、8B星系の人達を見捨てることになる。
敵ニアヒュームは、有機生命体を機械生命体の部品としか捉えていないらしい。
見捨てるということは8B星系の人達の死を意味する。
だが8A星系から予備戦力を連れて来ても戦いは五分五分。
僕達が負ければ8A星系を守る軍はいない。ハブ次元跳躍門が奪われれば帝国本星へのルートが開いてしまう。
『僕は8A星系へ向かう。あっちには要塞艦もある』
カイルが決断する。彼は8B星系2億の民を見捨てる決断をした。
小を切って大を助ける。これが出来るのが皇帝の器なのかもしれない。
『じゃあ、僕はここに残って悪あがきするよ』
『バカな! 死ぬ気か?』
『僕の専用艦には次元跳躍機関があるから、良き所で逃げるさ』
『なら多少の護衛艦を残そう』
『大丈夫』
僕はそう言うと次元格納庫から1万の艦隊を出現させる。
驚くカイルに僕はドヤ顔を決める。
『わかった。死ぬなよ』
カイルの艦隊は次元跳躍門のロックを解除すると8A星系へと向かった。
僕はまた人の命を見捨てられなかった。
これが僕の弱点なんだと自覚しているんだけど、どうやら無理みたいだ。
誤字報告をいただきましたが、「行かれる」は、五段活用の動詞「行く」の未然形に助動詞「れる(可能のほかに受身・尊敬・自発の意味がある)」が接続したものです。
最近は「行くことが出来る」という意味で「行ける」が多用されるようですが、むしろ由緒正しい言い回しは「行かれる」の方です。
ここでは「行かれなくなる」を使用していますが誤字ではありません。
文脈で尊敬語ではないことも理解出来ると思います。




