111 領主編5 戦後処理
ファム5に工場惑星の次元跳躍で向かったアノイ要塞3領軍と無人艦隊合計5万6000はファム5の制圧に成功していた。
僕は派遣軍代表のノアから報告を受けていた。
ここのところ猫族と犬族の関係はすこぶる友好的で、お互いどちらが上に立っても揉めることは無かった。
以前ならラーテルがいなければ揉めに揉めまくったところだ。
『ファム5の領主館は、もぬけの殻だったんだね?』
『はい。防衛艦隊も皆無でした。
領主館には伯爵の家族含めて使用人も誰もいませんでした。
ファム5は住人代表により無条件降伏いたしました』
僕はタタラ4の工場衛星軌道でファム5からの通信を受けていた。
ダグラス伯爵領のファム5には伯爵の残存勢力は居なかったか。
ダグラス伯爵も家族だけは巻き込めなくて逃がしたってことか……。
ケイン元皇子に与しただけで、負けを認めれば命までは取られなかったかもしれないのに、なんで一緒に逃げなかったかね……。
ダグラス伯爵は工場衛星の司令室で亡くなった。
僕はダグラス伯爵にそんなに恨まれていたのかな……。
『領民は協力的で、ファム4、ファム5共に施設の破壊も家畜の処分といった妨害工作もありませんでした』
『わかった。
ファム星系には防衛艦隊を3000分割配備して制圧完了とする。
アノイ要塞3領軍は工場惑星とともにアノイ星系に戻れ』
隣にある僕の直轄領ファム4も攻撃を受けることなく無事だった。
ダグラス伯爵も自領の産業や領民に対しては誠実で真面目だったのだろうか?
これでダグラス伯爵領ファム5は僕の直轄領になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「工場衛星は当分使えないんだね?」
「はい、メイン反応炉がダウンしていて操業停止状態です」
僕はラーテルの制圧部隊により占領した工場衛星に入り、工場の総責任者と会談していた。
工場を運営していたスタッフたちは、代官が恭順の意を示していたとおり、こちらに悪意はなく、ダグラス伯爵とその臣下により武力で脅され、仕方なく従っていたそうだ。
「工業製品製造の要が使えないか……」
この戦いで一番被害が大きかったのはタタラ4衛星軌道の工場衛星だった。
いや、僕がやむを得ず破壊したんだけどね。
工場衛星という名前だが、地球の月のような衛星を思い起こすのは間違いだ。
金属資源を得るための岩塊に工場施設と要塞砲を備えたという感じの外観だ。
工場衛星はステーションよりも大きいが野良宇宙艦の巣よりは遥かに小さい。
工場衛星という名前が過大なのかもしれないが、イメージ的にはガン〇ムのル〇ツーみたいなものだ。
「まあ、ダグラス伯爵が要塞砲を撃って来たんだから仕方ないか」
僕は要塞砲より工場が使えないのが痛く、攻撃を後悔したが、撃たれたんだから仕方ないと諦めた。
「要塞砲は後回しで良いが、早急に工場として稼働させることは可能か?」
「はい。時間が必要ですが、なんとかなります」
工場衛星の総責任者はダグラス伯爵とその臣下に脅されていただけで、心から協力していたわけではい。
逆に徴用と称して盗まれた物品の数々に腹を立てていた。
そのため、解放軍である僕達にはとても協力的だった。
「工場衛星に搭載された要塞砲のエネルギー逆流でメイン反応炉がダウン。
強制排出されたエネルギーで伝送系に被害が出ています。
発射されるべく圧力を上昇させていた破壊エネルギーが、その圧力で逆流したのだからたまったもんじゃありません。
要塞砲のエネルギー路を切り離し、エネルギー伝送系を再構築しメイン反応炉を再起動します。
それにより、工場衛星の生産施設だけなら稼働できるようになります」
「それは有難い」
ごめん、それ破壊したの僕です。
「そして要塞砲を制御していた司令室も破壊され修理が必要です」
それも僕です。
「他にもダグラス伯爵は建造中の艦や各種兵装を奪いました。
そこには帝国よりもたらされ製造中だった新兵器も含まれていました」
「新兵器?」
「反物質粒子砲です。対消滅反応炉を搭載している艦の反応炉から反物質を流用し発射する兵器です」
「それはまた物騒な兵器だな……」
もし僕らが次元跳躍門から星系に突入していたら、その新兵器の洗礼を受けていた可能性が高い。
おそらく、この新兵器があったからダグラス伯爵の意思は反乱に傾いてしまったのだろう。
ん? 僕が持っている謎粒子砲ってもしかして……。
僕は腕輪で次元格納庫の中身のリストを表示する。
「あ、あった」
今まで「謎粒子砲」という表示だったものが「反物質粒子砲」と表示されていた。
「反物質を安全に持ち出す方法があるのか」
「はい。反物質カートリッジというものがあります。
停滞フィールドを内向きに展開し、反物質に触れることなく閉じ込めるのです」
反物質は物質と接するだけで対消滅して大爆発するって言うからな。
その反物質カートリッジが無いから謎粒子砲はVR空間でしか使えなかったのか。
それも直ぐに禁止にされたし。
あれは強すぎたというより秘密兵器だったからなのか?
それにしても、なんでそんな危ない兵器がマッコイ商会に流れていたんだ?
いや、マッコイ商会だからこそか……。
あそこは変なモノばっかりだからな。
まあ、それが良いんだけどね。
僕は反物質カートリッジの実物と設計DNAを手に入れた。
これで反物質粒子砲がリアルでも撃てるようになる。
「危なかった。工場衛星が再稼働したら反物質粒子砲の流出管理を徹底しないとならないな」
ダグラス伯爵の艦隊を過小評価していたことに僕は戦慄した。
戦争で犠牲を出さないわけにはいかないのは解っているけど、犠牲が多くなるのは避けたい。
ここが僕の弱点になるってシイナ様に指摘されていたことを思い出した。
甘いのかな。僕は。
だから社長が汚れ役を買って出て回収艦を葬ってくれたんだろうな……。
今後この新兵器が僕の敵となる連中にも装備されているかもしれない。
対消滅反応炉を持つ艦が少ないから数は多くないだろうが脅威は脅威だ。
対抗手段を考えることと、こちらも新兵器の拡散を防がなければ……。
「我らを引き続き工場衛星で使っていただきありがとうございます。
我らの恭順の証として、こちらをお納めください」
彼ら工場スタッフから提供されたのはジェネシス・システムというものだった。
これは所謂テラフォーミングを行うシステムだ。
ハビタブルゾーンにある多少難のある惑星を好条件の居住可能惑星に改造するという目的で使用される。
アノイ星系ではアノイ2が居住可能であるが灼熱で環境が厳しすぎるという。
おそらく帝国によりアノイ2をリセットして作り直してしまおうという考えで用意されたものだ。
アノイ要塞をアノイ2に配置し帝国からの調査団を入れていることからもそのように伺える。
僕としては既に生態系の成立している惑星でリセットはしたくない。
ならばハビタブルゾーンにあるもう1つの惑星、アノイ3の方をテラフォーミングしてしまおうというのも有りだろう。
こちらは惑星のコアが冷えて固まって磁場が消えかけている死の星だ。
磁場が消えると太陽風により大気が剥ぎ取られ、生命の住めない惑星となる。
これこそ惑星改造で活性化させるには持って来いだろう。
『データを我に分けてもらえないか』
僕の専用艦とデータリンクしている工場惑星から通信が入った。
どうやら、工場惑星では生産していないモノを工場衛星が造っていることを知り興味を持ったようだ。
たしかにこれらの製品が工場惑星の生産力で造れるなら願ったり叶ったりだ。
「こちらの工場惑星に設計DNAをもらっても良いかな?」
「はい、構いません」
工場惑星と呼称することにした野良宇宙艦の巣は、工場衛星の上位存在だ。
今は宇宙艦ばかりを製造しているが、設計DNAを渡すだけであらゆる物を製造する能力があった。
工場惑星は工場衛星の持つDNAデータを喜んで吸い上げてジェネシス・システムも量産態勢に入った。
他にも次元跳躍門の設計DNAが不完全ながらあったそうだ。
これにより工場惑星に残されていた不完全な設計DNAと合わせることで次元跳躍門を造ることが可能になった。
次元跳躍門を設置することで僕は新領地開拓で他星系の制圧が可能となったのだ。
他星系に次元跳躍で到達、次元跳躍門を設置すれば領地を拡大可能となる。
工場惑星なら次元跳躍機関も製造できる。
当然、無人の星系を目指す。そこなら侵略にならないよね?
『惑星ウェイゼン4、制圧完了しました』
アノイ要塞3領軍の分遣隊――数的には主力だろ――からの報告だ。
穀物生産を行っている星系で唯一ケイン元皇子に与していたウェイゼン4が陥落した。
ここは刈り取り自由を宣言していたので、猫族、犬族、小領地のラーテル他の獣人族が挙って攻めていた。
褒章は各々が刈り取った領地。ただし住民に危害を加えていたら没収。
そこはラーテルが目を光らせていたという。
『ご苦労。後の管理も各々に任せる』
『『『はっ』』』
惑星ウェイゼン4は、農業惑星で野菜や穀物を生産している。
その農地や管理する領民も含めて猫族、犬族、小領地のラーテル他の獣人族に与えた。
どうせ僕が支配しても彼らに食料を分けることになるのだから、彼らに全てやってもらっても同じという狙いだ。
戦後処理も恙無く終えられた。
丁度良い品も手に入れたし、次は領地防衛の方針と領地拡大を検討するかな。




