097 放浪編16 捕虜の少女
ギルバート伯爵とその共犯の配下が帝国本星に犯罪者として移送されて行った。
帝国裁判所管轄の艦隊だったので信用したが、それがケイン皇子の手下ではないという保証はない。
僕には地位があっても力が無いのをいいことに、裏で好き勝手にやられる可能性は残っている。
そんな好き勝手が出来てしまう力が皇子にはあるのだ。
こっちも同じようにしてやればいいんだけど、それだけの政治力もコネも軍事力も経済力も僕は持ってない。
まあギルバート伯爵と配下の艦は接収したから、それで良しとしよう。
捕虜の少女が意識を取り戻した。
脱水症状を治すために経口補水液を飲ませ、栄養剤を処方し、嫁に風呂に入れてもらって汚れを落とさせた。
症状が安定し、朦朧とした意識の少女に流動食を与えていたところ、やっと意識が回復した。
「誰? 何者?」
捕虜の少女は目の前のケモミミ少女を見て、ここが自分たちの拠点ではないことに気付いたようだ。
獣人族は帝国の実験体なので、他の勢力には存在しないため不思議に思ったのだろう。
それにたまたま担当嫁がジェーンだった。
ジェーンは見た目女戦士だから警戒されたのだろう。
「やあ、ここは帝国の要塞だ」
僕はどうやら第一声の選択を間違ったようだ。
捕虜の少女の表情がみるみる強張っていく。
それはそうだ。敵対勢力のど真ん中で捕虜になっていると理解したのだから。
それにしてもなにか不思議なデジャブのような感じがする。
「いや、安心してくれ。
僕達は帝国の後継者争いに巻き込まれた虐げられし者達の勢力なんだ。
だから君を匿った」
僕は慌てて敵対するつもりの無い事を伝えた。
それでも捕虜の少女は警戒の表情を緩めることはなく、僕とケモミミ少女を交互に見つめている。
「僕は晶羅。彼女は嫁のジェーン」
「あら、やっと意識が戻ったのね」
マリーがシチューを持ってやって来た。ジェーンは看病兼監視役だ。
あれから嫁達には、彼女が捕虜であり帝国には内緒で匿うことを伝えておいた。
最初は有無を言わせず看病させていたので、事情を説明すると「もっと早く教えて欲しい」と軽く怒られた。
嫁達に「どんなことがあっても付いていくので隠し事はしないで」と言われた。
嫁達の僕に対する信頼感が半端ない。
その信頼に答えなければならないな。大いに反省しよう。
「彼女も嫁のマリー。ずっと君を看病してたんだよ?
食事を持って来てくれたようだね。1人で食べられるかな?」
捕虜の少女のお腹が鳴る。しかし少女は食べ物よりも大切な物があることを思い出したのか、しきりに身体を弄っている。
ああ、あれを探しているんだな。
「パイロットスーツはキツそうだったので嫁が着替えさせた」
本当は汚れていたからだけど、女の子にそれを言うのはね……。
「付けていたアクセサリーはベッド脇の引き出しの中だ」
捕虜の少女は宝石のついたネックレスをしていた。
だが、その宝石がずっと光を放っていて眩しかったので引き出しにしまったのだ。
捕虜の少女は引き出しを開けネックレスを確認すると一瞬安堵の表情を浮かべた後で驚き、不審な顔になった。
「どうしてこんな光を?」
「ああ、ごめん。僕が触ったら光りだしちゃって」
捕虜の少女はじっと僕の顔を見つめる。
見つめられて僕は、再びデジャブを感じた。なんか知ってる顔だなと思う。
そして捕虜の少女はネックレスを引き出しから取り出すと念を込め出した。
するとネックレスの宝石から光が消えた。
捕虜の少女はもう一度念を込める。
するとネックレスの宝石は淡く光り出した。
僕の時とは光り方が違う。僕の時の方が光が強いみたいだ。
捕虜の少女が念を込めるのを止めると淡い光が消えた。
「持ってみて」
捕虜の少女が僕にネックレスを差し出す。
僕がネックレスを受け取るとネックレスの宝石は眩い光を発し出した。
「えーと、どうすればいいのかな?」
「消えろと念じて」
「うーん。消えろ」
ネックレスの光が消えた。
捕虜の少女が僕をじっと見ている。
「あなた、何者? ボクより光が強い」
「何者と言われても。僕は晶羅だ。君は?」
「私は楓。真・帝国を継ぐ者よ」
「え?」
真・帝国を継ぐ? つまり簒奪された皇帝の子孫?
「それより、あなたは何者? ボクより真・皇帝の因子が強い」
楓と名乗る少女が宝石を示しながら話す。
「これで真・皇帝の因子の強さがわかる」
どうやら、あの宝石が真・皇帝の因子とやらを測定する道具なようだ。
そういえば、僕は帝国でも皇帝の因子を持っていると言われていたな。
それで皇子認定を受けたわけだが、それと真・皇帝の因子は同じものなのだろうか?
「僕は地球人の八重樫晶羅だよ。
わけあって帝国に身を寄せているけど、生粋の帝国民ではないし、その皇帝の因子には心当たりがない」
「地球……。八重樫……。間違いない……」
楓は俯いて何かブツブツ言っている。
そして顔を上げると満面の笑みを浮かべて僕に抱きついて来た。
「初めましてお兄さま!
ボク、いえ私はあなたの妹、八重樫楓だよ!」
僕はその告白に一瞬何を言われたのか理解が追い付かなかった。
が、次第にその言葉の意味がジワジワと浸透してくると、一気に理解した。
「えーーーーーーーーー!」
「私は宇宙に逃れた八重樫の両親が、第3の受精卵から育てた三つ子の妹だよ」
よく見ると似ている。子供の頃の姉の記憶に。
「そういや顔が姉貴の小さい頃にそっくりだ」
「むしろ旦那様が女装したみたいだと私は思ってました」
楓のカミングアウトに僕がパニクっているところに、キャリーがとんでもないことを言い出した。
僕は慌てて晶羅モードの宣材写真を腕輪で検索する。
そこには目の前の少女と一見同一人物の画像が表示されていた。
「なんで気づかなかったんだ……」
「楓ちゃんが目を開けているところなんて、旦那様は初めて見たんじゃなくて?」
「確かにそうだ。目を瞑っている自分なんて集合写真の失敗ぐらいでしか滅多に見ないからね。
それに晶羅モードもほとんど自分では目にしてない。盲点だった」
しかし僕はおかしい所に気付いた。
目の前の少女は僕とほぼ同年代か少し下に見える。
両親が亡くなったのが6年前だ。隠し子ってことか?
それにどうして旧皇帝派に?
「ちょっと待って、楓は今何歳なんだ? それになんで旧皇帝派に?」
「お兄ちゃん、旧皇帝派というのは簒奪帝国が勝手につけた呼び名だよ。
ボ……私達は真・帝国だよ」
楓が拗ねた様子で否定する。
無理やり私と言っているのか、直ぐにボクと言いそうになる。
「呼び名はわかった。それにもう”ボク”でいい。それより年齢だ」
僕がそう言うと、楓は1回深呼吸をして自分を落ち着かせると話し出した。
「その前に、八重樫の両親は死んでないよ。
元々真・帝国の技術者で血のつながりもない育ての親だし」
マジですか。齢15で初めて知った両親の秘密ですよ!
「彼らが簒奪帝国の侵攻で地球から脱出した後に、ボクは持ち出された第3の受精卵を使って人口子宮で育てられたんだ。
だから実年齢は5歳かな。でも肉体年齢は15歳に成長促進されてるよ」
「肉体年齢同い年かよ。それで中身は5歳とか……」
僕は頭を抱える。そこへ楓が更に爆弾発言を被せる。
「ボクは保険だからね。
真・帝国復興の神輿として担ぎ上げるための所謂シンボル役なんだよ。
でもお兄ちゃんが見つかったなら、これでやっとお役御免になれる」
「ちょっと待て。僕は今帝国第6皇子に認定されてる。
そのせいで後継者争いに巻き込まれ中だ」
「それは好都合かもしれないよ、お兄ちゃん。
簒奪帝国内部で勢力を伸ばせるなら帝国を奪い返すチャンスだよ」
「なら真・帝国の勢力を味方に引きこむことは可能か?」
「あーー」
楓が目を逸らす。
お前なにをやらかした?
僕の兄妹なら何かやらかしてるに違いない。
僕はじっと目を見つめて楓に自白を促す。
「つい独断で簒奪帝国に攻撃をしかけちゃったんだ(てへぺろ)」
「お前なぁ……。それで僕らに返り討ちにあったのか」
「あれって、お兄ちゃんだったんだ。
めちゃくちゃ強くて、艦の自由を奪われて、閉じ込められて、死ぬかと思ったよ」
あ、まずい。隠しとこうと思ったのに速攻でバレた。
しかし、危ういところだったのは間違いない。
「僕は妹を殺すところだったわけだな……」
そう考えると、僕は事の重大性に青くなった。
「まあ、それは助かったからいいんだけど」
「いいのかよ!」
僕が一瞬悩んだのは何だったんだ!
「一つ困ったことがあります」
「何だ。お兄ちゃんに言ってみろ」
もう驚かないからな?
「さっき念を込めた時に”助けて”って超次元通信を送っちゃった(てへぺろ)」
おい。
「その宝石、超次元通信機だったのか!!」
「それと発振器になっててボクの居所を教えてます」
「つまり?」
「只今ボクの奪還作戦を準備中とか?」
僕は頭を抱えた。
ちなみに妹よ「てへぺろ」は地球ではもう死語だ。
「今直ぐ通信を送れ”兄あきら発見、攻撃の要なし”だ」
「わかった送ってみる」
楓が宝石に念を込める。
念なんて非常識なものが伝わるのか疑問だが、発振器は今も有効だろう。
おそらく真・帝国の艦隊がセンサーで探っていたのもこれだ。
アノイ星系で鹵獲してからずっと、たまたま発振器が次元格納庫内にあったから見つけられなかったんだろうが、今は次元通信でビーコンを絶賛発信中だろう。
真・帝国の大事なお姫様がここに捕らえられていると判れば、全戦力をもって奪還しに来るだろう。
「頑張った。伝わってると思う」
念を込め終わった楓が真剣な顔で言う。
「とりあえず、こちらは迎撃態勢を取るからな。
不慮の衝突も避けなければならない。
はぁ。どうすりゃいいんだ……」
お互い被害無く終わらせることが出来るだろうか?
「話が終わったなら、ご飯食べちゃって下さいね?」
せっかく作った料理が冷めるほどの時間を話していたことにマリーが少し怒り気味で言う。
だが流石気配り嫁。料理を温め直してくれていた。
ピコーン。突然僕の頭に閃きが下りた。
あ、そうだシューティングドリームのメンバーには楓を見せて晶羅だってことにしよう。
佐藤晶羅ね。
これで晶羅男説は否定できる(ニヤリ)。




