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000 プロローグ

改訂前を読んでくれていた読者の方々には申し訳ありませんが、リニューアル改訂版を始めました。

旧版はいろいろ問題があると感じていたための作者の我儘です。

旧版の途中で更新が止まっている部分は章の終わりまでは更新する予定です。

 目が覚めるとそこは白い部屋だった。

僕はベッドから上半身を起こして部屋の中を見回す。

部屋の中には僕が寝ていたベッドしかない。

周囲では材質の良くわからない壁がぼんやり光っている。

ふと違和感を覚え、出入口と思われる扉が無いことに気付く。


(うん、お約束のあれだな)


僕はやっちまった感を胸に抱きながら、ベッドに横たわり神様の登場をしばらく待つことにした。


『お目覚めですか?』


 唐突に声が空間に響く。若い男の声だ。

なんだ、女神じゃないのかよ。

脳裏に不満が過ったが、僕はそれを隠して単刀直入に聞く。


「神様でいいのかな? もしかして異世界転移ってやつ?」


『フフフ、日本人の方はみなさんそう仰りますね』


 笑いながら(神様?)の声が答える。



『残念ながら神様ではありません。そしてこれは異世界転移ではなく宇宙人による誘拐(アブダクション)です』


「なんだってーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」


 僕はパニクってつい叫んでしまった。



**********************************


 僕、八重樫晶羅(やえがしあきら)は、この日まで平和な高校生活を満喫していた。

身長165cm中性的な外観で女性と間違われることもあるが、わざわざ男よりにすることもなく、むしろ女性グループに違和感なく溶け込める容姿に感謝すらしていた。

女好きだからである。女子間では身体的なコミュニケーションも盛んで、そこに紛れ込み巫山戯てお互いにタッチできるという環境は天国だった。

あえて制服のカワイイこの私立高校を選んだのも、女生徒比率が倍もあるという環境を狙ってのことである。


 その高校一年の夏休みを迎えようという終業式の日、僕は担任の高田教諭に呼び出され校長室へと連れて行かれた。

高田教諭の外観はモブなので省略する。

校長室の応接セットに、この高校の理事長と校長が待ち構えていた。


「君が八重樫君ね。まあ、そこへ座って」


 神経質そうな女性理事長がキツイ目付きで僕に着席を促す。

僕がソファーに座ると、担任の高田教諭が深刻な顔をして対面のソファーに座る。

3対1という構図だ。どうやら悪い話のようだ。


「あなたの保護者にも連絡を取ったのだけれども音信不通だったわ。

なので例外的ですが、保護者抜きで生徒本人に通知します。

あなたは退学です」

「はいぃ?」


 僕はあまりにも唐突な話に自分の耳を疑って右京さんばりに聞き返してしまった。

すると女性理事長は、後は任せたというように校長に目配せをする。

それを受けた校長が書類を手にすると説明を始めた。


「八重樫くん本人には何の落ち度もない。

その点は教育者としてすまないと思うのだが、学校法人もビジネスでね」

「はあ……」

「実は入学金が未払いで、保護者の方にも再三督促していたのだが、とうとう期限切れとなり退学が決定した」


 校長が示した書類には、時系列を追って対処した項目が並んでいた。


 話を要約するとこうだった。

この私立高校は合格した際に入学手続きをすると、一次入学金を納めることになっている。

所謂すべり止め、併願キープのために払う入学金で戻って来ないお金だ。

そしていざ入学となると二次入学金を追加で払うことになっていた。

これは合格時に高い入学金を払わされ、入学を取りやめたにも関わらずそれが返されないのは不当であるという訴えがあって、その裁判で入学金の返還判決が出たためにとられた措置らしい。

この二次入学金が未納だったということだ。

その他の授業料制服代等大部分のお金は納めてあったため、手違いだろうと再三督促や話し合いの連絡をしていたのだが無視されたということだった。


「保護者の方に話し合いに応じてもらえれば、分割払いや行政の補助制度の活用など手はあったのだが残念だ」


 校長が心底残念そうに言う。

姉貴やらかしてくれたな。

保護者とはたった一人の肉親である姉貴のことだ。

僕たちはは両親が亡くなっていて姉と()の二人しか親族がいないんだ。


「ちょっと待って。お金の話なら僕がなんとかして払えば済むんじゃないの?」


 僕はスマホを操作して家族口座の残高を調べた。

そこには残高1000円という数字が表示されていた。

万策尽きた。

これからバイトをしても入学金を支払うほどの大金を得るのは不可能だ。

タイムリミットはとっくにオーバーしてロスタイムに入っている。

延長戦は存在しない。


「すまんが、これ以上は本校も対応しかねるのだ」


 僕の高校生活はここで終わった。

まだ一部の女生徒としか仲良くなってなかったのに……。

僕は退学を受け入れ、校長室を後にした。


『これで厄介者を放校することが出来ましたな』

『まさか、あの化け物(ミュータント)が本校にいたとは思いませんでしたわ』

『これで保護者からの抗議を受けなくて済むと思うと解放された気分ですよ』


 扉の向こうから聞こえて来た言葉に僕はショックを受けた。

ああ、またあの話か。

僕ら姉弟(きょうだい)が一生背負わされる負の遺産。

出生の秘密がまたもや僕達を苦しめるんだ。

例えお金が用意出来ても僕には退学以外の道はなかったんだ。

僕は打ち拉がれるままに帰宅した。


 とりあえず姉貴に現状を連絡しないと……。

保護者である姉貴に連絡して生活費ぐらいは振り込んでもらえないと1000円じゃ生活出来ない。

幸い家は持ち家なので、追い出されるようなことはないが、公共料金の支払いも出来ない状態では生きていけない。

バイトをするにしても日払いじゃないと困るという緊急事態だ。

まあ学費の一部が戻って来たので何日かは食いつなげることができるが……。


 姉貴のスマホに直電するも電源が入っていないらしい。一応留守電を入れておく。

いや家族口座にお金が無いということはスマホも直ぐに使えなくなる。

こうなったら姉貴の()()に問い合わせるしか無い。


 姉貴の職業はeスポーツのプロゲーマーだ。

”Star Fleet Official edition”通称SFOという宇宙戦艦を()()()宇宙(そら)を駆け戦うというVRMMOで、そのプレイ映像の放映権がお金になるんだそうだ。

そのVR環境がオーバースペックすぎて、一般の回線やゲーム機では実現不能なため、特別なプレイスポットが用意されている。

なのでプロゲーマーはその秘匿されているプレイスポットに篭もりきりになる。

そのため問い合わせもネット経由でという事になっている。

たしか()()で問い合わせできるはずだ。


 僕は姉貴の部屋を漁って目的のソフトをみつけた。

”Star Fleet Consumer edition”通称SFC。SFOの家庭版だ。

このソフトで運営会社と連絡がつけば姉貴との連絡もとれるはずだ。


 早速ゲーム機をネットとヘッドマウント仮想(HMVR)モニタに接続しソフトを起動する。

ヘッドマウント仮想(HMVR)モニタに搭載されたカメラで撮影された目の前のリアル映像に、コントローラーエラーのアイコンと文字が重なって出る。

どうやら特殊なコントローラーを接続する必要があるらしく、センサーと通信アンテナの付いたベルトが4つと受信機1つが映像で表示され、エラーアイコンが点滅している。

姉貴の部屋を再捜索して、その筋電位感知式(MPS)コントローラー”Muscle potential sensing controller”を探し出す。

どうやら両手両足にセンサーと送信機のついたベルトを巻いて、そのセンサーで感知した筋電位データを送信、本体が受信してコントロールする装置のようだ。

本体同梱の通常コントローラーをコネクタから外し、筋電位感知式(MPS)コントローラーの受信機をコネクタに嵌める。

センサーのベルトを上腕部と大腿部にアンテナ部分が外側になるように撒く。

これで準備完了。いよいよゲーム起動だ。


 ゲームを起動すると各種チェックの後、ヘッドマウント仮想(HMVR)モニタに新規プレイ画面が表示される。

すると右腕のセンサーの所からチクリと針で刺すような痛みが生じ、それとほぼ同時にユーザー画面が開く。


『DNAチェックによりユーザー確認を行いました。ユーザーを八重樫花蓮(やえがしかれん)と識別しました』


 ヘッドマウント仮想(HMVR)モニタのヘッドフォンから声が聞こえる。

モニタには姉貴の本アカウントと複アカウントが表示されている。

本アカウントはグレー表示だが複アカウントは使用出来るのか虹色に染まり流れている。


「ん? 姉貴に間違われてしてしまったぞ」


 僕が複アカウントを選ぼうと視線を向けるとカーソルが視線を追って動く。

決定はどうすれば?と思っていると、拳をにぎにぎするグラフィックアイコンが表示される。

僕は手を延ばすと空中に浮かんでいる複アカウントのグラフィックを握る。

するとメニュー画面が開きセーブポイントからのゲーム再開や新規プレイ、運営への問い合わせが選べるようになった。


 僕は迷わず運営への問い合わせを選ぶ。


『こんにちは。こちらは問い合わせ担当AIです。ご用件はなんでしょう?』

『身内のプロゲーマーに連絡を取りたいのですが』


 運営のAIからの音声がヘッドフォンに響く。

僕はヘッドマウント仮想(HMVR)モニタから出ているマイクを延ばし音声で問い合わせる。


『アカウントはお分かりですか?』

『SFO********です』


 グレー表示されている本アカウントを横目に音声で伝える。


『プロゲーマー登録されている八重樫花蓮(やえがしかれん)様ですね』

『はい』

『ちなみに貴方様は?』

『弟の八重樫晶羅(やえがしあきら)です』

『つまりこの複アカウントは弟様のものということですね?』

『はい……』


 嘘をつきました。この時は違反行為を問われると面倒だと思ったんだ。


『ああ、八重樫花蓮(やえがしかれん)様は、現在大会参加中で外部の者と接触禁止になってますね』


 eスポーツは賭け事の対象にもなっているため、不正行為防止のために大会中は外部との接触が禁止される。

そのため学校の問い合わせにも応答出来なかったのだろう。

だけど生活費も振り込まれないなんてことになるはずがないのに……。どうしてなんだろう?


『緊急事態なので、なんとか出来ませんかね?』

『わかりました。外部の人間でなければ良いので、八重樫晶羅(やえがしあきら)様がSFOに参加すれば会うことが可能になります』

『はいぃ?』

『このアカウントの内容ならば、八重樫晶羅(やえがしあきら)様はSFOへの参加条件を満たしています』


 姉貴のプレイ内容が評価されたということか。しまった。嘘をついた弊害が出てしまった。

しかし姉貴と連絡がとれるのならば悪くないかもしれない。

むしろ僕自身がプロゲーマーとしてお金を稼げれば生活費が得られるじゃないか。

一石二鳥?


『SFOに参加すればいいんですか?』

『プレイスポットへ()()()いただければ問題ありません。

そのためにはプロゲーマー登録が必要です』

『わかりました。参加しましょう』


 僕は二つ返事で参加を表明した。


『あなたはSFO参加資格を得ました。参加を希望しますか?』


 という声と文字が表示される。

下部にはYES、NOのグラフィックが表示される。

当然YESを握る。

すると目の前が真っ白になり僕は意識を失った。

そして、冒頭の白い部屋で起きることになったわけだ。

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